コヤンスカヤのSS   作:お米うまい

5 / 9


コヤンスカヤ

「少々、いえ、かなりサービスというのを侮っていましたわね……」

 

 食堂で私は一人、驚きを隠せませんでした。

 てっきり一品増える程度の事かと思っていたのですが――

 

エミヤ

「どうやら私はあなたの事を誤解していたらしい。その詫びも兼ね、今回ばかりは全力で腕を振るおう」

 

 そう言って私の注文を受けるなり、戦い以上に張り切って赤い人は鍋を振り――

 

タマモキャット

「むむむ、一見美味しそうに見えてもその実、下処理をしてない魚介料理」

 

タマモキャット

「つまりサユリも驚きの腹黒さ。良妻賢母を目指すタマモナインの面汚し」

 

タマモキャット

「だがキャットは成果を素直に認められる分別出来る猫。ご主人の命を救ってくれた事嬉しく思う」

 

タマモキャット

「今宵は確執を忘れ、存分にもてなさそうぞ」

 

 何だか無性にイラつかせる駄猫も、妙に張り切って包丁を振り回し――

 あれよあれよと言う間に次々と料理が作られ――

 

コヤンスカヤ

「……こんなに頼んでないのですけど」

 

 気が付けば机狭しと料理の山々。

 小耳に挟んだおすすめのD定食とやらを頼んだ筈でしたが……。

 

コヤンスカヤ

(というか物資不足しているんじゃなかったんですの……)

 

 褒賞に出来るような宝石類とかがないというだけで食料だけなら豊富にあるという事でしょうかね?

 こっそり倉庫に忍び込んだ感じでは、そんな事はなかったと思うのですが。

 

コヤンスカヤ

(まあ既に出てきた物に対してどうこう言っても仕方ありませんものね)

 

 とはいえ、もう出来上がっている品を引っ込めろなんて言える訳もないですし。

 見た目も匂いも美味しそうではあります。

 

 遠慮せず頂くとしましょう。

 

コヤンスカヤ

(これは!)

 

 それこそ数えきれない程の料理を食べてきた私でも思わず舌鼓を打つほどの極上の味。

 素材自体はありふれた物ばかりですが――

 いえ、だからこそ美味しくても食べ飽きない宮殿料理などとは違った味わい深さ。

 量だけでなく味もいつも以上ですわ。

 

コヤンスカヤ

(こうして食事を楽しめる事だけは人の形で現界した事に感謝ですわねえ)

 

 味覚などは姿に依存する部分が大いにあります。

 人間自体は大っ嫌いではありますが、こうした食文化の発展だけは素直に認めますわ。

 

ぐだお

「あれ、コヤンスカヤ?」

 

コヤンスカヤ

「げっ……」

 

 どうやら予想外の食事の美味しさに少々夢中になり過ぎてしまっていたみたいですわね。

 マスターの気配に全く気が付きませんでしたわ。

 

ぐだお

「食堂で会うなんて珍しいね。お昼?」

 

 なんて尋ねながら当たり前のように対面へと座るマスター。

 既に食料は確保済みだったみたいで、このまま私と食事を共にする気らしいです。

 

コヤンスカヤ

「ええ。ちょくちょく利用していますが、食堂で会ったのは初めてですわね」

 

 なんて答えつつ、内心では勘弁してほしいと思っていましたわ。

 

コヤンスカヤ

(そりゃ初めて会うのは当然でしょう。鉢合わせしないよう、徹底的に避けてきたのですから)

 

 何が悲しくて今一番気持ち悪いと思っている人間の顔を見ながら食事をしないといけないのですか。

 これでは折角の料理も台無しというものです。

 

ぐだお

「へー、結構食べるんだね。何となく小食なイメージだったよ」

 

コヤンスカヤ

「いえ、その、今日は特別な日でして……」

 

 そして、どうしてよりにもよって今日なのですかね。

 いくらどうでもいいと思っている相手とはいえ、私だって花も恥じらう乙女。

 大飯喰らいだなんて思われるのは心外ですし、それなりに傷付きます。

 

ぐだお

「ああ、そうなんだ。アルトリアとか沖田ちゃんとかたくさん食べるからてっきりたくさん食べる系の人なのかと思った」

 

ぐだお

「あの二人って見た目から想像出来ないくらい食べるからさ」

 

コヤンスカヤ

「あんな方々と一緒にしないでくださいまし」

 

 そりゃあまあ、食事は好きですわよ?

