エルデンエムブレム   作:yononaka

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見習い近習の策

 結果的に言えば、エルレーンを連れてきたことは正解だった。

 ガーネフに代わり、灰のオーブを配り、或いは確認するために彼を含めたカダインの高弟たちはアカネイア全土の地理情報を頭に叩き込んでいる。

 その上でエルレーンは実地でこの辺りにも足を伸ばしており、サムスーフ侯爵の邸も案内してもらえたわけだ。

 

「邸の近くまでは来ましたが……そこが空振りだとすると、あとはつけられそうな目星はサムシアンたちが使っていた廃城くらいになります」

「ああ、……あそこか」

 

 随分懐かしい。

 フィーナと出会った思い出がある場所でもある。

 綺麗な場所でもないから戻りたいとも思わないが。

 

「カルタスがタリスに対する札としてシーダを使うって話だったよな」

「ええ、言ってました」

「……あのな、エルレーン」

「はい」

「敬語じゃなくていいからな」

「ですが、貴方は僕の主君ですから」

 

 当人の考えならば止めろとも言えない。

 まあしかし、こういう性格が常であるならばウェンデルにも可愛がられただろうな。

 しかし才能で比べられて……なんだか早くも同情しそうになる。

 いかんいかん、原作知識(そういうもの)に引っ張られないってのは自分で思ったことだろうに

 

「あー、でだ」

「そのように扱うなら、廃城ではなく主城だろう……ということを仰っしゃりたいのですよね」

「それそれ」

「レウス様はやはり正面から殴り込んで、とお考えですか?」

「忍び込むのは難しいだろうからなあ」

 

 まるで同じとは言わないが、同じ五大侯であるシャロンの邸は警備はしっかりしていた。

 使用人扱いであれば隙を伺ってアレコレと探索もできたが、

 立場もなく泥棒のように忍び込むのは難しかろう。

 タリスと喧嘩になったときのために兵力もそれなり以上に準備しているだろうしな。

 

「その、不敬な手段を取れば入り込むことは可能なのですが」

「不敬な手段ね……面白そうだな」

 

 ────────────────────────

 

「おお、カダインのエルレーン様

 お久しぶりでございます」

「ベント殿、灰のオーブの具合を拝見しに参った」

 

 こいつがサムスーフ侯爵のベントか。

 別に養護する気はないんだが、

 カルタスといい、ベントといい、それに原作知識で見たことのあるラングもだが、

 五大侯ってのは顔か体型をこってりとしていないと駄目なのか?

 ……シャロンは外見だけはさわやかだったが、アイツも性格はいいだけこってりしてたしな。

 

 オレはベントを今すぐ真っ二つに引き裂いてやりたい衝動に駆られるが、そんなことをすればエルレーン迫真の演技が無駄になる。

 情報を引き出すために我慢だ、我慢。

 

「なるほど

 こちらの方は?」

「バルグラム、エルレーン坊っちゃんの傭兵だ」

「なるほど!腕の立ちそうなお方をお連れですな!

 ささ、こちらへ」

 

 不敬、というのは罰当たりなことをするってわけじゃなくてオレを傭兵として、

 エルレーンがカダインの人間であることを利用して入りこむものだった。

 可愛い顔してどんな悪いことすんだよ~と期待していたが、残念。

 

「ガーネフ司祭も気にしておられる

 灰のオーブに纏わる儀式を執り行う気がないのか、と」

「勿論ございますとも、はい

 ですがやるのならばしっかりと生贄を選別したいと考えております」

「……生贄を、か」

 

 表情が曇り、眉間に皺が寄る。

 こんな年齢から眉間に皺がなんて可哀想にと思ってしまうが、茶々を入れるわけにもいかない。

 

「御存知の通り、この辺りはロクな生贄候補がおりませんで」

「カルタス殿からタリスの王女を抱えていると聞いているが」

「ほう、彼がそれを」

「彼は灰のオーブを満たし、その力を確認しましたからね

 ベント殿にも早く味わってほしかったのでしょう」

「なるほど、カルタス侯らしいというか、なんというか」

 

 客間に通される。

 オレは傭兵として座ることはしない。

 エルレーンとベントは椅子に座り、それからベントがオレを見やる。

 

