透き通る様な世界観にいる一般呪術師   作:半ライス大盛り

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どうもどうも、投稿遅れました。
最近寒さが増してきてキツすぎるっす、冬服出すのめんどくさくて未だに寝巻きが半袖のワシは凍えて死にそうです。

花のパヴァーヌ編に突入するんですが、下準備というかアキラを加入させたいので今回はぶっちゃけアキラ回かも。許して慈愛の怪盗ちゃんのこと好きなんだ。本格的絡ませるかはその時の気分なんですけどね。

がっつりパヴァーヌ編をやるのは次回からですね。

呪術もアニメが終わりそうで悲しい。
そいえば今週の呪術の裏梅が言った現代の呪術師の人間性がうぬんの話はグサグサ来ましたわ。


感想、評価、ここすき、誤字報告にはいつも感謝してます。返事を返すのにびびって放置してた感想も今回から返していけたらいいなと思いまする。

ではどうぞ。

あ、これは自給自足した凛太郎です。
ほぼトレスなのは許してくだちい。


【挿絵表示】











時計じかけの花のパヴァーヌ編
私 ぶっちゃけ 今日ノリで来たんで


 

 

 

 b月☆日

 

 

 アビドスの女子生徒に唇を奪われる男、スパイダーマッ!(やけくそ)

 

 あー、ダメです!

 女の子がそんな軽々しく男に近づくのはお兄さん的に良くないと思います! 男ってのはね、どうしようもない狼なんですよ! エッチすぎるのはダメ! もっと段階踏んでいこうや!

 

 そうじゃないと俺の心臓が持たないっすわ!

 とりあえず、手を繋ぐレベルからお願いします!

 

 ……ふぅ〜、落ち着けよ津上 凛太郎。

 男はいつだってクールに行こうじゃないか。

 

 まだ慌てるような時間じゃない。

 心頭を滅却すればなんとやらだ、この程度の苦難なんていくらでも乗り越えて来たじゃないか。そう、今までの血生臭い戦いとか宿儺と殺し合うハメになった事とかを考えれば、なんてことないトラブルのはずだ。

 

 そうだ、ふざけて女装してたバカ目隠しの姿でも思い浮かべれば、萎えて心が落ち着くはずだ。

 

 そう、なんてことのないトラブルだ。

 たとえそれがシロコちゃんに……き、いや、接吻をされるような事であろうと、俺は余裕を持って対処できるはずだ。そうべちゅにくぁwせdrftgyふじこlp……ンンッ、なんの問題もない。

 

 そ、そんな簡単に堕とされるなんて、俺はちょろくなんてないんだからね!

 

 ───いや、やっぱむりでち

 

 一瞬だったけど柔らかった。

 というかシロコちゃんめちゃくちゃ可愛かったんですけど! いきなり過ぎて何が起こったのか理解できなかったけど、そんな簡単に男の子との距離を詰めるのはやっぱりダメだってありがとうございます!

 

 唖然としてる俺を見てちょっと恥ずかしそうに笑うのは反則です。

 

 あー、しんど。

 可愛いは正義って言うけど、可愛い過ぎるのは罪だよね。もうハートは射抜かれちゃったも同然だよ。まあ、俺はちょろくないからまだ堕ちきってはないけど!

 

 何度でも言う。

 そう、おれはべちゅにちょろくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 b月j日

 

 

 ───うわ、きも(前のページを見返しながら)

 

 動揺が酷すぎてだいぶキモい事になってる。

 え、これほんとに俺が書いたん? あ、そっか俺か、いつもこんな感じで殴り書きしてるか。しかし我ながらどんどん酷い事になって行くなこの日記帳、絶対誰にも見せられないって。シャーレの先公とかに見せたら絶対ネタにされる。

 

 よし、とりあえずメンタルリセットは完了したので落ち着いた。

 

 まさかシロコちゃんがあんな大胆な行動に出るとは。もしかして俺ってそんなに態度に出やすいほうだったのか? だいぶ前から先公にも妙に心配されてたし、当番手伝いに来てくれてたユウカちゃんとかも俺の顔見るなり「ちょ、大丈夫!?」って驚いてたからな。

 

 うん。今度からは気をつけよ。

 それもこれも、全部あの夏油 傑って奴の所為だな。うん、アイツが悪いわ。今度あいつの店のネットレビューに「店員が胡散臭くて変な前髪です」って低評価爆撃でも叩きつけてやる。あとデカいドリンクサーバーも付けろ。

 

 いやしかし、まさかまさかの、とうとう俺にもモテ期到来……ってコト!? いや、前から割とモテてたけどね!

 

 でも、これってつまり()()()()()()でいいんだよね!?

  俺のクソダサい勘違いとかではないよね!? 意外と距離感の近い子に対してもしかして俺に気があるのかってなった後に「津上くんのことはそういう目で見れないかな〜」とか急に言われたりしない、よね!? あれ結構トラウマになるよ!?

 

  いやマジで、すげー怖いんだけど!

 

 ……うん、思わせぶりな女の子って怖いよね。

 いやまあ、シロコちゃんとかホシノちゃんに限ってそんなことはないだろうけどさ。

 

 いや、だとしても心配だ。もし仮にこれが俺の勘違いでないとしてだ。こんな事言うのは失礼かもしれないが、彼女たちその内悪い男に捕まりそうで怖いよ───そんなヤローが居たらもちろん捻り潰すが───俺を、というかシロコちゃんたちはもう少し男を見る目を養ったほうがいいよ(曇りなき眼)

 

 とりあえず、俺も距離感もうちょい考えたほうがいいのかも。

 

 思春期の女の子に対してそんなにベタベタしに行くのもやっぱりダメだよね。いや、けどやっぱ女の子とイチャイチャしたい。俺はいったいどうすればいいんだ。いっそのこと今度マリーちゃんに懺悔しに行くべきか?

