透き通る様な世界観にいる一般呪術師   作:半ライス大盛り

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 ガチャ爆死してます。
 水着おじさんは来てくれたけど、ミカが来てくれない。
 何でだよミカァ!

 今回の話はアビドス編完結後にでも投稿しようと思ってたんですけど、本誌の宿儺VS五条の戦いの熱に当てられた結果、チマチマ執筆してたのを完成させてしまいました。

 なので番外編的な感じですね。
 その内、話数はずらすかもです。
 あと、夜間モードで見てると見ずらい部分があるかもです、ブレビューだと普通だったのに投稿した瞬間変な風になってました。何でなんやろ?

 グラブルも呪術コラボ来ましたね。
 感想もちゃんと目を通してるので返していきたいと思います。




Vol.0 廻想
かつての記憶:『愚者と王』


 

 

 

 

 空気が爆ぜる。

 

 夜の帷に包まれた渋谷、魔境と化した街にはどこもかしこも色濃く死と呪いの匂いで溢れている。

 

 悲鳴が聞こえた。

 助けを乞う声が聞こえた。

 がなり立てるような罵声が聞こえた。

 

 地獄絵図のような光景。

 硝煙に混じった肉が焼けたような甘い匂い。

 

 

 駆ける。

 地を蹴り、音を置き去りにする速度で加速する。目指す先はただ一点、月明かりを背に嗤う邪悪の塊。小細工は要らない。そもそも、そんなモノでどうにかできるほど生温い存在ではない事はとうに理解している。

 

 ならばこそ、ただ正面から捻じ伏せるのみ。

 全身が凍えるような、空間すら捻じ曲げる殺意。常人ならば、その空気にあてられただけでも正気を失うだろう。しかし、今更そんなもので怯みはしない。

 

 生き様も、死に様も、もう決まった。

 

 

 「宿ッ儺ぁぁアア゛ア゛ッ ッ ッ!!」

 

 「キヒィ……来い、呪術師ッ!」

 

 

 爆発的な速度で加速する。

 練り上げた呪力をひたすらに押し出していく。油断も慢心も、余裕なんてものもない。ただひたすらに、全力で呪いの王を殺すつもりで拳を握る。

 

 拳に集中させた呪力が、ノッキングしながら膨れ上がり鼓動する。

 

 聞いた情報では、かつて少年院で一時的に虎杖悠仁の意識を乗っ取った宿儺は心臓を失った状態であろうと長時間の戦闘活動を可能にしていた。それどころか、意識を取り戻したがその傷で完全に死亡した虎杖悠仁を何事も無かったかのように生き返らせていたという。

 

 ならば手心の必要などない。

 殺しても死なないというのなら、悠二の事は呪いの王を殺した後でゆっくり考えればいい。

 

 

 「オッッラアア!!」

 

 「ははっ……!」

 

 

 互いの拳が激突する。

 膨大な呪力と呪力、力と力のぶつけ合い。拳の衝突に宿儺と凛太郎を中心に衝撃波が発生し巨大なクレーターを作り上げる。沈み込みそうになる身体に力を入れ、圧倒的な暴力に押しつぶされまい必死に堪える。

 

 一瞬の拮抗。

 次の瞬間、凛太郎の体はワイヤーで引っ張られたように吹き飛ばされた。

 

 

 「ガッ! 痛ッゥゥゥ!………ッ!」

 

 

 視界が反転する。

 前も後ろも、上下左右もかき混ぜられかのようにグルグルと視界が回転する。身動きの取れない空中、迫り来る地面にどうにか体勢を整えて落下の衝撃に備えようとする。

 

 ───ゾクリ、と背筋に悪寒が走り抜ける。

 

 肌に突き刺さる殺気。

 視線の先に、数メートル先まで殴り飛ばした凛太郎の元へと踏み込み一つで追いついてきた宿儺の姿を捉えた。驚愕に思考が止まる、受け身の体勢に入ろうとしていた体を咄嗟に反応させて防御した。

 

 全身の筋肉をしならせ、回し蹴りが放たれる。

 空気が爆ぜる音と共に、ミシミシと蹴りを受け止めた両腕から骨が軋むような嫌な音が聞こえる。

 

 重い……ッ!