「彼は灰のオーブのことなど概ねのことを承知しておりますので、お気なさらず

 ガーネフ司祭も存じていることです」

「そうですか、では」

 

 そういって懐から取り出したのは灰のオーブ。

 

「一度も儀式を行っていないのですね」

 

 エルレーンはそう言うが、オレから見ても違いはわからない。

 

「ええ、お恥ずかしながら」

「先程の生贄の選別について伺っても?」

「カルタス侯から聞いておられるでしょうが、今我々はタリスに対して要求を始めています」

「王女を使い、玉座を、と?」

「その通りです

 タリスの王にさえなれば島の人間から広く生贄を集めることができます、それにどれほど派手に儀式を行ったとしてもそれが他のものに露見することもない

 理想的な祭場になるというわけです」

「現在、タリスはなんと?」

「拒否ですよ、拒否

 戦の準備を始めているとも聞いております」

「サムスーフとしてはどうしているのです」

「無論、戦の準備を」

 

 エルレーンは少し黙る。

 事前にここでの動きは好きにしろと言っている。

 オレがやることは何かあれば邸の人間を片っ端からミンチにするとも。

 

「であれば、僕も手伝いましょう

 それにバルグラムも」

「エルレーン様がたが、ですか?」

「ええ、このまま手ぶらで戻れば僕に対するガーネフ司祭の評価も下がりますからね

 さっさとタリスを鎮圧して儀式を行いたい

 それが偽らざる本音というものです」

「おお、これは大変心強い」

 

 といった具合で、オレたちはベントの助っ人になることになる。

 

 ベントは直ぐに答えを出しますので少しお時間を、と去っていった。

 エルレーンが手伝うというのならば事を急いでもいいと考えたのだろう。

 

 シーダを一目でも見ておきたかったが、この後のことまで考えればそれが躓きになりかねない。

 ぐっと我慢し、オレたちは使用人の案内を受ける。

 本邸とは別の離れが客室らしく、そこに通された。

 

 離れの中、それに周辺の気配を探るが、こちらを探ろうとしているものはいなさそうだ。

 

「随分と信頼されているな」

「初めてここに来た時にサムシアンの残党が襲ってきていたんですよ」

「それを撃退したってわけか」

「ええ、トロンで」

「過剰だろう、それ……」

 

 手元にトロンしかなかったもので、としれっと言うエルレーンは言葉と続ける。

 

「後々でわかったのですが、サムシアンの背後にいたのがベントだったらしく、

 首領が死んだから保護を求めて」

「断られたから逆上、か」

 

 頷くエルレーン。

 オレも思わず全力で回避したくらいの魔法を見せつけられたら、助っ人になるなんて言われちゃあ事態を急ぐだろうな。

 さっさとやればその分だけ費用は安上がりになる。

 トロンを持った魔道士が一人いるだけで殆ど勝ったようなものだろうからな。

 ……普通なら。

 本当にこのままタリスにカチコミしても良いくらいなんだが、オグマがいんだよなあ。

 

「渡る時にシーダは連れていくものかな」

「それはベント次第でしょうね、現地で見せしめにでもする気があるなら連れていきそうですが」

「逆に奪還される可能性が出てくるものな」

「ええ、その通りです」

 

 オレは口の前に指を立てる。

 気配を感じた。

 誰かが近づいてくる気配が。

 

「しかし、幸運だったなエルレーン坊っちゃん

 トロンを使えばタリスなんざ一瞬だろう」

「バルグラム、戦いはそう簡単ではないよ」

「ははは、気楽に行きましょうや」

 

 オレのジェスチャーと口調の変化に即乗りできるとは、お堅い学者タイプかと思っていたが柔軟だな。

 今後も期待しよう。

 といったところでノックが響く。

 

「誰だ?」

 

 まずはオレの出番だ。

 

「ベント様の使いでございます、出発するとしたならばいつがいいかと」

「早いほうがいいに決まっているだろう

 エルレーン坊っちゃんが暇な学生にでも見えるってのか?ああ?」

「ひっ、す、すいません!

 早ければ明日にも出れると!」

「じゃあそれで進めろ!」

「はい!!」

 

 逃げるように去っていく使用人。

 再び気配も無くなる。

 

「レウス様、聖王とあろう方が弱者を恫喝なんて……」

 

 うーむ、やっぱりお堅いところはあるようだ。


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