 

 まあ、それはそれとして話題を変えよう。

 どうやら俺が百鬼夜行でちょっと暴れたことがシャーレの先公の耳に届いていたらしい。もちろん、しっかりとお叱りを受けた。どこから情報が漏れたのか気になったが、どうにもイズナちゃんがちょっとだけ口を滑らせてしまったらしい。

 

 といっても彼女も夏油から口止めをされていたようで、必死に誤魔化したようだ。シャーレの先公が知っているのは俺が百鬼夜行のどこかで揉め事を起こした、という程度の認識みたいだ。

 

 いやまあ、事情を知らない人からしたら、0対100で俺が100悪いんだろうけど。

 

 わざわざひけらかす様な事情でもないので、右から左へ聞き流すようお叱りの言葉は受け取っておいた。で、その際シャーレの先公がお詫びの品を持って謝罪をしに行こうとしていたが俺がそれを必死に食い止めた。

 

 いや、大丈夫だってあの変な前髪にそこまでしなくても。

 

 それでも「生徒が問題を起こしてしまったなら、大人としてしっかり誠意を見せに行かないと」なんて菓子折り片手にちょっといい事言いながら食い下がってきたので「実はその相手はイズナちゃんに手を出そうとしてたロリコンなんだ!」って咄嗟に嘘をついておいた。

 

 その言葉に先公は驚いた顔をした後「そ、そうなんだ」ちょっと引き気味な顔をしてた。今度イズナちゃんに何かされなかったか事情を聞きに行くとかなんとか。

 

 というか、お前がそんな顔する資格ないからな?

 お前生徒のパンツに顔埋めてただろ?

 

 なんか余計にややこしくなった気がする。

 それと夏油、正直すまん。俺の所為でシャーレの先公からの認識が百鬼夜行にいるロリコンになってしまったが、まあ甘んじて受け入れてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 b月¥日

 

 

 呪い発見。

 ちょっとめんどくさいことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 b月@日

 

 

 現状確認。

 生得領域?もしくは結界術?と思わしき場所に閉じ込められた。なんだか気配がチグハグな為、これがどちらに属するものなのか判別ができない。というか結界術はそこまで熟練度が高いわけじゃないのでわからんちん。

 

 しかも俺だけが閉じ込めれたわけじゃない。

 この場には俺だけではなく、最悪な事にキヴォトスの生徒も一緒だ。その子はなんと以前、シャーレ経由で警備の仕事を受けた時に出会した自害の……じゃなかった『慈愛の怪盗』だがなんとか呼ばれている怪盗ちゃんだ。

 

 あらやだかわいい。

 白いタキシード風の衣装に目元を覆う白いドミノマスクが特徴でなんとも可愛らしいね。それとこの怪盗ちゃんは『七囚人』と言われる人物の一人らしい……いや、なにそれ知らんって。

 

 軽い自己紹介をした時に、怪盗ちゃんの話を聞いていて首を傾げていた俺に少し驚いたような反応と共に説明してくれた。どうもどうも。すいませんわざわざ、優しいね。ところでモモトークやってる?

 

 なんでも、元々は『ヴァルキューレ警察学校』の『連邦矯正局』とやらに収監されていたマジもんの囚人達だったらしいが、『連邦生徒会長』とやらが失踪したことで各学園や『連邦生徒会』の施設各所が混乱した隙をついて脱獄した……らしい。

 

 え、それコスプレじゃなかったの?

 という事はもしかして君って本当に怪盗だったの?

 

 前に追いかけっこした時もマジで盗みに来てたのか。

 まあ俺もそれを阻止できず結局は物を盗られたけど。万引き犯追いかけてるくらいの気持ちだった。

 

 ぼけーっと話を聞いていたら呆れられた様にため息をつかれた、ごめんて。「まさか(わたくし)が、こんな間が抜けてそうな人に捕らえられそうになったなんて」とか言わないでちょうだい、普通に言葉の棘が鋭くてグサグサくるから。

 

 

 

 とりあえず、なぜこんな状況になったかを軽く説明すると。

 

 そう、あれは確か、先公がゲーム開発部?なるものたちに救助を求められシャーレを離れた後、俺が先公から任された一向に書類の減らないシャーレの仕事に恐怖を感じて逃げ出した時だったか。

 

 とりあえずこの後の書類仕事のお供としてコンビニでお菓子と飲み物を買って、適当にブラブラしようかなー、なんて思っていた時だ。

 

 そんな時にこの怪盗ちゃんと出会したのだ、向こうは俺の顔を見るなり「うげ!」みたいな反応を見せて逃げたのだが、それが面白くて俺は彼女を追いかける事にした。

 

 いつぞやの鬼ごっこの再開ですね。

 途中で「なぜ追いかけてくるんですか!?」と悲鳴にも似た絶叫をされたが、そりゃあんな反応を見せられたらこっちも楽しくなって追いかけちゃうって。

 

 んで、怪盗ちゃんが小道具を駆使して逃げ回り、ビルの上を走ったりで散々追いかけまわした後、先に怪盗ちゃんがばてた事によって追いかけっこは終了した。彼女には途中で俺の呪力をくっつけて残穢を残すようにしておいたので逃げきれないって。

 

 息も絶え絶えでプルプルしてる彼女に「大丈夫?水でも飲む?」とさっき買った水を差し出せば「誰のせいだと……!」って感じで睨まれた。

 

 あ、水は素直に受け取って飲んでた。

 話を聞いていくうちに、どうやら彼女が“一仕事”終えた後であろうことがわかった。「ふふ、私をこのまま捕まえますか?」と聞かれたが正直、捕まえるつもりはない。というかあの時と違って今の俺は警備員でもないし、捕まえる為の動機も理由もない。

 

 それと怪盗ちゃんと話していて、そんなに根が悪い子でもなさそうだな〜、と感じていたので自分がどうこうする理由にはならない。思ったままのことを伝えれば、彼女は少し呆れたように笑っていた。

 

 うん、笑顔も素敵だ。

 

 まあ、彼女が何をやらかして『七囚人』なんて呼ばれる存在になったかは知らんが、これで彼女がとんでもないことをやらかしてたらそれは俺が人を見る目がなかったというだけだ。

 

 そして、()()はここからだ。

 彼女が手に入れた美術品とやらを見せてもらったのだが、その美術品の片方が明らかに“異質なモノ”だった。彼女にこれをどこで手に入れたのか聞いてみたが、闇オークション会場で妙に目を惹かれて手に取ってしまったと、困惑混じりに言っていた。

 

 それを見た瞬間、思わず動揺してしまった。

 

 何せの彼女が見せたその美術品とやらが、明らかに呪いを孕んだ“呪物”だったからだ。彼女と追いかけっこをしていて、実際に目で確認するまで呪いの気配に気がつかなかったのだ。

 

