結局、戦いはカルデア側の勝利で終わりましたわ。
コヤンスカヤ
(ある意味、当然といえば当然ですわ)
かろうじて魔術回路があっただけの御主人様でアレだけサーヴァントは戦えていたのです。
それが真祖である私に契約が移ってしまえば、供給出来る魔力の量も効率も桁違い。
十全の力を振るえる英霊の群れの前には敵ではなかったですわ。
コヤンスカヤ
「――という事ですわ」
そして全てが終わりカルデアに戻ってきた私は、包み隠さず全ての事を話しました。
元々、私は御主人様の死に様が見たかったから傍にいた事
私が令呪に抗うのが遅れ、御主人様を殺してしまった事。
その時に見た御主人様の心の底で本当に望んでいた願いについて。
私がその願いを知って、どう思ったのか。
本当に包み隠さず全て。
コヤンスカヤ
「処罰したいならお好きに。抵抗はしませんわ」
もう私は何もかもどうでもよくなっていました。
何千年生きてきて、ようやく会えた唯一人の御主人様。
あの人の居ない世界に、もう何の興味も湧きません。
むしろ、さっさと終わりにしてほしかった。
コヤンスカヤ
「……?」
ですが予想に反して何も起きません。
令呪の影響下にあったとはいえ、私が殺してしまったのです。
そうでなくとも最後の最後で助けようとしただけで。
死んでほしいと願っていたのに今更でしかないでしょう。
さぞや怒号が飛んでくるのだろうと思っていました。
甚振られた末か、それとも激情のままに一息にか。
あるいは封印され、悠久の時を縛り付けられたまま生かされるのか。
どちらにせよ、ここで終わりになるだろうと思っていました。
コヤンスカヤ
(だってもし私なら、絶対に許しはしないでしょう)
殺しても殺しても飽き足らない。
その関係者、種族全て根絶やしにしたって収まらない。
だというのに――
どうしてこの方々は私に何もしないんですの?
ダヴィンチちゃん
「私のせいだ……」
最初に口を開いたのは彼女でした。
ダヴィンチちゃん
「私は前の私じゃないから。記録でしか彼の事を知らなかったから勘違いしてた……」
ダヴィンチちゃん
「どんな困難にも挫けず戦い続けて人理を修復した英雄なんだって。だから私は戦いのサポートをしていればいいって」
ダヴィンチちゃん
「それ以外の時は友達のように気楽に話せる相手になれたらって」
ダヴィンチちゃん
「でも違った。全然そんな事なんてなかった」
ダヴィンチちゃん
「どれだけ世界を救ったって、その人の本質までは変わらないんだ」
ダヴィンチちゃん
「前の私やロマンみたいに、心を守ってあげられる存在を目指すべきだった」
ダヴィンチちゃん
「頑張り続ける彼が寄り掛かれる存在になってあげないといけなかった……」
コヤンスカヤ
(この方でも泣く事があるのですのね)
どこかぼんやりした頭で、彼女の涙が零れるのを見ていた。
アーラシュ
「アンタだけのせいじゃないさ」
そして次々に他の英霊達が口を開いていく。
アーラシュ
「いつの間にか、俺達だって勘違いしてた」
アーラシュ
「頼れるようになったな、なんて思ってた」
クーフーリン
「そうだな。大した力なんてねえくせに、壁にだって何度もぶち当たっているってのに」
クーフーリン
「何度も何度も立ち上がって救いを見せるアイツの姿に、自分達と同じ英雄の姿を見ちまってた」
クーフーリン
「英雄の末路なんて、俺達が誰よりも知ってた筈なのにな」
ざまあねえ、なんて青い槍兵は目を伏せました。
コヤンスカヤ
「どうしてですの……」
誰も彼も。
自分が悪かったと言うばかりで私を責めようとはしません。
コヤンスカヤ
「ここにマスター殺しの張本人が居るんですのよ」
コヤンスカヤ
「誰が悪いかなんて、はっきりしているじゃありませんの」
本当に御主人様の事を思っているのなら。
忠義があるのなら。
その仇を取ろうと思うのが当然でしょう。
ロビン
「そりゃ最後の最後の原因になったのは、おたくかもしれねえ」
ロビン
「けど、あそこまで追い詰められた時点で実質もう終わってたようなもんさ」
ロビン
「それが犠牲こそあれ逆転までいったんだ」
ロビン
「途中退場した俺達に文句を言う権利なんてありゃしませんよ」
権利?
権利って何ですの?
そんな言葉で抑えきれるほど、御主人様への想いは弱かったのですか?
タマモキャット
「まだ解らないのか? 駄狐」
私の表情だけで考えを読み切ったとでも言う気なのか。
睨み付けるような目で駄猫が私に語り掛けてきます。
タマモキャット
「生きろ、と最後に御主人は貴様に命じたのであろう?」
タマモキャット
「その身を守る事が出来なかったのだ。なら最後の願いくらいは守りたい」
タマモキャット
「もう、それくらいしか我々が御主人の為に出来る事はないのだからな」
ダビデ
「まあ、そういう事だね」
ダビデ
「気付いているかい?」
ダビデ
「現界したままなら君を引き裂きかねなくて、もう何人も座に還ったサーヴァントが居る事に」
メディア
「そうでなくても私達が契約したのは、あの坊やであってあなたじゃないわ」
メディア
「戦いも終わったし知りたかった事はもう聞いたもの。多分じきに、他のサーヴァント達も退去していくでしょうね」
言われて私は周りを見渡します。
すると――
マーリン
「ああ、ずっと遠くで見ているばかりだったから知らなかったよ」
マーリン
「身近な人間が居なくなってしまうと、こんなにも辛いものなのか」
マーリン
「人間ってのは凄いね……」
丁度、誰に向けるでもなく呟いて。
花の魔術師が座へと還っていく姿が目に入った。
コヤンスカヤ
(いえ、彼だけではありませんわ)
いつの間にか先程まで居た筈の青い槍兵も、緑の弓兵も。
ペルシャの英雄も、裏切りの魔女も。
ほとんどの英霊が、その姿を消していましたわ。
タマモキャット
「それで貴様はどうする?」
タマモキャット
「御主人を殺した事の後悔に沈み、潔くこの世界から退去するのか」
タマモキャット
「それとも生き汚くも残り、御主人の最後の命を守るのか?」
コヤンスカヤ
「決まっていますわ」
あの方が生きてと命じたのです。
それを思い出したのです。
それならたとえこの世界に未練なんてなくたって。
今すぐにでも消えてしまいたくとも。
選ぶ道は一つだけです。
タマモキャット
「そうか」
どこか満足そうに微笑んで。
タマモキャット
「でも無理だけはするなわん」
初めて私に気遣いの言葉を遺して。
駄猫も消えていった。
虞美人
「……お前の事は今でも好きになんてなれないし」
虞美人
「お前のやった事は認められないけど――」
虞美人
「似たような立場になった事あるから助言だけはしてあげる」
虞美人
「思っているよりも生きていくのは辛いわよ」
助言だけというには悲しそうな声で呟いて――
彼女もカルデアから姿を消しました。
そうして。
次々とサーヴァントが退去していき。
ほぼ全てのサーヴァントが居なくなった時でした。
ダヴィンチちゃん
「よーし、泣くの終わり!」
パンと手を叩くような音に振り向くと――
ダヴィンチちゃん
「提出用の資料とか作らないとね」
どこか無理をしたような顔で、天才とやらが未来に向かって歩き始めていた。
コヤンスカヤ
(私は――)
生きて、そこから何をすればいいのでしょう?
まだ答えも何も見えなかった。