エルデンエムブレム   作:yononaka

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多忙の中で

 アリティア解放の式典を行うのは国の再スタートを意味しており、現状の最重要タスクではあるのだが、

 投降した兵士の多さを含めて、予想よりも何倍もの量の戦後処理に追われている。

 

 今日もその件での会議で参集された。

 アリティアとは小国であるが故に政治に口を挟めるような格の貴族は存在しない。

 そのため、国家の会議はリーザ、四侠、そしてオレで完了してしまう。

 勿論、書紀担当やら四侠の副官やらお付きの文官がいなくはないのだが、それもまあ、顔なじみの連中だ。

 

「──と、いうわけです。

 式典は予定変わらず三日後には行いますよ!」

 

 ノルンが手を上げて報告をする。

 式典の担当は彼女である。

 任命された理由は彼女がこの軍全体をよく見ており、各村や城下町の有力者たちとのパイプを持っているからである。

 リーザが囚われていた頃にノルンとフレイがやっていたゲリラ活動をしていた頃の協力者との繋がりのようだ。

 

「西と東の村が協力してドレスを仕立て直しているとのことでです」

 

 補足するようにフレイが報告する。

 

 それを聞いたアランとサムソンは目を合わせ、同じようにして小さく微笑む。

 彼らにとってもあの村には思うところがあるようだ。

 自分たちと同じく、手を取り合えていることを喜んでいるのがわかった。

 

「ノルン、例の件はどうか」

 

 フレイは続けて、ノルンに別のことを問う。

 

「真実かどうかというよりは、真実だと思うべきという風潮ですね」

 

 ノルンはそう返答する。

 

「アリティア王家が二代目国王、マルセレス様の落胤の血統。

 表沙汰にできない出生からバレンシア大陸に渡っていた彼が、

 先祖の祖国の危機に立ち上がり、帰還した。

 正直、物語でしかありえないような展開ですけど、ドルーア帝国相手に大立ち回りをやってみせたのは真実で、

 民兵たちも信じがたいような戦闘を見た後じゃあ」

「勇者アンリの再誕と言う英雄譚が目の前で作られている、と考えるか」

 

 サムソンがそう言った事にノルンは続ける。

 

「各地には吟遊詩人を派遣したり、前線で戦った様子を見ている兵士を帰省させたりしています

 民は目に見える支配が去ったあとも戦乱が続くだろうと考えています

 落胤の血筋と言えどもアンリのもの、風聞ではなく実際の解放の立役者をとなればつつがなく進むでしょう」

 

 そう締めくくる。

 アランは加えるようにして、

 

「ドルーアを筆頭として多くの列強がアリティアを攻め潰そうとしたのは市民の記憶に強く刻まれている

 その恐怖を払拭し、庇護してくれるのであればそれがアンリの血であると彼らは自分たちを納得させるでしょう」

 

 アランは言葉とは裏腹に、民をどこかで裏切っているような気がしているのか、表情は少し暗い。

 だが、飲み下すようにして

 

「少なくとも、私はレウス殿がアンリの血を持っているものと信じております」

 

 そう、皆に告げる。

 

 この一連の会話でリーザが口を挟まなかったのは明確な理由がある。

 彼女が玉座に座るまで、彼女には戦後処理に対する発言権を四侠によって封じられているという形を作っているためだ。

 何かあったときにリーザの意向を聞き取らなかった四侠こそが悪であるとするために。

 これはオレが言い出したことではない。

 意外なことにそれはサムソンからの提案だった。

 

 曰く、現在の地点は戦場の地続き、悪名と汚名、それに血を浴びる役は我らの仕事だと。

 リーザは責任を持たせて欲しいともいったが四侠全員がサムソンに同意したことでリーザは厚意に甘えることにしたようだ。

 

「では、次の議題ですが……」

「オレだな」

 

 フレイの進行にオレが立った。

 

「入ってくれ」

 

 会議場の外へと呼びかけた。

 物怖じせずに入ってきたのはホルスタットだ。

 手枷などは嵌めていない。

 一部の部下からは虜囚の扱いをするべきだという声もあったが、それはオレが拒否をした。

 

「……」

 

 居心地が悪いであろうに、それでも伸ばした背筋を丸めることもなく、視線はまっすぐにオレを捉えていた。

 

「オレからは一つだ

 ホルスタットをこのあとのアリティアに将軍として迎え入れたい」

「なっ……」

 

 声を上げたのは四侠の誰でもなく、ホルスタット本人であった。

 

「何を言っておるのだ、レウス殿」

 

 名を教えてからは息吹する旗印なんて呼ぶことはなくなった。

 二つ名ってちょっとまだオレには照れがあるので止めて欲しい。

 いや、それよりも周りの反応であるが、

 

「強者は歓迎だ

 骨のある武人であれば尚の事、な」

 

 サムソンは同意、と。

 

「私は武将としての経験が足りないと自覚している

 貴殿のような経験のある武将が来てくれるというのならば心強い」

 

 アランも同意だ。

 

「来てくれたら仕事が減りますね!やったー!」

 

 ノルンも良さそう、というか頼まれてる範囲が大きいんだろうな。

 ごめん。

 

「私はレウス様の指示には従うのみ」

 

 フレイは、まあ、そう言ってくれると信じていた。

 

 問題は……同じ顔した奴に犯されかけてるリーザだけど……。

 

「レウスが求めた人材ならば、私が口を出せることなどありません」

 

 そう言った上で、

 

