エルデンエムブレム   作:yononaka

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パレス陥落

「話を聞きたいところだが、オレはあっちを何とかしないとならん」

「その必要はあるのでしょうか」

 

 エレミヤの言葉に戦場を見やるレウス。

 

「ああ、……確かに無さそうだな」

 

 あちこちにサンダーが降り注いで、臨時の指揮系統は完全に沈黙。

 アランの率いる騎兵部隊が突撃して歩兵を(さら)うようにして進んでいる。

 残ったのは早い段階で兵を引いたグルニア勢力だけであった。

 

「それじゃ、付いていきますよ」

「パレス制圧すんのに時間掛かりそうだけど大人しく待っとけよ」

「お手伝いできることがあればなんなりとお申し付けくださいね」

 

 不安の残る二人を連れて戻る。

 そういう事になった。

 

 ────────────────────────

 

 多くを語るにはあったことは大したものでもない。

 グルニアの駐屯兵はまるっと降伏。

 処遇に関しては落ち着くまでそのままに、相変わらず捕虜を養う兵站を維持するのが厳しいのでグルニア兵と騎馬は後方へと送ることになった。

 

 敗戦処理の仕事を受け持つとしてあの厄介な三人のおっさんたちが残ることに。

 実際、彼ら以上の立場は既にアカネイアにはおらず、

 アカネイア奪還となればしゃしゃり出てくるような連中は大体がオレルアンか五大侯の所に身を寄せたらしい。

 

「パレスか」

 

 オレはその城の前にいる。

 俺が行った城の問題もあるだろうが、やはりタリス、グラ、アリティアと比べるべくもないほどに大きく、豪奢だ。

 とはいえ、アカネイア王国の歴史を考えればいい所、百年かそこら。

 こうした建物で考えれば新築だといっても過言ではない。……流石に過言か?

 ともかく、寂れたりくたびれた様子のない城は壊すには勿体ない気持ちになる。

 

「聖王レウス閣下、美しい城ではないか」

 

 ボーゼンが言い、続ける。

 

「閣下の考えに揺るぎはないのかね」

「確かに綺麗だし、かっけえ城だと思う

 だが、それがなんだってんだ

 バラして牛舎にでもしてやるよ、パレスなんざ」

 

 揺るぎなどあるはずもない。

 ただ、五大侯やワーレンと戦うことを考えれば暫くは使わねばならないのは業腹だ。

 

 アカネイアの占領を明確化するために敗北しましたよ、といった書類にボーゼンはサインをする。

 部屋にはグルニアの三将、そしてオレとエルレーン、ミネルバ。

 ミネルバに関してはバレていることがわかった以上は彼らの前で顔を隠す意味もないとして姿を晒している。

 

「グルニアへの帰還を求めるなら、一度捕虜として身を預かり、グルニアへの身代金との交換になるかと思います」

「ハッハッハ!そんなものグルニアが払う余裕なぞないない!わしらに連絡の一つも返さんのだからな!」

「そうですか、ええと……」

 

 エルレーンが苦手なものが一つ判明した。

 彼はこういう『豪快なタイプ』に弱いのだ。そりゃあお坊ちゃんで、しかも体育会系で声のでかい奴なんていないような場所で育ったろうからなあ。

 

「レウス、頼みがある」

「なんだ」

「彼らの命を取らないで欲しい」

「んー、でもさあ、お前の頼みを聞くにしたってお前は差し出せるものもないだろ?」

「それは……そうだが……」

 

 大変性格が悪い行いだと思うが、ミネルバを困らせるのは大変楽しい。

 シーダだったら泣かれるだろう。

 だが、ミネルバはその性格の悪い行いに対して真摯に解決策を悩んでくれる。

 

「貴方は偉大な王なのだろう、アリティアをはじめ、グラやタリス、そしてついにはパレスを手に入れた」

「そうだな」

「そのレウスが、……その、端女の、願いの一つも聞けぬほど狭量ではないだろう?」

 