 形状は小さなステッキといえばいいのか、ステッキ自体に問題はない。問題があるのはステッキの持ち手と思われる部分、不気味な顔がデザインとして施された彫刻。

 

 それが明らかに呪物と思われる物だった。

 俺の様子に怪盗ちゃんは困惑していたが、俺はすぐにでもそれを破壊しようと思っていた。宿儺の指や他の特級呪物のように“縛り”で存在を保証していないのなら破壊は可能だ。

 

 呪力を込めて破壊しようとした瞬間、問題が起きた。

 先程も説明したように、眩い光に包まれ生得領域もしくは結界術の中に怪盗ちゃんと共に閉じ込められてしまったのだ。

 

 場所はホテルの一室とでも言えばいいのか。

 馬鹿でかいサイズのベット、ピンクのネオンで彩られた、如何にもと言った雰囲気、シャワーや冷蔵庫なんかもあり、どう見ても“アレな”場所だ。

 

 

 ───うん、明らかにラブホですわここ。ほんとありがとうございました

 

 

 眩い光と共に閉じ込められた瞬間、目の前の光景に五条先生の無量空処でも喰らったかのような宇宙猫状態になってしまった。じょ、情報が完結しない……っ!?

 

 いやなんでラブホなの?

 もっとこう、なんかあったでしょ、廃墟とか廃村とか、そういうジメジメした場所が大好きじゃん呪い(お前ら)って、いや確かにこういう場所もドロドロとした負の感情があるかもしれないけど、なんでラブホなん?

 

 隣にいた怪盗ちゃんも状況が飲み込めず、ポカーンとした顔だったし。とりあえず、呪いの気配もそれとなく感じ取れるようになったので警戒しながら部屋の中を捜索してみたのだが、部屋は普通のホテルといった感じだった。

 

 動揺している怪盗ちゃんをジョーク混じりに落ちつかせようとしたが、あえなく失敗に終わった。顔を赤くして距離を取られてしまった……え、なんで?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 b月h日

 

 

 とりあえず、元凶であろう呪いをぶっ殺してチャチャっとこの空間から脱出しようと思っていたが、想像よりも厄介というべきかそう上手くはいかなかった。

 

 うん。

 恐らくというか、十中八九ここは呪霊の腹の中って感じだろう。スマホも圏外で使えないしかなりめんどくさい状況かもしれない、物理的な強硬手段での脱出は不可能だと思われる……多分。

 

 いや、こっちも領域を使えばワンチャンいけるか?

 だとしても不確定要素が多いので、領域を使うのは最終手段としよう。そもそも、俺も安定して領域を使えるかわからん。宿儺と戦った時はほとんど自己流だったし、うまく機能してくれるかどうか。

 

 この空間を調べてわかったことなのだが、まずあのピンクの光がキツイ室内から外に出る事はできた。が、しかしどういう事か俺と怪盗ちゃんはこのホテルの階層、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 妖しい証明で照らされた長い廊下、なんとこの長い廊下はつき当たりが存在しないのだ。途中で上の階と下の階に繋がる階段を発見したのだが、これも使()()()()

 

 簡単に言うと、()()()()()()()()()()……とでも言えばいいのか。どれだけ歩いても同じ場所に戻ってくるのだ。階段の方も同じだ、上下の空間がループしていて、ずっと同じ階層をぐるぐる回っている。

 

 気がつけば、最初に自分たちがいた『601号室』の前に戻って来ている。こういう系統の空間に閉じ込められるのは初めてだが、以前に冥冥さんや歌姫先生をナンパした時に過去に似たような状況に陥ったという話を聞いたことがあった。

 

 その時は五条先生が乱入して来てどうにかなったらしいが、その五条先生はいないし俺がどうにかするしかない。

 

 というわけで、過去に歌姫先生たちが試そうとしたらしい、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という方法を怪盗ちゃんに協力してもらい試したが無理だった。

 

 曲がり角に入った瞬間、逆方向へと疾走したはずの怪盗ちゃんが目の前から出て来て思いっきりぶつかってしまった。お互いに慌てて急ブレーキをかけようとしたが遅かったね。

 

 キヴォトス人の全力疾走タックル恐るべし。

 呪力を使わず生身の状態だったので、咄嗟に彼女を受け止めるどころか力負けしてそのまま吹き飛ばされるレベルで押し倒されて廊下をゴロゴロと転がってしまった。

 

 肋骨折られるかと思った(ガチ)。

 華奢な身体でどこからそんなパワーが出てくるんだ。マジでここの住人って天然のフィジカルギフテッドでしょ。あれは最早美少女の皮を被ったダンプです。

 

 ダメージで膝が震えて立ち上がるのに時間かかったよマジで。それなりの衝撃があったので怪盗ちゃんから割とガチ目に心配された、ごめんって俺が貧弱なだけだからそんな顔しないで。

 

 そんなこんなで脱出失敗。

 他の方法を試そうとかと思ったが、脱出の糸口を探す為の探索は強制終了させられた。二人で廊下に座り込んでどうするべきか唸っていたが、突然廊下の天井に取り付けられたスピーカーから放送が流れ出したのだ。

 

 

 『お客様に ご案内申し上げます。』

 『本館は、まもなく消灯のお時間でございます。』

 『お客様は速やかに、お部屋の方へとお戻りください。』

 

 

 とかなんとか、こんな感じのアナウンスだった気がする。

 この放送に怪盗ちゃんは驚きながらも、そんなの知った事ではないと脱出する為に探索を続けようとしていたが、それとは逆に俺はヤバいと感じていた。

 

 何せこの放送が流れた直後、静まり返っていた呪いの気配が尋常じゃないくらいに膨れ上がったからだ。本能的に危険を察知できるレベルでヤバかった。

 

 一目散に怪盗ちゃんの手を引いて『601号室』の中へと戻った。

 急にどういうつもりなのか、なんて怪盗ちゃんは若干プンプンしていたがそんな彼女を宥めつつ、数分後に自分の判断が正しかった事を理解させられた。

 

 部屋の外から感じる呪いの濃さが先程とは嘘のように変わった。呪霊も見えず、呪いを感じられない怪盗ちゃんが呪いの気配にあてられるくらいだ。

 

 俺だけなら外に出てもなんとかなるかもしれないが、怪盗ちゃんがいる以上は彼女を置いてきぼりにして無茶はできない。

 

 それと恐らくだが、この結界には“ルール”が存在する。

 例えるならば、宿儺や俺が使った領域の必中効果を消して逃げ道を与える事で効果を底上げする“縛り”のような、それに近いものがある。

 

 その証拠として室内、この『601号室』は廊下とは真反対に呪いの気配がまったくしない。予想が当たっていれば、この室内が用意された“逃げ道”……的なものといったところか。

 

 こんな事ならもう少し結界術について勉強しておくべきだった。

 

 それはそうと、異性がすぐ近くでシャワー浴びてる状況ってすごくドキドキします!

