透き通る様な世界観にいる一般呪術師 作:半ライス大盛り
グラブル呪術コラボえかった…!
欲を言えば五条もプレイアブル、もしくは虎杖&伏黒の最終解放が欲しかったが、それは今度に期待しよう。
そして8/31から呪術アニメも渋谷事変が始まると、楽しみ。
今回、文字数の割にあんまり進んでないかも。テンポよくいきたいのに。
「では、どうぞお座りください。何かお飲みになりますか?」
「悪いが俺が一緒にお茶するのは女の子だけだ」
「クックック……そうですか。なら私はコーヒーを頂くとしましょう」
何だこいつ?
そのナリでコーヒーなんて飲めるのか。
凛太郎はゆっくりと周辺を見渡す。
場所は目の前の謎の人物に連れて来られた寂れた喫茶店。店内に客は居らず、自分たちだけの貸切状態だ。従業員は1人、ロボットの店員がいそいそと注文を取ると店の奥へと消えていった。
なんでこんな状況になってるんだか。
席に着いた凛太郎はテーブルに肘を置いて、頬杖をつきながら眼前の人物に視線を向ける。とりあえずなんか黒い奴がいる。
黒いスーツをピッシリと着込んでおり、その体は影の様に黒く無機質。人間離れした容姿に、実は呪霊だと言われても驚かないような姿見。寧ろこいつ呪霊なんじゃないかと訝しんですらいる。
どうしてこんな怪しさ満点の黒い奴と一緒に喫茶店になど足を運ぶハメになっているのか。そんな疑問に、つい昨日の記憶が脳裏を過ぎる。
『クックック……津上 凛太郎さん。少々お時間よろしいですか?』
『……あ゛? てめぇは誰だよ。挨拶は大事だって知らねえのか?』
『これは失礼……こんばんは、いい夜ですね』
『あっそ。悪いな、誰だか知らんが用があるならまた明日にしてくれ。眠くて仕方ねんだわ……明日の昼過ぎくらいに、ここに来てやるから。用があんならその時で頼むわ……ふわぁ……ねむぅ』
『……え?』
『んじゃ、また明日〜。ねみぃ……ふわぁぁ』
『…………ええ??』
───その日、昼間にホシノと共にたっぷりと気持ちよく昼寝をしてしまった為か、その夜は中々寝付けずにいた。時間は疾うに深夜を過ぎている。対策委員会の面々もその日の活動を終了しており自宅へと帰宅していた。
横になったものの、中々寝付けなかった凛太郎は誰も居ない静まり返った教室で眠気に襲われるのを待っていたが、妙に目が覚めてしまっていた。
それなら少し散歩にでも出掛けて体でも動かしてくるかと、夜のアビドス市街に出かける事にした。身体を動かして疲労を感じれば、自ずと眠気もやってくるだろうと。
なのでとりあえず、アビドスの荒廃した砂漠まで走り込みを行い、かめはめ波を砂漠に撃ち込んで修業という名目でトリガーハッピーを行なっていた。
『きさまは助かっても地球はコナゴナだ───っ!!』
恐るべし深夜テンション。
誰も見てない事をいい事に、ちょっとクオリティの高いベジータのモノマネをしながらギャリック砲を撃ってたりしていた。その最中で、なんだか
まあ、気のせいだろうと凛太郎は気にしていなかったが。
それからだいぶ時間が経ち、いい汗を流した凛太郎は眠気に襲われながら帰路へとついた。そんな帰り道に、この謎の人物と出会したのだ。
その時は眠気のあまり適当に相手をしていたのだが、朝が目が覚めてアビドス対策委員会の面々が学校に集まり出した時間帯。
シャーレの先生も出迎えてみんなで仲良く昼食を食べていたタイミングで謎の人物との会話を思い出し、約束してしまった以上はと思い一応昨日出会した場所へと赴いてみればそこにはしっかりとあの不審者が待ち構えていた。
『おや? おはようございます。津上 凛太郎さん』
『うっそだろ……マジでいた』
『え?』
『あ……いや、なんでもない』
そんなこんなで、凛太郎はこの謎の人物と共に寂れた喫茶店へと足を運んでいた。正直言ってバックればよかった、何て思ってたりもする。だって明らかに面倒ごとだと、そんな気配をひしひしと感じていた。
「で、話って何なわけ? 言っとくけど、長話は嫌いなんだよね」
「ご心配には及びませんよ。私も手短に済ませるつもりではあります。ではまずは自己紹介を、私のことはどうぞ『黒服』とでもお呼びください。この名前が気に入ってましてね」
「なんだそりゃ、俺の自己紹介は……いらねえか。てか何で俺の事知ってんだアンタ」
「それはもちろん。あなたにはとても興味を惹かれていますから」
「……うげぇ、なんかキモいなその言い方」
内心で警戒する。
そもそも、自分とこいつは接点も面識も何もない。だと言うのに、まるで以前から自分のことを知っていたとでも言いたげな口ぶりに、嫌でも警戒心が上がる。何が狙いなのかもまったく見当がつかない。
そして何より、なんだかきな臭い。
相手を疑う事から始めてしまうのは申し訳ないが、割と碌でもない人種の類だろうと、凛太郎の呪術師として培った経験と勘で黒服という人物の“人間性”をなんとなく推理していた。
「私……いえ、私たちはキヴォトスの外部からやってきた者です」
「……は?」
「そして津上 凛太郎さん、あなたもキヴォトスの外部の者……しかし私たちとはまた違った次元、領域の存在ですね?」
思わず、思考が止まった。
なんて事のないように話を切り出した黒服の言葉に、つい漏れ出たような言葉がこぼれた。
いまこいつなんて言った?
