透き通る様な世界観にいる一般呪術師 作:半ライス大盛り
僕はね、アツコに「私で童貞捨てたくせに」ってに言って欲しかったんだ(突然の性癖の開示&星5童貞をアツコに奪われた報告)
神名のカケラの存在を完全に忘れてて貯まりに貯まってましたわ。
おかげで星5キャラめっちゃ増えた。それはそうとファンパレやってる人いますかね? 始めるか悩んでるんですよね〜。
「リンタロー。こっちは終わったよ」
「………」
「リンタロー?」
「……え? ああ、えっと……どうかした?」
「ん……頼まれてた書類は終わったけど、そっちはどう?」
「へ……あっと、ごめん!……俺のほうはまだ、です……」
「……大丈夫?」
「───え、大丈夫大丈夫! ほら元気いっぱいだって、さっさと終わらせてご飯でも食べ行こっか!」
「……うん、そうだね」
場所はシャーレオフィス。
事務室にて凛太郎は山積みになったシャーレや他の自治区関連の書類整理の作業を行なっていた。その隣にはシャーレの先生から助っ人として呼び出されたシロコの姿があった。
約一週間と数日ぶりの再会であろうか。
凛太郎はシロコとの再会を喜びながらも、シャーレの先生が残していった書類の山を前にして素直に喜べずにいた。シロコも凛太郎の再会に笑みを浮かべていたが、積み上がった書類を見るや否や表情を険しくして席についた。
「ん、この書類はそっちで確認して」
「………」
「リンタロー、聞いてる?」
「あ、はい。ただいま確認いたします〜」
「……そっちじゃなくて、この書類だよ。そっちは先生が確認しなきゃいけないやつだから」
「へ? あ、やべっ」
シロコの言葉に凛太郎はギョッと目を見開いた後、今しがた自分が確認盧サインをつけた書類を見直してみれば、確かにその書類は自分ではなくシャーレの先生がサインをしなければいけないものだった。
凛太郎はシロコから手渡された書類ではなく、別の場所に積み重なっていた関係ない書類に手をつけてしまっていた。
その事に気がついた凛太郎は慌てた様子でどうにか間違いだらけの確認済みサインを消そうとしたが、シャーペンや鉛筆などで書いたわけではないので消せるはずもなく、修正液を探してゴソゴソと机の引き出しを弄り回している。
「………」
そんな凛太郎の様子を、シロコはジッと見つめていた。
どうにかこうにか書類を修正しようとした凛太郎だが、下手に修正して書類が使い物にならなくなるくらいなら、シャーレの先生に丸投げしちまうかと諦めて、先生の事務机の上にそっと書類を放置しておいた。
なんの解決にもなっていないのに、まるで一仕事終えたかのような姿で席に戻って仕事を再開しようとする。
「───リンタロー、何かあった?」
「……え、いや別に、何もないざますよ」
「……ん、嘘はつかなくていい」
「い、嫌だなぁ。シロコちゃん、俺嘘なんてついてナイヨ〜」
シロコの言葉にドキッ、と心臓が跳ね上がるような感覚に襲われる。
「今日のリンタロー、何か変だよ」
「……そんなことないって」
「うん……そのセリフは私の目を見ていうべき」
「いや、その、日差しが強くて逆光が」
「今日は曇り、それにここはカーテンもある屋内だから関係ない」
「……あ、あっち向いてホイでもする!?」
「ん、それは後でやろう」
シロコがシャーレに到着し仕事を始めて1時間程度だろうか、とうとう痺れを切らしたような様子で彼女は凛太郎へと詰め寄った。
なんだか少しだけ怒っているようにも見える彼女の姿に凛太郎も戸惑った様子、場を和まそうとしてみたがそんな凛太郎のフォローはバッサリと切り捨てられた。
グイグイと詰め寄って来るシロコに戸惑いが隠せない。
