ホルサードのお付きだろう。
それなりの練度だが、眼の前で埒外の大きさを持つ鉄塊が振るわれ、
音が鳴るたびに人体が肉片に変わる光景を見せられていれば心が折れる。
折れて動かなくなった相手にも容赦なく鉄塊を喰らわせる。
奮起されて後ろから襲われたくもないんでね。
彼女を連れてコーネリアスの部屋(仮)に雪崩れ込む。
「怪我は?」
「あ、ありません……」
「グロいもん見せつけたことは謝る
だが、暴力無しで解決する手段ってのを持ち合わせてなくってな」
「いえ……」
オレの行いに対する否定はないようだ。
コーネリアスを殺し、国を奪った連中だ。
復讐心ってのがあって、それが少しでも満たされたのならオレにとってはありがたい。
そいつを餌にして引き込むって手段もあるしな。
何も絶対に娶らないといけないってわけでもない。
「派手にやってくれたな、勇者気取りよ」
掠れてはいるが、声量がないわけではない。
いっそ不気味とも取れるその声の持ち主は死体を踏み越えながら現れた。
「わしの懐で喚き散らしたならばどうなるかを教えてやらねばらん」
「どうなるもこうなるも、お前が死んでオレは帰るって結果にしかなりえんよ」
「ほざけ、ようもわしにそのような口を聞けるものだ
無知とは恐ろしいな」
思いっきりバカにした風に、ついオレは言葉を返してしまう。
「アンタを知らねえからデカい口叩いてると思ってんのか
冗談にもなってねえな、バジリスクのモーゼスさんよ」
「知っていながら、その強気な態度でいるわけか
そうしなければ恐怖に潰されるからこその虚勢であろう」
「バジリスクなんぞ、何匹狩ったかも忘れた相手を恐れるほうが難しいって言ってんだ」
「虚勢ではなく虚言であったか、痴れ者めぇ!」
その姿が濃い霧のようなものに包まれながら変質する。
霧が晴れると、首長竜を思わせるような外見の、巨躯のドラゴンが現れていた。
いかに王族の部屋が大きいといってもそこかしこの壁が壊れていく。
「矮小な人間め、ここで朽ち果てるがいい!」
「今更お前みてえな『もやしドラゴン』が怖えわけねえだろ!!」
相手からすればなんのことだと言いたいだろうが、狭間の地に現れていたドラゴンと較べてなんとも貧弱そうなこと。
だが、油断はしない。
そのためにオレはこのグレートソードに目をつけたのだから。
神肌縫いでチクチクと刺しても致命傷にはなりにくかろう。
ダガーと輝剣の円陣でも同様だ。
一番早い解決策は、
今までモーゼスが相手にしてきた連中はどれも竜化したことに驚いたり、様子見してみたり、
無謀な攻撃をしたりでろくに痛手を受けてもいないのだろう。
オレは違う。
ドラゴン相手には躊躇しない。
踏まれて死にたくないからでけえ一発撃ったらさっさと安全距離に戻る。
殺せる時に殺す。
アカネイア大陸の連中と違ってこちとらドラゴン狩るのにゃ慣れっこなんだよ。
首の真芯を捕らえた一撃が深々と刺さり、
オレは乱暴にグレートソードを左右に振って首を落とした。
モーゼスが何か言いたげに呻くも、人の姿に戻り、動かなくなった。
その手には禍々しい色の石が掴まれている。
これは『魔竜石』ってやつか、一応もらっておこう。
「まるで……勇者アンリ……」
「ドラゴン相手に七日七晩も掛けねえよ、オレは」
彼女の手を引いて、バルコニーへ。
周りを見渡すとこの城には程よい出っ張りが幾つもあるのが確認できる。
皆大好きトレントアスレチックタイムだ。
だが、このままだと人拐いになってしまう。
最終確認はしっかりしねえとな。
「ここから脱する前に先程の答えを聞かせてくれるか?」
「あなたならば戦乱を鎮め、平和をもたらせるのかもしれません……
どうか……アリティアをお救いください」
勇者アンリのような戦いっぷりが効いたようだ。
モーゼス、お前の犠牲は無駄じゃなかったぞ
「今日、この日より私をあなたに捧げます」
その返答にオレは彼女の手を取る。
月光の光にも負けぬ美しさを備えているのを改めて確認できた。
彼女は潤んだ瞳でオレを見ながら宣言する。
「
アリティアとアカネイアの安寧が大陸を満たすその日まで、
そのお側で尽くさせてくださいませ」
……ん?