透き通る様な世界観にいる一般呪術師 作:半ライス大盛り
『僕の親友だよ たった一人のね』
───そう言って、寂しさそうに笑った恩師の顔を今でも覚えている。
「……退いてくれイズナちゃん」
「い、嫌です! なんと言われても絶対にイズナは退きません!!」
両手を広げて夏油を守るように立ち塞がるイズナ。
そんな彼女の姿に凛太郎は頭が痛くなってきそうだった。この状況をどうするべきかと、本気で悩んだ。彼女と夏油の関係がどういったものか、そんな事は凛太郎は知る由もない。
───拳が震える。
「頼むよ、退いてくれイズナちゃん」
「なにを言われても、イズナは退きません!」
───真っ直ぐな目だ。
彼女は、いま自分が守るように庇っている男の正体を知っているのだろうか? この男が、夏油 傑が
苛立ちが募る。
「……退いてくれって、言ってるだろッ」
「ひっ……り、リンタロウ殿と店主殿の間に何があったのかイズナは知りません! いまこの状態でイズナは完全な部外者です!」
「……それなら」
「けど、それでも、イズナが知っている事はあります! 店主殿は変なところはあるけど、優しい人です!」
「………ッ」
苛立ちが募る。
それは目の前で震えながらも、自分に立ち向かおうとしているイズナにではない。そんな彼女の後ろで守られながら、驚いたような表情でイズナを見ている男に対して。
そして、いまこの瞬間。
無関係である筈の彼女がこの場を仲裁しようしている、そんな健気な少女を怯えてさせてしまっている自分自身に対しても。
握る拳に力が増していく。
「それにリンタロウ殿も本当に優しい人ですっ!!」
「………ぇ?」
「ちょっとえっちなところもあります、シャーレのお仕事をサボって遊びに行っちゃう事もあります、それでもリンタロウ殿はイズナの“夢”を笑わずに聞いてくた優しい人ですッ!!」
「……違う。俺は君が思っているほど、“良い奴”なんかじゃない……寧ろ悪い奴だよ。どうしようもないクソ野郎なのに、“そうありたい”と自分にもみんなにも嘘をついて取り繕ってるだけだよ」
やめてくれ。
そんな目で自分を見ないで欲しい。
イズナが自分に向ける視線が眩しすぎて、凛太郎は苦虫を噛み潰したような表情と共に視線を逸らしてしまう。
「そんなことないです! リンタロウ殿と出会ってそんなに長くはありません、けどリンタロウ殿は自分が思っているよりもずっと優しい人です。あなたは優しい目で私たちを見てます! 店主殿だってそうです!」
「───」
「それに、店主殿が前に言ってました。たった一人の“親友”と喧嘩別れをしてしまったと、そしてその“教え子”の一人にも癒えない傷を残してしまったって申し訳なさそうに店主殿は言ってたんです」
「───…ッ」
「だから、その、えーっと……そんな優しいお二人がこれ以上喧嘩をするようなら、イズナは泣きます。恥も外聞もなく泣いちゃいますよ!」
途中から、自分でもなにを言っているのか理解できていないのだろう。あまりにも必死な様子でどうにかこの状況を収めようとしている彼女の姿に、どうしてか肩の力が抜けてしまう。
(………ああ、
いつの事だっただろうか、自分がまだ何も知らない無知で無力な子供の頃のことだ。
凛太郎が同じ学年の男の子と派手に喧嘩をしたことがあった。
喧嘩の原因はなんだっただろうか、記憶はあやふやだが確かその男の子の持っていた大切な物が無くなってしまいその場に居合わせた凛太郎が疑われてしまった時のことだったか。
当然、凛太郎はその子の物を盗んではいないし完全なとばっちりだった。だが
その子のあまりの言い掛かりに、我慢も限界に達していた凛太郎はつい大きな声をあげて怒鳴ってしまったのだ。それを皮切りに、殴る蹴るなどの喧嘩に発展した。周りの子たちは戸惑うばかりで遠くから様子を見ているだけだった。
そんな時、
こっちが心配になるくらい泣いていた。
怖い思いをしていたのだろう、巻き込まれたくないのなら遠くから眺めていればよかったのに、それでも
『喧嘩しちゃダメ!!』
(……こんな眼を、してたっけな)
姿が重なる。
容姿など似ても似つかないのに、その在り方に力強い瞳に
凛太郎が、ゆっくりと拳を下ろす。
───許せるのか?
