やはり俺の精霊とのラブコメはまちがっている。   作:渚沙

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奉仕部の二人を出すか出すまいか…


始業式

 

 

 

圧力。それは人の行動を制限する最悪にして害悪のもの。

 

 

 

親から、宿題をしなさいと言われるとやる気はなくなるし、これは他の人には言うなよ?と言われた事こそ逆に他の人に言いたくなってしまう。

 

以上の点から考えて、圧力というものは必要のないものであり、廃止すべき悪である。

 

まあその、つまりなにが言いたいかと言うと…

 

 

 

 

 

 

 

今、俺の上に乗ってる妹よ、そろそろどいてくれませんかね?

 

 

 

 

四月十日、月曜日。

昨日で春休みが終わり、今日から学校という朝。

 

俺は、自分の上に乗っている妹–––琴里に向かってどんよりとした視線を向けている。

ちなみに琴里は立って俺の上に乗っているので、ここからだとバン、ツー丸見え!状態である。

 

いや、別に琴里のパンツが見れて役得とか思ってないから。

…本当だよ?

 

 

そこでようやく琴里は俺が起きているのに気づいたようで「おお!おはよう、お兄ちゃん!」と元気に挨拶をしてくる。

 

八幡「…ああ、おはよう。ていうかそろそろ下りてくんない?」

 

言うと、琴里は大仰に頷いて俺の腹を蹴りながら飛び降りた。

俺の腹にボディブローのような衝撃を残して。

 

八幡「ぐふっ!」

 

琴里「あははは、ぐふだって! 陸戦用だー! あははは!」

 

なに? 作用反作用の法則を知らないの?

お兄ちゃんすごく痛いんだけど。

 

 

ここで二度寝したいのは山々なのだが、痛い目を見ることは目に見えてるので、大人しく起きる。

 

 

 

 

 

頭を掻きながら時計を見ると、既に六時前であることがわかった。

昨日から親父とお袋は仕事の関係で出張に行ってしまっているので、朝ごはんは俺が作らなければならない。

 

琴里に包丁を持たせるなんて危険なことさせるわけにもいかないしな。

怪我でもしたら切腹ものだ。俺が。

 

八幡「今朝飯準備するから、リビングで待っててくれ」

 

琴里「おー! わかったぞ!」

 

朝食を作るため、冷蔵庫から卵を取り出すのと同時に、背後からテレビの音声が聞こえてくる。

 

『–––今日末明、––––市近郊の–––』

 

八幡「ん? ––––市って、この近くじゃねえか?」

 

カウンターテーブルに身を乗り出すようにして画面を見ると、画面には、滅茶苦茶に破壊された街の様子が映し出されていた。

 

建造物や道路が崩落し、瓦礫の山となっている。

まるで隕石の衝突や空襲でもあったのかと疑いたくなるような惨状だった。

 

八幡「…空間震か…」

 

"空間震"、その言葉にうんざりしながら息を吐く。

 

 

空間の地震と称される、広域震動現象。

発生原因不明、発生時期不定期、被害規模不確定の爆発、震動、消失、その他諸々の現象の総称。

 

この現象が初めて確認されたのは、およそ三十年前のことで、ユーラシア大陸のど真ん中(当時のソ連、中国、モンゴルを含む一帯)が、一夜にしてくりぬかれたかのように消失したらしい。

 

今の世代になれば、教科書の写真で嫌というほど目にしている。

 

死傷者、およそ一億五千万人。

人類史上類を見ない最大最悪の災害。

 

もちろん、日本も例外ではなく、ユーラシア大空災の六ヶ月後、東京都南部から神奈川県北部にかけての一帯が、円状に焦土と化した。

 

八幡「でも、いっときは全然起こらなくなったんだろ? なんでまた増え始めたんだろうな」

 

琴里「どうしてだろうねー」

 

八幡「…なんか、最近ここら辺一帯での空間震多くないか?去年ぐらいから」

 

琴里「……んー、そーだねー。…ちょっと予定より早いかなー」

 

八幡「…早い? 何が?」

 

琴里「んー、あんでもあーい」

 

少し気になるが、琴里がなんでもないと言うのならなんでもないのだろう。

 

 

 

八幡「そういえば、今日は中学校も始業式なんだよな」

 

琴里「そうだよー」

 

八幡「そうか…、琴里、昼飯は何が食いたい?」

 

聞くと、琴里は「んー」と思案するように頭を揺らしてから、大きく腕を振り上げた。

 

琴里「デラックスキッズプレート!」

 

おい、琴里。お前いくつだよ。

食べたいもの聞いたら帰ってきた答えがお子様ランチって…。

 

……でもまあ、始業式なんだし、今日ぐらいはいいか。

ぶっちゃけ昼飯作らなくて済むのは楽だしな。

べ、別に琴里の可愛さに負けたわけじゃないんだからね!?