キヴォトスの外部からやって来た、それはまだいい。その事を知っているのは、シャーレの先公とアビドスの生徒たちだけの筈だが、疑問が残るがそれはまだいい。だけど、違う次元やべつの領域など聞き逃せない一言があった。
「……アンタ、何者だ?」
「ふふっ……あなたの興味を引けたようで何よりです」
「……ああ、そうだなァ。おかげで興味津々だよ」
呪術師としての、
黒服が凛太郎に興味を持つように、凛太郎もまた黒服に対して多少の興味を抱いた。目の前人物がなぜ、何を目的として、わざわざ自分に接触してきたのか。
「てことはアレか、アンタもしかして宇宙人とか?」
「宇宙人……なるほど、そういった観点を持たれるのですね。しかしそれで言うとあなたも似たようなものでは?」
「んなわけあるか。どっちかつーと、流行りの異世界人って奴だな」
「異世界人……ククッ、そうですか」
キヴォトスの外とやらの謎が深まるばかりだ。
席に届いたコーヒーを手に取り、マグカップを傾ける黒服。
そんな様子を静かに凛太郎は観察していた。声のトーンや纏う雰囲気、その変化から相手が楽しげに会話しているのはわかったが、異形の容姿ゆえ表情の変化が読み取れず不気味でやり難い。
というか飲食できるのか。
優雅にカップを持つ姿に再び同じような感想を抱いてしまう。
「んで? 何が目的で俺に接触してきたんだ」
「目的、ですか? そうですね。あなたと楽しくお茶でも……言ったらどうしますか?」
「おいおい、つまんねぇって……惚けんなよ」
「おや、惚けるとは?」
「俺は長話は嫌いだが、無駄話はもっと嫌いなんだ。最初に言ったろ、一緒にお茶するのは女の子だけだって。さっさと
鋭い双眸で黒服を射抜く。
ピリピリと、意識せず僅かに漏れ出た殺気。空気が重くのし掛かって来るのを肌で感じながらも、黒服は喉を鳴らして笑う。
カタンッ、とマグカップを静かに置いて両肘を机の上に立て、両手を口元で組む。
「そうですね。ならあなたの言う通り、無駄話は抜きにして単刀直入で行きましょう」
「…………」
「津上 凛太郎さん。私たち『ゲマトリア』と協力するつもりはありませんか?」
「は……ゲマ……な、何だって? というか協力ぅ?」
「ええ。あなたは自分が思っている以上に、私たちにとって『不可解な存在』であるんです」
突拍子もない申し出に眉が寄せられる。
よくわからない単語と共に想像の斜め上を行くような黒服の言葉に、凛太郎は頭の上に疑問符を浮かべる。どう反応を返せばいいか分からず、とりあえず続きを促すことにした。
黒服が口を開く。
「そして何より、あなたにとても興味を惹かれています。私は、観察者であり、探索者であり、そして研究者です。“神秘”もなくあなたが宿す“恐怖”、その根源を是非とも隅々まで研究させていただきたくあります」
「いや、何言ってんだおめえ」
「もちろん。タダでとは言いません」
「おい人の話を聞けこら」
矢継ぎ早に語られる。
興奮冷めやらぬとでも言えばいいのか。まるで新しい玩具を買ってもらった子供のように、無邪気な笑みを浮かべながら嬉しそうに語る。しかしそんな様子とは裏腹に、口にする言葉は物騒極まりない。
凛太郎も何を言われているのか分からず、思わず間抜け面になってしまう。しかし凛太郎の反応など気にした様子も無く、黒服は言葉を続ける。その眼には、隠しきれない探求心が見え隠れしていた
「労働に報酬は付きもの、その対価としてあなたが望むものを用意する事もできるかもしれませんよ?」
「へえ、そりゃどんな?」
「例えば、アビドスが抱える借金……その半分近くを肩代わりするというのは?」
「現実味がない……話になんねえな」
「でしたら……そうですね。アビドスに通う生徒、彼女たちの身の安全を保証するというのはどうでしょう」
「─── あ゛?」
───現在、シャーレの先生は困っていた。
場所はアビドス高等学校。その本館の一角にある対策委員会本部の教室。アビドス対策委員会の面々が日頃から利用する事の多い、活動の拠点となる場所だ。
先生は、静かに鳴り響く時計の針の音に耳を傾けながらお茶を啜っていた。