 

 正面からまともに受け止めたらへし折られる。

 受け止めるのではなく、即座に攻撃を受け流す方向へと切り替える。

 

 

 「調子に……乗んなァ!」

 

 「……ほう?」

 

 「───歯ァ、喰いしばれッッ!」

 

 

 上体を逸らし、どうにか攻撃を受け流し切った凛太郎。

 関心したような表情。蹴りを放ったまま、無防備な姿となった宿儺へと掴み掛かりその顔面目掛けて拳を振り下ろす。油断している、反撃(カウンター)がない事を感じ取った凛太郎は恐れずそのまま拳を放つ。

 

 顔面直撃。手応えはある。

 確実に芯を捉えた感触を拳に感じながら、その勢いのまま撃ち下ろす。

 

 油断か慢心か、それとも余裕の現れか。

 ほうけた顔で防御もろくに取らずに凛太郎に殴られた宿儺は勢い良く吹き飛んでいき、建築物に激突しながら地面へと叩きつけられた。

 

 

 「まだだ……ッ」

 

 

 凛太郎も着地と同時に走り出す。

 追撃のチャンス、ここで攻撃の手を緩めてやる理由はない。折角作り出したチャンス、追い討ち掛ける為に拳に呪力を集中させ舞い上がった砂埃の中心にいる宿儺の元へと加速する。

 

 刹那。

 

 

 「ガ、ァッ!!?」

 

 

 本能的に何かを察知した凛太郎。

 咄嗟に後ろへと飛び退くが、判断が少し遅かった。劈くような激しい痛み、理解が追いつかないまま吹き飛び地面に転がる。左肩から袈裟懸けに大きく切り裂かれた傷口から、勢い良く鮮血が吹き出し地面に赤い水溜りを作る。

 

 膝を突く。

 傷口は深くはないが、派手に血が出ている。

 

 

 「ははっ。なんだ、中々やるな呪術師。今ので三枚に卸すつもりだったが、存外頑丈だな」

 

 「うる、せぇな……! テメェに褒められてもちっとも嬉しかねえよ」

 

 「───だが、その右腕はもう使いものにならんだろ。俺が治してやろうか?」

 

 「いらねえよ、そんな気遣い。気色悪りィ」

 

 

 息を整えながら、視界の隅に入る右腕を確認する。

 先の初撃、宿儺と拳をぶつけ合った一撃。力比べに押し負け、肉が裂け指はへし曲がり血が滴っている。見るも無惨な姿、既に右腕はズタボロな状態だ。

 

 それに加えて正面から受け流した宿儺の蹴り。両腕はへし折れはしなかったものの、その威力の高さから完全に受け流し切れず腕に痺れが残り思うように力が入らない。

 

 ()()()()()()()

 この程度の傷、なんて事はない。反転術式でも使用しない限り、簡単に治せるような怪我ではない。だが問題はない。どうせ、()()()()()だ。

 

 

 「こいよ。ビビってんのか? それとも、負けた時の言い訳の為にこの腕治させてやろうか?」

 

 「はっ……よく回る口だ。それなら、少し本気でやってやる。簡単に壊れてくれるなよ呪術師」

 

 「───ッ!」

 

 

 宿儺が視界から消える。

 常人では目で追い切れない程の速度、凛太郎は即座に周辺の呪力の流れと気配を探り警戒する。だが右に移動したかと思えば、今度は真逆の位置に宿儺の呪力の動きを感じる。

 

 速すぎて動きを捉えられない。

 

 

 「くそ、速すぎんだろ……後ろか…ッ!」

 

 「いや、こっちだ」

 

 「しまっ───ッ!」

 

 

 腹部への重い一撃。

 穿たれるような鋭い衝撃が胴体を突き抜ける。

 

 宿儺にとっては、呪力を乗せただけの拳での攻撃。しかし凛太郎にとってはそんな生易しいものではない。咄嗟の判断、山勘で腹に全呪力を集中させてダメージを最小限に抑え込もうとしたが、シャーペンの芯をへし折るかのように簡単に打ち破られた。

 

 あまりのダメージに、腹から背へと突き抜ける衝撃によって制服の背部が円形状に弾け飛ぶ。

 

 

 「ぶおゥッッ!……ガッ、ア゛ア゛ア゛ア───ッ!!!!!」

 

 