鼻先が触れ合いそうになるくらいに接近され、なんだがシャンプーのいい匂いがしているが、ドキドキしてられる余裕もない。なにせ目の前には明らかに不機嫌そうなシロコが座った目でジッとこちらを見つめているのだから。
「リンタロー」
「は、はい!」
「もう一回だけ聞くよ……なにか、あったんだよね?」
「い、いや〜、そんな事は───」
「リンタロー」
「───あったかもですねぇ!」
ハァ、とシロコは重い溜め息をついた。
そんなシロコの姿に凛太郎は冷や汗を流しながら、落ち着かない様子で視線を右へ左へとキョロキョロと忙しなく動かしている。なんだが自分に向けられる視線が鋭く突き刺さっているのを肌で感じることができた。
鋭すぎる視線に耐えきれず口が滑る。
「何があったの?」
「そ、その、お財布無くしちゃって」
「嘘……さっき自動販売機でジュースを奢ってくれた」
「……す、スマホどっかに落としちゃったかな〜、なんて」
「それも嘘……さっきリンタローのスマホの待ち受け画面を私とのツーショットに変えておいた。スマホのロックくらいは掛けておくべき」
「ッ!?」
これ以上誤魔化すようならこちらにも考えがある。
まるで視線でそう訴えかけて来るようなシロコの鋭い目つきに、凛太郎は顔を背けて気まずそうにしている。なんで彼女がこんなに怒っているかのようににじり寄って来るのか見当がつかない凛太郎。
しかし、シロコからしたら当然とも言える反応であった。
なにせ彼女がシャーレに到着して彼と仕事を始めてからというものの、凛太郎はずっと心ここに在らずと言った様子でボケーっとしており何度もミスをしているのだ。先程のようなミスも初めてではなく、何度も不注意でミスを起こしている。
話しかけても無反応、漸く反応したかと思えば話は聞いておらず、その上書類の上に飲み物をぶちまけていたりもした。
(……もしかして、先生が私を呼んだのってリンタローの事で?)
時間は丁度お昼時と言ったくらいの頃だっただろうか。シロコの元に突然シャーレの先生から連絡が届いたのだ、その内容は溜まりきった事務仕事を一緒に片付けて欲しいとの事だった。先生の頼みということもあり、何より凛太郎とも久しぶりに顔を合わせることができると考えたシロコは二つ返事で承諾した。
しかしシャーレに到着してみれば先生の姿はなく朝から他の自治区へ出かけているという、そしてその場にはなんだか様子がおかしい凛太郎だけが残されていた。
そのうえ頼まれた事務仕事はどれもまだ余裕があるものばかりだった。
以上の事から、シロコは自分がなぜ呼び出されたのかを何となく理解した。ならば、彼女がやる事は一つだけ。
「あー、えーっと……」
「………」
これ以上、言い訳をするな。
シロコの視線がそう訴えかけて来ているの理解した凛太郎はダラダラと冷や汗を流している。まるでプロの殺し屋にでも尋問を受けているかのようなプレッシャーすら感じる、今の彼女にはそれだけの圧があった。
「リンタロー」
「な、なんでございましょうか?」
「私は、リンタローに感謝してる」
「……へ?」
「アビドスで、リンタローにはずっと助けられて来た。それなのにリンタローが困ってる時に力になれないなんて、私は嫌だよ」
「……っ」
「……それとも、私やみんなには相談できない事?」
純粋にこちらを心配している優しい眼差しだった。
凛太郎は彼女からそんな視線を向けられるのがなんだかむず痒く、なんて言葉を返せばいいかのかわからなくって気まずそうに視線を逸らしてしまう。
彼女が一歩も引かないであろうことを理解させられた凛太郎は、根負けしたようについポロッと言葉をこぼしてしまった。