 

 すごく心臓に悪いです!

 うごご、なんでこう、もっと警戒心持とうよ俺だって一応男だからね! そういう目で見られてないか、もしくは大丈夫って信頼されてるって感じなんですかね!? ありがとうございます! その信頼に応えたいと思います!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 b月&日

 

 

 多分、閉じ込められて4日目。

 時間の感覚がよく分からなくなってくる。

 

 しかし昨日は中々眠れなかった、いつものように悪夢に魘されたとかではない。悪夢に関してはシロコちゃんに胸の内をぶちまけるように話した後、少しはマシになった。

 

 眠れなかった理由は別で、所謂怪奇現象といえばわかりやすいか。壁や扉を強く叩かれたり、ガチャガチャとドアノブが動いたりインターホンをならさたりと、とにかくうるさくて寝る気にならなかった。

 

 

 喧しい、小学生のイタズラかよ。

 けどあれは多分、()()()()()()()()()()()()()

 

 

 あ、怪盗ちゃんに呪いの存在について説明した。

 呪いを感知できず視認することもできない彼女だが、特殊な状況下ともなればパンピーであろうと呪霊なんかは見ることもできるし触ることだってできる。

 

 巻き込まれている以上、そうなった時の事を考えて説明していた。その方が緊急事態にはお互いに余計な混乱を招いたりしないだろう。

 

 話を聞いた彼女は「何を馬鹿な…」とでも言いたげな顔をしていたが、実際に巻き込まれあのアナウンス直後や呪いの存在の片鱗を嫌でも感じ取るハメになったのだ、俺の言葉に理解を示してどうにか納得していた。

 

 彼女からの質問にも色々と丁寧に答えた。結界術のことや、今置かれている状況なんかのことも、なるべくわかりやすく説明した。知識があるのとないのとでは、対処法なんかもだいぶ変わってくるだろうから。

 

 彼女の様子にも気をつけようと思う。

 いきなりこんな訳のわからない事態に巻き込まれて、不安やストレスを感じないなんて訳はないだろう。少しでも彼女が安心して落ち着けるようにしてあげよう。

 

 それと恐らくだが、非術師である以上はキヴォトスの生徒であろうと呪いに対する耐性は高くはないはずだ。神秘とやらを宿していても、それがどこまで彼女を守ってくれるかわからない以上は警戒しておくべきだ。

 

 守れたはずの人間が俺の油断で憑り殺されるなんて、笑い話にもならない。

 

 何か異変を感じたり、助けが必要になったら大声で俺の“名前”を呼んでくれと伝えた。

 

 それとアナウンスが入ったら、何がなんでもこの部屋に戻って来るように言い聞かせておいた。多分これも時間制限を課した“縛り”に近いものだろう、身近な人で言えばナナミンの時間外労働という残業フィーバータイムに近いか?

 

 となるとアナウンスも“縛り”か何かか?

 相手に自分の出方を教える、または警告を促す、とかそういう感じの。それなら自分の手の内を明かす、術式の開示にも近いだろうし。

 

 あとは気がついた事とか何か変化があったとすれば、廊下の壁一面に不気味な血痕と手形が大量に貼り付けられてたり、変な足跡が日を追う後に『601号室』に近いて来ている事とか? このペースだと2〜3日くらいで足跡が部屋の前まで来るな。

 

 それを見て怪盗ちゃんは小さく悲鳴を上げてた。

 

 なんかホラー映画みたいな展開になって来たな。

 ま、こっちから手出しができない以上、相手が痺れを切らしてアクションを起こすまで待つしかないか。俺の読み通りなら、そのうち向こうから出て来てくれる筈だ。

 

 こういう術式? の相手となると単純に殴って済ませられないから面倒だ、本当にだるいったらありゃしない。

 

 あとは時間との戦いか?

 俺が持ってた食料が持ってくれればいいんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 b月y日

 

 

 怪盗ちゃんが夜中に扉を開けそうになっていてビビった。

 

 とりあえず呪いは確実にぶっ殺す。

 どういう訳なのかは知らないが、アレはタチが悪いというしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ───ゆっくりと意識が覚醒する。

 重くのしかかってくるような瞼を開いてみれば、ここ数日で見慣れてしまった趣味の悪い室内が視界に映り込んでくる。変わり映えしない光景と未だに変化のない状況に溜息を吐いてしまう。

 

 睡魔の誘惑に抗いながら少女───清澄アキラは寝床からゆっくりと身体を起こして、凝り固まった四肢を伸ばした。

 

 

 (……状況に変化はない。いったい、いつまで続く事になるのやら)

 

 

 チラリと、視線を部屋の隅へ向ける。

 そこには自分と一緒にこの気味の悪い謎の空間に閉じ込められた男子生徒の姿がある。彼は部屋の隅へと寄せた小さなソファの上で猫のように丸くなりながら、スースーと小さな寝息をかきかながら心地良さそうに眠っている。

 

 こんな状況だというのに、慌てた様子もなく眠りについている神経の図太さに呆れるどころか感心してしまうくらいだ。

 

 記憶と感覚が正しければ、彼とこの空間に閉じ込められて既に6〜7日ほどの時間が過ぎている筈だ。ここでの過ごす時間は思っていたよりも快適だ……自分の意思とは関係なく閉じ込められている点を除けばだが。

 

 

 (……食料も心許なくなってきましたね)

 

 

 ガサリと、袋を漁る。

 それはアキラと凛太郎がこの空間に閉じ込められた時、凛太郎がシャーレの仕事をサボって買いに行ったお菓子や飲み物といったものだ。この隔絶された空間、なぜか水や電気は使うことができるため最悪の場合は飲料に困ることはないが、食料はそうはいかない。

 

 自分はまだ問題ない。

 だが、先に限界が来るとすれば()の方だろう。

 