 悲鳴。

 重力が位置を変えたかのように体が吹き飛ぶ。まるでそうある事が当然であるかのように宙へと舞う。腹の中の全ての内臓が口から溢れ出て来たのではないかと思ってしまうほどの血液が吐き出された。

 

 止まらない。

 踏ん張りが効かないなんてレベルじゃない。身体には力が入らず、四肢は力なく放り出されている。

 

 

 「(痛えッ……息が、吸えな……ッ。なにが、どうなって……)」

 

 

 吹き飛ぶ。

 勢いは一向に止まらない。

 

 凛太郎の身体は宿儺に殴り飛ばされた勢いのまま、引き寄せられるように高層ビルへと激突する。それでも勢いは止まらない、一つ、二つと建築物を突き破り、瓦礫を舞いあげながら数メートル離れた位置に叩きつけられ意識が朦朧とする。

 

 

 「ギ、ァ……ッァ……(やべえ……いしき、とぶ……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───目が覚める

 

 

 見上げる先は“帳”によって作り上げられた飲み込まれそうになる漆黒の夜空。思考が止まる。数秒遅れて自分が一瞬気絶していた事を嫌でも理解した。

 

 眩暈がする。

 

 聴覚はイカれたのか、耳鳴りが鳴り止まない。

 

 全身に重くのしかかるような倦怠感。

 地面に叩きつけられた衝撃によって建物は崩壊し、自分の上へ降り注いで来た瓦礫を退かし積み上がった瓦礫を蹴り飛ばしながら這いずるように脱出する。

 

 

 「ほう、生きていたか。“小僧”と同じでつまらん奴だと思っていたがそうでもないらしい」

 

 「かぁ〜、プッ! そいつはどうも、好き放題殴りやがってあちこち痛えっての。うえ……口ん中じゃりじゃりする」

 

 

 圧倒的な存在感。

 叩きつけられる威圧感プレッシャー、視線を合わせるだけで心臓を握られるような感覚。全身が総毛立ち、今すぐにでも逃げ出すべきだと己の本能が警鐘を鳴り響かせている。

 

 月明かりを背にこちらを見下ろしながら───呪いの王、両面宿儺は嗤う。

 

 頭を打ったせいか、記憶がぼんやりとしてなぜこんな怪物と戦り合う羽目になったのか思い出せない。正直に言って今すぐにでも逃げ出したい所だが、そうはいかないだろう。

 

 そもそも、あの怪物がみすみすこちらを見逃してくれるとは思えない。

 

 どうして、あんな怪物と戦おうなんて思ったのか。

 

 

 「ぁ……くく、はははっ!」

 

 「なんだ、気でも狂ったか呪術師」

 

 「あ? んな訳ないだろ。ただちょっと思い出しただけだ、なんでお前に喧嘩を売るなんて真似したのかな」

 

 「……ほう。死の間際の走馬灯か?」

 

 「いんや昔さ、五条先生が言ってたんだ。後輩を教え導き、守ってやるのが先輩の義務だって。いつもふざけてるアンタが何言ってんだって気にも留めなかったけど……どうも俺は、自分が思ってた以上に後輩が大切らしい」

 

 「はっ、くだらん。それで、もう終わりなら幕引きにするが?」

 

 

 ああ、きっと自分では呪いの王に勝てないだろう。

 だが、それがどうした。

 

 それは今ここで立ち向かわずに逃げていい理由にはならない。五条先生を助けるのは別に俺じゃなくてもいい。だが、いまここで呪いの王を、虎杖悠仁を止めるのは俺がやらなければならない。

 

 でなければ、虎杖悠仁が目を覚ました時、これから暴虐の限りを尽くすであろう両面宿儺が引き起こす惨状を目の当たりにすれば彼は罪の意識に苛まれ続けるだろう。

 

 それは、ダメだ。

 他人の為に本気で怒れるあの優しい後輩にこれ以上、余計なもの背負わせたくない。きっとこれが、自分が先輩として後輩にしてやれる最後の仕事。

 

 ───恐怖を呪力に変えて、雑念を振り払う。

 

 

 「……!(なんだ、奴の呪力が急激に跳ね上がった)」

 

 「悪いな。俺の術式の関係上、どうしても立ち上がりが遅くてさ。全力で戦ろうとすると時間がかかるんだ、急に呪いを込めたら器が保たないのと同じで“ガタ”がくる」

 