許せるわけがないだろう。
自分の故郷も家族も友人も、全て奪ったのは目の前の男だ。
そして何よりも
言うなれば、この男は導火線に火をつけただけだ。
こいつが居なければ
見つめるべきは過去ではなく、
「あ〜、クソッ!……ったく、自分よりも年下の女の子に何やってんだか」
「り、リンタロウ殿?」
凛太郎はしゃがみ込むと、頭を掻きむしりながら大きな溜め息を吐いた。突然大きな声を出して蹲った凛太郎の姿に、イズナはビクリと驚いて肩を震わせた。
そんな彼女を見上げて凛太郎はへにゃりと笑った。
「……うっし!」
重い腰を上げるように立ち上がる。
そして次の瞬間、凛太郎は自分の頬を勢いよく叩いた。
パンッ、と大きな音が響く。
突然のことに驚いて眼を見開いているイズナに向き直ると、凛太郎は彼女に向かって深く頭を下げた。
「……イズナちゃん。本っ当に、ごめん!!」
「……へ?」
「いや、マジでごめんね……怖がらせちゃったよね」
「───ッ!! リンタロウ殿!」
凛太郎の謝罪に、イズナは口を大きく開けてポカンとしている。そしてその言葉の意味を理解したイズナはパァっと花が咲いたような笑顔を浮かべて、感極まったように凛太郎へと飛びついた。
凛太郎も抵抗することなく受けれて、そんな彼女の様子に苦笑いを浮かべてしまう。あまりにも激しく飛びついて来るものだから首がガクガクと揺れている。
「はは、イズナちゃん首取れちゃう……」
「ハッ! す、すみません嬉しくてつい……」
イズナから視線をその背後にいる男へと戻す。
夏油は状況が飲み込めていないのか、ポカンと間抜けな表情を浮かべている。凛太郎はこの男もそんな顔をするんだな、なんて思いつつ肩を掴むと少し乱暴に立ち上がらせた。
「いつまで座ってんだ。さっさと立てよ」
「……どういう、つもりだい?」
「これは
「………」
「まずは、てめえに聞かなきゃならねえことが山程ある。お前をころ……ぶっ飛ばすのはあとでもいい。それなら先に洗いざらい吐いてもらうだけだ」
「……ふっ、そうかい」
「コーヒーでよかったかい?」
「は? 俺はメロンソーダもってこいって言ったんだよ。誰がコーヒー持ってこいっつったよ」
「悪いね。うちはファミレスじゃないんだ、そこまで大きなドリンクサーバーは用意してないよ」
「ならコンビニまで走るくらいの気合いを見せろやエセ坊主」
「君ってもしかして私に対して遠慮ない感じ?」
場所は先程と同じ店内、凛太郎と夏油は荒れた店内に設置されていたテーブルへ向かい合うように腰を下ろしていた。少し離れた場所で、イズナがパンを齧りながら心配そうに凛太郎たちへと視線を向けている。
それに気がついた凛太郎と夏油は、心配をかけまいと笑顔を浮かべて手を振る。そんな二人の様子にイズナも笑顔を浮かべて手を振りかえした。
「……イズナちゃんかわいい〜」
「……なぁ、あの子が向こうを向いた瞬間にテーブルの下で私の足を蹴るのはやめてくれないかい」
「黙れカス。気安く話しかけんな」
「おっと手厳しい……ところで何か食べるかい?」
「いらん」
視線だけでも人を殺せそうなくらいに怖い顔で自分を見て来る凛太郎に夏油は頬を引き攣らせる。そして自分が持ってきたコーヒーのマグカップを口元に運び傾ける。
「それで、私に聞きたいことってのはなんだい?」