(………気まずい)
いまこの場にいるのは、ホシノ、シロコ、ノノミ、そして先生を含む4人である。セリカとアヤネは午前中から別件で席を外しており、凛太郎もちょっと用事があると言って少し前から姿を見ていない。
そういえば、行き先を聞いてなかったな。
まるで現実逃避するかのように先生はいまこの場に居ない、生徒と先生というよりは気安い男友達とも言える能天気な男子生徒の存在を思い出していた。
あまりにも空気が重い。
いつもなら楽しくお菓子でも食べながらお喋りをして、対策委員会のメンバーのまとめ役でもあるノノミも困ったように様子を見ている。
(………いや、本当に気まずいんだけどぉ!?)
速く帰って来いよあのバカ。
そして1秒でも早くこの空気をどうにかしてくれ、先生は絶対絶命の状況下で最後の頼みの綱にでも願いを賭けるかのようにそんな事すら考えていた。
今すぐにでも教室のそこの扉から『みんなー、お疲れサマーランド〜! みんなの凛太郎がただいま帰宅しましたよ〜!』なんて、鼻の下を伸ばしながらふざけたテンション飛び出して来てくれないかと祈っている。
いったいどうしてこんな気まずい空気になっているのか?
それは数分前の出来事が原因だ。
先生とセリカとアヤネの三人が、先日のアビドス自治区に乗り込んできたゲヘナ風紀委員会との戦闘。その際にアビドス高等学校近隣に店を構えるセリカのアルバイト先の柴関ラーメンが被害をくらい、店主が軽い怪我を負ってしまって、三人は店主のお見舞いに出かけていた。
幸いにも店主の怪我は軽いものだったが、戦闘の被害で店は吹き飛んでしまい更地と言ってもいいような状態。
その事にセリカが悲観していたが、店主は気にしていない所か『バイトできなくなちゃってごめんな』とセリカに対して申し訳なさそうに笑っていた。
そしてその時、奇妙な話を聞かされた。
元々あの店は退去通知を受けており店を畳むのも時間の問題であったと。
その話を聞いて、アヤネは困惑を隠せなかった。
なぜならアビドス自治区の建物の所有者はアビドス高校である筈なのだから。
そんなアヤネの反応に、大将は少し驚いたような顔をして黙り込んだ後、静かに語った。何年も前に、アビドスの生徒会が借金を返せなくなり、建物と土地の所有権が既に別の所有者へと移っていると。
それからアヤネは少し調べたい事があるといい、セリカもそれに同行する事となった。そして先生は先にアビドス高等学校に戻ってきたのだが、そこである問題が起きたのだ。
『……いつまでしらを切るつもり?』
『いたた……痛いじゃ〜ん、どうしたのシロコちゃん』
大きく響くような物音が空き教室から響いたと思えば、そこには困ったような表情を浮かべるホシノとそんな彼女を鋭く睨みつけるシロコの姿があった。状況に理解が追いつかない。
問いただすシロコとどこか戯けるホシノ。
慌てて先生とノノミが駆けつけた頃には、既に一触即発とも言えるような重苦しい雰囲気と化していた。
その場は、誤魔化すように足早に去っていったホシノと、仲裁に入ったノノミのおかげでなんとか収まったが、この場に居ない者の帰りを待つ現在、対策委員会本部は何とも言えない気まずい空間となってしまっていた。
頼む。
誰でもいいからこの空気感をぶち壊してくれ。もう何度目かわからない、そんな願いが胸の内で溢れる。いくら外面は取り繕っていても、気まずさのあまり内心で冷や汗を流しながらいまにも号泣していまいたいくらいだ。
「───先輩たち、大変!! これ見て!……え?」
「アビドス自治区の関係書類を持ってきました!これを……?」
「あ、あれ?……な、何この雰囲気、どうしたのみんな?」
「お゛か゛え゛り゛な゛さ゛い゛!!」
「へ!? ちょ、ちょっと先生!? どうしたのよ、なんでそんな泣きそうに……ってくっついてこないでよ!」
そんな願いが聞き入れられたのか。
ドタバタと、足音を鳴らしながら慌てふためいた様子で教室の扉が乱暴に開けられて、この場に居なかったセリカとアヤネが教室へと駆け込んでくる。
勢い良く飛び込んで来たのはいいものの、自分たちが少し離れていた間にまるでお通夜状態のような重苦しい雰囲気に戸惑ってしまう。