 

 呪いの王は静かに息を呑んだ。

 膨れ上がるような膨大な呪力。今も尚、際限なく高まり続ける負のエネルギーに口元が弧を描き歪な笑みを浮かべさせる。

 

 ただの気紛れだった。

 愚かにも自分に挑んだ人間、取るに足りないただの術師、両面宿儺にとって津上 凛太郎はその程度の認識であった。

 

 だがそれがどうだ、目の前に立つ男は一目見て分かるほどに呪力の量も密度も、その出力までもが先程までとは比べ物にならない程に変化している。

 

 そしてそれは自分が焼き祓った特級呪霊を凌駕している。

 

 

 「けど、ギアさえ入っちまえばこっちのもんだ。それじゃあ、アゲて行こうぜ呪いの王……ッ!」

 

 「クク、貴様の術式はつまらないものだと思っていたがそうではなかったか。なるほど、文字通り命を燃やし尽くすのはこれからだったわけだ。いいぞ、俺に貴様を魅せてみろ津上 凛太郎ッ!!」

 

 「うるせボケ! 俺が魅せるのは女の子だけだってのッ! だぁくそ、どうせ死ぬなら可愛い子の腕の中で死にたい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「かいいいいおおおおおおおおけええええええんんん!!」

 

 「………!」

 

 「()()だあああぁぁぁ───!!」

 

 

 ()()()()が迸る。

 紅焔色の呪力により赤みを帯びた黒髪が重力に逆らうように鋭く逆立つ。ビリビリと空気が震えるのを肌で感じとる。膨大な呪力が全身を包み込み、一目見てわかるほどに先程までとは別格である事を理解させられる。

 

 そして驚いた。

 

 

 「(反転術式……いや、違う)」

 

 

 凛太郎の傷が癒えていく。

 ズズッ、と時間を巻き戻すかのように傷だらけであった肉体が再生されていく。だが、宿儺が驚いたのはそこではない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 凛太郎の術式により一時的に呪力総量と出力が増幅された事により、今も高まり続ける膨大な呪力で凛太郎自身が壊れないよう肉体が()()()()反転術式を行っている。

 

 

 術式:呪力強化。

 ただの呪力操作。つまり術式としては無いも同然であり、呪術師の基礎中の基礎、呪力操作の基本中の基本とも言っていい誰でも使える技。しかし術式としての恩恵がないのかと言われれば、それは違う。

 

 単純明快、シンプル故に強力。

 分かりやすく例えるならば、通常の術師が行う呪力による肉体強化が『たし算』による強化だとすれば、凛太郎が術式を介して行う肉体強化は『かけ算』による強化。

 

 強化は倍率分上昇していき、段階を上げて己を強化することができる。それに加え、一時的に呪力総量と出力をも倍率分増幅させる。

 

 もちろん術式効果にリスクがないわけではない。

 倍率を高めるほどほど、必要以上に術者本人に負荷が掛かる。そして倍率の高い強化ほど肉体への“跳ね返り”の反動がある。

 

 武具に急激な呪力強化を施せば器が保たず“自壊”するように、急激な強化を施せば半フルオートの反転術式があろうと先に凛太郎の肉体が耐え切れず“ガタ”が来る。

 

 その為、段階を分けて強化をしなければならないので全力で戦うには時間がかかり強制的にスロースターターとなってしまう。

 

 そしてこの強化には、“理論上は上限がない”。

 問題は凛太郎自身が負荷に耐えられるかどうかだ。

 

 

 「うし! 治った治った」

 

 「()()()()だな」

 

 「あん?」

 

 「その反転術式、()()ではないな。粗悪品もいいところだ。寿命を削っているようなモノだぞ」

 

 「知ってるよ。硝子さんからも同じ事言われたし、早死にするぞって……あの人に心配掛けたくなかったからあんまり使わなかったが、ま今はもうそんな事関係ないだろ?」

 

 「ククッ……そうだな。貴様は今日ここで死ぬ」

 

 「言ってろ。逆にぶっ殺してやるよ。あ、テメェを殺せば名実共に俺が呪いの王って事でいいよな?」

 

 「ふ……ほざけ」

 

 

