エルデンエムブレム   作:yononaka

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救出と解放

 銀色が閃く度に命が消える。

 神肌縫いは今や死神の刃となり、ベントの配下を次々と屠っていった。

 

 抱き寄せたままだがシーダは踊るようにオレの動きに合わせてくれる。

 

「良いドレスだな」

「サムスーフ候からの贈り物です」

「いいセンスしてるじゃないか、ベント」

 

 部下はもはや誰も残っていない。

 逃げ道とてエルレーンが塞いでおり、そこに殺到したものは残らずサンダーの餌食になった。

 トロンをサムシアンに使ったのを勿体ないといったのを気にしてたりするんだろうか。

 

「あ、ああ。そ、そうだろう?

 どうかな、私の邸にはまだまだシーダ王女にも似合いのものがたくさんある

 それで──」

 

「いや、いい。支払いはできるものからやらないとな

 これはドレスの代金分だ、受け取ってくれ」

 

 神肌縫いを強く、速く振る。

 一拍遅れて、ベントの首は地に落ちて転がっていった。

 

「こんな血腥(ちなまぐさ)い場所で話すのもどうかとは思うが……」

「あなたと一緒でそうじゃないことのほうが少ないと思います」

 

 その言葉に思わず苦笑する。

 

「シーダ、怒ってる……よな?」

「怒っているって、なぜです?」

「助けに来るのがその……遅れたから」

 

 その言葉に困ったようにシーダは微笑む。

 

「私が無謀にもレフカンディ候に挑んだのがそもそもの始まりです

 それにあなたはこうして私を助けに来てくださったのに、どうして怒るのです?」

 

 オレはなし崩し的に彼女の細い腰を抱くようにし──

 

 ようとしたが、それは中断される。

 巨大な、そして聞き覚えのある音が聞こえたからだ。

 

 それは、ドラゴンの咆哮。

 アカネイアの大地はもとより、狭間の地においてはより多く聞いたもの。

 

「いちゃつかせちゃくれないわけか」

「いちゃ……れ、レウス様?」

 

 リーザのせいにするわけじゃないが、どうにも距離を踏み誤りやすくなっている気がする。

 それはシーダのやや赤みの差した顔色でわかった。

 が、今はそれはさておかねばならない。

 

「もしもドラゴン大進撃とかやらかしてるなら、お前の実家がヤバいからな

 まずはそっちだ」

「は、はい!」

 

 ────────────────────────

 

「戦線が崩壊!」

「アーマーナイトを前に!ホースメンで囲んで射殺すのだ!」

 

 メルツが指揮を飛ばす。

 ああ、無意味だ。こんなことは。

 

 あの男が、モスティンが動けばそれだけで全て蹴散らされる。

 矢が当たった所で深くも刺さらない。

 

「……マムクートを出せ!」

 

 切り札は温存するものではない。

 勝つために切るものだ。

 

 紙切れのように倒されていく兵士たちの後ろからフードを目深にかぶった男が二人が現れる。

 それぞれが石を掲げ、刹那、その姿は巨大な竜に転じた。

 

「……竜族か」

 

 マムクートとは蔑称であり、そうした差別的な意識を嫌うモスティンは竜族と呼んだ。

 

「偉大な姿を持つ生命が、このような戦いに駆り出されるとは」

 

 ぎゅん、とモスティンが増速し、竜族の足元に現れたと思うと跳躍し、大きく開いた腕で首を掴む。

 

「その誉れをこれ以上穢さぬためにも、ここで介錯いたすッッ!!」

「ギ!?ギィ!?!!」

 

 ただ、怪力一つで竜の胴体を支えにして、強引に首を回転させ、そのままに自らとともに駒のように回ると竜の首が引きちぎられる。

 モスティンは着地すると、掴んだその首を放り投げる。

 どすんと音を立てた後にその首は老人のものへと変わった。

 

 もう一匹の竜と睨み合いになるも、それを破ったのは炎のブレスであった。

 

「ちェェェェイッッ!」

 

 腰に帯びていた剣を抜き払うと気合とともに振るう。

 炎が真っ二つに断たれると同時にモスティンが走る。

 勇者の剣がニ度振るわれると、その足は二つとも両断され、支えを失った巨体は崩れ落ちながら加速していく斬撃によって文字通りの細切れにされていった。

 

 竜のそれが人だったものに変わると、切り札であったはずのマムクートを失ったことに遅まきながら気が付いたサムスーフ候の兵たちが悲鳴とともに逃げ、或いは武器を捨て、頭を地に叩くようにして伏した。

 

「モスティン王よッ!」

 

 今や完全に瓦解した兵団を掻き分けるようにして現れたのは軍事顧問を受け持っていたメルツである。

 

「私はサムスーフ侯爵の軍事顧問、メルツと申す!

 一手お相手願うッ!」

 

 メルツはモスティンを見て自らの愚かさを知る。

 年齢を理由にして戦いから逃げていたことに。

 

 それを取り戻す手段はたった一つ。

 

「その心意気やよし、褒美として貴様が持っていた兵の投降には慈悲を与えようぞ」

「感謝ッ!!」

 

 腰から引き抜いた鋼の剣は彼が最初に仕えた主から下賜されたもの。

 思えばこの剣をこうして戦いの空気に晒してやったのはいつぶりであろうか。

 ──なんだ、思ったよりも体が動くじゃないか。

 剣を振るい、メルツとモスティンが太刀を合わせる。

 ──見事だ、メルツ。

 その褒美と言わんばかりに、勇者の剣が(ひるがえ)る。

 ──ああ、なんと心地よいか。

 メルツが最期に感じたことは痛みではなく、奇妙な解放感であった。


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