エルデンエムブレム   作:yononaka

134 / 513
入り乱れ

 退却する迎撃部隊(装甲兵たち)を支援するようにトーマス率いる弓兵隊が矢をこれでもかと打ち込む。

 それは予想以上の効果を上げ、アリティア聖王国の騎兵に打撃を与えていた。

 

 しかし、それでも四侠と呼ばれた猛者たるアランも手をこまねくことは一切ない。

 すぐさま状況立て直しのために、部隊を幾つかに分ける。

 

 敵の迎撃部隊を追いかけるアランたち、

 負傷兵をカバーするために手槍を移動しながら撃つ陽動役、

 そして負傷兵を抱えて撤退する部隊だ。

 

 一方で城門で待機していたグルニア騎兵は撤退してきた装甲兵たちを迎えるために出撃する。

 

 位置関係を説明すると、以下の通りとなる。

 

 南から攻め寄せているアランたち、

 その北に装甲兵、

 さらに北に弓兵、

 そのさらに北に城門を守っていたグルニア騎兵。

 

 装甲兵たちが詰めていた野戦拠点は装甲兵の東側に存在しており、

 レウスは弓兵を狙うが、しかし直線的な動きでは最大戦果を狙えないと考えて戦っている者たちの目に映らないよう砦の東出口から出て、主戦場となっている西に迂回する形で向っていった。

 

 砂嵐と共に向かうミネルバはレウスとは逆に、西から東へと向かう形で前進していた。

 

 ────────────────────────

 

「なんだこの砂嵐……は……?」

 

 ウインドの効果範囲が尽きた後、どれだけ近づけるかは運任せであった。

 晴れてみれば弓兵までの距離は多くて一射分だけ。

 とびきり運がいいわけでもないが、悪くないならば十分だと渦中のミネルバは考える。

 

「敵兵!敵兵出現!!」

 

 弓兵の一人が叫び、それがその人物の最後の言葉となった。

 轟音が鳴った。

 空気が破裂するような音を立てて部隊の先陣を切っていたミネルバが武器を振るったのだ。

 風の大斧と呼ばれたそれが叩きつけられると原型も残さずに敵兵を撃破する。

 怒涛の叫びを上げて戦列歩兵と戦列騎士が弓兵部隊へとなだれ込み、切り伏せる。

 

「ミシェラン、トーマスの救出を!!」

「トムス、お前はどうするつもりだ!!」

「ヒムラー殿を援護し、あの斧騎士を打倒するッ!!」

 

 ────────────────────────

 

 砂嵐から見える人影がある。

 城門を守るヒムラーは、兵こそ動かすつもりはあったが、自身が動く気はなかった。

 それは保身ではなく自分が動くことで城門を抜かれる可能性を捨てられなかったからだ。

 自分の仕事は城門に近づくものの撃退。

 騎兵は城市に入ってしまうとその力を発揮できなくなるのだから、野戦での働きをしないのならば城門付近での戦いに終始することになる。

 

 その判断自体が間違いであることはない。

 だが、もっと前へと配置していれば弓兵たちをカバーできる距離にいたかもしれない。

 勿論、もっと前へと配置していれば砂嵐の人影に気が付かなかった可能性もあるが。

 

 どうあれ、人影が見えた時点でヒムラーは戦闘への積極的な介入を決定した。

 

「トーマス殿を守れ!我らグルニア騎兵が万全に戦えるときこそ今ぞ!!」

 

 猛然と走り出したヒムラーの背を追うグルニア騎兵。

 

 砂煙から現れた斧騎士。

 フードを目深に被ってはいるが、ヒムラーを見やるその瞳は燃えるような赤色。

 他の誰であろうか、その人物はミネルバに他ならない。

 将軍三人の間で行った賭けがある。

 この後の戦いに影響することが間違いないそれだ。

 

(これは報告の必要がある、先程の言を翻してもだ)

 

 ヒムラーは今後の戦術に影響するであろうこの報告を優先するべく、

 馬を反転させようとした時、横撃せんと鉄塊が振り下ろされようとしていた。

 

 ────────────────────────

 

 ウインドを利用した煙幕襲撃が成功したのを確認できた。

 弓兵部隊が雪崩れ込む歩兵たちに立ち所に処理されていく。

 

 装甲兵の部隊とグルニア騎馬兵隊が挟もうと動く。倒すべきは先行する騎馬兵一騎。

 その身なりから隊長、或いはそれに類する立場の人間と見た。

 

 グレートソードを引き出し、ミネルバへとまっしぐらに突き進んでいた騎士に対して、

 横合いから鉄塊をくれてやろうと吶喊(とっかん)する。

 

「ヒムラー様!!」

 

 部下の騎兵が鉄塊の下へと滑り込むようにして庇い、身を挺した盾のせいで敵将諸共とはいかなかった。

 

「巨大な剣に毛皮の外套……謡われるものと同じ姿にその膂力、

 そして本当に単騎で駆け回っているとは……

 この地においての王の器、か……」

 

 睨み合いの状態だが、いつまでも続けることもできない。

 騎兵……ヒムラーの背後からは部下の騎士が迫り、

 弓兵は散り散りになって逃げ出している。

 装甲兵たちはミネルバが連れた兵士たちと衝突を始め、

 さらに装甲兵たちの後ろからはアランの騎兵が武器を向け走ってきた。

 

「陛下、装甲兵の片方は私が!」

「もう片方は私が相手をしよう」

 

 アランとミネルバがそれぞれの装甲兵を相手取る。

 価値の有りそうな首はヒムラーと弓兵隊を率いている緑髪の男。

 ただ、ヒムラーは既に騎兵が壁となり、一目散に後退している。

 追いかけてもいいが、後ろから弓兵に射たれるのも面白くない。

 

 誰がどう戦うとは宣言したが、武将も兵士も入り乱れての状況。

 そう上手く戦えるものだろうか。

 

 駄目なら駄目で、経験になるか。

 乱戦の心得なんて実戦でしか培えまいしな。

 

 オレは下馬するとグレートソードを構えなおし、自らを鼓舞するように小さく笑みを作った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。