 意外と食べるのか、なんて言われたら否定出来ないかもしれません。

 ですがアレ等と一緒にされるのは心外です。

 

コヤンスカヤ

「というかマスター? サーヴァントとはいえ女性にそのような言葉はどうかと思います」

 

コヤンスカヤ

「大食いだなんて言われて喜ぶ女性は居ません。私の好感度はダダ下がりですわよ」

 

 既にストップ安かと思ってたマスターの株は、さらに急降下。

 きっともう上がるとか下がるとかの次元を超えて、めり込んでいますわね。

 

ぐだお

「ご、ごめん。その、悪気はなくて――」

 

コヤンスカヤ

「おやおや。悪気もないのに自然に女性を傷付ける言葉を紡げるだなんて」

 

コヤンスカヤ

「マスターはナチュラルサディストの才能がお有りなようで……」

 

ぐだお

「本当にごめん。その――」

 

 こうして私の言葉にわたわたと慌てふためく姿は可愛らしくて嫌いではないです。

 私の機嫌を損ねてしまった。

 どうやって機嫌を直せばいいのだろう、なんて考える姿は見ているだけで楽しくて。

 これだけなら食事も進もうというものですが――

 

ぐだお

「コヤンスカヤが楽しそうにしているのが嬉しくて、つい……」

 

 こうして訳の解らない事を言い出すから苦手なのです。

 

コヤンスカヤ

「楽しそう? 私がですか?」

 

 これでも余程の痛みか腹に据え兼ねた事でもない限り、表情は意図的に操れます。

 確かに予想外の料理の美味しさにちょっと浮かれていたのは否定しませんが。

 外から見て解るような変化はなかった筈です。

 

コヤンスカヤ

「あまり適当な事は言わないで頂けます?」

 

 それなのに自分は解っているみたいな物言いには、さすがに苛立ちが隠せません。

 むしろあなたが原因で折角の料理が不味くなるまであるというのに。

 本当に不快というものですわ。

 

ぐだお

「適当を言っているつもりはないけど……」

 

コヤンスカヤ

(まだ言いますか……)

 

 さすがにイラっときましたわ。

 そもそも自分が嫌われている事にも気付かない鈍さで何が解るというのですか。

 

コヤンスカヤ

「でしたら根拠を示して下さいます?」

 

コヤンスカヤ

「マスターが私の事を理解して下さっている。私の事をちゃんと見て下さっていた」

 

コヤンスカヤ

「そう信じさせてくれる言葉を頂けると、コヤンスカヤ、とーっても嬉しいですわあ」

 

 勿論、出任せに適当な事言ったと認めて謝罪なんてしてくれると、とっても楽しいですわ。

 

ぐだお

「んーとね。例えばさ、沖田ちゃんってご飯食べている時もほとんど表情は変わらなくて解り難いんだけどさ」

 

コヤンスカヤ

(ここで違う女の話とか、どういう神経しているんですの!?)

 

 本当にこの人間は何を考えているのでしょう。

 頭の中にすり下ろしたリンゴでも詰まっていますの?

