「──ッ!」
苦しい!
「げほっ、ごほ、おえっ」
むせる。
肺が潰れるようだ。
なんとか呼吸を整える。
視界が明滅する。
なんだ、ここ、どこだ?
明滅が消え、視界は安定していく。
オレは、……メリナと話してて、いや、フィーナが死んで、……。
「レナさん!こちらへ来てくださいますか!」
「どうしました、シーダ様……レウス様がお目覚めになったのですか!?」
そうだ……。
思い出した。
オレは……、
「レウス様!」
どん、とやや重く鈍い衝撃のあとに柔らかさと、何とも表現しようのない芳しい香り。
シーダがオレの胸に飛び込んできたのだ。
「シーダ、」
レナはシーダの後ろに侍っているが、どこか泣きそうな、安堵したような表情だ。
「レナ……」
オレは呼吸を整え直してから、
「おはよう」
ついでに抱きついてきたシーダを抱きしめ返すことにした。
幾ら
細くて、でもしっかりとした感触。
切った張ったみたいなことでしか人体なんて感じたこともない人生なので、何ともこう、新鮮だ。
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オレは随分と眠っていたらしい。
シーダが感極まって飛びついてくるくらいには。
今逗留しているのは旧アリティア王国と、グラの国境線近くの街らしい。
随分と遠くまで来ているが、意識のないオレを連れて山越えは難しいと判断し、サムスーフを越えるのを断念。
何とか近くの村まで運んだあと、いつぞやの行商が通りがかったことで逗留が可能そうな場所まで運んでもらったのだという。
女二人に老人一人でよく甲冑装備のオレを運んだもんだと思う。
本当に、相当に苦労をかけた。
逗留する上での条件は戦の匂いが薄い場所。
旧アリティア連邦は既に解体、グラはそもそも戦力として積極的に戦いを仕掛けるほどの力も野心も持たない。
勿論、弱腰を見せれば隙になるからか、オレルアンには侵略軍を向けた体で小競り合いで済ませていたようだが。
さておき、
そうした理由からアリティア・グラ国境線近くの街で逗留することになったという。
オレが寝ている間、レナとリフは持たせていたライブの杖を使って治癒を生業としていたらしい。
シーダも生活費を稼ぐために商人の元で仕事を受けていたらしい。
王族として高等教育を受けていたお陰か、算術が大いに役に立ったようだ。
彼女は何不自由ない暮らしをしていた故に初めての労働となったが、
周りを見渡す。
オレの纏っていた甲冑一式以外に、レイピアが大切に保管されている。
リハビリが必要かと思いながら、緊張して体を動かしたが不自由がない。
今も褪せ人の肉体であるというわけではないのだろうが、それでも特別製は特別製のようだ。
「レウス様、フィーナは」
「……ああ、わかってる」
レイピアを掴み、刀身を抜く。
曇り一つ無い。
よく手入れされている。
「大丈夫だ」
あの空間から、情動というものが波のように寄せてきた。
怒りだ。
どんな事情があろうと、フィーナを殺したことは揺るがない。
だが、この怒りは大切に残しておく。
オレはシーダとレナには見えない角度で留まりきらぬ怒りを表情に漏らしながら、
少しずつ息を整える
もう大丈夫だ、あとはいつもみたいにへらへらしてりゃいい。
それができるくらいには落ち着いた。
「おお、起きなされたか、騎士殿」
シーダやレナのような距離感でいられても困るしな。その配慮はありがたい。
「これからのことを話したい」
レイピアを鞘に納めるとオレはそう三人に切り出した。