「───シロコちゃんはさ、誰かを殺したいくらいに恨んだことってある?」
「……え?」
「……ごめん。今のやっぱ無し、聞かなかった事にして。あの、その、ほら、あれだ! ちょっとシャーレの仕事してるとそういう相談とか来るのよ、だからその、なんとなく気になったけというか……ほんと、気にしないで」
───やらかした。
予想だにしないしないような質問に、顔色を変えたシロコの様子からすぐに己の失態を理解した。いきなり自分は何を言っているんだ、こんなことを彼女に相談したところで相手を困らせてしまうだけだ。
そう思って、なんとか誤魔化そうとするが凛太郎は途中から自分でも何を言ってるのかわからなくなっていた。
「と、とりあえず、さっさとこの書類整理終わらせてご飯でも行こうか!」
「……ふぅ」
「大丈夫だって、さっきのはなかった事にしてくれていいから」
「ん、リンタロー、ちょっと時間もらうね」
「へ?」
つい、ポカンと口を大きく開けて固まる。
そんな凛太郎をよそに、シロコは彼の手を掴むと有無を言わせず立ち上がらせる。一体何をしようとしているのか、見当もつかないまま凛太郎は抵抗する事なく手を引かれるがまま彼女についていく。
向かう先にあったのは来客用の大きなソファだった。
「こっちに座って」
「は、はあ……?」
誘導に従い、素直にソファに座ると彼女もその隣には腰を下ろした。
「えっと、シロコちゃん……これってどういう状況?」
「ん……くすぐったいからあんまり動かないで」
「す、すんません!」
理解出来ない事に襲われると思考が止まるというが、こういう事なのだろうか。凛太郎は現在自分が遭遇している状況に思考が止まり、呆然と視線を向けている。
後頭部にはなんだが柔らかい感触、そして視線の先には自分を見下ろすシロコの整った顔立ちが広がっている。簡単に状況を説明すると、凛太郎はシロコに膝枕をされている。
なぜに膝枕をされているんだ?
ソファに座ったと思ったら、シロコに肩を引かれて半ば無理やり押し倒される形で膝枕をされていた。急すぎる彼女のアクションに呆気に取られ困惑するしかない。
「……リンタロー、最近ちゃんと寝れてる?」
「あ、いや、寝付きは悪いかも、です……」
「睡眠は大事だから、しっかり休まないとダメ」
心配そうにこちらを見る彼女に、見抜かれた事に驚きながら苦笑いを浮かべて誤魔化すしかない。
ここ最近、どうにも寝つきが悪い。
眠る事はできても、すぐに目を覚ましてしまうのだ。夢の中に出て来る少女、奥底に封じ込めたはずの記憶を、脳裏に焼きついた変わり果てた姿と少女の命を奪う瞬間を繰り返し再生するかのように何度も見せつけられる。
その原因を、凛太郎はなんとなく理解していた。
あの日、百鬼夜行の自治区で偶然にも再会した夏油 傑との邂逅の後、どうにも夢見が悪く寝付けない日々が続いていた。元々、悪夢に魘される事はあったが更にそれが酷くなっているように感じた。
「ここには、私とリンタローしかない。私はシャーレの仕事をしてた……だからリンタローの
「……ははっ、人に話せるような事じゃないよ」
「大丈夫。私は独り言に相槌をうつだけ」
「そっか……じゃあこれは俺の独り言だ。そうだな、俺の友達からの相談事って事にしようか」
強引な子だな。
けれど、とても優しげな声色で語りかけてくれる少女に自然と笑みが溢れた。自分の抱えている悩みなど、とても人に聞かせられるような話ではない。
だけど、なぜか彼女に自分の話を聞いて欲しくなった。
「そいつはさ、子供の頃は娯楽も何もない小さい集落に住んでたんだ。無知で馬鹿で、喧嘩ばっかりなやんちゃ坊主だった。問題事ばっかり起こしてたからしょっちゅう大人に怒られて、周りの子たちからもちょっと避けられてたんだよ」