「しかし、アリティアのために解放軍と共に戦った人間として一つだけ言いたいことがあります」

 

 ホルスタットは敬礼を取る。

 グルニア王ルイと異なり、戦場にまで出てきた王族だ。

 武人としても、敵だったものとしても最大級の敬意を持たねばならない相手だと考えているのだろう。

 

「ホルスタット将軍、アリティアの未来のため、その力を貸してはくださいませんか」

 

 アリティアの王族として助力を頼むリーザ。

 

「御前……、四侠のご一同……」

 

 がく、と膝を突くホルスタットはそのまま涙をぼたぼたと地面に落としていく。

 

 後に聞いた話だが、彼はグルニアにおいてこのような扱いを受けたことはなかったそうだ。

 ホルサードの側にいて、彼の悪逆をそれとなく諌め、或いは処理する立場であったからだが、

 だからといって鼻つまみものというわけでもない。

 グルニアは腐っている。

 武人や騎士が誉れを与えられる場所ではなく、狡知のみが意味を持つ場所に成り下がっていていると忌々しさと、その中で腐敗の中から這い出ようとしなかった自分をも自嘲するように言う。

 

 この場所は彼にとって、夢に見て、しかし己の罪と業を思うと辿り着くことのないと諦めた場所だったようだ。

 

「レウス殿……、いや、レウス様」

 

 そのまま片膝を立て、騎士としての習いか、礼節のために居住まいを正す。

 

「このホルスタット、

 今よりアリティアの末席にて罪とともに生涯の忠節を国、リーザ様、そしてレウス様にお誓い申し上げる」

 

 そういうわけで、猛将ホルスタットがアリティアに加わった。

 ただ、とりあえず必要なのは武芸ではなく降兵の取りまとめ。

 その辺りも万事お任せを、と色よい返事をもらえた。

 

 ────────────────────────

 

 式典二日前。

 何とか軍関係のアレコレは目処が付いた。

 

 まずは降兵に関してだが、

 多国籍軍だったが、結構な数がホルスタットの頼みであればということでアリティア軍への配属を求めた。

 

 ただ、この後に行われるのはグルニアやグラといった近隣国との戦いであるのもわかっている。

 リーザは彼らに対して家族や愛するもの、国や土地を忘れられないものは去っていいと宣言する。

 罪も問わないと付け加えて。

 彼女の慈悲に帰らんとしていた兵たちの中でリーザへの忠義を誓うものもそれなりにいた。

 

 アカネイアの兵はオレの戦う姿にアンリを見たと言って残ることを求めたものがかなり多い。

 おそらくアカネイアそのものへの忠義が失せていたのも理由だろう。

 

 グラの兵はオレだけでなく、リーザに対しても熱い眼差しを向けていた。

 元々グラは歴史的にもアリティアとの繋がりが深く、

 現在の王の失政もあってアリティアへの回帰を求める声が大きかった。

 グラに戻る兵士は実に少数であり、その誰もが家族や恋人のための帰還だった。

 

 マケドニアの兵はそもそもそれほどの数は残っていなかったが、残っていたドラゴンナイツはノルンの下で戦えるなら残りたいと申し出た。

 敵として死神に(まみ)えるのだけは絶対にごめんだ、と。

 だが、オレは知っている。

 恐れたふりをしてあいつらはノルンファンクラブを作っていることを。

 

 最大の問題はドルーア兵であったが、彼らは残らず帰還を選んだ。

 すわ洗脳かと思ったが、どちらかと言えば彼らの目にあったのは絶対的な恐怖であった。

 哀れにも思ったが、引き止めるための手段を見つけることができなかった。

 

 四侠は軍の中核にとしてそれぞれに改めて部隊が当てられる。

 

 アラン、サムソンにはホルスタットの麾下とホルサードの麾下が与えられた。

 主を離れることにはなるが、元グルニア兵のなかで最も忠義に厚い部隊であるから問題が起こりにくいだろうという判断だった。

 それ以外のグルニア兵は一度アリティアの軍学校(即席のものだが)に編入してもらい、

 改めてアリティア内に配備することになる。

 

 フレイには元々アリティア騎士団に所属していたものや、アラン・サムソンがいた村の人間たちが入団した。

 アリティアの盾という名で治安維持と問題解決を主に、既に動いていた。

 

 ノルンは相変わらず戦場においては一人がいいと希望したものの、マケドニア兵他に熱烈に希望されたため、

 しぶしぶそれを承諾。

 なんだかんだその規模がフレイの騎士団を超えていたりする。

 彼女の容姿の愛らしさもあるかもしれないが、それ以上に彼女の戦場での姿に敵ながら胸を打たれたものが多かったようだ。

 孤軍でマケドニアのドラゴンナイツおっ返したらそりゃあ、まあ、ファンは増えるよな。

 

 あとはオレだが、オレに与えられる予定の騎士団やら他のアレコレは全てホルスタットに頼んだ。

 まだオレは身軽な状態でやらねばならないことが多い。

 アリティアもすぐさま戦争ができる状態でもないしな。

 

 オレの持つ全権を委任することにホルスタットは「それは流石に」と言うも、

 アリティアではオレと一騎打ちした猛将は子供でも知る最新の英雄譚となっており、

 かつてこの国を襲ったグルニアの話をホルスタットに重ねる者は誰もいないことを(お忍びで街にでかけたりして)見聞きさせると渋々承諾した。

 

 現状確認が随分と長くなった。

 そんなこんなで忙しくしていると、式典の前日となったわけだ。


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