 

 

八幡「…そうだな、昼は外で食うか」

 

琴里「おー! 本当かー! 愛してるぞおにーちゃん!」

 

嬉しいけど、それ絶対他の奴に向かって言うなよ。琴里に変な虫がひっついたら血を見ることになる。

 

 

八幡「そんじゃあ、学校終わったら、いつものファミレスで待ち合わせな」

 

琴里「絶対だぞ! 絶対約束だぞ!

地震が起きても家事が起きても空間震が起きてもファミレスがテロリストに占拠されても絶対だぞ!」

 

八幡「いや、占拠されてちゃ飯食えないだろ」

 

そういえば某借金執事の話で、金がないのに入ったファミレスにテロリストが入ってきて、テロリストに飲食料を払わせようとしてた話があったな。

今日、行くときはテロリストよりもあの先生に注意しないと…。

 

 

 

 

 

 

 

学年が上がり、クラス替えがあるためクラス表を確認しようと、いつもより少し早めに家を出る。

 

八幡「…で、なんで俺の自転車乗ってんの?」

 

琴里「お兄ちゃん!学校まで送って欲しいのだ!」

 

いつの間にかいなくなってたと思ったらこんな所に…、今日は一人で行くのかと思ったら送ってもらう気満々かよ…。

 

八幡「はあ…しょうがねえな…」

 

琴里「おー!しゅっぱーつ!」

 

 

 

 

琴里を送ったあと高校に着くと、既に廊下にはクラス表が貼り出されていた。

貼り出されたクラス表の自分の名前を探し、一年間通うこととなる、自分の教室に入っていく。

 

教室に入ってみると、もう結構な人数が揃っていて、皆それぞれに時間を潰していた。

同じクラスになるのを喜びあう者、一人机についてつまらなさそうにしている者、読書をしている者など。

 

なに? リア充は仲良いやつと同じクラスになったぐらいでそんなに喜ぶの?

少しでも長く一緒にいたいの?ゆるゆりなの?

 

 

 

「ーー比企谷八幡」

 

後方から不意に、静かで抑揚のない声がかけられる。

 

……聞き覚えのない声だし、俺ではないヒキガヤハチマン君のことだな、きっと。

 

そう結論づけて自分の席に向かおうとすると、後ろからブレザーの袖を引かれた。

 

…ですよねー。

 

振り向くと、肩に触れるか触れないかぐらいの髪に、人形のような顔が特徴的な細身の少女が立っていた。

 

 

 

そして、俺はこいつを知っている。

 

 

 

鳶一折紙。

俺の通ってる高校の超有名人。

成績は常に学年上位、この前やった模試でも全国上位に入っているほどの天才。

そこに運動も出来、おまけに美人ときたら話題にならないほうがおかしい。

ボッチの俺でも知ってるぐらいだ。

 

こいつを知らないのは学校に来ない引きこもりか、それこそハーレムラノベの主人公のご都合主義ぐらいのものだろう。

 

 

 

八幡「…えーっと…、お、俺?」

 

折紙「そう」

 

八幡「…な、なんで俺の名前知ってんの?」

 

聞くと、鳶一は不思議そうに首を傾げた。

 

折紙「覚えていないの?」

 

八幡「……え」

 

どこかで会ったことあるっけ?

誰もが一目置いているトップカーストと、誰からも相手にされないカースト最底辺の俺が?