 アキラは静かに、寝息を立てて眠る凛太郎に視線を向ける。

 なにせ凛太郎はこの空間に閉じ込められてから、その食料のほとんどを彼女へと渡して自分は必要最低限のモノしか口にしていないのだ。本人は飲まず食わずでの活動は慣れているから大丈夫だと言っていたが、どこかで必ず限界が来る筈だ。

 

 

 「……呪い、負の感情から生まれる異形の存在……こんな状況に巻き込まれてさえいなければ、興味深いものですが」

 

 

 呟くようにごちる。

 

 本来ならば与太話と簡単に切り捨ててしまえる話の内容、だが実際にその呪いという存在の片鱗を感じ取るハメになってしまったのだ。おかげで、“それ”が確かに実在するという事を嫌でも理解させられた。

 

 理解の範疇を越えている超常的な現象、それに対処できる少年が一緒であったことは不幸中の幸いとでも言うべきか。 

 

 

 『出口の無い密室に閉じ込められた男女、何も起きない筈もなく……』

 

 『は?』

 

 『つまりここは〇〇しなきゃ出られない部屋……ってコトォ!? いやぁああ、俺の貞操が奪われるぅぅ!!』

 

 『もしかして結構余裕ありますか?』

 

 『え、あ、うん。まぁ別にこういう空間(呪霊の結界)に来るのは初めてじゃないし、閉じ込められるのに慣れたというか』

 

 『こ、こういう空間(ドギツイピンクの照明に包まれたアレな部屋)に来るのが初めてじゃない!? 閉じ込められるのに慣れた!?』

 

 

 アキラから見て、津上 凛太郎とは随分とおかしな少年だ。

 第一印象からして、飄々とした態度で軽薄そうなイメージのあった人間だがそんな態度とは裏腹に随分と紳士的な振る舞いをする一面もある。そして何より、この空間に囚われてから自分の事を痛いほど気遣っているのがわかった。

 

 アキラが就寝する時も自分は床かソファで寝ると言い張り、彼女がシャワーを浴びる際なども地面に頭を打ち付けて気絶しようとするくらいだった。

 

 他者とあまり深く関わることはなかったが、彼との生活は新鮮で退屈せず面白みのあるものだった。

 

 凛太郎が悪い人間ではない、それはアキラも理解できた。だがそんな彼が、別人なのではないかと錯覚させられるほど恐怖を抱きそうになった時があった。

 

 それは記憶に新しく、鮮明に覚えている。

 

 脱出の一口は見つからず、『消灯時間』を迎えれば連日のように怪奇現象に見舞われる。どこからか聞こえてくる笑い声、一人でに電源の入る家電、誰もいない筈なのに響く足音、そして扉を叩き何度も鳴らされるインターホン。

 

 その一つ一つが、着実に清澄アキラという少女の精神を疲弊させていっていた。

 

 

 『お客様に ご案内申し上げます。』

 『本館は、まもなく消灯のお時間でございます。』

 『お客様は速やかに、お部屋の方へとお戻りください。』

 

 

 その日も脱出の手がかりは見つからず、聞き慣れて来てしまったノイズ混じりの不気味なアナウンスに従いこの『601号室』へと帰還した。怪奇現象のせいでろくに眠れず、疲れや気怠さの残る身体を引きずるように戻った。

 

 さっさと眠りたかった。

 趣味の悪いベッドへと倒れ込めば、まるで電源が落ちるかのようにアキラの意識は遠のいていった。だが熟睡などできなかった、その数時間後にはまるで彼女の眠りを邪魔するかのようにインターホンが響いたのだ。

 

 何度も鳴らされる耳障りなインターホンの音によって彼女は目が覚めた。凛太郎に視線を向けてみれば、彼はそんなこと意にも介さないかのようスヤスヤと眠っている。

 

 それが腹立たしかった。

 凛太郎からは“()()()()()()()()()”、“何があっても部屋の扉を()()から開けるな”とアキラは忠告されていた。それがなぜなのかは教えられなかった、だが教えてもらわずとも理由はなんとなくわかっていた。

 

 それでも、限界も近く怒りで我を忘れそうになっていた彼女は文句を言ってやりたかった。苛立ちを露わにするように、未だ鳴り響く扉の前まで行き怒鳴り声をあげてやろうと思った。

 

 ───彼女が扉の前に立った瞬間、音が鳴り止んだ。

 

 引き返せ。

 扉の前に立った瞬間、冷静になった彼女の理性が悲鳴を上げていた。だが彼女の体は吸い込まれるように、扉のドアスコープへと引き寄せられていった。

 

 

 『遊びに来たよりんたろー!』

 

 

 そこには小さな少女がいた。

 真っ白なワンピース姿。腰まで伸びた灰色の髪、暗闇の中で爛々と輝く()()()、自分よりも明らかに年下であろう小さな女の子が首を傾げながら扉の向こうで立っていた。

 

 

 『ねえ、お姉ちゃん。この扉を開けて、りんたろーと遊びに来たんだ!』

 

 

 なぜ、少女がこんな場所にいるのか。

 様々な可能性が脳裏を過った。自分たちと同じようにこの空間に閉じ込められてしまったのか、最初はそう思いもしたが彼女が発する言葉にその可能性はないと判断できた。

 

 なぜ、凛太郎の事を知っているのか。

 なぜ、見えていない相手のことを“お姉ちゃん”だと判断できるのか。

 

 

 『……開けてよ、お姉ちゃん』

 

 

 恐怖を覚える。

 扉の向こう側で楽しそうに笑う小さな少女の笑顔が不気味に感じてしょうがなかった。スコープ越しに目があった気がした、アキラはゆっくりと部屋の奥へと引き返そうとした。

 

 

 『 () () () ! ! 』

 

 

 小さな悲鳴が漏れた。

 目を見開いて、絶叫するかのような声量。豹変した少女の姿に恐怖を感じずにはいられなかった。

 

 だがその言葉を聞いた瞬間、彼女の身体は本人の意思とは関係なく、扉を開けようと動き出していた。まるで操られているかのように、ゆっくりと自分の体が、ドアを開けよう腕が伸びていくのだ。

 

 

 『───ストップだ、怪盗ちゃん』

 

 『はぁ……っ……は、え? 津上……さん?』

 