 普通、ここは謝罪かご機嫌取りのどちらかでしょうに。

 

コヤンスカヤ

(少なくとも女性と食事している時のマナーなんてものは、一切合切入ってないのは間違いないですわ)

 

 リンゴじゃなければ種火か再臨素材でも詰まっているんじゃないですかね。

 

ぐだお

「本当に好きな食べ物食べた時は物凄く嬉しそうに、これは何だって聞いてきたり、凄い美味しいぞって表情は変わらないけど解り易い反応してくれるんだよ」

 

 呆れている私の事なんて気にも留めず、どこか嬉しそうにマスターは話を続けます。

 

コヤンスカヤ

「はあ、それで?」

 

ぐだお

「何も言わない時でも気に入った物を食べている時は夢中になって食べているみたいでね」

 

ぐだお

「無表情でも、凄い速度で料理がなくなっているから解るんだよ」

 

コヤンスカヤ

「はあ……」

 

ぐだお

「その時の沖田ちゃんの姿に似ているなって思って」

 

コヤンスカヤ

「あの何も考えてなさそうな方と私が似てるだなんて、そんな訳ないで――」

 

 言い返そうとして自分の手元を見た私は、愕然として口を閉ざしました。

 

コヤンスカヤ

(いつの間に、こんなに食べていたんですの……)

 

 料理が美味しかったせいでしょう。

 後、相槌を打つ程度で済む話だったのもあるのかもしれません。

 

 話の最中でも手をほとんど休めずに食べていたみたいで、気付けば料理はほとんどなくなっていました。

 

ぐだお

「コヤンスカヤっていつも何かつまらなさそうにしてる気がしてたから」

 

ぐだお

「もっと楽しそうにしてほしいって、ずっと思っていたから嬉しくて……」

 

コヤンスカヤ

(それはそうでしょう。そもそも不機嫌の原因が、マスターですもの)

 

コヤンスカヤ

(ですが、私の機嫌が悪い事には気付いていたのは意外ですわ……)

 

 いくら私が超優秀美人サーヴァントとはいえ、ここはカルデア。

 サーヴァントなんて山のように居るのです。

 

コヤンスカヤ

(ですので私みたいな愛想のない新入りなんて見ている暇あったら、お気に入りばかり見ていると思っていましたが……)

 

 そうした対応は少々癪ではありますが、だからといってマスターに色仕掛けとかアプローチなんて真っ平ごめんです。

 私にだって選ぶ権利があります。

 

コヤンスカヤ

(だというのに物好きと言いますか、何と言いますか……)

 

 挨拶のように好き好き言っている印象の強い方や愛想の良い方ならともかく――

 それなりに距離を保って接している私の事を見ているなんて想像もしていませんでしたわ。

 

コヤンスカヤ

(無理に愛想なんて振り撒かなくても、美貌と色気は隠し切れなかったりしちゃうんでしょうか?)

 

 その割に胸とか足とか見ているだけじゃ解らないようなところに気付くのですから――

 

コヤンスカヤ

(本当、面倒臭い男ですわ……)

 

 そうやって下心丸出しなら解り易くて好ましいんですけどねえ。

 素直そうでからかい易そうなくせに、腹の底では何を考えているか解らない。

 全く私の思い通りに動いてくれない。

 

 そういうところが一々イラつくんですの。

 

コヤンスカヤ

「……あまり女性の食事姿をじっくり眺めるものではないですわよ」

 

コヤンスカヤ

「変わり者が多いカルデアでは気にしない方も多かったかもしれませんが、一般的なマナーとしてはよろしくありませんもの」

 

ぐだお

「ご、ごめん……。言われてみれば確かに失礼だった……」

 

 負け惜しみに拗ねた態度見せてみるくらい、可愛い甘え方でしょうに。

 どうして今このタイミングで謝って委縮してしまうのでしょうかね……。

 

コヤンスカヤ

(この私を言い負かした時くらい、堂々として頂きたいですわあ……)

 

 折角ちょっとデレて上げたんですから、頼りがいのあるところを見せてもらいたいものですわ。

 そうして頂ければ――

 

 より一層、死に様を想像した時、楽しくなりますのに。

 

ぐだお

「……」

 

コヤンスカヤ

「……」

 

 その後、特に言葉もないまま私達は食事を続けましたが――

 

 気まずい雰囲気にもかかわらず。

 いつも以上に料理は美味しく感じられたのはサービスされた料理だったからなのでしょうかね?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。