 準備は出来ている。

 睨み合いの最中、互いに口元が自然と弧を描き歪に嗤う。

 

 

 焦りはない。

 油断もない。 

 ただ一息で、踏み込む。

 

 

 「スゥ……───シャァ!」

 

 「───ッ!」

 

 

 再び拳が激突する。

 宿儺の膨大な呪力と凛太郎の膨大な呪力のぶつかり合い。まるで数刻前の再現、衝撃波で二人を中心にクレーターが出来上がる。しかし、一点。先程とは違う点があるとすれば。

 

 

 「ウオオオオォォッッ!」

 

 「ハハッ。いい、いいぞ! もっと呪いを込めろ!」

 

 「んなもんとっくにやってるよォ!」

 

 

 力比べに凛太郎が押し負ける事なく、宿儺と正面から殴り合えている事だろう。拮抗した力のぶつかり合いに、両者共に背後へと吹き飛ばされる。そして着地と同時に、眼前の敵へと目掛けて一息で飛び出す。

 

 殴る。 

 殴るッ。

 殴るッッ。

 

 真正面からの拳の応酬。

 一撃叩き込む事に爆発するような打撃音が響く。

 

 

 「……チッ!(クソが、反応速すぎだろ! なんでこの距離で、この速度の攻撃に反応できるんだよ!……というか、()()()()()()()!)」

 

 

 脚が止まりそうになる。

 肉体に負荷を掛ける無茶な強化の反動が着々と蝕んでくる。

 

 凄まじい速さで繰り出される凛太郎の攻撃。常人では反応できないような速度の拳撃、宿儺は当然のようにそれに反応して防御してくる。その上、カウンターまで織り交ぜて来る。

 

 だがそれでも、いくら呪いの王が相手であろうと正面からの殴り合いなら隙は作れる。その隙を突き、強引に防御の上から拳を直撃させてダメージを着実に与えている。

 

 しかし、それは宿儺も同様であった。

 何発かダメージを貰いながらも、それ以上のダメージを凛太郎に返してくる。手痛い一撃、一発喰らう事に吹き飛びそうになる意識を繋ぎ止めながらも凛太郎は思考する。

 

 

 “───どうするべきか?”

 

 

 ジリ貧。

 エンジンが掛かるまでが遅い術式だが、おかげで宿儺と殴り合えるだけのアドバンテージは得た。だけど、それでもまだ足りない。かき集めてもまだ足りない。

 

 このまま殴り合いを続けても先に潰されるのは明確だ。

 

 

 “───どうするべきか?”

 

 

 状況を打開する為の答えは簡単だ。

 降って湧いたような、天才的な名案が導き出される。

 

 

 「“───なら先に潰せばいい”。ああ、そうしよう!」

 

 「なにをゴチャゴチャと、もう限界か!」

 

 「いいや、漸く温まってきた所だっての!」

 

 「そいつは結構───、ッ!!」

 

 「だからッ、出し惜しみはなしだ!」

 

 

 一点集中。

 ギチギチと、右の拳へと収束させた呪力の塊が形状を変化させ、東洋龍の頭部を模した形状を形作る。今にも唸り声を上げそうな龍の頭部が宿儺を睨み上げた。

 

 咆哮。

 

 意識が冴え渡る。

 痛みがより深く意識を研ぎ澄ます。

 

 呪いの王との戦い。一瞬の油断も許されないような状況、死と肉薄する戦い、自分の命に王手が掛かりかけているこの瀬戸際が凛太郎の()()()()()()()()()()()()()

 

 意識が遠く感じる。

 時が止まったような感覚。

 感覚がずっとずっと引き伸ばされ、引き伸ばされて、そして炸裂した。

 

 呪力が爆発的に高まる。

 

 

 「龍ゥゥゥ拳ンンンンッッッ!!!」

 

 

 それは打撃との誤差、0.000001秒以内に呪力が衝突する際に生じる空間の(ひず)み。打撃との誤差、0.000001秒以内に呪力が衝突した瞬間、空間は歪み、()()()()()()()

 

 

 ── 黒閃 ──

 

 

 呪力が爆ぜる。

 轟音を響かせ黒い火花を迸らせながら、呪いの黒龍が宿儺へと喰らいつく。容赦などしない。そこへ更に、打撃の為に拳へと収束させた呪力を方向性を切り替え解き放つ。

 

