「……聞いてた話と違うね?」
気付いたら、なんかやけにお高い車の中だよ。
おかしいね? 何時もの迎えの車よりお高そうだよ。
ほら、見てよ。この座席とかフワフワだし、なんか小さい冷蔵庫もあるよ。
迎えにしては豪華過ぎないかな?
「あのー、これ何処に向かってるんですかね?」
返事が無いね。
運転手さんに聞こえてないのかな?
「あのー、何処に向かってるんですか?」
近付いても反応無し。最初の篠原ちゃんみたいに、話すのが苦手なのかも知れないね。
しかし、そうなったら暇だね。いつもは運転手さんか、一緒に乗ってる人と話したりしてるから、どうしようかな?
冷蔵庫にはジュースが入ってるけど、織斑先生からあっちが用意したものには手を付けるなって言われてるし、仕方ないから篠原ちゃんから貰ったガムでも噛んでようかな。
「んん?」
このガム、えらくシャリシャリしてるね。コーティングされてない板ガムだから、何か粒々が入ってるのかな?
でも、特に味は普通のミントガムだね? 不思議だね。
あれ? そう言えばこのガム、確か危ないって思ったら食え。みたいな事、篠原ちゃん言ってた様な気がするね。
「だからISを扱う際には、細心の注意を払えよ。ただちょっとの手間で命が買えるんだ。安いもんだろ」
こいつらと同じ学生になって、改めて思う事がある。
やっぱり学校って面白くない。というか授業があまり面白くない。
私からしたら基礎中の基礎だし、それにその理論を作ったのも私だ。
それをしたり顔で有象無象に語られるのは、かなり虫酸が走る。けど、ちーちゃんとこいつの授業はましだ。
ちーちゃんはこっちの事が解ってるし、こいつ、確か榊原はこいつらにも理解出来る言葉と解釈で語る。
「おーい、篠原ー」
「なんだよ」
「ここんとこ、ちょっと解説よろしく」
「お前がやりゃいいじゃん」
「そう言うなって、お前IS詳しいじゃん」
しかも、こいつは自分より私が向いてる所の解説を、平気で私に回してくる。
教師の自覚があるのか疑問になるけど、それを言ったら、
「適材適所ってやつだ。ほれ、お前ら。篠原先生の授業始まるぞー」
これだ。こいつはこう言ったら、すぐに教壇から離れて椅子に座って野次馬になる。
「わーい! しのぴー先生の授業だー!」
「先生ー、今日は何すんのー?」
でも、悪い気はしない。
だって、あの日嗤われた技術をこうやって囃してくれて、受け入れてくれる連中が居る。
今の私にはこれだけでいい。
でも、これだけでいい筈なのに、今日はあいつが居ない。
くだらない連中がまたあいつを連れていった。あいつは平然としてるけど、こっちの身にもなれよバカ。
「つかさ、お前ら。これ基礎なのになんで覚えてないの?」
「え? 基礎って難しくない?」
「これは難しくない!」
「うっそだー。あーし、これで赤点取ったよ」
「それ、お前がバカなだけじゃん! あーもう……、もう一回最初からやるからちゃんと聞けよ!」
「はーい」
――篠原ちゃんも大変だよね?
そんな事言ってる暇あったら手伝えよ。私だけにこいつらの相手させんなよ。
あんなくだらない連中と話す事なんて無いから、さっさと帰ってこい。
「篠原、あいつ居ないけど授業回せるか?」
「は? 舐めんなし、あいつ居なくても余裕だし」
「じゃ、始めー」
榊原の奴がそう言ってタブレットを開いて、何かを打ち込み始めた。
それに呆れて溜め息を吐いた時、私の端末があまり聞きたくない着信音を鳴らした。
「……は?」
「篠原、一応携帯の電源は切っとけよ」
「違う……、あいつは何処に行った?!」
「どうした? あいつならお偉いさんとの会談でいつものホテルだぞ」
榊原の言葉も途中で端末を手に取り、画面を確認する。
違う。
「今すぐちーちゃん呼んで!」
「……何かあったんだな? 待ってろ。千冬、緊急事態六組。篠原、状況」
「あいつに渡したガムに混ぜたナノマシンから反応が出た。つまり、あいつが危険だと判断した」
端末のマップにある印は、既にいつものホテルを通り過ぎている。
つまりこれはそういう事だ。
「しのっち、リーダーヤバい系?」
「多分」
「よし、六組集合!」
号令と同時に全員がこちらに集まってくる。こいつら、本当にバカで頭が悪いけど判断は早いし正確だ。
「リーダー今どこら辺?」
「あ、ここ知ってる。確か友達がバイトしてる」
「リーダー車乗ってる? やけに速くない?」
確かにやけに速い。多分だけど、これは高速に乗っている。つまり、行き先は絞れる。
『おい』
『お? 篠原ちゃんの声が聞こえるね? まさか、テレパシー的な何かに目覚めちゃったかな私?』
『私が仕込んだナノマシンだよ。ガム食ったろ?』
『あのガム、そんなびっくりどっきり機能があったんだね?』
『……お前、私の話覚えてないな?』
『ははは、難しい事を言われても私には分からないよ?』
『バーカバーカ! お前に渡したガムはGPSと通信兼ねたナノマシン混ぜてんの! ヤバくなったら噛めって言ったじゃん!』
『あ、そうなの? 運転手さんが何も話してくれないから暇で食べただけなんだけどね』
「くっそ! ホントこいつ……!」
思わず口に出てしまった。というか、お前ら。そんな心配するなよ。私だぞ、心配なのは。
「しのぴー、リーダー大丈夫なの?」
「……とりあえず今のところは大丈夫みたい。暇だからで、渡したガム噛みやがったあいつ」
「だが、それで分かった」
榊原が私の端末に写る地図の先を指差す。
そこは空港だった。
「連中、あいつを海外に持ち逃げする気だな」
「なんで? リーダーはあーしらのリーダーだよ?」
「そーだそーだ、リーダーはあたし達のコアリクイだー」
「いや、カモノハシだよ」
「どっちでもいいんだよ。理由はこいつ、篠原とお前らだ」
……やっぱり、私のせいなんだ。
頑張って目を逸らしてたけど、榊原の言う通りだ。
皆とずっと一緒に居たいけど、こうなったらもう……。
「なんで?」
クラスで一番最初に騒ぎ出す米木が首を傾げた。
え、こいつ今の状況を分かってない?
