シーダを慰めるべきか、少し考える。
だが、彼女は自らの意思を明確にして行動を促させるために、オレは
「シーダ、オレの持ち物じゃあコイツも嫌がるとは思うからな、
改めて弔う時にお前が選んだ布に包んでやるといい」
オレは外套をオグマにかけた。
「レウス様……、ありがとうございます」
「いいさ」
許す気も、彼女を渡す気もないが、同情はする。
どんな風にこの世界に渡ってきたとしてもオレはシーダに惚れていただろうから、
結果は変わらなかっただろうとも思う。
だから、するのは同情だけだ。
傍らに落ちているファルシオンを見やる。
それに触れようとすると光の粒になって消えていく。
灰が霧になるようにとはまた違う。
そこに残されたのは宝石のようなものだった。
或いは、また別の名を持つオーブか。
「弔ってやろうぞ、シーダ
例えお前の夫に刃を向けた逆賊であったとしても、
今までタリスに尽くしてきただけの礼は失するわけにはいかぬ」
モスティンがそう、厳かに告げた。
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機械的にノックがされる。
「入ってよい」
その声に入室したのはヨーデルであった。
ここはガーネフが支配するカダインは魔道学院。
その学長室兼研究室である。
「何事だ」
「研究にお忙しいと思いますが、重大なご報告を」
「話してみよ」
「観測台から灰のオーブの反応が4つ消失しました」
観測台とは灰のオーブを作り出した時に、その力の具合を遠隔から確かめるための装置である。
魔力的な
或いは、強く輝けばマフーに転じたこともわかるようになっていた。
「……もう一度、頼む」
ガーネフは信じられぬという風にヨーデルに繰り返させたが、返ってきた言葉は同じであった。
「わかった、下がってよい」
「はい」
扉が閉まり、その気配が遠のいたのを確認する。
「ぐぬうおおおおお!何故だ!どうして何もかも上手く行かんのだ!」
頭を抱え、机に突っ伏す。
その表情は生まれ持ってのいかつい面構えのせいもあり、ある意味で恐ろしい光景となっている。
「何が良くないのだ?ヨーデルはマフーを作り出した
成功だ、いや、ううむ……人格に問題は生じたが、それも取り除く研究は前向きに進んでおる
それはいい……それはいいが」
灰のオーブを強固に封じることに成功はしている。
外側の硝子面だけでなく、灰に秘められた力を利用し、単純な物理的な強度は凄まじいものにしてある。
それが4つも簡単に割れるはずがない。
誰かが意図してそれをやったとしか思えない。
「……これができるものは、もはやガトーだけだ」
ガーネフは魔道士の派閥としては少数派の『
単純に行ってしまえばこの派閥は魔道の力を広め、魔道の可能性を多数によって模索することを目指している者の総称である。
ガトーとガーネフの溝はそこから始まっている。
強力なだけではなく、様々な可能性を秘めている『オーラ』の魔道書を受け継ぐ者を定める場において選ばれたのは同門同格のミロアであった。
ガトーは開派とは立場が真逆の『
学院を開いたガトーはその思想と真逆のようなことをしている風ではあるが、
その実態としては各地の神秘に携われるだけの才能を探すではなく自ら訪れることで己の労苦を軽減するために作られている。
ミロアもまた閉派の一人である。
ただ、彼の場合は魔道の力が戦争に広く扱われるようになると戦火は際限なく拡がるだろうという考えの上である。
ただ、ガトーがオーラを渡したのはミロアであり、ガーネフからすればその思想の違いによってレースから脱落したと思うに十分な理由となっていた。
ガトーのそうした考えからすれば、オーブという秘中の秘たる逸品の模造を作ることは到底許される行いではない。
であれば、己の手で破壊して回っていると考えても不思議ではない、と。
「このままでは、メディウスの執る侵略戦争までに間に合わぬ……」
ガーネフという男は考えたことを口に出して思考を纏めるという悪癖があった。
ミロアには散々に注意されたことであったが、ついぞそれを何とかできる手段をガーネフは見つけることもできなかった。
ちらりと研究室でその力を制御するための魔道器械に繋がれた『闇のオーブ』と残り全ての『灰』を見やる。
あと少しで灰のオーブから作り出したマフーの悪影響を取り除く成果を生み出せる。
それができれば研究の成就まであと一歩。
ガーネフが有事に持ち出す真打ちとも呼ぶべきマフーを他の魔道士に持たせ、しかし狂うことなく扱うことができるものも出てくるだろう。
「わし並の魔力が無くば使えもせんが……エルレーンめであれば」
再びノックが響く。
「ええい、次はなんじゃ!」
現れたのは違う魔道士であるが、ガーネフの癇癪めいた態度は今に始まったことでもないのでそのまま報告を続ける。
「エルレーンがカダインを裏切ったようです」
あくまで比喩的な表現ではあるが、ガーネフはぐにゃりと曲がった。