…いや、ありえないだろう。

こんな有名人に話しかけられたら嫌でも覚えてるはずだ。

 

八幡「……ええっと…」

 

折紙「そう」

 

言い淀んでいると、鳶一は特に落胆らしいものも見せず、短く言って窓際の席の方に歩いて言った。

 

八幡「…なんだったんだ?…いったい」

 

うちの学校の天才様と会ったことなんてあったかと記憶を探していると、

 

「裏切りおったな、八幡!」

 

と、今度は知っている声で話しかけられた。

 

このうざい声は…

 

 

 

 

 

 

八幡「おまえかよ…、材木座」

 

振り返ると、俺の知り合いの材木座(できるだけ知り合いたくはなかったが)が仁王立ちをしていた。ってか同じクラスかよ…

 

八幡「…で、なんだよ裏切り者って」

 

材木座「とぼけるな、今鳶一嬢と楽しく話していたではないか」

 

八幡「…いや、楽しく話してはないだろ。」

 

材木座「去年の『恋人にしたい女子ランキング・ベスト13』で3位の鳶一嬢と会話をするの以上に何を望んでいるのだ」

 

八幡「…いや、なんだよそれ、そんなのあったのか?」

 

材木座「廊下に貼り出されていたであろう、さてはお主、見なかったのか?」

 

八幡「いや、そもそも俺投票してないし…、で? 何でそんな中途半端な数字なんだ?」

 

材木座「主催者の女子が13位だったのだ」

 

八幡「…そうか」

 

どうやら、どうしても入りたかったらしい。

 

材木座「ちなみに、八幡が1位のランキングもあったぞ」

 

八幡「俺が1位? 嫌われてるランキングか?」

 

材木座「いや、『腐女子が選んだ校内ベストカップル』で八幡と葉山氏が1位であったぞ」

 

いや、なにそれ、嫌われてるランキングの方がまだマシだったんだけど…

 

 

 

 

キーンコーン カーンコーン

 

 

 

 

八幡「…おっと、予鈴か。じゃあな、材木座」

 

材木座「ああ、また後でな八幡!」

 

え? また後で来るの?

もうしばらく来なくていいよ

むしろこれからずっと話しかけて欲しくないまである。

 

 

黒板に書かれた自分の席を確認し、自分の席に鞄を置いたところで、はたと気づく。

 

八幡「……え」

 

俺の席、鳶一の隣じゃん…。

なんかさっき、よくわからない会話したせいで無駄に気まずい…。

やだなあ、もう。

 

 

座るのと同時に教室の扉がガラガラと開けられる。

そしてそこから縁の細い眼鏡をかけた小柄な女性が入ってきた。

 

 

「タマちゃんだ……」

 

「ああ、タマちゃんだ」

 

「マジで、やったー」

 

 

珠恵「はい、皆さんおはよぉございます。これから一年、皆さんの担任を務めさせていただきます、岡峰珠恵です」

 

間延びしたような声でそう言って、社会科担当の岡峰珠恵教諭、通称タマちゃんが頭を下げた。

 

 

贔屓目に見ても生徒と同年代くらいにしか見えない童顔と小柄な体躯、それにのんびりした性格で、生徒から絶大な人気を誇る先生である。

 

どのくらい人気なのかと言うと、ぼっちの俺が、聞こえてきた他人の噂話で岡峰先生のフルネームを覚えてしまう、というぐらいには人気がある。

今の説明で大半の人が、この先生の人気度をわかってくれたと思う。

何この悲しい説得力。

 

 

 

八幡「……っ」

 

色めきだつ生徒たちの中、視線を感じて表情を強ばらせる。

 

左隣に座る鳶一が、じーっと、こっちに視線を送ってきているのだ。

 

ふぇぇ、こわいよぉ~。

 

 

いや、別に俺に向けて視線を送っている訳ではないのだろう。

何故か俺の名前を知っていたとはいえ、俺の方を見続けて楽しいとも思えないからな。

…とはいえ、落ち着かない。

 

学校一の有名人と言っても過言ではない女子がじっとこっちを見ているのだ。

ここで何も思わないやつは鉄でも食って生活してるな、絶対。

 

八幡「……なんなんだよ一体…」

 

 

誰にも聞こえないぐらいの声でぼやき、俺は寝たふりを始めた。

 

 

そのあと、始業式の校長先生のとても為になるありがたいお言葉を聞き流し、いざ帰る、というところで材木座が話しかけてきた。

 

材木座「八幡ー、今から我とゲーセンに行かぬか? 新しい機体が出来たらしいのだ!」

 

なんで帰り学活が終わった途端に迷いなくこっちに来るんだよ。

なに? お前、俺のこと好きなの?

気持ち悪りぃな…。

 

八幡「悪いな、材木座。今日は予定がある」

 

材木座「なぬ!? 八幡に予定…?

先ほどの鳶一嬢といい、さてはお主、裏切りおったな!?」

 

八幡「…なんだよ、裏切るって…、しかも俺に予定があることがそんなに意外なのかよ…」

 

材木座「どうせリア充に成り下がったのであろう! 我は、 我は悲しいぞ八幡!