「………ん」
「けど、生意気なガキにも大事な友達がいたんだ。その子は大人しくて優しくて、周りの子達からは好かれてる……そいつとは正反対な女の子だった。周りからの評価とかレッテルとか関係なしに接してくれる、優しくて聡い子だ」
凛太郎の言葉をシロコは静かに聞いていた。
彼女はただ静かに、膝の上で今にも泣きそうな震えた声で喋る少年のハネた黒髪に指を通し梳かしていた。
「最初は鬱陶しいなんて思ってた……けどいつの間にか、その女の子の事が好きになってたんだ」
「ッ……そっか」
「ずっと一緒に居られたらよかったのに、それも無理だった。女の子とは離れ離れになっちゃって、気がついた頃にはもう手遅れで、帰る場所も友達も、好きな子だって、いつの間にか“悪い奴”のせいで全部なくなってたんだ」
少しだけ、言葉を濁して伝える。
呪いを知らないこの世界の少女に、殺し殺されなどと伝えられるはずもない。凛太郎は言葉を選びながら、掻い摘むように話していた。なんとなくそれに気がついたシロコも、何も言わずに話を聞いている。
「それからそいつは、心に大きな穴が空いたみたいに過ごしてたよ。どれだけ暴れたって、どんなに勉強したって、何をしても……全然満たされなかった。何の為に生きてるのかだってわからなくなってた」
「そんな時、そいつは居なくなった筈の女の子と偶然再会したんだよ。女の子は自分の事なんて忘れてて、様子もおかしくて別人なんじゃないかって思うくらいに人が変わってた。それで……うん、最終的には女の子とは喧嘩別れみたいな感じで、もう会えなくなっちゃったんだ」
「それからそいつもちょっとだけ大人になって、前を向いて歩こうなんて思ってた時に……今度は自分の大事なものを全部奪って行った“悪い奴”と再会したんだ」
「許せなかったよ。殺してやりたいとすら思うくらいに、そいつのことを恨んでたんだ。悪い奴からもう奪われないようにって護る為に身につけた力も、今度は自分が悪い奴になって奪い尽くす為に使おうとしてた」
凛太郎の脳裏に過ぎるのは、2017年12月24日に新宿で夏油 傑が引き起こした未曾有の大規模呪術テロである“百鬼夜行”。彼はこの戦いに参加していない、いや
自分の前に姿を現した夏油 傑という存在によって、この時の彼は怒りを露わにして“暴走状態”とも言えるような様子であった。わざわざ相手の都合を待つ必要もないと、夏油が呪術高専に姿を見せた時に彼は周りの被害を考えずに派手に暴れた。
その事から、彼のこれ以上の暴走を危惧した五条 悟や高専関係者たちによって取り押さえられ問題が片付くまでの間だけと、呪力を封じ込められ高専の一室に拘束されてしまっていたのだ。
しかし百鬼夜行当日に夏油 傑は新宿に現れず、乙骨 憂太を狙い高専内部に侵入して来たのだ。その事に気がついた凛太郎は自身に施されていた封印の拘束具を無理やり破壊して、夏油の元へと辿り着き彼と戦った。
怒りと言った負の感情は呪術師にとって重要な
しかし彼は夏油に敗れた。
凛太郎は自傷を顧みず、捨て身の攻撃によって戦闘では呪霊の大群と夏油を相手に優位に立てていた。しかし、
「───けどさ、結局そいつは
本気で殺してやろうと思ってた。
あの殺意も憎しみも、紛れもなく本物だった。
トドメとも言える瞬間。
呪力を乗せた拳を叩きつける寸前。
凛太郎の拳は止まった、止まってしまった。
その瞬間、凛太郎の脳裏を過ったのは自分が殺した少女の姿だった。忘れたくても忘れる事のできない色濃く焼きついてしまった、命を奪うという行為の感触。
