コヤンスカヤのSS   作:お米うまい

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 それは私が異聞帯に同行した日の事です。

 

マシュ

「どうやらここは大らかな方が多いようですね」

 

ぐだお

「うん。見ず知らずの僕達にこんな協力的で申し訳ないくらいだね」

 

 妙に親切な異聞帯の住人に案内されるままに。

 私達は近くの建物へと向かっておりました。

 

コヤンスカヤ

(毎度思いますが下らない事してますわね)

 

 そんなマスター達のやりとりを私は冷めきった目で眺めていました。

 

コヤンスカヤ

(だってそうでしょう?)

 

 空想樹を切除すれば異聞帯は消滅します。

 言ってしまえば我々カルデア側は異聞帯の住人からすれば、悪の侵略者――

 

コヤンスカヤ

(いえ、侵略どころか世界滅亡を企む破壊者だというのに)

 

 勝利の暁には、文字通り塵一つ残らず我々はこの世界を消滅させるのです。

 そんな相手と仲良くなったからといって何になるというのですか。

 

コヤンスカヤ

(そんな偽善的な行動ばかりしているから、こうして舐められるのでしょうね……)

 

 異聞帯の住人と少し仲良くなれたからといって油断なんてしているからでしょう。

 一見愛想良く振る舞っていますが、どこか後ろめたそうな。

 何かに怯えるような表情が見え隠れしているのに気付かないものですかね?

 

コヤンスカヤ

(そもそも妨害か何かで通信が途絶えてすぐに、渡りに船とばかりに親切な相手とか出てきたらもう少し疑ったりしません?)

 

 案の定と言いますか、何か流れるように家になんて案内されているじゃありませんの。

 家なんて、いくらでも身を潜められる文字通り相手のホーム。

 どうして警戒心がないのですかね?

 

コヤンスカヤ

(人やサーヴァントの気配は感じません。ですが――)

 

 それでも同じアサシンですから何となく解るものはあります。

 気配も殺気もなくとも、それでも作業のように命だけは刈り取ろうとする空気のようなものまでは隠し切れません。

 そもそも、逆に何の気配もないというのが怪しさプンプンですわ。

 

コヤンスカヤ

(盾の子も気付いていないみたいですし、これでマスターは死亡。カルデアの冒険もここまでですわ)

 

 もう灰色どころか真っ黒も黒。

 全て仕組まれていたのでしょうね。

 徹頭徹尾、通信が途絶えたところから案内されるまで。

 協力的な住人達はマスターを油断させる為の罠でしかなかったのですわ。

 

 そして、案内されるまま、部屋に足を踏み入れた途端。

 非情にも暗殺者の刃がマスターの首元目掛けて振り下ろされ――

 

コヤンスカヤ

「危ないですわよ、マスター」

 

 まあ、私が居るからそんな事にはならないのですけれど。

 その刃が届く前に私の手によって防がれちゃいますので。

 

コヤンスカヤ

「よかったですわね。私がアサシンとして現界していなければ、ここでマスターは死んでいましたわ」

 

 どこか咎めるように呆れた声が出てしまいましたが、それも仕方のない事。

 敵地だというのに、油断している方が頭の神経がおかしいというものです。

 

コヤンスカヤ

(それに比べて相手の手際の見事さときたら……)

 

 他のサーヴァントに誰一人気付かれない気配遮断も見事でしたが、その後の対応もさすがの一言。

 暗殺が防がれた事に驚きも何も感じさせず、素早く逃げの一手。

 もう影も形もありませんわ。

 

マシュ

「せ、先輩! ご無事ですか!」

 

コヤンスカヤ

(平和ボケでもしているのですかね? 遅過ぎるにもほどがあるでしょうに)

 

 一歩も二歩も遅れた反応で盾の子が駆け寄ってきたのを、私は冷めた目で眺めます。

 

ぐだお

「何とか大丈夫。コヤンスカヤが守ってくれたから……」

 