まさに救世主。
先生は感動のあまり目に涙を浮かべながらセリカへと抱きついているが、顔を赤くしたセリカに強制的に引き剥がされて教室の床に転がった。しかしそれだけでは終わらず、すぐさま起き上がると彼女の足に組みついて涙を流す。
視線で先輩たちに助けを求めてもなぜか視線を逸らされたり、苦笑いされるだけで終わってしまう。
「ありがとう! ほんっとありがとう! おかえり二人とも!」
「え、ちょ、なに!? わ、わかったってば、一旦離れて……んぎぎぎ、先生力強っ!?」
「え、えっと、先生大事な話があるのでセリカちゃんから離れて話を……」
「……ふぅ、わかった」
「……へ、ヘンタイだ。リンタローと違うタイプのヘンタイだ」
先生の突然の奇行に恐怖を覚えたセリカだったが、気を取り直して持ち帰った情報を全員に伝える。
その時、若干先生から距離を取ったのだが、その何気ない仕草が先生の心にダメージを負わせる。自業自得だが。
「それよりも、これ! とんでもない事がわかったの!」
「皆さん、まずはこれを見てください……!」
アヤネは持ち帰った資料を数枚鞄から取り出すと、みんなから見えやすい位置へと広げた。
「ん〜、これって……地図?」
「これは直近までの取引が記録されている、アビドス自治区の土地の台帳……『地籍図』と呼ばれるものです」
「それって土地の所有者を確認できる書類、という事ですか……?」
アヤネが持ってきた地籍図を手に取り、ノノミが疑問の声を上げる。わざわざ書類を確認せずとも、アビドスの土地を管理と所有しているのはアビドス高校であり、ノノミの疑問は当然のものであったが。
「私もさっきまでそう思ってた! でもそうじゃなかったの!」
「え……?」
「……お見舞いに行った時、大将から話を聞いたんです」
空いた口が塞がらないとはこういう事だろう。
アヤネの口から語られた話はアビドス対策委員会のメンバーにとって衝撃的なものだった。
市街地や建物、アビドス自治区内のそのほとんどがアビドス高校が所有している事にはなっていなかった。所有権がまだ渡っていないのは、アビドス対策委員会が本館として使っている校舎と、周辺の一部の地域のみ。
これには三年間アビドス高校に通いメンバーの中でも長く学籍を置いているホシノも、驚愕で小さく声を漏らしていた。
アビドス自治区である筈なのに、アビドスの所有ではない。これに対して、そんなわけがないと。
そして何より驚かされたのは、現在の所有者が───
学校の自治区の取引など、普通はできない。だがそれは普通ならやらないだけであって、できないわけではない。
学校の資産の議決権は、その学校の生徒会にある。
自治区の取引が可能なのは、議決権を持つ生徒会だけ。
それは数年前の生徒会、現在のアビドスに生徒会は存在していない。
生徒会がアビドスが抱える借金を返そうとして土地の取引をして、しかし砂漠に埋もれたアビドスの土地に高値が付くはずもなく、借金自体を減らすにすら至らなかった。返せるのは精々、利息分だけ。
カイザーローンが、学校の手に負えないくらいの金を貸して、利子だけでも払ってもらうために土地を売るように仕向ける。そこからは、利子を払いまた土地を売ってしまう、負の循環。
つまり、最初から悪質な罠にアビドスは捕えられていたのだ。
最初こそ要らない砂漠や荒廃した土地を売ればいいと、どうせ砂漠と化した使い道のない土地。しかし安値で売ったところで借金が減るわけもなく、土地を失っていく一方。
最終的にはアビドス自治区が、ゆっくりとカイザーコーポレーションのものになる。
「……元々、そういう計算だったのかもしれない」
「アビドスにお金を貸した時点で、こうなるように……」
「だいぶ前から計画してた罠だったのかもね。それこそ何十年も前から、それくらい規模の大きな計画だったのかも……ッ」
「なにそれっ!? ただただカイザーコーポレーションのやつらに弄ばれてるだけじゃん!」
怒りのあまり、噛み付くような物言いになってしまう。