 ミネルバの戦闘以外で恐ろしいところがある。

 一つは有効な手だとするなら誇りより目的優先で手札を切れる所だ。

 王女であるプライドを捨てて自らを端女と言うことでオレを揺さぶれると思っている。

 そして当然、ビビビとオレにはばつぐんの効果を発揮する。

 

 もう一つは顔の良さだ。ミネルバはとにかく顔がいい。

 シーダも顔が良いし、リーザも顔が良いが、二人とはまた別種の美しさだ。

 気位の高さと武人としての厳しさ、厳しい環境に置かれた故の怜悧な顔立ち。

 その上で、その顔を利用して上目遣いなどしてくる。

 当人にはその気は無くとも、本能的に『有効な表情だ』として使っているのだろうのもわかる。

 

 その表情に免じて許そう。

 まあ、そもそもこのおっさんたちを殺すつもりもなかったんだが。

 そしておっさんたちはわかっていながら状況を楽しむために黙ってやがるのもわかっていますからね、オレは。

 

「ミネルバ、まだ端女じゃないんだからそう言うな

 その日が来たらメイド服を着てもらうから」

「ああ……だが、……ん、うむ……メイド服か……

 ……いや、ではなく」

「おっさんたちを殺すつもりはねえよ」

「そ、そうか」

 

 胸をなでおろすような表情。

 にこにこ顔のおっさんたち。

 

「さて、そこは話しておかないとだよな」

「実はな、わしらは賭けをしておったのだよ」

「賭け?」

「ああ、聖王レウスがミネルバを殺したのであれば城を枕に戦って死のう」

「生きていたなら?」

「生きていて、助けたのが聖王レウスだと言うなら、我らの価値を示すような戦いをしよう、とな」

「で、オレはまんまと価値を示されたってわけだ」

 

 このおっさんたちの恐ろしいところは増援は使い潰したがアカネイア降将に従っていた連中は使い潰さなかった事と、

 あの戦いで自分たちの部隊が殆ど損耗しなかったことだ。

 正直、このおっさんたちの用兵術はアリティアには存在しないものだ。

 ホルスタットと違って軍全体へのエキスパートではなく、作戦単位で区切られた軍隊運用のエキスパート。

 それを口や過去の戦歴ではなく、目に見える形でプレゼンしてきた。

 過去に対しての信頼性はミネルバの助命嘆願によってクリアもしている。

 

「はー……」

 

 オレは思わず吐息を漏らす。

 

「オレはオレが好きだ、オレが好きな奴が好きだ

 だから裏切り者が嫌いだ」

「忠義ならば我が身、我が命を以て捧げましょうぞ」

 

 ヒムラーが言う。

 ああ、そうだろうさ。城を枕にして討ち死にするってのだって本気だったろうしな。

 

「だが、オレが進む道は伝えたとおりだ

 オレに従うってことは向こう百年二百年、もしかしたらそれ以上の時間だけ悪名を纏う事になる」

「ハッハッハ!後世の悪名などわしらの知ったことではない!

 聖王とあろう方が自分で覚悟を決めているだろうに、配下となるものの心痛を慮るのか!」

「我らは既にそのような覚悟は既に決めておる、故国を捨てる事が証明にはならぬだろうか」

「ああ言えばこういうおっさんどもだ……

 わかったよ、正式に聖王国の将になってもらうのは戻ってからだが、今この時からオレの配下としてバリバリ働いてもらうからな!」

「寛大な御心に感謝します」

「一度裏切った過去を打ち消す忠義を示しましょう」

「ああ、我ら今より聖王レウス陛下の槍として忠義を尽くそうぞ」

 

 司祭のボーゼン、聖騎士のヒムラー、装甲騎士のジューコフ。

 得れると思っていなかった即戦力が加わったのは望外の喜びだ。

 同時に見限られないようにツッパり続ける必要が出てきたが、まあ、コストとしちゃお安いだろう。


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