マシュ

「ありがとうございます、コヤンスカヤさん」

 

ぐだお

「ありがとう、コヤンスカヤ」

 

コヤンスカヤ

「いえいえ、サーヴァントですもの。マスターを守るのは当然の事」

 

コヤンスカヤ

「礼なんていりませんわ」

 

 サーヴァントとしてマスターを守るのは当然。

 そこに嘘はありませんわ。

 ですが、それ以上に――

 

コヤンスカヤ

(こんなところで、こんな形で死なれてもつまらないですもの)

 

 自分が死んだ事にも気付かず死ぬなんて興覚めもいいとこ。

 その偽善者でいかにも自分は人畜無害なんて化けの皮が剥がれて――

 恨み辛み、未練をこれでもかというばかりに並べ立て惨めったらしく死んでもらわないと楽しくありませんわ。

 

ぐだお

「それでもありがとう。本当に助かったよ」

 

 そんな私の想いに気付かず、本当に感謝しているなんて顔で再度マスターはお礼の言葉を告げてきます。

 

コヤンスカヤ

「――っ」

 

 正直、その『自分は裏表のない善人です』なんて面を何度も見せられてしまうと気持ち悪くて仕方ありません。

 主従の契約を結んでいても関係なく殺してしまいそうなくらいに。

 

コヤンスカヤ

「……それはさておき、この方達はどうします?」

 

 丁度よく、八つ当たりに使えそうな方達が居ましたわね。

 バツの悪そうに、それでいて怯えるように事の成り行きを見守っていた住人達を差し出して気分を落ち着けるとしましょうか。

 

ぐだお

「そうだね――」

 

 いくら頭の螺子が数本抜けてそうなマスターでも、住人達の態度から自分が騙されていた事には気付いてくれたようで。

 顎に指を当て、処遇を考え始めます。

 

コヤンスカヤ

(この気分が少しでも晴れる残忍な処罰を期待しますわ)

 

 能天気を絵に描いたようなマスターではありますが、騙し討ちで殺されそうになったのですから怒って当然。

 どんな残忍な罰を考え出してくれるのでしょう。

 

ぐだお

「まずは事情を訊いてみよう。この人達にも仕方のない事情があったのかもしれないしね」

 

 そんな私の期待とは裏腹に、マスターはどこか困った風に笑ってそんな事を呟くのですから堪りません。

 

コヤンスカヤ

(自分を騙して殺そうとした相手を前に、何を笑っているのですか……)

 

 ああ、もう。

 本当に気持ちの悪い人間だこと。

 

ぐだお

「その、コヤンスカヤもそれでいいかな?」

 

 おや、隠していたつもりですが表情に出てしまっていたのですかね?

 心配そうにマスターがこちらに問い掛けてくるではありませんか。

 

コヤンスカヤ

「――っ」

 

 軽く返そうとしたのですが、口を開いた瞬間に罵倒が飛び出しそうになって慌てて口を閉ざします。

 

コヤンスカヤ

「……マスターのお好きなように」

 

 かろうじて、それだけの言葉を絞り出す事に成功しました。

 頭おかしいんじゃありませんの?

 と返さなかった自分を褒めてやりたいものですわ。

 

ぐだお

「うん、ありがとう」

 

 そんな私の気持ちなんて気付いた様子もなく。

 マスターはほっとした様子で私に礼の言葉を告げると、住人達に事情を訊き始めるのです。

 

コヤンスカヤ

(ああ、本当……。善人面ばかりして吐き気がしますわ)

 

 でも――

 だからこそ私は知りたいのです。

 だからこそ私は気持ち悪くて殺したくても、我慢して傍に居る事が出来るのです。

 マスターを守る事が出来るのです。

 

コヤンスカヤ

(その善人を装った仮面の下に、どんな素顔を隠しているのでしょうかね)

 

 どんな悍ましい欲望が出てくるのか。

 どこまで矮小で惨めったらしくなるのか。

 

 ただそれだけが知りたくて――

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