「もちろん全部だ。俺の質問に嘘偽りなく答えろ」
「わかってるよ。その為に、私との間に“縛り”を結んだんだろ」
凛太郎が夏油との間に結んだ“縛り”。
凛太郎の許可なくこの場から去る事は許されない。
そして夏油が凛太郎に対して嘘をつくことが許されないというものだ。正直に話す限りは凛太郎は夏油に対して攻撃を加える事はなく、夏油も嘘をつかなければ凛太郎から攻撃されることもない。
凛太郎から持ちかけられたこの“縛り”を夏油はすんなりと受け入れた。
「なら、まず一つ目の質問だ」
「いつでもどうぞ」
「……てめえ、マジで俺の知ってる夏油 傑
「もちろん。正真正銘の夏油 傑本人さ、それは君が一番理解してるんじゃないかい?」
「……ああ、そうかもな」
やはり、と言うべきなのか。
凛太郎の眼前にいる男は夏油 傑
「なんでここに、キヴォトスにお前がいる」
「恐らくは、君と同じさ。君と戦い乙骨に敗れ、そして気がつけばこのヘンテコな世界で目を覚ましたと言ったところかな」
「なるほどな……いや待て、憂太に負けた後って言ったか?」
「ん?……ああ、その通りだが」
何を今さら、君だって知ってるだろと言いたげに不思議そうな顔をする夏油。“縛り”によってその言葉が嘘ではないという事は理解できた、何よりもその程度のことで嘘をつく必要もないだろう。
夏油の言葉に凛太郎は口元に手を当てて考え込む。
「となると、渋谷にいたお前はやっぱ偽物ってことか」
「渋谷? いきなりになんの話だい」
「いや、てめえの偽物が渋谷で五条先生を封印しやがったんだよ」
「へ……は? 私の偽物が悟を封印?」
「まあ、それはいまは置いておくとしてだ」
「いやいや、ちょっと待ってくれ! さらっとすごい事言わなかったか!?」
「うるせえ。色々とややこしいんだよ、詳しく知りたきゃあとで教えてやる」
凛太郎の言葉に、夏油は口を大きく開けて驚いている。
まあ、五条 悟という男のチート具合を知っている人間からすればその反応は当然だろう。そして何より、あの最強を一番間近で見てきたと言ってもいい人間なら尚更の反応だ。
(……やっぱり、渋谷にいたこいつは偽物だったのか)
渋谷での戦い。
随分と小さくなったメカ丸の保険とやらから聞いた情報、その情報を元に大体の予想はついていたが実際にこの目で見る限り確信はなかった。
五条先生が秘密裏に夏油を逃していた、または夏油 傑と組んで渋谷での事件を起こしていた、なんて他の呪術師は予想していたがそれはないと凛太郎は考えていた。
『僕の親友だよ たった一人のね』
───そう言って、寂しさそうに笑った恩師の顔を今でも覚えている。あの時には既に夏油 傑という男の物語は終わっているのだから。
「とりあえず、とんでもない状況になってたのはわかった……だいぶ不味いんじゃないか?」
「ま、やばいだろうな。俺も途中で死んだからどうなったのかまではわからんが……頼れる大人と後輩、同級生たちもいるんだ、なんとかしてくれてるだろ」
「……そうか。それで、因みに君の死因は?」
「あ? あー、ちょっと両面宿儺とバトったら死んだ」
「……ん?……はい?」
「いやだから、呪いの王とバトって死んだ」
「………え、私の反応がおかしいのかこれって」
───あ、因みに後輩が両面宿儺。
───え、嘘、マジで? 呪いの王が後輩?
