気持ちよく笑い声をあげているシャロン。
涙を流し、叫んでいるシーマ。
オレは石台の近くに向かう。
恐怖か不信かそれとも別の感情か、シーマはオレを見つめていた。
選択肢だ。
このままシャロンの言いなりになればカダインのことやら、灰のオーブだとかいう物のことやら、
同じ五大侯のレフカンディについても聞くことができるかもしれん。
何せヤツの『家族』になるんだからな。
やることは簡単だ。
衆人環視の前でシーマを蹂躙する。
もう一つはシーマを助け、連中をこの場で蹴散らすことだ。
見たところ全員、戦うに関わるようなものは身につけていない。
一息で四分の一、もう一息で殆ど半分は潰せる。
そのまま勢いでシャロンまで行って、ひき肉なんだかシャロンなんだかわからねえ有様にすることも可能だろう。
どっちも選ぶことができる。
どっちだって進めることが。
その後はどうする。
前者ならカダインを相手にするのか、それとも情報を引きずりだしたらシャロンが治めるグラをまるごと叩き潰すか。
後者は……まあ、シャロンの持っているオーブやら結局入れずじまいだった私室を徹底的に探すか。
オレにとって重要なことはシーダに関わる情報を拾い上げること。
あちらこちらと情報を探しても手に入らなかった以上は別の手段で切り拓くしかない。
そして、オレが取れる手段というのも短絡的でわかりやすい
ただ、その
「……オレは」
「ああ、なんだいバルグラム」
「オレは誰かに選択肢を強制されるのが、大嫌いなんだよッ!」
ぎちり、と笑って付け髭を剥ぐ。
だから、あるだろ?
どれもこれもできるやり方ってのが。
「選択肢が二つなわけねえよなあ、シャロン!」
「ははっ、貴様は……そんな古典的な手段で目眩ましさせられてるとは、はははは!」
たった一つの手段を実行する。
オレはグレートソードを取り出すと乱暴にシーマの枷を砕く。
「シーマは頂いていく、その後にグラもな!
カダインの連中に叱られたくねえなら、オレよりも早くグラを落として見せるんだなッ!!」
振り向きざまにグレートソードを振り回し、仮面の連中数名とオレを案内した使用人を砕き割った。
肉片が地面を叩くよりも早くオレはシーマを抱えて階段を駆け上っていった。
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「はははははは!!!
してやられたなあ!!
ははははは!!!」
シャロンは狂ったように笑い、ぴたりと表情を冷たくする。
「兵を起こせ
グラに攻め寄せる
バルグラムよりも先に玉座に座るのはこのシャロンだ」
仮面を付けた者たちは肉片となったそれらに狼狽している。
こうなるとは思っていなかった、と言いたげに。
「貴様たちもこのディール家に、シャロンに従う貴族だろう!!
命を惜しむならここで私がオーブの餌にしてくれるぞ!!
戦準備を進めろッ!!」
主の激昂に圧されて、彼ら……シャロンに付き従う貴族たちが部屋から出ていく。
一人になった部屋でシャロンは小さく笑う。
「バルグラム……貴様のあの目、馬鞭を受けて怯むこともない強い眼差し
あんな目をした男を私は知らん……
このディール侯を……シャロンを恐れなかった男が……」
やがて、悶えるように
「ああ!バルグラム、貴様が、貴様が欲しいッ!!」
シャロンは叫び、悶ていた。
灰のオーブがそれを反射する。
シャロンの悦に浸った顔だけが歪んで映っていた。