エルデンエムブレム   作:yononaka

132 / 513
アカネイアパレス前哨戦

 事前の調査の通り、好立地に陣地を作成することができた。

 アカネイア・パレスを中央として考えれば南西から西に掛けて配置された。

 

 続々と到着する兵士や荷駄、拠点防衛の構築も特に邪魔されることはなかった。

 

「いっそ不気味な静けさではあるな」

「相手方も後方から兵士を集めているようですから、横槍をいれてほしくないんでしょう」

 

 その状況にオレが漏らした一言をエルレーンが返した。

 

「戦力的にはどうだ?」

「数の上では相手が後方から引き出してくる数にもよるでしょうが、現状では数は同等程度です

 ただ、今回我々は新しい戦術を試しに来ている側面もあるので実際的な戦力差自体は説明できません

 とは言っても不利になることだけはありませんよ」

 

「レウス」

 

 エルレーンとの相談中にひょことナギが顔を出す。

 

「どうした?」

「飛竜たちとの偵察が終わった、推定を含むけど報告してもいいか」

「ああ、頼む」

 

 飛竜に転じたナギとそれに従う竜を使って、南側から東側へと大きく迂回する形で偵察をしてもらっていた。

 相手の状況を見ることも目的ではあるが、

 飛竜に警戒してこちらと相手が睨むあう場所から兵を後方に警戒のために割く可能性を見たのだ。

 

 ナギの報告では予想よりも数は多いが、行軍速度もかなり低いようだった。

 砦跡を利用した野戦築城も完了していたが、広さ的には二、三部隊程度が収まるかどうかといったもの。

 装甲兵を中心とした歩兵部隊と弓兵たちを目視、飛兵や騎兵は上から相手拠点を見た感じではいなかったようだ。

 

「しかしパレスを見に行かなくても良かったのか」

「流石に危険度が高そうだからなあ、万が一にもグルニアの長距離砲台(シューター)なんざ配備されてたら目も当てられん」

「しゅーたー」

「めっちゃ遠くまで届く弓矢みたいなもんだよ」

「それは怖いな」

「ああ、めっちゃ怖い」

 

 ナギが「この後はどうすればいいか」と聞いてきたが、彼女の次の出番はもう少し先。

 それまでは本陣の守りを頼むことにした。

 

「情報を引けたし、こちらから動くとするか」

「承知しました」

 

 最初の衝突はアランの隊に任せることにした。

 装甲兵がどう動くを見ておきたい。

 オレはその助攻を担うことになる。

 

 ────────────────────────

 

「一番槍だとしても、変わらずに進めるぞ

 ──前進、開始」

 

 アランの言葉から騎兵たちが動き始める。

 馬蹄が寄せる波の音のように戦場に広がっていった。

 

 聖騎士(パラディン)であるアランと、彼と長くに渡って転戦した麾下たち。

 彼の麾下もまたいずれもが優れた聖騎士(パラディン)である。

 それらの両翼に拡がるアリティア騎兵。

 騎士たちのすぐ後ろに医療騎兵たちが追従する。

 

 装甲兵たちが陣取るのはアカネイアパレス外に作られた野戦陣地だ。

 連合軍の時と異なって、市街戦の防衛に当たっていないのはパレス側に新たな防衛力が持ち込まれていることを示していた。

 総大将はグルニアの武将であるから、おそらく新たな防衛力もまたグルニアに関係するものだろう。

 少なくともドルーア同盟からしてみればアカネイアの降将の運用はリスクばかりがある。

 野戦で使い潰すくらいが丁度いいと考えて然るべきだろう。

 

 雄叫びもなく迫るアランの軍は傍から見ていて不気味である。

 そして、それは騎士団の練度の高さを示しているものでもあった。

 戦場で叫ぶことはそれだけで恐怖を殺すことができる。

 誰だって死ぬのは怖い。

 それを雄叫びは紛らわせることができる。

 

 だからこそ、叫ばない騎士団というのはそれだけ戦場では異質で、不気味であった。

 

「さて、オレはどこを攻めたもんかな……」

 

 一人寂しく喋りながら見渡す、野戦築城された一角は高台にあり、弓兵を配置するのであれば絶好の地点だ。

 ここで試したいことに飛竜の運用がある以上、弓兵が厄介な相手だ。

 それにそうでなくとも優れた弓兵であればアランたちを横合いから正確に射抜きかねない。

 世の中には走る騎兵を正確に射殺すような奴が少なからずいるのをオレは知っている。

 

 目的を定めた以上は(ケン)に周り続ける必要もない。

 トレントを走らせ、孤軍で弓兵が待ち構えていそうな高台へと進んだ。

 

 ────────────────────────

 

「トムス、あれを見よ」

「ミシェラン、あれは」

 

 迫る騎兵隊を見る。

 彼らが恩義を持つ相手だ。

 だが、アカネイアを守ることを決めた彼らが取れる行動は降伏や撤退ではない。

 

「……悔しいが、グルニアどもにパレスを任せるしかあるまい」

「玉砕せぬなどアカネイアの武人にあるまじき不名誉だとミディアは笑うやもしれんな」

「だとしても、我らはニーナ王女を信じることもできぬ以上は」

「ああ、そう思った我らは既にアカネイアの武人ではないのだろうな」

 

 お互いの盾を当てて鳴らす。

 彼らにとっての生存へのジンクス。

 

「新たな時代を作るアリティア聖王国に滅びゆくものの手並みを見せつけてやろうぞ、トムス」

「ああ、鈍い光であろうとも我らにも輝くものがあることを教えてやろうぞ、ミシェラン」

 

 トムスとミシェランが野戦の拠点を兵団を連れて後にする。

 

「グウオオオオオッッッ!!!」

「グゴオオオオオッッッ!!!」

 

 装甲兵の兄弟が雄叫びをあげる。

 頭も喉も割れんばかりの大喝を。

 

 アランたちとは対象的な、燃えるような叫び。

 誰しもがそれこそが風前の灯が見せた光であることを理解している。

 

「突!!」「撃!!」

 

 装甲兵が言葉を発し繋げながら突撃を敢行する。

 

 アリティア聖王国によるアカネイアパレス攻略戦の幕が開けた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。