次々と凛太郎の口から出て来るとんでもない情報量に理解が追いつかず夏油の顔が宇宙猫のように面白い事になっているが、ひとまずは無視して話を進めていく。
「一旦話を戻すぞ……てめえこっちに来てからどれくらい経つ?」
「鋭いね……そうだな、詳しくは覚えていないが
「俺は一ヶ月とちょっと……いや、待ていま
次は凛太郎が夏油の言葉に目を見開いて驚く番だった。
何せ夏油の言葉は凛太郎からしたらありえない、聞き逃せない発言であったからだ。
「ああ、だいたい一年半くらいのはずだ。毎日細かく記録をつけたりなんてしていないが……それがどうかしたのかい?」
「……マジか」
まるで自分はおかしなことでも言ったか、そう言いたげな顔で夏油は凛太郎を見ている。
「嘘じゃねえだろうな」
「そんな嘘をつかないさ。そもそも、縛りで嘘はつけないし……私がいつ死んだのかなんて君なら把握してるだろ」
「……ああ、お前が死んでから一年も経ってないはずだ」
「───なんだって?」
夏油の言葉が嘘ではないことは理解していた。
夏油の言う通り、“縛り”も含めてそんなことでわざわざ嘘をつく必要がない事は理解している。
だからこそ解せない。
なにせ、夏油 傑という男が死んだのは2017年12月24日に彼が主犯となって行われた“百鬼夜行”という大規模なテロ行為とも言える事件の最後に彼は乙骨 憂太に敗れそして五条 悟の手によって命を落としているはずなのだ。
そして津上 凛太郎は2018年10月31日に渋谷で両面宿儺に殺されたのだ。
夏油の死から一年も経過していない。
凛太郎の説明に夏油も驚いて言葉を失っているようだった。
「ふぅ……よし、一旦難しい話は無しにしよう。これ以上ややこしくなれば俺の頭が痛くなるから」
「えぇ〜……」
「うるせ、次に行くぞ」
凛太郎は夏油が持って来ていたコーヒーを飲んだ後、気になっていたことを問いかけた。それは先程目の前の男と殴りあった際に聞いた興味深い事だ。
「
「言葉通りさ、私の術式……呪霊操術はキヴォトスに来てから機能してないのさ。術式は既に死んでいると言ってもいい、寧ろそういう君は使えるのかい?」
「あ? 普通に使えるが、俺の術式は元気ピンピンだよ」
「なるほど。ある程度の個人差があると考えれば納得できなくはないが、仮に私が術式が使えたところでこのキヴォトスに呪霊が
「は、何言ってんだ。呪霊ならキヴォトスにもいるぞ」
「……は?」
「結構前に一級程度の奴を一体祓ったぞ」
凛太郎が脳裏に思い浮かべるのは、キヴォトスに訪れまだ数日の頃。カヨコと初めて会った日のことだ、呪霊はこの学園都市に存在しないものだと思っていたがそうではなかったと予想を裏切られたような呪いとの邂逅。
妙に一級レベルの気配を感じづらい呪霊の存在。
またもや理解が追いつかない夏油は頭を抱えて項垂れるようにテーブルに肘をついていた。
「……私はこのキヴォトスに訪れて一年半、今まで呪霊を確認した事はない」
「───マジで言ってんのか」
「ああ、マジだ。この百鬼夜行以外にもゲヘナやトリニティ、他の自治区に足を運んだ事はあるが呪霊の気配なんて微塵も感じなかった。君もわかってるだろ、この都市の生徒たちが宿している呪力とはまた違う力を」
「……“神秘”ってやつか」
「その通りだ。原理は不明でどういう訳か、その神秘とやらで満ちたこの都市は呪霊が発生しない……君の話を聞くまではそう思ってたんだがね。祓った呪霊はその一体だけかい?」
「ああ。今のところはな、そもそもアレが本当に呪霊だったのかも怪しいが」
疑問が尽きない。
謎が謎を生む、情報が少なくお手上げとも言える現状に二人は揃って首を傾げて頭を悩ませていた。答えが出ない以上、深く考えても仕方ないかと凛太郎は思考を切り上げる。
そして次に気になったのがこの男がキヴォトスに訪れてからの交友関係や諸々の行動だった。
「そういや、イズナちゃんと出会ったのはいつだ? そもそもこの店はどうした、なんでパン屋なんてやってんだ」
「彼女と出会ったのは、半年前くらいかな。この店はキヴォトスに来て、猫の姿をした老夫婦に助けられてね……後継もいなく取り壊す予定だった店を私が譲り受けて経営させてもらってるというわけさ」
「けっ……呪詛師にパン屋が務まるかよ」
「っ……はは」