凛太郎が人の命を奪ったのは、両手の指で数えられる程度だ。凛太郎本人はわざわざ数えてなどいないと言っているが、それは嘘だった。しっかりとその数と相手のことを覚えている。
そのどれもが、自ら望んで人を殺したわけではない。
助けられた筈なのに助けられなかった人間、嬉々として人を殺す呪詛師との戦闘、事の経緯は様々だった。
呪術師としてなりたての頃、とある任務で自分を狙い襲い掛かって来た呪詛師と戦闘。戦闘経験も浅く、凛太郎は苦戦を強いられた。止むを得ず、殺害という手段でしか決着をつけられなかった。
戦闘後に何気なく覗いた自分が殺した相手の荷物の中から、幼児向けのおもちゃが入ったプレゼントと、メッセージカードが添えられた小さなバースデーケーキが無惨な姿となって出てきた事があった。
どういった理由で道を踏み外したのかなんて知らない、だけど自分が殺した
足が震えた。
耳鳴りと眩暈が止まらなかった。
小さな子供から自分が奪った、それに気がついた凛太郎は胃の中が空っぽになるまで吐いた。いつまで経っても彼が帰って来ないことを不審に思った補助監督になってまだ日の浅い
それが凛太郎にとって二度目の殺人。
「イキるだけイキっておいて、大事な時にビビって何もできなくなる……本当は意気地なしでみっともない、そーいう奴なんだよ」
夏油に敗れ、自分が目を覚ましたのは全てが片付いた直後だった。痛む体に鞭を打って、気配と残穢を辿り逃げたと思われる夏油の後を必死に追った。辿り着いた先で凛太郎が見たのは、既に事切れた夏油の姿とその側に静かに立ち尽くした恩師の姿だった。
『……意外と早かったね、凛太郎』
『五条、先生……っ……そいつは』
『もう、終わったよ……凛太郎が恨んでたのは知ってた、けどごめん。これは僕がケジメをつけたかった』
そう言って背を向けていた五条に掛ける言葉も見つからず、ただ茫然と立ち尽くした。俺が殺したかっただとか、どうして邪魔をしたんだだとか、なんて恨み言は出て来なかった。
そういった感情がなかったわけではない。
けど、それ以上に心のどこかで安堵していたのだ。自分が人を殺めずに済んだ事に、手を汚さずに済んだ事に対して、そして己の復讐が人知れず終わっていた事に。
キヴォトスで夏油と再会して、凛太郎は彼を見逃した。
けどそれは何も、イズナという健気な少女の説得に応じて彼を見逃したわけではない。寧ろその逆で夏油を殺さないという選択肢の為に、自分が手を汚さずに済む為の言い訳として、彼女とあの子の面影を利用したに過ぎない。
命を奪うという行為を恐れて、呪術師ではなく呪詛師という立場に堕ちる事を恐れて、少女の存在を言い訳にして“選択する”事から逃げた。
夏油が自分の記憶の中に残る人間のままでいてくれれば、恐れずに殺せたのかもしれない。この先、もしも彼がまた同じようにかつての目標を掲げた時のように人に害する行為を働けば躊躇いなく殺せるかもしれない。
何せ、
だけど、あの
『復讐してもしなくても大切な人は帰ってこないので復讐した方がスッキリするんじゃないかな』なんて誰かが言ってた気がするが、それでスッキリできるほど殺し殺されを心の奥底で恐れている凛太郎には単純に考える事はできなかった。
「───カッコつけてるだけで本当は臆病者で狡くて卑怯な奴なんだよ、それがそいつの……津上 凛太郎って男の正体なんだ。どお、幻滅しちゃったシロコちゃん?」
自嘲するように笑う。
彼女からの返事はない。
シロコは何も言わずに、ただ静かに凛太郎の髪を撫でていた。まるで教会の懺悔室で己の罪を告白する信徒になった気分だ、彼女から何を言われるのか怖くて逃げたくなる。けど、己の身を案じてくれる優しい少女の前からまで逃げ出す訳にもいかない。