「それは私が篠……」
「しのぴーはしのぴーじゃん。あーしらより頭良くて運動出来るだけの子じゃん」
「いやだから、私が篠ノ……」
「しのっち狙いでリーダー連れてく意味が分かんない。もしかして、そいつらあたしらより頭悪い?」
「だーかーらー、私が篠ノ之……」
「え、モッピー? モッピーなら私同じ部活だよ」
「あーもー! 私が篠ノ之束だからなんだよ!!」
言っちゃった……。いや、今更なんだけどいくらこいつらでも、あの連中みたいに変わっちゃうのかな。
いや、待って。というか、前に言ってるのにこいつら覚えてないのか?
「しのののたばね……?」
「誰だっけ……?」
あ、榊原が頭抱えた。
「……お前ら、ISの開発者の名前は?」
「え? しのぴーでしょ?」
「じゃあ、篠原の本名は?」
「は? しのっちはしのっちでしょ?」
榊原が蹲った。両手で頭を抱えてるけど、それ私だからね。
『篠原ちゃんは篠原ちゃんだよね。私は判ってるよ?』
『お前、ホントに判ってる? 言ってみろよ』
『あー……、ほら、あれだよね? 惜しいね、喉まで出かかってるんだけどね?』
『お前はマシだと思ってたんだけど? つかさ、まさかこっちの声聞こえてんの?』
『ははは、聞こえているよ? 篠原ちゃんが落ち込んだり怒ったりしてるの。ねえ、篠原ちゃん』
『なんだよ』
『篠原ちゃんは篠原ちゃんだよ。本名とか正体がIS開発者で天災とか言われてる篠ノ之束でも、私達にはただの篠原ちゃんなんだよね』
だからさ
『正体がバレたから、私を巻き込んだからとか、今更言わないでよ? さもないと、六組特製ポンコツ号でまた宇宙まで追い掛けるよ?』
『お前ホント、そういうところだからな?』
『どういうところかな? あんまり難しい話は分からないよ?』
こいつ、ホントにこういうところが嫌なんだよ。
なにも判ってない癖に、なにも判ってる様な口利いて、それで結局どうにかしてしまう。
こいつのこういうところが嫌いで、でも同じくらい好きなんだ。
いっくんや箒ちゃん、ちーちゃんとも違う。今まで会った事も無いよく分からない奴。
ふらっと人の前に現れて、ズカズカ人の内側に入り込んで、こっちをしっちゃかめっちゃかにして、妙な突き放しをする癖に、私が側に居て欲しい時は何も言わないのにそこに居る。
本当によく分からなくて変な奴で、でもずっと一緒に居たい奴。
「しのぴー」
「……大丈夫。榊原、ちーちゃんは?」
「あ? ああ、もう作戦立てて向かってる。篠原」
「なに? 私忙しいんだけど」
「言っとくがお前もあいつもこいつらも、私の生徒だ。お前ら全員、卒業式で雛壇に並べてやるからな」
こいつも変な奴だ。
私の事なんて無視していればいいのに、それでも私に関わってくる。
こいつら皆そうだ。
皆、よく分からなくて変な奴らで、ずっと一緒に居たい奴ら。
だから、こいつらが欠けるのは嫌だ。
「行こう。あいつは私達のだ。ぽっと出の奴らに渡してなんかやるもんか」
「よーし、それじゃ円陣!」
私を中心に皆が肩を組んだ。
「リーダー連れてこうとしてる奴らが何考えてるかなんか関係ない」
「リーダーは私達のリーダーだ」
「お前らなんかに渡すもんか!」
「行くよ! 一年六組ファイヤー!」
「「「ファイヤー!!」」」
待ってろよ、バカ。
引っ張り戻して、こいつらの中に放り込んでやるからな。
「ねえねえ、運転手さん。趣味は何かな?」
「……」
「ふむ、運転手さん。この仕事は何年やってるのかな?」
「………」
「運転手さん。この車ってお高いかな? お高いね?」
「…………」
「運転手さん。そのボタンは何かな? まさか、車の両横から丸ノコが出てきたり、羽が出て飛んだり出来るのかな? あ、もしかしてニトロブーストとかいうとんでもジェットが後ろからニョッキリ顔を出したりかな?」
――めっっっちゃ、話しかけてくる……!?