「あ? 何笑ってんだ」
「すまない……私も昔似たようなことを言った覚えがあったなと、つい笑ってしまった」
「そうかい……一応聞いとくが、その老夫婦とやらは殺してねえだろうな」
「もちろん、無事だよ。近くの一軒家で仲良く暮らしているさ、私も週末にはそっちに顔を出して色々と手伝いをしてる」
「……なるほどね」
「優しい人たちだよ……本当に」
───夏油の脳裏に過ぎるのは自分がこのキヴォトスに来て間もない頃の記憶。呪術師だけの世界を作るという夢を掲げ、道半ばで親友の教え子に敗れ最後は親友に看取られる形でこの世を去った。
そして気がつけば、この百鬼夜行の路地裏で彼は倒れていた。
乙骨 憂太との最後の戦いの影響で身につけていた袈裟はボロボロ、体も血で汚れていたが失った筈の右腕は何事もなかったかのように元通りとなっており、肉体に蓄積されていた疲労やダメージといったものも、最初からなかったかのような五体満足の状態だった。
当然、彼は困惑した。
確かに死んだ筈の自分がなぜ生きているのか。
様々な疑問があった。それでもまずは現状を確認するべく、彼は身を隠すように行動した。そしてこのキヴォトスという世界を知っていくうちに、その困惑も強くなっていった。
何せこの世界の住民たちは犬や猫といった動物の姿をしており、まるで普通の人間のように流暢に言葉を話すのだ。そして動物ではなく、人間の姿をしている女子生徒たちは本物の銃火器を当たり前のように装備しており時折抗争が起きてもいた。
そして何より、呪いの気配が存在しなかった。
最初はタチの悪い悪夢でも見せられているのかと思った。
当然、夏油はこの世界では完全な部外者だ。
帰る場所もなく、自分を知っている人間がいるわけでもない。自分が知ってる常識も通用しないような、完全に別世界の住人。
どれだけ強かろうと、夏油もただの人間だ。
飲まず食わずでは限界が来る。一ヶ月と言う短いようで長い期間、彼は野宿をしながらどうにか生きながらえていた。状況を飲み込めず、ただ一人別の世界へと放り出された。
空腹やストレス、彼は限界だった。
そんな時だった、自分に手を差し伸べてくれた人間と出会ったのは。
「あの時は、残飯の残りを食って生きながらえていたさ……もう少しで物取りにすら手を出すコソ泥になるところだったよ」
「……そうか」
懐かしむように、どこか遠くを見つめる夏油の様子に凛太郎は何も言えなかった。なにせ自分はこのキヴォトスに来てすぐ、運良くシロコたちアビドス対策委員会のみんなに拾われたが、目の前の男はそうではなかった。
見知らぬ地で彷徨う。
自分だってそうなる可能性は十分にあったのだ。自分を拾ってくれたアビドスのみんなに感謝すると同時に、自分はやはり恵まれていたという事実を噛み締める。
「彼女との出会いはこの店を手伝うようになってすぐだったかな。何度か遊びに来てくれて、今じゃお得意様だよ」
「───なあ、今も“猿”は嫌いか?」
「……そうだね、“猿”は嫌いだ」
「……っ」
「───だけど、そうだな。こっちに来てから、それもよくわからなくなってるかな……呪いも見えない呪術も使えない、そんな世界の住人たちに助けられて私は今ここにいる」
「………」
「少しだけ、自分の定義や信念が揺らいだ……というべきなのか。彼らに助けられ、そして彼らを助けるここでの生活は……悪いものじゃなかった」
夏油の言葉を凛太郎は静かに聞いていた。
まるで
それから二人は様々な情報を交換した。
ある程度の情報を交換し終えた、その事に気がついたイズナが二人の元へと混じりにはなんだか重くなっていた場を空気を変えようとして会話に花を咲かせてくれた。
イズナと親しげに会話をする夏油を観察しながら、凛太郎も談話に参加すればあっという間に時間が流れていった。
気がつけば、既に日が傾き始めていた。
「……うっし。じゃあ俺はそろそろ帰るよイズナちゃん」
「はい。今日はありがとうございました! 色々とありましたがリンタロウ殿と一緒に百鬼夜行を見て回れてイズナは楽しかったです!」
「そりゃこっちのセリフだって……イズナちゃんには色々な意味で助けられたよ」
「今度は店主殿も連れて一緒に遊びに行きましょう!!」
「あー、それは……うん、じゃあ3人で遊びに行くか」
「はい!」