 『ごめん。気づくのが遅くなっちゃった、もう大丈夫だから』

 

 

 アキラがドアのロックを外そうとする最中、大きな手が彼女の肩を掴むと扉から引き剥がすよう引き寄せられた。体勢を崩した彼女が呆然と見上げる先にはいつになく真剣な表情で、それでいて安心させようと笑いかけてくる少年の姿がある。

 

 

 『ゆっくり深呼吸して……あとは、俺に任せて』

 

 『っ……!』

 

 『……あ! りんたろーだ! ねえ! 遊びに来たよ!』

 

 『………あ゛ぁ゛?』

 

 

 呼吸することすら忘れていた身体が、肺に空気をとり込もうとして息が荒くなる。そんな彼女の様子を気に掛けながら、凛太郎は()()()()()()()()に意識が引っ張られていった。

 

 なにせその声音は、記憶に焼き付いて離れない少女の声だったからだ

 

 

 『ふふ、遊ぼうよ! りんたろーに会いたくてここまで来ちゃった!』

 

 『………』

 

 『もうっ、そのお姉ちゃんってばひどいんだよ。開けてってお願いしてるのに、全然中に入れてくれないんだもん!』

 

 『………』

 

 『ん〜、何して遊ぼうかなぁ。あ、かくれんぼでもしようか! 隠れるのも見つけてくれるのも、上手だったもんね!……あれ、聞いてる?』

 

 『……なるほどね。ここはお前の結界内だし対象の情報を読み取る事くらいできるか。んで()()()()()()()ってわけか、呪いらしくて随分と陰気なやつだな……で、お前誰だよ?』

 

 『誰だって……も〜、ひどいな〜、私は』

 

 『いつまで化けてんだ……あの子は死んだ、俺が殺した、だからもういない。てめえを今すぐぶち殺してやりたいとこだが、怪盗ちゃんの方が心配だ。さっさと失せろ』

 

 『ふふふ、そっか、ひどいな〜……』

 

 

 少女は不気味な嗤い声を響かせ霧のように消えていった。

 

 視線だけで人を殺せるような冷たい表情だった、そんな彼の横顔をアキラは確かに覚えていた。凛太郎に肩を借り、様子が落ち着くまでとずっと側にいてくれた。彼が発した言葉の中で気になるモノがあったが、アキラはそれに触れることはなかった。

 

 ───まだ新しい、数時間前の記憶を掘り起こしてアキラは重い息を吐いた。

 

 

 (とりあえず、顔を洗って……どうせならシャワーも浴びてしまいましょうか)

 

 

 彼女は重い足取りで、シャワールームの横に備え付けられた洗面台へと向かう。ひとまず、まだ残る眠気を吹き飛ばしてしまうと冷たい水で顔を洗った。それからまだスヤスヤと眠る凛太郎の姿をジッと見つめた後、彼が目を覚ましていない事を確認した身に纏う衣服のボタンに指を掛ける。

 

 なにせこの部屋、()()()()()()の為に利用されるホテルの為、シャワールームはガラス張りになっており殆ど丸見えの状態なのだ。いくら『七囚人』と恐れられるようなアキラといえど、彼女だって年頃の女の子である。恥ずかしいものは恥ずかしい。

 

 

 「───ッッ!!」

 

 

 シャツのボタンに手を掛けて、脱いでしまおうとした瞬間だった。ゾクッ、と全身の産毛が逆立つような感覚に襲われた。のしかかってくるようなプレッシャー、ジロリと不気味な視線を向けられる感覚。

 

 彼女はここ数日で、呪いの気配を感じ取れるようになってしまっていた。呼吸が荒くなる、急いでまだ眠りこけている凛太郎を起こさなければ。そう思ってシャワールームからアキラは飛び出した。

 

 

 「や、おはようアキラちゃん」

 

 「きゃあ!! び、びっくりさせないでください」

 

 「あはは、ごめんごめん」

 

 

 いつの間にか、そこには凛太郎が立っていた。

 

 周りを確認せず慌てて飛び出した為、口から心臓が出てくるんじゃないかと思うくらいにアキラはびっくりしてしまった。そんな彼女の様子に凛太郎は悪びれる事なく、面白そうに笑っている。

 

 そんな彼を睨むように視線を向けながら、アキラは気崩していた衣服を整えていく。

 

 

 「それよりも、今なら多分脱出できるよ」

 

 「───,え?」

 

 「気がついたでしょ、なんとなく空気が変わったの。俺の読みが正しければ、今ならここから脱出できる気がする」

 

 

 凛太郎の言葉に、アキラは驚いて表情を固めてしまう。そんな彼女の姿に凛太郎は笑いながら、彼女の手を掴んで部屋の外へと続く金属製の扉を開けて廊下に出る。手を引かれるアキラも、突然の行動に驚き転びそうになったがどうにか凛太郎の後へと続いていく。

 

 部屋の外は()()していた。

 バチバチと照明は点灯と停電を繰り返し、まるで廊下全体が溶けていくかのように形を変えていき剥がれ落ちて来ていた。そんな光景に

 

 

 「なぜ、今なら脱出できると!?」

 

 「説明してる暇はない。それに説明したところで、ややこしいからアキラちゃんじゃ理解出来ないと思うよ。それよりもほら、急ぐよ走って」

 

 「は、ちょっと待ってください!」

 

 

 長い廊下を走る。

 どこか焦った様子で走る凛太郎の姿に、それをほど急を要することなのだとアキラも走る足に力を加える。

 

 ループする筈の長い廊下と階段、しかし今はあれだけ鬱陶しかった延々と続く廊下も階段も、その厄介な存在がなくなり確実に状況が変わっていることがアキラにも理解できた。

 

 凛太郎に導かれるまま、たどり着いた先は長い廊下の行き止まりであった。

 

 そこには大きな“門”があった。まるで壁を黒く塗ったかのような、異質な存在感を感じさせる不気味な“門”が存在した。

 

 数メートル先に、佇むように存在する“門”に視線が奪われる。

 

 

 「あそこから、この空間の外に出られるよ」

 

 「………」

 

 

 ()()()

 

 

 「ほら、行こうアキラちゃん。俺と一緒に外に出よう」

 

 「………っ」

 

 

 ()()()

 

 