 

 「ぶち抜けえええッッ!!」

 

 

 呪力放出、凛太郎が得意する呪力の高出力指向放出を拳撃に重ね合わせる。繰り出した打撃が衝突した瞬間、ゼロ距離から放たれる高出力の呪力放出が黒い光を輝かせながら宿儺を撃ち抜く。

 

 呪力によって形どられた黒き龍は宿儺を飲み込みながらアスファルトを抉るように引き摺り回して、ビルの壁を突き破り負のエネルギーの大爆発を起こす。

 

 

 「……いまなんか出たな。まあいいか、上手く行ったみたいでラッキー」

 

 

 『黒閃』

 打撃との誤差、0.000001秒以内に呪力が衝突する際に生じる現象。言うなれば呪力を使った攻撃の『クリティカルヒット』『会心ダメージ』と呼ばれるようなものだ。

 

 威力は平均で通常の2.5乗。黒閃を狙って出せる術師は存在しない。だがしかし、『黒閃』を経験した者とそうではない者とでは、呪力の核心との距離に天と地程の差があると言われる。

 

 更に黒閃をキメると術師は一時的にアスリートでいう”ゾーン”に入った状態になる。普段意図的に行っている呪力操作が呼吸のように自然に廻り、自分以外の全てが自分中心に立ち回っているような全能感。

 

 

 「ふぅ〜……イイねこの感覚」

 

 

 立ち上る呪力。

 変化した呪力の“味”を噛み締める。

 

 友人のチョンマゲゴリラ曰く、『黒閃』を経験する前と後では、今まで口に入れたことのない食材をなんとなく鍋に入れて煮込んでいるような状態であり、『黒閃』を経て呪力という食材の“味”を理解した今、呪術師として3秒前の自分とは別次元に立っているとのこと。

 

 凛太郎は今、120%の潜在能力(ポテンシャル)を引き出すことに成功した。

 

 

 「くっくっ……悪くない攻撃だ、やってくれたな」

 

 「お褒めに預かり光栄ですってか? 言っただろ、テメェに褒められても嬉しくねえよ。加減してほしいなら頭下げてお願いしろよ」

 

 

 吹き飛んだ高層ビル。

 雪崩のように降りかかる瓦礫の山の中から、愉快そうに笑みを貼り付けた宿儺が姿を現した。黒閃を経て放たれた打撃と呪力放出を重ね合わせた『龍拳』による一撃。

 

 呪力で防御(ガード)した宿儺の方腕をへし折り、そこから畳み掛けるように繰り出した膨大な出力の呪力砲によって消し炭にする寸前までのダメージを与える事の成功していた。

 

 しかし、反転術式による治癒で既に宿儺の片腕は完治している。

 

 

 「(この小僧。高い出力とそれを出すまでの呪力の瞬発力、そして何より呪力の爆発力(キレ)が凄まじい。指を取り込む前の俺なら敗れていたかもしれんな)」

 

 「(反転術式……厄介だが呪力の消費がハンパじゃない。かと言って、何度もバンバン使わせてそれで宿儺の呪力に底が見えてくるかと言われたら……無理だろうな)」

 

 「現代の呪術師にしては中々やる。だが所詮は凡夫、それだけだ」

 

 「………ぼ、ぼんぷ??」

 

 「……愚かな者、無知な者、凡庸な人という意味だ」

 

 「ああ、なるほど……ほーん、喧嘩売られてるって事は理解したぞ」

 

 「はぁ……お前、頭悪いだろ」

 

 「あ゛あ゛!?」

 

 

 え、こんな頭悪い奴に一撃喰らわせられたの?マジ? とでも言いたげな白けた顔で宿儺は凛太郎(バカ)に目を向ける。因みに凛太郎はテストで一夜漬けするタイプ、得意科目は体育を除けば歴史など人物名や場所や出来事をなんとなくで覚えておけばどうにかなるような科目である。

 

 つまりはバカである。

 

 

 「ま、無駄話はこれくらいにして仕切り直そうぜ?」

 

 「ああ、仕切り直そう」

 

 

 トン、トン、と軽快な動作で準備運動でもするかのように跳躍する。

 呪いの王を前にして、肝が据わっていると言えばいいのか、割と切羽詰まった状況だというのにそれを感じさせず、寧ろ余裕すら感じさせている。

 

