エルデンエムブレム   作:yononaka

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五大侯の黎明

「よもやオレルアンが敗走するとは……」

「このままで良いのか」

「現在連合軍は広大で肥沃なオレルアンの地の内政に舵を切ったそうだ」

「アカネイア王国の首都をではなく、オレルアンをアカネイアの首都にするつもりというわけだ」

「何と恐れを知らぬものどもめ」

「田舎武者め」

「ゆるせぬ」

「ああ、ゆるせぬ」

 

「そう激するでない、諸卿ら」

 

 五大侯、そしてそれに連なる家でも有力者たちが集まっている。

 

 五大侯で最も強い力を持ち、オレルアンとアカネイアの両国に対してそれぞれに露見せぬように協力して戦争を長期化させている原因の一つでもあり、

 アカネイア王国が持つ歴史と言う名の腐敗を煮固めたような。

 

 ここは五大侯が実質的頂点、アドリア侯ラングの邸である。

 

「アカネイアを落とされるのは仕方もないが、このまま易易と落とされてもつまらぬ」

 

 ラングがヒゲを撫でながら地図を睥睨(へいげい)する。

 

 五大侯と言っても元は一枚岩ではなかった。

 ラング、つまりアドリア侯爵家はアカネイア貴族を代表するかのような振る舞いをしており、

 自らが損をするようなことと、己の名誉のみを重んじる。

 強い力を持つが故に、そのような思想であっても他の五大侯であるレフカンディ侯爵家とサムスーフ侯爵家はラング率いるアドリア侯爵家に付いて回った。

 

 レフカンディ、サムスーフ共に主家を失っているが、この両家は『主家を失っただけ』であり、

 末端までその腐り果てた性質を残したままであったため、ラングとの結びつきはむしろ強くなった。

 名目上、ラングと五分だった主家がいなくなったからこそ、ラングも支配し制御しやすい駒を得たわけである。

 

 ディール侯爵家は中立を保っていたが、その分家である多くの家、特に出世頭だったオーエン伯爵はアカネイア王国軍のトップであり、ラングたちとは袂を分けていた。

 多くの分家もまたオーエンに従っていたが、アカネイア王国軍が敗北し、散り散りになったディール侯爵家筋の人間をシャロンが纏めた。

 そのシャロンが討たれた後にラングは介入し、現在のディール家は全てラングの狗で構成されている。

 とはいえ、本家とそこに強い繋がりがあったものはグラを枕に全員が討ち死にしているのでディールの名前とその影響力を手に入れているに過ぎない。

 

 メニディ侯爵家は例外的で、オレルアンと完全に同盟を結んでおり、

 アリティア聖王国とオレルアンの壁をなしている。

 家を代表するジョルジュもまた、オレルアン連合軍の騎士として戦働きで武功を上げていた。

 

「何か策がお有りなのですか、ラング殿」

「あるとも、とびきりのものが幾つかな」

 

 手元の鈴を鳴らす。

 扉が開かれると薄布を纏った女が現れる。

 

「ほう……艶姿ですなあ」

「素晴らしいのは外見だけではない、ノルダの連中によって徹底的に躾をした上で、

 有り余る魔力を自在に操れるように魔道士どもに鍛えさせたのだよ」

「おお、それはまさか」

「うむ……カダインの閉派が作っていた『守り人』の技術よ

 ミロアが秘匿していたが、その解読には時間がかかったが……司祭のウェンデルが『喜んで』協力してくれたお陰でな、完成したというわけだ」

 

 無論、ウェンデルは秘匿していた情報の読み方だけを教えたのみ。

 対価を得るためにやむなくの判断であった。

 ラングはにたにたと笑いながら、

 

「ウェンデルにはミロアの忘れ形見は渡すことにはなったが、

 二つの『守り人』を一つ失うだけで済んだわけだしな、安い買い物だわい」

 

 手枷と足枷が付けられた女は光を返さないほど淀んだ瞳で地面を見ている。

 

「意識はあるのですかな」

「さてな、何をしても反応はない」

「高貴な身分の彼女がこれほどまでに形を残したままに堕とされるとは、ノルダの技術も素晴らしいものなのですなあ」

「アカネイアにはこれを貸し与えてやるのさ、一騎で一軍以上の働きをするこの堕ちたる姫君をな」

 

 他の貴族が口を開く。

 

「オレルアンに対してはいかがします」

「暫くは動きはあるまい、こちらも可能な範囲でオレルアンの土地をせしめて一枚噛ませてもらえばよい

 アカネイア大貴族の時代を田舎武者どもが終わらせられるはずもないことを教えてやるのだよ」

「流石はラング殿」

 

 その言葉に気を大きくしたラングは、わははと笑い、

 

「何がアリティア聖王国だ、我らを爪弾きになどできんことをしっかりと教え込んでやるわい

 自由都市(ワーレン)をまるまる抱き込んだお陰で手に入った兵士と、この守り人でな」

 

 ラングは『堕ちたる姫君』の尻肉を揉みしだきながら、哄笑を誰にはばかることなく上げた。


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