 アキラは言い表しようのない違和感を覚えていた。

 アキラにはそれが何かわからない、けれどもいまこの状況は絶対におかしいと彼女の直感が言っていた。先程から強くなり続ける呪いの気配、彼女はそれをヒシヒシと感じていた。

 

 まさかと、アキラの表情に緊張が走る。

 

 彼女の手を引いて進もうとする凛太郎だがアキラは立ち止まり、そんな彼に待ったをかけた。驚いて振り向こうとする凛太郎に、アキラは「そのまま動かないでください」と声を発した。

 

 

 「……ひとつだけ、確認したいことがあります」

 

 「はぁ……? それって今じゃなきゃダメ?」

 

 「ダメです……ひとつだけ聞きたいことがあるんです」

 

 

 ───()()()()()()()()

 

 

 「誰って、嫌だなアキラちゃん。俺は津上 凛───」

 

 「私は、一度たりとも、彼に()()()()()()()()()()()

 

 

 ゆっくりと、武器に手を伸ばす。

 

 そう、それが違和感の正体だった。

 彼女は、清澄 アキラという少女は凛太郎に対して自分の名を明かしてなどいないのだ。アキラは義賊紛いの前をしている怪盗だ、そんな彼女が簡単に自身の身分や正体を簡単にバラすような真似はしていない。

 

 凛太郎が彼女の正体を知っていたという線はない、同じ『七囚人』であり『災厄の狐』と呼ばれる“彼女”とは違いアキラの正体は周りに知られていない。そもそも『七囚人』という存在すら知らずにいたような男だ、凛太郎に対してその存在を説明したアキラが一番よくわかっている。

 

 凛太郎という男はアキラに対して説明を怠るような真似は一度だってしていない。呪い関連の質問には必ず答えていた、「教えたところで理解できない」などと無碍にされたことは一度もない。

 

 そしてなにより、強くなり続ける呪いの気配は凛太郎から発せられていることがアキラには感じ取れていた。

 

 

 「答えてください。あなたは誰で、彼はどこにいるのでしょうか?」

 

 「いや何言ってるのさ、俺が凛太郎だって」

 

 「くどい。二度も、同じ事を言わせないでください……タネが割れている手品ほどつまらないものはないですよ」

 

 

 警戒する。

 武器に手を掛けていつでも攻撃できるように構える、アキラ自身の純粋な戦闘能力は決して低くはない。だがそれが呪いを相手にして張り合えるモノなのかと言われれば、難しいものだった。

 

 何より、呪いは呪いでしか祓う事ができない。だがそれでも、この状況を切り抜けることはできる筈だと考えている。アキラは意識を研ぎ澄ませる、一触即発とも言える状況は次の一手で全てが変わるのだから。

 

 目の前の何かが、愉しそうに、面白そうに、喉を鳴らしながら不気味な嗤い声をあげている。

 

 

 「 な ん だ 思 っ て た よ り も 頭 が 回 る ん だ ね」

 

 「───ッ!」

 

 

 膨れ上がる呪いの気配。

 

 凛太郎?の首がグルン、とありえないような挙動で勢いよく後ろにいるアキラの方へと回転する。一瞬、動揺で動きが止まりそうになったアキラだが素早く武器を構える。銃身が長く杖のような形状の西洋銃にも似た彼女の愛銃、容赦なく引き金を引いた。

 

 銃声が響く。

 神秘を込めた強力な一撃。

 

 

 「……なっ!?」

 

 『あー、痛い……なあ!』

 

 

 

 驚愕の声。

 アキラが放った一撃は頭部を容易く吹き飛ばすだけの威力はあった。

 

 しかしアキラの視線の先には顔の半分が吹き飛んだというのに、平然としている化け物の姿がある。頭蓋とその中身をぶちまけるかのような光景に吐き気を催すが、すぐにそれは驚愕で塗り潰される。

 

 損傷した頭部が修復されていく様に、アキラの思考が真っ白になってしまう。相手がそんな隙を見逃すはずもなく、彼女の腕を掴んだまま勢いよく振り回すとそのまま壁へと叩きつけた。

 

 

 息が出来なくなる。

 背から壁に叩きつけられ、肺の中の空気が吐き出される。

 

 膂力にモノを言わせただけの一撃だというのに、たったそれだけで動けなくなってしまう程のダメージがアキラには与えられていた。

 

 ズキズキと肉体には痛みが走り、力は入らず立ち上がる事すらやっとと言った状態のアキラを掴んだまま、彼女を無造作に引き摺りながら進んでいく。

 

 向かう先は、あの不気味な“扉”だった。

 

 

 『いやー、すごいね彼! 何度も()から襲おうとしてたんだけど、全部失敗しちゃってさ。あれには勝てそうにはないなァ』

 

 『私もさ、結構強い自信はあったんだよ? “崇高”信者の自称芸術家とババアに好き勝手弄られて出来上がった“作品”だからさ、けどどうやってもアレに敵う気がしないかなー!』

 

 『けど、君という“神秘”を直接取り込めば、もっと強くなれる気がするんだ』

 

 『だからさ、ここで君は死んじゃうけど許してよ清澄アキラちゃん』

 

 

 何が面白いのか、楽しそうに耳障りな声でひとりでに喋り出す。

 

 いったい何を言っているのかアキラには理解できない。

 ただ自分があの不気味な扉の中に放り込まれるのだけは、どうにかして阻止しなければならないという事だけは理解できた。

 

 視線の先には、口を開けて待つかのように扉が開いている。扉の中からはいくつもの不気味な目玉が浮き上がり、幾重もの長い腕が供物が運ばれてくるのは今か今かと待ち構えている。

 

 その光景に、小さな悲鳴が上がる。

 

 

 「……離し、なさいっ!」

 

 『もー、暴れないでよ。これでも焦ってるんだ、“向こう”も相当暴れてるみたいだしさ』

 

 「ぎ、ぐぅ!……かぁ……ッ」

 

 

 暴れる少女の首を掴み上げて邪悪に嗤う凛太郎の姿をしたナニか。腕を振り払おうとするも、首を締め付ける握力は増していくばかり。少女の抵抗する力は徐々に失われてゆき、ゆっくりと腕が力なく垂れ下がっていく。

 

 視界に写る景色が色を失っていく。

 耳鳴りに襲われて、五感の全てが遠くなっていく感覚。

 

 迫り来る“死”という概念をアキラは確かに感じ取っていた。

 

 

 『あ……遺言とかある?』

 