いい笑顔で返事を返してくれるイズナの姿に、凛太郎は鼻の下が伸びてだらしない顔になりそうだったが、どうにか堪えて視線をその隣にいる夏油へと向ける。
「───いいのかい?」
「何がだ」
「……私を、見逃すつもりかい」
「勘違いすんな。俺は、アンタを許すことなんてできない」
「……そうだろね。それなら、いったいなぜ」
「だけどさ、今のアンタを憎み続けることができるのかって言われたら……正直よくわからない」
「───」
「俺バカだからさ、難しいことはわかんねぇ……だからアンタのことは一旦保留にする。けど、もしお前がイズナちゃんの信頼を裏切るような真似をするんだったら、容赦はしない」
「───そうか……私は」
「謝罪なんてするなよ。そんな真似してみろ、問答無用で殺すからな……わかったら、生き恥でも晒しておけ」
話はそれだけだ。
まるでそう告げるかのように、凛太郎は背を向けて歩いていく。そんな彼の後ろ姿が見えなくなるまで夏油は見つめていた。
これでよかったのだろうか。
凛太郎も自分の選択が正しいものだったのかなんて事はわからない。もちろん夏油に対する憎しみがなくなったわけではない、だからと言ってあの男を許せるのかと言われたら許すことなんて絶対できない。
だけど、あの時イズナの妨害を無視して夏油にトドメを刺していたとして、それで凛太郎の気が晴れるのかと言ったら、それは絶対にないだろうと本人は思っていた。
どれだけ自分が暴れても、嘆いたとしても、
「あーあ、俺なにやってんだろ……」
夏油は憎い。
八つ裂きにしてやりたい、惨たらしく殺してやりたい、そう思えるくらいには負の感情を抱いていた。だけども、結局この感情も自分の復讐も、とうの昔にあの百鬼夜行が行われた日に消化不良のように煮え切らない形で終わってしまった。
夏油 傑の亡骸の側に立つ五条 悟の後ろ姿を見たあの時、凛太郎は自分の復讐に一区切りがついた気がしてしまっていたのだ。あの事件以降、胸の内の復讐心というドス黒い炎、それは既に残りカスのようなものだった。
ただこの復讐心を忘れてしまえば、
「……お前があの頃のクソ野郎のままでいてくれたらどんだけ良かったか」
帰り道。
その足取りは酷く重いものだった。
津上 凛太郎
「ところでお前スマホ持ってる?」
夏油 傑
「型落ち品だけど……なら連絡先を交換しておこうか」
久田 イズナ
「あ、でしたら3人のトークルームでも作りましょう!」
ども。
急に寒くなりましたね、季節の変わり目で自分はやられました。
これで一旦夏油との話は終わりかもです。もうちょっと掘り下げようかと思ったんですけど、長くなりそうなのでカット。カヨコとの話の時に一回だけ出てきた呪霊についても少しづつやっていきたいけど……感想欄とかで鋭い人いてビビりますわ。
夏油に関しても感想欄殺意高くて笑ってました。
凛太郎の初恋の少女。
享年6歳。夏油傑の大量呪殺に巻き込まれて死亡。
……と思われていたが、中学生2年の春に凛太郎はか変わり果てた姿となった彼女と再会した。大量呪殺が行われたあの日、生きていた……いや、彼女は死にぞこなっていた。
そんな彼女は『探究心に満ちたとある呪詛師』が偶然拾われてしまった。彼女本人も知らない、“術式”と“特殊な体質”が興味深いものとして映ってしまていたのだ。
凛太郎と再会を果たした彼女にもはや自我はなかった。いや、そもそも楠木彩という“少女”はとうの昔に既に死んでいた。そこにいたのは楠木彩という少女の形をした怪物だった。
埋め込まれた呪物によって肉体と精神は蝕まれゾンビのような状態になっており、壊れたか機械のようにただ本能のまま暴れる肉塊、“呪い”を吐き出し続ける生物兵器に近い人造の“呪骸”と化していた。
───彼女も幼馴染の男の子が好きだった。
ぶっちゃけどの時間帯に更新されると読みやすい?
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07:00くらい
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19:00くらいやな
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21:00くらいやでー!!