一緒に魔法使いを目指すと誓ったではないか」

 

 

いや、誓った覚えなんてねえよ…。

ってか、俺は大学でいい人を見つけて結婚するから魔法使いなんかならん、絶対! ……多分。

 

八幡「何言ってんだ、お前…。

つーか、予定っつっても、琴里と飯食い行くだけだぞ」

 

材木座「な、なんだー、脅かすなよ八幡ー!」

 

 

なんでそんな喜んでんだよ…。

なに?そんなに俺に彼女とかがいたら嫌なの?

ここに海老名さんいたら、間違いなくキマシタワー建ててたな…、いなくてよかった…。

誰かの妄想の中だとしても、こいつと恋人にされるなんて冗談じゃねえ。

 

 

材木座「そ、そういえば八幡、こ、琴里殿はもう彼氏とかおるのか?」

 

八幡「は? 彼氏だと? んなもんいるわけねえだろ。

いたとしたら、そいつはもうこの世にはいねえよ」

 

材木座「じゃ、じゃあ、琴里殿は三つくらい年上の男ってどう思うかな」

 

最後の方、素に戻ってんじゃねえよ。余計きめえわ。

ってか、話し聞いて無かったのか?

…琴里に彼氏なんか出来たら、そいつ埋める。

 

八幡「…お前、金輪際琴里に会うなよ」

 

材木座「そんな! お義兄様!」

 

八幡「お義兄様とか呼ぶな、気持ち悪い…」

 

材木座「兄者!」

 

八幡「兄者も駄目だ!」

 

 

琴里には、こいつには気をつけるように言っておかないと…。

 

ーーと、その瞬間。

 

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーー

 

 

八幡「……ッ!?」

 

教室の窓ガラスをビリビリと揺らしながら、街中にけたたましいサイレンが鳴り響いた。

 

 

 

『ーーこれは、訓練では、ありません。これは、訓練では、ありません。前震が、観測されました。

空間震の、発生が予測されます。

近隣住民の皆さんは、速やかに、最寄りのシェルターに、避難してください。繰り返します。ーー』

 

サイレンで静まり返っていた生徒達が、一斉に息を飲む。

 

 

 

ーー空間震警報。

 

 

 

「おいおい、マジかよ」

 

ワックスで髪を逆立てている、毛深そうで足の親指の爪の間が臭そうな男子が呟く。

 

 

だが、俺や材木座も含め、教室の生徒たちは、緊張や不安を滲ませてはいるものの、比較的落ち着いていた。

 

 

 

日本は、三十年前の空間震によって深刻な被害を受けているため、今の世代になると、幼稚園の頃から嫌というほど避難訓練を繰り返させられるのである。

 

それに加えて、ここの高校は全校生徒を収容できる規模の地下シェルターまで備えられているのだから、恐慌状態に陥る生徒の方が稀なのかもしれない。

 

 

…避難訓練といえば、中学の頃休み時間に寝たふりしてたら本当に寝ちゃって、その時に避難訓練が始まっちゃったことあったな…。

 

放送にも気づかずに爆睡してて、気づいたら周りに誰もいなかったんだよな…。

あの時は本当にビビった。

シンとしすぎて閉鎖空間に閉じ込められたのかと思ったもん。

 

 

 

八幡「シェルターはすぐそこだ。材木座、落ち着いて行動しろよ」

 

材木座「お、おう、わかっておる」

 

走らない程度に急ぎ、教室から出る。

廊下には、もう既に生徒たちが溢れ、シェルターに向かって列を作っていた。

 

 

そういえば、琴里のやつはちゃんと避難したのか?

いや、いくら琴里でもこの状況でファミレスで待ってたりはしないだろう。

 

 

ーーでも、もしファミレスで待ってたら?

 

 

嫌な予感が頭をよぎる。

半ば祈るような気持ちでケータイのGPSで琴里の場所を確認する。

 

八幡「……ッ」

 

琴里の位置を示すアイコンは、約束のファミレスで停止されていたのだ。

 

八幡「あんの、馬鹿……ッ」

 

血の気がさっと引く思いをしながら、生徒の列から抜け出す。

 

材木座「お、おい、どこに行くのだ八幡!」

 

材木座の言葉をそのまま無視し、列を逆走して昇降口に出る。

 

そのまま速やかに靴を履き替えると、俺は自分の自転車の場所まで駆け出した。

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