「リンタロー」
「……ッ」
彼女の呼び声に、肩が震える。
なんて言われるのだろう。
蔑まれるのだろうか、もしくはそんな人だと思っていなかったなんて絶叫されるだろうか、例えどんなことを言われても凛太郎は受け入れるつもりである。
「幻滅なんて、するわけない」
「………!」
「さっきのは、リンタローの独り言……だから、今度は私の独り言だよ」
凛太郎の予想とは裏腹に、彼女は優しく微笑んでいた。
視線を逸らそうとする彼の頬に手を添えて、揺れる瞳に真っ直ぐ視線を合わせてた。触れれば壊れてしまう、シロコにはそう思ってしまうくらいに今の凛太郎が脆く小さい、年齢相応の子供のようにも見えていた。
だからちゃんと言葉にして伝えようと。
「───ん、ありがとう」
「アビドスに来たのが、私たちを助けてくれたのが、リンタローでよかった。私は本当にそう思ってるよ。今だって、これから先だってずっと……あの時、あの場所で、私が出会えたのがリンタローで本当によかった」
言葉足らずで不器用な彼女なりの、精一杯の気持ちの伝え方だったのだろう。シロコは凛太郎のことを一切責めなかった。ただありのままを受け入れて、そしてお礼を言った。
凛太郎が何に対して悩み自責の念に駆られていたのか、シロコは理解してはいない。呪術師としての責務や責任、血生臭い呪いの戦いなど彼女には語り聞かせてはいない。根本的な解決方法など、わかりはしない。
それでも、あまり自分の事を多くは語ろうとしない少年に寄り添い手を差し伸べるべきだという事は理解していた。
自分を臆病者だと罵る少年は、いつだって自分たちの前に立って戦ってくれていた。
「リンタローは、優しいね」
「……そんなことないよ」
「ううん、私が知ってるリンタローは優しい人だよ。いつもはふざけてて、色んな女の子にデレデレしたりしてるけど、必ずみんなの前に立って戦ってくれた。どんな時も、ずっと私たちを助けてくれてた」
「……ッ!」
「だから、ありがとう」
言葉が出て来なかった。
彼女の言葉を否定しようとしても、声にならない言葉が掠れた息となって小さく吐き出されるだけだった。こちらを見下ろす彼女の優しい瞳に、ただ飲み込まれていった。
────差し込む日差しを背に影が一つに重なった。
『嫌な事も、辛い事も、たくさん……あるかもしれない。神さまは意地悪だからな……けど、だからってめげるな。生きてりゃそのうち、全部笑い話にできる日が来るさ……人生、そう悪いこと、ばっかじゃない』
『だから、
『宿儺の器がなんだってんだ……俺さ、割とお前の事気に入ってんだぜ後輩。そんなお前が、死んだら…おれは……かなしいよ』
『あー、クソ。どうせ死ぬなら、男じゃなくて女の子に看取って貰いたかったね』
『……ははは、んな顔すんな。ほら、もう行けよ…っ…お前にはまだやる事があんだろ……おれはここでリタイア、悪いな情けない……せん、ぱいで』
「────悠仁」
「………ッッッ!!」
意識が引き戻された。
壁に寄りかかり、微睡に包まれかけていた自分を意識をどうにか繋ぎ直した。バッと身を起こして即座に周辺を警戒する。周辺に人の気配はない、あるのはただドップリと浸かり込んだような呪いの気配だけだ。
「……時間は?」
「ざっと15分と言ったところか。それよりも、怪我に具合はどうだ?」
「……黒閃をくらったとこ以外は、まぁ平気」
どれくらいの時間、意識を失っていたのか。
少年───虎杖 悠仁は確認の意を込めて、なぜか自分と殺し合った仲だというのに自分の身を案じて行動を共にする脹相へと視線を向ける。視線の先にはこちらを見守るように立つ、独特な髪型と浮世離れした雰囲気を醸している端正な顔立ちの青年。
