エルデンエムブレム   作:yononaka

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 現在のオレルアンは繰り返し行われた激戦と、予想を超えた戦局の長期化によって平時とは異なる状態でいることを強いられていた。

 

 オレルアン軍部が管理するオレルアン軍、

 王弟ハーディンが率いる狼騎士団、

 オレルアン各地から集まった民兵、

 オレルアン王が雇いあげた傭兵、

 ニーナを慕って集まったアカネイア兵、

 

 オレルアン軍そのものはほぼ機能しておらず、オレルアン王の守護を何とか維持しているに過ぎない。

 現在、オレルアンの軍権を実態的に握っているのはハーディンであった。

 国内外に強い求心力を持つ狼騎士団がマケドニア軍に対して戦果を上げるたびに各地の民兵が傘下にと馳せ参じる。

 ハーディンの近習であるウルフ、ザガロ、ビラク、ロシェこそ健在であり、マケドニア軍相手に優勢に立ち回っているが、

 狼騎士団全体で見ると、戦いのたびに数を減らしている。

 

 指揮官の数の差である。

 

 オレルアンはその領土を取り戻さねばならないという命題以外に、

 西のグラ、

 南のアカネイア、

 そしてマケドニア本国からの侵略を止めねばならない。

 

 それぞれの侵略部隊の指揮官はその仕事を任せられるだけの能力を持つものが派遣されている。

 一方で、狼騎士団にはハーディンと近習の四人を除くとそれら侵略軍相手に立ち回れるだけの指揮官がいないのだ。

 小規模の遊撃隊を中心とした部隊で立ち回りはするも、

 数と指揮官の差でじりじりと団員の数を減らしていた。

 

 減っていった騎士や団員の代わりとなるのが民兵と傭兵、そしてアカネイア兵である。

 

 侵略者撃退のためであれば苛烈な手段をも厭わない民兵と、

 戦略眼のないオレルアン王の目先しか見ていない指示に従う傭兵と、

 ニーナ王女のためにと独断で動くアカネイア兵。

 

 平時であれば厳しい軍規で縛り上げ、纏められている狼騎士団の現状は常とは大きく姿を変えていた。

 

 声に圧されるようにしてウルフたちは徴発へと向かう。

 戦時において徴発は珍しくない行いである。

 だが、今回のそれは民兵、傭兵、アカネイア兵が主動となって行おうとしたものを、

 近習であるウルフたちが監視するためもあって同行することになった。

 

 ウルフはハーディンのことを敬愛しすぎていた。

 オレルアンの民の全てが自分と同じように考えているはずだと思っていた。

 

 南部の街が何者かによって解放されたと聞き、諸手を挙げて歓迎される。

 徴発とは言っても、マケドニア軍が残した多くの物品をそのまま渡してくれる。

 それが当然のことだと思ってしまっていた。

 

 ただ、ウルフの盲目的な敬愛が全ての元凶であったかと言われれば、ザガロはそれは否定したかった。

 ならば、どこから間違っていたのか、どうすれば名誉と秩序ある狼騎士団が狂わずに済んだのか、

 ザガロは逃走の中でそれを考えないではないが、

 今はあの怪物をどう伝えればよいのかに脳の処理の殆どを使っていた。

 

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 リフは人混みに押され、倒され、当たりどころ悪く気を失っていた。

 次に目を覚ましたときにはレウスが獣の如くに咆哮し、姿を変えていたとき。

 それは一方的な蹂躙だった。

 

 『運良く矢が当たった』などと言うことが起こり得ない。

 たとえ後ろから射ったとしても、まるで背に眼でもついているかのように転がって避けてしまう。

 避けた先で腕を振るえば団員たちは細切れになり、逃げる背に石の礫を打って殺した。

 やがて、背に浮かぶ燃えるような不気味な印は、溶けるようにして黒と赤の炎を大地に拡げていった。

 

 それに触れたものは生きていたものであれば分解し、灰へと変えた。

 それに触れたものが自然によって以外で作られたものであれば分解し、灰へと変えた。

 まるでびっしりと描かれていた街の風景画が白く白く塗られていき、何も存在しないキャンバスへと強引に戻されていくように。

 

 生きていたものがいないではないが、その光景に恐怖し、どこかへと走っていった。

 何とか呻くことができる程度だけ生きていたものはまるで死者と断じられたように灰に変えられた。

 リフはそれらを何とかしようとし、何を尽くしても無意味であることを悟った。

 

 一面を灰に変えた頃、死体の山だったもの(灰の山)の上までレウスは歩き、どこからか取り出したレイピアを突き立てると、それが最後の体力とでも言わんばかりに膝を突いた。

 背に浮かんでいた紋章は消え、鎧もまるでそうした生物であるかの如くに元の形へと戻っていった。

 

 シーダとレナが()に踏み入ったのはそれと殆ど同じタイミングであった。

 


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