 「………ぁ…ぅ」

 

 『なに? 声が小さくて聞こえないよ』

 

 

 嗤う。

 生にしがみつく少女の姿に、必死に最後の言葉を絞り出そうとする姿に。口元が裂けるように、歪な笑みが浮かんでいく。

 

 声にならない声だった。

 だが、それでもアキラはしっかりと“言葉”にした。

 

 

 「……たす、けて……津上ッ、さん」

 

 『ぷ……ぷはは、いいね。ロマンチックじゃん! けど残念だな、悲しいことに彼はもうこの結界の外に』

 

 「───わかった。いま助けるから」

 

 

 ───空間に罅が入るように割れた。

 

 その隙間から、少女と怪物の間に割って入るように飛び込んで来た赤い呪力の炎を纏った影。素早く懐へと潜り込んだ影が怪物を殴り飛ばして少女を回収する。

 

 自分を守るように立つその後ろ姿に、少女は安堵の涙がこぼれそうだった。そんな少女に、空間を破って入り込んできた少年、凛太郎はニッと笑みを浮かべる。

 

 

 「もう大丈夫! 何故って!? 私が来た!!

 

 「けほっ、けほっ……うぅ……耳元で叫ばないでください」

 

 「ごめん! このネタ通じないか! というか大丈夫!? 怪盗ちゃんまだ生きてる!?」

 

 「か、勝手にころさないでください……」

 

 

 自分を抱えたまま焦ったような様子の凛太郎の姿に、呆れを交えながらなんだか面白くなってアキラは小さく笑みをこぼしてしまう。そんな彼女に凛太郎も笑いかけて安心させる。

 

 

 「ふふっ……もう少し、早く来てくださってもよかったんですよ」

 

 「ごめんって、ヒーローは遅れて到着しちゃうもんだから……でも間に合ったから許してちょんまげ」

 

 「……なら、貸一つにしておきましょうか。私からの借りは高くつきますよ?」

 

 「無問題(モーマンタイ)。エスコートは任せてよ」

 

 「そうですか。ふふ、でしたら楽しみにして、おき……」

 

 

 ゆっくりと、電源が落ちるように意識を失った。

 アキラを横たわらせて、彼女が緊張の糸が切れた事によって意識を失っただけだという事を確認すると凛太郎は安堵の息を漏らす。制服の上着を脱いで眠る彼女に掛けるとゆっくりと立ち上がる。

 

 袖を捲り上げる。

 睨みつける視線の先は、殴り飛ばされたまま蹲る結界の主人であり自分と同じ顔をした謎の多い呪霊。

 

 

 「随分と、好き勝手してくれたみたいだな。舐めたマネしてくれやがって、あの子に消えない傷でも残ったらどうしてくれんだ。女の子はもっと丁重にもてなせや」

 

 『……ッ。そんなにカリカリするなよ津上 凛太郎。そんな顔してたら、その女の子とやらに嫌われちゃうぜ』

 

 「なんだ喋れるのか……まあいいや、黙れ。てかなんだその顔、ふざけてんのか。俺の姿で怪盗ちゃんに怖い思いさせやがって、というか俺はもっとイケメンだ顔面作り直してこいハゲ」

 

 『おいおい、怒るなよ』

 

 

 凛太郎の姿をした偽物、結界の主人である呪霊は飄々とした態度で言葉を返すが、内心は焦っていた。既に別の結界へと分断したはずの呪術師が、なぜこの場に現れて立ち塞がっているのか。

 

 そしてヒシヒシと叩きつけられる凛太郎が発する膨大な呪力のプレッシャーに冷や汗を流した。自分とは桁違い呪力に、無意識のうちに足が後ろに下がる。

 

 

 『……どうやってここに?』

 

 「んなもん、結界をぶち破って来たに決まってんだろ。人が寝てる最中に別の空間に落としやがって、ここまで来るのにちょっと苦労したぞ」

 

 『……は?』

 

 

 その言葉に、まるで何を言っているのか理解できないと言った風に表情を歪めた。結界術というものは複雑だ。ぶち破ってここまで来ただなんて、散歩してたら目的地に着いたとでも言うかのように軽い態度の凛太郎に結界の主人は呆然としてしまう。

 

 

 「あとは、そうだな。怪盗ちゃんが俺をここまで呼んでくれた……ってところかな。知ってるか、言霊ってのは意外と馬鹿に出来ないもんなんだぜ……女の子から助けを求められたらどこへでも駆けつけるがな!」

 

 『……はは……なんだそれ』

 

 「それと、時間を稼いで逃げようとだなんて考えるなよ。ハッキリ言って無駄だ、言ったよなお前はぶち殺すって。ま、殺すのは色々と聞き出してからだけどな」

 

 『っ……聞き出す?』

 

 「お前、ただの呪霊じゃないな。ミソッカスとはいえ()()()()()、お前の“表面”にまとわりついてるのは神秘ってやつだろ。けど、だいぶめちゃくちゃにくっつけてるから気配がチグハグだ」

 

 『……ッ』

 

 「何を知ってるのか、喋ってもらうぜ。感謝するよ、お前が意思の疎通ができるレベルの呪いで……その後に殺してやる。人のタブーに踏み込んできたんだ、覚悟は出来てんだろ?」

 

 

 祈るように両手を組み合わせた。

 

 時間をかけるつもりは凛太郎にはない。

 手早く済ませて、この状況に巻き込まれてしまったアキラを結界の外へと連れ出すためにも、彼女が目を覚ます前に呪術師(自分)の仕事をさっさと終わらせてしまうと呪力を漲らせる。

 

 

 ───領域展開。

 

 

 世界が塗り替えられる。

 結界の主人である呪いが見た光景は、そこは蒼い炎に包まれて燃え尽きてゆく廃村。そして夜空に浮かぶ黒く大きな満月が涙を流すように泥を吐き出している不可思議な世界だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 
 呪霊「くそっ…じれってーな。俺ちょっとやらしい雰囲気にして来ます!!」

 凛太郎「お前を殺す」デデン!




 
 ※今回出て来た呪霊の出番は恐らくこれっきりですね。主人公以外にオリキャラはあんまり出したくない派なので。


ぶっちゃけどの時間帯に更新されると読みやすい?

  • 07:00くらい
  • 19:00くらいやな
  • 21:00くらいやでー!!
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