 

 「来い」

 

 「んじゃ、行くぜ」

 

 

 何度目かの跳躍の瞬間、凛太郎の姿が消える。

 数秒遅れて鳴り響く轟音と吹き荒れる突風。凛太郎が立っていた地面は爆発したかのようにヒビ割れて粉砕されている。

 

 

 「キヒッ……」

 

 「ふっ……」

 

 

 前方に一瞬で距離を詰めた凛太郎と宿儺が鍔迫り合うように、呪力で強化した腕をぶつけ合い、突進を受け止めていた。そして再び凛太郎の姿が消える。

 

 

 「!!(……速いな)」

 

 「どこ見てんだ。こっちだノロマ!」

 

 「ッ!?」

 

 

 顔面直撃。

 突然、横から殴り飛ばされた宿儺。地面を滑りながらも勢いを殺し、押し止まる。すぐさま凛太郎を探すがそこに彼の姿はない。

 

 

 「……そういうことか。ケヒッ、クックックッ」

 

 

 渋谷の夜空に赤い呪力の軌跡を残しながら宙を疾走する。飛行し加速する凛太郎の姿に彼が何をしているのか、その仕組みを理解する。

 

 

 「放出した呪力をジェット機のように逆噴射させて、瞬間的に加速しているのか……器用な真似をする奴だ」

 

 

 ならばこれはどうだ。

 更に加速して再び宿儺へと高速で突撃を仕掛けてくる凛太郎。愚直にも真っ直ぐこちらへ向かってくる凛太郎へ狙い澄ますように指を向ける。

 

 

 「さて、どうでる?───『解』」

 

 

 放たれるのは不可視の斬撃。

 初見殺し中の初見殺し、相手が特級相当の呪霊であろうと問答無用で両断する両面宿儺の術式。

 

 

 「邪魔ァ!」

 

 「(斬撃を弾いた! 見えているのか、俺の術が!)」

 

 「お散歩の時間だぜ宿儺ァ!」

 

 「な、ぐぅ!?」

 

 

 勢い殺さないまま更に加速する。

 凛太郎は宿儺へと掴み掛かると、呪いの王を振り回しながらビルの壁、割れた窓ガラス、アスファルトなどへ叩きつけながら引き摺り回す。

 

 

 「もう一丁ッ!」

 

 「ッ……馬鹿が」

 

 

 振り払う。

 両手に呪力を込めて繰り出す連撃。防御の構えをとり、冷静に攻撃を凌ぐ宿儺。タイミングを見計らい、凛太郎の拳を掴み止めるとカウンターの裏拳を顔面に命中させる。

 

 鼻血が噴き出る。

 首から頭が飛んでいきそうな一撃。

 

 

 「どうした。その程度ではあるまい」

 

 「痛っ〜……離せコラ、野郎と仲良く手ぇ繋ぐ趣味はねえんだよッ!」

 

 「俺だってそんな趣味はない」

 

 「お前から手繋いで来たんだろ!」

 

 

 いつまで手を繋いでんじゃ。

 凛太郎は片腕を押さえ込まれたまま殴りかかる。だが素直に殴らせてやる程、宿儺も甘くはない。腕を弾くよう見切り、もう片方の腕も素早く押さえ込むと凛太郎の両腕を流れる様に自身の両脇へと挟み込んだ。

 

 

 「げ」

 

 「ふ、堪えろよ。津上 凛太郎ッ!」

 

 「ぎぃ! あああああっっっ!!!?」

 

 

 粉砕。

 両腕の骨を二の腕の辺りから強引にへし折られた。痛みのあまり、絶叫し膝を突く。そこへ更に追い討ちに前蹴り。

 

 凛太郎の身体はボールの様に吹き飛び地面を転がる。

 

 

 「貴様の中途半端な反転術式では修復に時間が掛かるか?」

 

 「ぐ、ぎぎ……ああ、ぐうう……」

 

 「立て、続きをやろう。それとも、今死ぬか?」

 

 「ッッ!!」

 

 

 背筋が凍る。

 手印を結び佇む宿儺の姿に死を覚悟した。それは凛太郎も未だ手の届かない、術式の最終段階であり、呪術戦の極致。

 