「多分、宿儺の影響だ。アイツの力が大きくなってるのを感じる」
あの渋谷での戦いから、まだ一週間も経っていない。
だというのに疲弊し傷ついた肉体は万全とはいかないものの、既に十分な行動ができる程に回復していた。あれだけ傷だらけだった肉体は反転術式による治癒もなく完治しかけている。
悠二はそれが自分のうちに潜む呪いの王の力の影響である事を理解していた。
無意識のうちに、強く拳を握る。
「悠二、俺に気をつかうな。高専に戻ってもいいんだぞ、俺も焼相たちの亡骸を回収したいしな」
「つかってねえよ……俺が高専に戻りたいかどうかの問題じゃねぇんだ」
戻れる筈がない。
あれだけの事をしでかしておいて、今さらどんな顔して戻れというのか。悠二は幽鬼のように力なく立ち上がると。腸相に背を向けたまま暗闇を歩き出した。
脳裏を過ぎるのは、両面宿儺が引き起こした虐殺。
そしてそれを止める為に力を尽くしてくれた大事な先輩の最後の姿。
「宿儺が伏黒を利用して、何か企んでる」
「それに俺は人をいっぱい殺した」
「自分を止めてくれようとした、先輩だって……俺の所為で死んだ…っ……!」
ごめん先輩。
俺はもう皆と一緒にはいられない。
───約束は、守れそうにないかもしれない。
禪院直哉
「なんや、あの田舎者ホンマに死んだん? 身の丈に合わん生き方しとるからそうなるんやろ」
虎杖悠仁
「ッ……いまなんつった」
乙骨憂太
「………(ヒーロー着地からの無言の裏拳)」
どもども。
感想、評価、お気に入り、皆様誠にありがとうございます。
思ったよりも皆様から反応あってびっくりですね。
色々な感想に目を通して、確かにそうだよな〜ってなったりする意見もあって反省&作者の実力不足が原因なので申し訳なく思います。
いや、納得いくような結果じゃなくてごめんね、としか。でも復讐物というか、そっち方面を強く書いてるつもりはなかったので……すんません。
補足といいますか。
夏油を登場させたのは自分が出したかったってのが大きいですけど、エデン条約か最終章の後で凛太郎と夏油を「人外魔境新宿決戦」にミレニアムパワーでぶち込むつもりだったので登場させました。ちょっと気が早すぎた気もしますけど。んで多分そこで死んでもらいます。
凛太郎が夏油を許す許さない云々も、凛太郎が問題から目を背けていたり、なあなあにしたりしてるって感じです。結局、凛太郎が我が身可愛さで問題を先送りしてるだけです。
殺す殺さない、というよりは“殺せない”が正しいのかも。殺したとしても後で冷静になっておかしくなるタイプです。凛太郎はイカれきれてない呪術師、って感じで執筆してるので「こいつ面倒くさい葛藤してんな〜」くらいの気持ちで見てもらえれば。
あと、ある意味で凛太郎の“分岐点”のつもりで書いてましたね。あそこで一線越えてればBADENDというかクロコルートというか、そんな感じ。
夏油に関しても、改心したというよりは「あっちで色々とやりきったからもういいや!」みたいな燃え尽き症候群というか、賢者タイムで枯れてます。引退して隠居してる老兵ポジって感じです。
呪術サイドはまだ渋谷編終わったばっかの時間軸辺りですかね。
こっちだとまだそんなに時間は経ってない設定です。別の世界なんで時間の流れが違うってやつですね。
とりあえず、これで幕間は終わりかな〜。
幕間での感想は返せないかも、なんかこう、色々な意見に目を通していざそれを文字にすると自分の意思が曲がりそうなので。
ぶっちゃけどの時間帯に更新されると読みやすい?
-
07:00くらい
-
19:00くらいやな
-
21:00くらいやでー!!