今更こんなことを言っても仕方が無いことなのは分かっていても、言わずにはいられなかった。
そもそもこの学校に通っている生徒達は、誰一人として気付いていなかったのだから、今の今まで自分たちの住む場所がどんな状況に置かれているかすら理解できていなかった。
「生徒会のやつら、どんだけ無能なわけ!? こんな……こんな詐欺みたいなやり方に騙されてさえいなければっ!」
「セリカ、落ち着いて」
「先生……でもっ」
「それでも、悪い事は……騙されるよりも騙す事だと思うよ」
「……そ、それはわかってる! 私もわかってるわよ! 悪いのは騙した方だって事くらい……っ」
「───うんうん。それには俺も同意見かな」
「でも……悔しいっ。なんでこんな、どうしてッ」
「よしよし、辛かったんだね。好きなだけお兄さんの胸の中で泣くといいさ」
「………ん?」
一瞬の静寂。
この場に全員の視線が一箇所に集まる。理不尽に晒されるアビドスの現状に溢れそうになる涙を堪えていたセリカだったが、いつの間にか自分の隣で背中を優しく摩っている男の姿に目が点になる。
アビドスのジャージと黒のウインドブレーカー、外にハネた黒髪のショートヘアの男性、津上 凛太郎がそこに立っていた。
「やっほ! 津上 凛太郎ただいま帰りました! 俺が居なくて寂しかったんじゃな〜い?」
「うええ!? あ、あんたいつの間に!?」
「ははっ、セリカちゃんナイスリアクション。あ、これお土産のたい焼きね。実は柴関の大将にもお見舞いで渡してて、みんなの分も買って来ちゃった!」
「ちょ、あんたこんな大変な時にお土産買ってから来たっての!?」
「餡子とカスタードどっちがいい? あ、オススメはカスタード」
「話を聞きなさいってば!……ならカスタード」
「オッケー!」
みんなも選んでいいよ〜。
なんとも緩い雰囲気で教室に入って来た凛太郎がその場に全員へとお土産を配っていく。突然過ぎる登場と今までの張り詰めた空気感を見事にぶち壊された事に面喰らいながらも、凛太郎からのお土産を素直に受け取る。
「ほら、先公の分もあるぞ。感謝しろ」
「ありがとう。それよりも、リンタロウは今までどこに?」
「ん? あー、ちょっと野暮用というか。なんかこう……スーツ着たまっくろくろすけの擬人化みたいな奴に会いに行ってた」
「─────ぇ?」
「くろ……? 何それ?」
「ま、気にすんな。お話して来ただけだ……ほい、ホシノちゃんも選んでいいよ」
「タロー、くん……な、なんで……ッ」
何気ない一言だった。
凛太郎の発言に、ホシノは膝から力が抜けそうになった。なにせ凛太郎の言葉の相手に身に覚えがありすぎた。凛太郎の手から渡されるお土産をただ力なく受け取る事しかできなかった。
その指先が。
その声音が。
まるで親に叱られる事を恐れる子供のように震えていた。凛太郎が土産として持ってきた菓子を頬張り、周りはホシノの様子に気がついていない。
正面に立つ凛太郎は気がついていた。
肩を震わせ血の気が失せたような顔で、まるで嘘だと言ってほしいと懇願するような表情で自分を見上げるホシノの様子にしっかり気がついていた。
「ホシノちゃん」
「───ッ!」
「この後、時間ある?」
「………」
「ちょっと俺と火遊びしようよ」
「………え?」
呆然と見上げる。
視線の先には、悪戯が成功した子供のように歯を見せて笑う凛太郎の姿があった。
「ククッ……振られてしまいましたか」
「ですが、とても有意義な時間でしたよ。彼が宿す恐怖、その残穢とはいえ貴重な“サンプル“も手に入れる事が出来ました」
「それでは、また近い内にお会いする事になるでしょう。津上 凛太郎さん」
黒服
「えいえい!……おこった?」
津上 凛太郎
「ぶち殺すぞ」
挨拶代わりに軽いジャブを放ったら顔面グーパンレベルで返された。
今後の展開。※参考程度
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時計じかけの花のパヴァーヌ編
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エデン条約編