№月┿日 晴れ
なんだか一生分の冒険をした気がするね。
あの後、織斑くん達に回収されてから、色々と大変だったよ。
篠原ちゃんを篠ノ之・束だと言い張って聞かない連中相手を、理事長と口裏を合わせた言い訳の社会人特別入学枠にで追い返して、クラスの皆にもみくちゃにされて、織斑先生からはまあ酷い雷を落とされたよね。
でも、これで篠原ちゃんは晴れて六組の仲間入りだよ。
さて、これからの二年とちょっとは騒がしくなるよ?
まずは夏休みに向けて、強化された六組専用期末テストを乗り越えないとね?
ははは、皆はどうしたのかな?
そんな顔をしても、この罰則からは逃げられないよ?
……まあ、安心してよ。榊原先生から大体の範囲は貰ってるから、これでなんとか……。
…………篠原ちゃーん! これ無理だよ!
これ一年の範囲じゃないよ?!
え? 出来る? 私達なら大丈夫?
助けてよ!
Α月Γ日 晴れたよう
さて、奇跡は起こるもんだね。
かなりギリギリだったけど、どうにかなったよ。
クラス平均点? 赤点スレスレ、榊原先生がちょいと手を加えてくれなかったら、全員追試からの補習祭りだったよね。
いやはや、それにしても篠原ちゃん様々だね。
篠原ちゃんの特別講習が無かったら、榊原先生のお情けが有っても無理だったよね。
しかし、結果良ければ全て良し。
私達は追試も補習も無し、無事に夏休みに入れるね。
よーし、今から予定立てようか。
あれ? 織斑先生、どうしたんです?
え? 会談? 国の偉い人が私に会いたがっている?
ははは、織斑先生。ご冗談を。
私は会社員Aと主婦Bから産まれた一般人Cですよ?
それがなんで、偉い人達と話なんぞを?
決定事項?
もう予定が組まれてる?
うわぁ……、私テーブルマナーとか判りませんよ?
あ、そうだ。篠原ちゃんは篠原ちゃんなので、天災扱いしたらソッコー帰りますから、その辺は話というか脅しでも。
ははは、私は六組の代表ですから、うちの娘達への侮辱は許さないんですよね。
あ、あと、服って制服でいいんですか?
≒月И日 晴れ晴れ
偉い人達との会談もとい、何故か向けられた勧誘をやんわりと断り、かつ織斑先生を盾にして逃げきったよね。
進路の心配をしなくてよくなるのはいいけど、篠原ちゃんを天災として扱うなら、私はその人の言う事は聞かないよね。
まあ、それが私達の方針なんで、惜しい事をした気はないよね。
Θ月Κ日 晴れた
夏休み目前のウキウキ気分の六組、私は偉い人達との弾丸会談ツアー。
ははは、ちょっと疲れたよね。
何が悲しくて、私みたいな一般人Cが天上人と話をしなくちゃいけないんだろうね?
なんだい? 篠原ちゃん。
嫌になったら逃げる? 私はそうした?
うん、そうだね。
逃げてもバチは当たらないかな?
でも、逃げたら余計に面倒な事になりそうだよね?
Χ月Ρ日 晴れるよろし
私の部屋は皆の会議場所じゃないんだけど、その辺はどうなのかな?
夏休みはどうするって?
まずは宇宙旅行に、キャンプもやりたいよね。
あと、適当に夏祭りも行ってさ、皆で騒いで宿題を見せ合いっこしてさ、結局最後まで掛かったりしてさ。
篠原ちゃん。それが夏休みの醍醐味ってやつだよ。
学生の夏休みに計画性とか、求めちゃいけないよ?
学生の夏休みは無計画に後先考えずに騒ぐ。
これが大事なんだよね。
だから篠原ちゃん。私を抱き枕にするのはやめようか。
私みたいな寸胴娘を抱いても、夢見が悪くなるだけだよ?
「宇宙キター!!」
「うわ……、マジで宇宙だ! ヤッバイ、あれ月?!」
「月、月かな?!」
「地球青ーい!」
各々が好き勝手に騒ぐ宇宙船の中で、二人は遠く見える果てない宇宙を眺めていた。
「ねえ、篠原ちゃん」
「なに?」
「宇宙って広いね」
「だから私はここに来たかったんだ」
少しだけ背の高い彼女を見上げると、その顔は衛星砲に居た時とは違う満ち足りた顔をしていた。
「でも、まだ先に行きたいんだよね?」
「当然、私はまだまだ先に行きたい。夢を叶えるのが天才だからね」
「じゃあ、私は夢を見るよ。君の見たい夢を」
「叶えないの?」
「叶えてくれるんでしょ?」
「お前、本当に凡人だね」
「ははは、私が夢を見るから、篠原ちゃんが叶えてよ」
「嫌だね」
不貞腐れた顔でそっぽを向かれる。
それを怪訝な顔で見詰めていると、拗ねた子供の様な表情だった。
「私は天才だよ」
「うん、君は天才だね」
「私は凡人じゃない」
「うん、君は凡人じゃないね」
「私は一人じゃない」
「うん、君は一人じゃないね」
「なら、私だけが先に行く?」
「置いてかないでよ」
「なら、一緒に」
「うん、一緒だね。でも、ただ一緒は嫌だよね」
「なら?」
「ずっと一緒だよ」
拗ねた表情が満足気に笑みになる。
近づいた顔が求めるものは、一体何なのか。
その答えを示すのは、己の意思だけだ。
「私は凡人だよ」
「そうだよ。お前は凡人だ」
「私は天才じゃないよ」
「お前が天才な訳ないじゃん」
「私は夢を見るよ」
「お前は夢を見るだけだ」
「なら私の夢は叶わないかな?」
「夢を見るだけなら叶わないよ。でも……」
額と額が触れ合う。
これ以上は求めない。
互いに触れ合い、夢を語る。
互いになら、それだけでいい。
でも、二人なら
「私は天才だから、お前みたいな凡人の夢を叶えてやる」
「じゃあ、一緒に夢を見ようか」
互いの頬に触れ、仕方ないなと微笑み合う。
それ以上の言葉も、何も要らない。
ただ、求めた光はここにあった。
それだけだ。