エルデンエムブレム   作:yononaka

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アイオテの肉盾

 その声に気が付き空を見上げる。

 ペガサスが矢を受け、高度をぐんぐんと落としている。

 

「どこ見てやがる!」

 

 サムシアンがオレに斧を振りかぶる。

 お前に関わっている場合じゃない、どけ、と口に出すのも時間の無駄だ。

 受け即突き(パリィ致命)で命を奪い、残心することなくシーダの予測落下地点へ走る。

 

「天馬はいい、あの騎士を射殺せ!」

 

 山賊の弓兵と騎馬弓兵だ。

 指揮しているのは騎馬の方で、最低限の戦術眼はあるらしい。

 褪せ人の時には痛みなんて殆どなかったが、こっちではそうでもないらしい。

 そりゃあ人間の頃(褪せ人以前)に比べれば鈍覚も良いところだが、

 ああ、いやだいやだ。

 痛いのは嫌だ。

 歯医者だって何かと理由をつけて行こうとしなかったんだぜ。

 放置するほうが痛いから行ったけどさ。

 

 オレは天馬からシーダを引きずり下ろす。

 流石はシーダの愛馬と言えばいいのか、オレの意思を酌み取ったのか、飛ぶことはできずとも軽快な走りで山の方へと向かっていった。

 あそこであれば戦いが終わるまで隠れ、或いは逃げ切れるだろう。

 

「レウス様、何を」

 

 オレはシーダを抱き込むようにして、そのまま走る。

 風切り音が幾つも通り抜け、やがて――

 

 だ、だだん、と重い音がしてから鈍い痛みが背中を支配する。

 

「お、下ろしてくださいレウス様!」

「的が増えるだけだ」

「所持者を傷つけようとする戦利品など論外です!レウス様!」

 

 言葉の応酬をしている間にも矢が突き刺さる。

 ああ、クソッ!これだ!痛いって感覚をバッチリ思い出せた!

 クソ、クソ、クソッタレ!

 

 ───────────────────────────────

 

 オレを射的ゲームの的にしているのに夢中だったせいか、跳躍して襲いかかってくるガザックに気が付かず、乱戦に持ち込まれている。

 そのおかげでレナとジイさんのところまで後退することができた。

 

「し、シスター……シーダを治療してくれ」

 

 息も絶え絶えにレナの前にシーダを座らせた。

 シーダは今までにない表情──信じられない物を見たときのものと、泣きそうな顔がないまぜになっているそれをオレに向けている。

 

「わ、私よりもレウス様を」

「どちらも癒やしますから、どうかそのまま」

 

 レナはまずはシーダを治癒する。

 ああ、ライブの杖も補充したいなあと思いながら、背に刺さる矢を抜く。

 手が届かない場所のそれはジイさんに引っ張ってもらった。

 このジイさんも戦場で活動したことがあるのか、人体に突っ立った矢を取り除くことに忌避感もなければ、

 矢じりを残すようなミスもしない。

 

「シスター・レナ、レウス様にライブを」

「はい……」

 

 祈るような姿勢を取り、ライブの杖に秘められた力が解放される。

 矢で受けた傷が塞がって痛みも消えていく。

 

「ありがとよ、シスタ──」

 

 オレが言葉を言い終える前に

 どん、と横合いから何かが当たる。

 攻撃ではない。

 シーダの手がオレの体を押していた。

 

「戦利品を宝物のようには扱わないと言ったのに、その舌の根も乾かないうちになにをしているのです!?」

「大切な戦利品を使い捨てるようなことをしないだけだ」

「もう二度とあんな真似を」

「しないなんて言えると思うか」

 

 王女として育てられていた彼女が感情のままに手をあげるようなことはできない。

 だが、駄々をこねる子供のように暴力にはまるで満たないことで怒りを示していた。

 オレはその手を掴む。

 

「私は、……」

「まずオレを信じろ。オレは死なないし、その上強い

 あのナバールもぶっ殺した男だ。超強い

 矢の十本、二十本で殺しきれる相手じゃないんだよ、オレは」

 

 そばにいるレナの手をもう片手で掴み、

 

「オレが矢衾になったら腕のいいシスターが癒やしてくれる

 それで足りなかったらジイさんもやってくれる、医療体制も充実だ」

 

 勿論、今はライブの杖がそもそも足りてないが、そこは言う必要もないことだ。

 

「オレはアリティアの王子マルスにはなれない

 人徳も足りなければ運命にも愛されてないだろう

 神様がくれねえなら、必要なもん自分で拾い集めるしかない」

 

 じっと、シーダの目を見て、宣言するように言う。

 もしかしたなら、これは自分に対して言っているのかもしれないなと心のどこかで思いながら

 

「手に入れたものは宝物みたいには扱わない

 だけどな、手に入れたものを無闇に壊してしまうようなこともしたくない

 オレは抱えるだけ抱えて前に進む

 戦利品第一号のシーダさんよ、忘れてくれんな」

 

 一拍おいてから、改めて言う。

 

「お前はオレのものだ、だから末永く扱われろ」

 

 戦場に駆り出しておいて無茶な事を言うな?

 伝説の武器の数々だって幾つもの戦場を渡り歩いて残ってるんだろう。

 だったら多少は無茶かもしれないが、矛盾ではないはずだ。

 

 オレは痛いのは我慢できても、失うのは我慢できないことを自覚している。

 


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