エルデンエムブレム   作:yononaka

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ガーディアン

「オグマ!」

「……?」

 

 シーダが駆け寄ろうとするのをモスティンが制止する。

 オレも、その雰囲気の違いに気がつく。

 

 あの頃とは違う鎧を纏っているし、帯びている武器も違うが、時間も流れればそうもなろう。

 オレもグレートソード使っているし、鎧もあの時とは違うしな。

 そう、つまり言いたいことはそういうことじゃない。

 

 オレはちらりとモスティンを見ると、義父も承知したようにシーダをいつでも守れる体勢を取る。

 

「エルレーン、何か動きがあったらオレではなくシーダを頼む」

 

 耳打ちするようにエルレーンにも伝えた。

 彼はオレの力を眼の前で見ているからか、逡巡もなく頷いた。

 

「オグマよ、なんか変わったか

 整髪料でも変えたとか、香水を違うのに試したりとかよ」

 

 くだらないことを言いながら近づく。

 様子を見る。

 変化を伺う。

 

「レウス、災厄と悪徳をもたらすものよ

 オレはお前を──殺すッ!」

 

 その変化と言えば、物騒さは数段階は上がっていた。

 

 ────────────────────────

 

 オグマの視点、そしてその時間も遡る。

 サムシアンの一人は必死に逃げ、方角的に主城へと向かっていた。

 意図はないだろうが主城近くの村にでも入られれば厄介だ。

 

 オグマは更に加速するべく足に力を込めようとしたそのとき、

 光がサムシアンを包むように起こり、その光が消えると同時に幾つかの肉片すら残さず消え去っていた。

 傭兵であり魔道は畑違いであるオグマが知る由もないが、オーラと呼ばれる極めて強力な光の魔法であった。

 本来であればプロテクトされた魔道書であるが、それを付与したものがいるなら、解除することができるものもいよう。

 

 光が消えたあとには複雑な魔法陣が浮かび上がったと思うと、人影が一つ現れた。

 オグマは見たこともない状況に剣を構え、警戒する。

 

「サムスーフの奇策か!」

「いいや、そうではない。歴戦の傭兵オグマよ」

 

 魔法陣が消え、人影の姿が明瞭となる。

 老人であった。

 だが、ただ老人とは言えない特徴を幾つも有している。

 まず目を引くのは長身であった。

 そして老いて、枯れたようではない、そもそも生物としての格が違うと言うような体の、筋肉や骨格が優れ、老齢になったとしても衰えない様子を湛えていた。

 その分野であればオグマは理解できる。

 彼は戦士としての肉体と見ても超一流であろうことがわかる。

 次に目を引いたのは服装だ。

 極めて仕立ての良いもので、剣闘士時代にあったどんな貴人が纏うものよりも美しい。

 そいて、最大のものは存在の大きさ。

 人の形こそしているが、オグマの本能はそれを人とは形容しがたいものだと警鐘を鳴らしていた。

 

「……何者だ」

 

 警戒はしない。

 

「わしは神竜王ナーガ様の遺志を継ぎ、この世界の安定を構築するものである」

「……神の使い、か?」

「そうとってもらっても構わぬ

 お前はレウスという男を知っておろう、性状卑しきあの男を」

「ああ、……いやというほどに知っている」

「あやつはこのアカネイア大陸の災いとなろう、大陸のあるべき姿を崩す大災厄にな」

 

 オグマはそれほどまでにと思う心と、

 そうであって欲しかったと思う心の二つを感じていた。

 

「お前……いや、あなたは何者だ?」

「わしの名はガトー

 この身を知るものは白の賢者、或いは大賢者などとも呼ぶ」

 

 オグマはその歴戦の経験からただの傭兵では知らないことも多く記憶している。

 ガトーと言えば魔道国家カダインを興した人物であり、同魔道学院の創設者でもある。

 白の賢者や大賢者という名よりも、オグマのように風聞のみで実態や行動を知らない者からすれば、彼こそが最も近い存在ではないかと考えるほどに。

 

「ガトー様……、オレに何の用件でしょうか」

「お前の腕と、レウスに対する感情を以て頼み事をしたいのだ」

「頼み事?」

「アカネイアを踏みにじられぬためにも、奴を討って欲しい

 それで全ては丸く収まるのだ、正しきアカネイアの地を取り戻せる

 シーダもまた、タリスに……モスティンやお前の元に戻ることになる」

「姫が……」

 

 オグマにとって、それは最大の理由であった。

 彼にとってシーダは恩人である。

 だが、すくすくと育つシーダを見て、その美しさに身分違い、年齢違いの恋も患っていた。

 それをひた隠しにし、恩を返すべく側にいると誓っていた。

 

 奪ったものが現れた。

 人品劣悪なる、あの男……レウスだ。

 あれがシーダを奪い、タリスの象徴を汚した。

 

(アイツこそが……レウスこそがオレの憧れをも、穢したのだ)

 

「我が頼みを聞き入れるか、オグマよ」

「ああ、だが」

 

 あの男の強さは本物だ。

 勝てる見込みは薄い、それが悔しかった。

 

「安心せよ」

 

 まるでオグマの心を見透かしたように言葉を遮り、

 ガトーは何かを念じると、オグマの前に二つの光を転移させた。

 

「我が頼みを受け入れるならば、まずは左手の光を取るが良い」

 

 オグマは言われた通り、左の光を触れる。

 まるで電流が走るような衝撃が体を突き抜ける。

 そして、同時に……全身に今までにないほどの力の充足を感じる。

 

「今よりお前は守護勇者(ガーディアン)、ナーガが作りし秩序を守る者なり

 その身に相応しき衣装を纏うが良い」

 

 ガトーの言葉とともにオグマの体に装甲が組み付く。

 過剰なものではない。

 恐ろしく軽く、可動域を担保したもの。

 

「……ガーディアン」

「さあ、右手の光を掴むのだ」

 

 オグマは迷うことなく利き手を光へと差し込む。

 何かが手に纏わりつくようにうねり、それを引き抜く。

 光から漏れ出るようにして、更なる光がその手に掴まれて現れた。

 やがてそれは剣の形へと転じていく。

 

「それは擬剣ファルシオン、ナーガが人のために生み出したファルシオンをこのガトーなりに模造したもの

 だがこの大陸においてその擬剣ファルシオンを超える武器はそう多くあるまい」

 

 軽く、靭やかな剣だ。

 オグマはこれほどの剣に触れたことがなかった。

 

「オグマよ」

「はい」

「必ずや、レウスの命を消し去るのだ

 このアカネイアの大陸から……確実にな」

「承知いたしました」

 

 剣にて礼を取り、オグマは続けた。

 

「ガトー様と、この擬剣ファルシオンに懸けて!」

 


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