 

 「───領域展開」

 

 

 『伏魔御厨子(ふくまみづし)

 宿儺の背後に突如として出現した悪趣味な建築物。牛のような頭骨に象られた巨大な廚子が鎮座する領域が展開される。 それへと対抗する手段が凛太郎にはない。

 

 何せ彼の“ソレ”は領域での押し合いなど出来るはずのない、あまりにも不出来で陳腐なものだから。

 

 

 「さて、どうする? 津上 凛太郎ッ」

 

 

 宿儺の斬撃は二種類。

 通常の斬撃『(カイ)』。

 呪力差、強度に応じて一太刀で対象を卸す『(ハチ)

 

 『伏魔御厨子』は通常の術師の領域とは異なり、結界で空間を分断しない。結界を閉じず生得領域を具現化することはキャンバスを用いず空に絵を描くに等しい正に神業。

 

 加えて相手に逃げ道を与えるという“縛り”により底上げされた必中効果範囲は最大で半径200mにも及ぶ。

 

 そして今、津上 凛太郎を狙い効果範囲を半径50mの地上のみに絞りきった。

 

 

 「ッァ──────!」

 

 

 必中効果範囲内の呪力を帯びたモノには『捌』、呪力のないモノには『解』が。それは『伏魔御厨子』が消えるまで絶え間なく浴びせられる。

 

 両面宿儺は嗤う。

 声を荒げて邪悪で歪な笑みを浮かべながら嗤う。

 

 その視線の先には息をつき暇もなく絶え間ない斬撃の雨に晒されて、全身を切り裂かれ血みどろになりながらも未だに人の形を保ちながら斬撃に耐えている呪術師の姿があった。

 

 ゲラゲラと、不愉快な嗤い声は未だ止む事はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───()()()()()()()

 ───()()()()()()()辿()()()()()()()()()()()()

 

 

 「───ゥッ!!」

 

 

 それはどこか暗い場所。

 渋谷でもキヴォトスでもない、どこでもない彼方の方舟。

 

 目が覚めた()()が感じたのは途轍もない吐き気だった。込み上げて来た吐き気に我慢できず、嘔吐する。胃の中が空になってしまいそうな感覚。

 

 

 「ハァ、ハァ───うっ」

 

 

 吐瀉物をぶち撒けながら、涙を流す。

 あれは何て事ない夢だ、何度も自分に言い聞かせて来た。それでも、何度も夢に出る悪夢に、それがただの夢ではないと彼女は理解していた。

 

 何度も、何度も何度も何度も。

 ()()()()()()()()、かつての記憶の断片を追体験させるような悪夢、呪いの王によって目の前で大切な友人が、愛した男が無慈悲な刃によって切り刻まれ血の海に沈んで行く姿を何度も見せられた。

 

 

 『■■■■■』

 

 「ッ……大丈夫、大丈夫だから」

 

 

 声が聞こえる。

 自分の影の中から、いつからか聞こえるようになった声。自分にしか聞こえない声に彼女は独り言のように呟いた。

 

 掃除しなきゃ。

 そんな事を思いながら彼女は震える膝に力を入れて立ち上がる。

 

 大きくスリットの入った扇情的な黒いドレス。

 腰まで伸びた絹のように美しい銀色の髪。光のない荒んだ瞳は水色に輝き瞳孔は左右で違う色に染まっている。

 

 そして彼女の片耳には、()()()()()()()が淡く輝きを放っていた。

 

 

 「……会いたいよ。リンタロー」

 

 

 ───まだその時は来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 凛太郎のピアスのイメージはDBのポタラとか原神のタルタルの耳飾り見たいな、チェーンの先端にアクセサリーが付いているような感じのヤツです。あれ何て名前なんですかね?

 あと凛太郎の反転術式は秤と同じような理屈ですけど、完全に劣化版です。秤みたいに部位が吹き飛んだ瞬間に即座に回復なんかもできません。SSRの反転術式とSRの反転術式みたいな感じっす

 領域展開喰らってますけど、凛太郎もまだ死んでませんゴキブリみたいな生命力してます。

 因みに凛太郎の手印は金剛夜叉。





今後の展開。※参考程度

  • 時計じかけの花のパヴァーヌ編
  • エデン条約編
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