エルデンエムブレム   作:yononaka

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絶好の狩り場

「ミネルバ王女!先程の悪罵を取り消してもらおうか!!」

 

 パレスへ邁進していたミディアであったが、攻略軍の別働隊の処理対応をしているミネルバを発見すると名を呼び、目標を変える。

 名誉なくしてアカネイア貴族ではなし。

 城攻めの武勲よりも誉れを傷つけたものへの返礼を優先する事こそが多くのアカネイア武門の行動理念である。

 

「事実を並べただけのこと

 事実を取り消すことなど神であっても行えまい、ミディア殿」

 

 冷めた目で見下ろすミネルバ。

 燃える瞳で睨み上げるミディア。

 

「ならばこの槍で口を縫い止めてくれよう!」

 

 手槍を構え、投擲する。

 ただの使い手であれば飛兵相手にかすりもしないだろうが、ミディアの手槍はその加速度も、洞察力も並の騎兵を大きく凌駕している。

 ミネルバはそれを一瞬で判断し、大げさなほどの回避行動を取る。

 

(当たっていたら落とされていた……、このまま別働隊の相手をしながら彼女の相手をするのは不利か……

 白騎士団を連れてこれていたなら幾らでも対処のしようもあるが)

 

 ミネルバ麾下、選抜飛兵である白騎士団はペガサスライダーで構築されており、

 ドラゴンナイトを凌ぐ機動力を誇る。

 勇名を轟かせるのは彼女一人の武勇が理由ではなく、小回りの聞く兵士を指揮するに長けた小戦の達人であることが大きな理由である。

 例え小戦だとしても、それが勝敗の分け目になる戦いであればその価値は黄金を勝るものになる。

 

 だからこそ、今の彼女は白騎士団を奪われていた。

 アカネイアに大勝ちされても困り、武勲を立てられすぎても困る。

 ミシェイル統制下のマケドニアは彼女にとって多くの不利を背負わせていた。

 

「貴卿は強い、だがその力を私に向けるばかりでよいのか?」

「何を言って……」

 

 離れた所では死体が高くかち上げられていた。

 弄んで投げているわけではない。

 何かが衝突して跳ね飛ばされたような。

 

「あれは貴卿の兵だろう、それを助けずともよいのかと聞いているのだ」

「……!!」

 

 睨み、しかしミディアは馬の腹を蹴ると猛然と走り去っていく。

 別働隊とミディアが合流されていたら厄介なことになっていたが、

 上手く意識を反らせたおかげで別働隊を処理できるだろう。

 彼女の相手はその後だ。

 

 しかし……、

 

(我らの勢力にあれほどの力で兵を飛ばせるようなものはいたか……?)

 

 ミネルバはまだここにアリティア聖王国軍が到来していることに気がつけていない。

 常であれば情報を最速で獲得する彼女であるが、限定された飛兵の数に、攻め寄せるアカネイア攻略軍に対しての要撃に忙しすぎたせいでそれができない。

 

(ここを手早く片付け、ミディア殿を倒さねば……

 鬼神のような武力を持った彼女だ、王城への到達を許せば本当に落とされかねない)

 

 時間制限のある戦いに、ミネルバは敵を倒すことに集中する。

 ボーゼンの言う危険な仕事は、しかしマケドニアで死を望まれているかのように危地に送られ続けたミネルバにとっては日常とさして変わらないものだった。

 

 ────────────────────────

 

「どォしたあ!!アカネイアの貴族騎士なんて所詮こんなもんかあ!!」

 

 思う様にオレは鉄塊(グレートソード)を振るう。

 ひと度振るえば騎兵が馬ごと斬り飛ばされる光景は最高に楽しい。

 性格が悪いとか人品が終わっているなんてのは今更な話だ。

 それに

 

「我が名はメニディ家が分家デツェンバ男爵なり!

 其処な騎士に一騎打ちを申し込~~~~~むッ!!」

 

 このように、自主的に倒されに来る。

 

「そうか、よッ!!」

 

 名乗りをあげた直後に唐竹割りの如くに真っ二つにされるデツェンバ。

 先程から騎士が一騎打ちを求める、オレが殺す。

 オレのやり方が気に食わないと囲んでくる、オレが殺す。

 次の部隊が来て一騎打ちを……というループだ。

 このままずっとここでこれをやり続けたら攻略軍壊滅したりしねえかなと思いながらの作業(殺戮)

 

「随分と盛況だな」

 

 ゆるりと現れたのは金髪の騎士然としちゃいるが、家紋を誇示したりはしていない。

 傭兵か?

 いや、こいつがアストリアか。

 

「私も混ぜてもらおうか」

「アカネイアの人間なら名乗りでもあげるかと思ったが違うのか」

「ああ、私のことを知っているものだとばかり思っていたのでな

 では聞くがいい、我はアカネイア傭兵がアストリア、

 貴公さえ(たお)れてくれればミディアの安全は確保される

 武器を構えるといい、聖王レウス」

 

 ひとまずはやはりアストリアだってことはわかった。

 そしてオレの事を知っているんだな、どこかですれ違いでもしたか?

 

「名乗る必要はないってわけか」

「規格外の大きさの剣に王らしくもない毛皮の外套、孤軍で敵を蹂躙する力

 聖王レウスの詩を(そら)んじているものであれば一致するのは貴公だけだ」

 

 他のアカネイア貴族はオレの事を知りもしないようだが、中にはしっかり世俗の情報を拾おうとしている奴もいるわけだ。

 

 美丈夫といった外見の男だが、鼻につく態度。

 やっかいなのはおそらくコイツは……──

 

「では、一局付き合っていただこうか」

 

 ぐん、と体を落とすようにして走り出す。

 緩急を交えての見事な距離つぶしだ。

 距離を取らせる目的のオレの大ぶりの横薙ぎは踏み込んで空中に身を投げるようにして回避された。

 まるでサーカスの軽業師だ。

 左に向けて振った攻撃に対して右に跳ねられると切り返すまでに一瞬の隙ができる。

 オレが佐々木某であればここで燕返しを閃くかもしれないが、あいにくオレの獲物はグレートソードだ。

 そんな精妙な動きができるわけもない。

 

 が、できないからといって詰んでもいない。

 オレは振り抜いたグレートソードから手を離す。

 すっぽ抜けた鉄塊が周りでアストリアを応援していた兵士に叩きつけられた。

 ちょっとした事故だ。

 

 そのままオレは回避行動(ローリング)しながらアストリアの着地位置に滑り込む。

 ほぼ同時にオレが外套から取り出すのは狭間の地の無銘の名刀(ドロップ武器)、『獣人の曲刀』

 こいつがオレにとっての一騎打ちの秘策になるかどうか

 アストリア、お前の剣才で試させてもらうぜ。


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