透き通る様な世界観にいる一般呪術師   作:半ライス大盛り

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ちょっとパヴァーヌ編とアクナイの方は筆が難航してます。
息抜きがてら執筆してた宿儺戦です。

本編を待ってくれてる人に申し訳ねえずら。え、というか一年以上前の俺はどうやってR-18小説書いてたんだ? これが、スランプ……ってこと!?

感想、お気に入り、評価、誤字報告、いつも感謝です。
とても助かっております。

僕はねいつか凛太郎本人がいないところで、ミレニアムパワーを使ってキヴォトスの生徒たちの前で過去編の上映会をしてもらいたいんだ……!

これにて凛太郎もごりんのじゅうでございやす。



 


かつての記憶:『愚者と王』③

 

 

 

 「……は?───ッッ!!? ガッ!ぎぃ、ガッ───ア゛ア゛アァァァッッっ!!」

 

 「ッ!」

 

 

 ドクン、と心臓が跳ね上がった。

 全身の血管や神経がぐちゃぐちゃに混ぜられたかのような痛みに襲われた。鼻と口からは吐瀉物を吐き出すように血液が流れ落ちてくる。

 

 視界が赤く染まる。

 膝が震えて、滝のように汗が吹き出してくる。

 

 思考にノイズが走る。

 自分が自分じゃない何かに塗りつぶされていくような感覚。血液が逆流しているんじゃないかと思うぐらい、内側で血管がドクドクと脈打っている。

 

 血液が沸騰する音が聞こえる。

 全身の血管が広がっていくのがわかる。

 

 凛太郎が甘く見積もった10分、既に肉体は限界を迎えていた。膨大な呪力から行使される肉体強化、術式の無茶な強化の反動がこのタイミングで凛太郎を襲った。

 

 痛みで意識が落ちかける。

 全身に巡らせていた呪力が風に吹かれたかのように消える。

 

 四肢に力が入らない。

 凛太郎が膝をつき、地面に倒れ込もうとした瞬間。

 

 ドスッ、と肩を押されたような軽い衝撃に襲われた。

 胸元に感じる小さな違和感。視線を向ければそこには背まで貫通するほど深く凛太郎の体を手刀で貫いている宿儺の姿があった。

 

 

 「───存外、つまらん幕引きだったな」

 

 「ぶっ、ゴホッ!……ァ、ぁぁ」

 

 「中々、楽しめたぞ。津上 凛太郎」

 

 

 貫手による攻撃。

 手応えはあった、宿儺は凛太郎の心臓を完全に破壊した

 

 腕を引き抜く。

 胸に開いたら大きな風穴からの湯水のごとく鮮血が吹き出した。凛太郎に体はまるで糸の切れた人形のように地面へと倒れ込み、ピクリとも動かなくなる。

 

 興醒め。

 そんな彼の姿を少しだけ残念そうに、名残惜しむかのよう視線を向けた後、宿儺は腕の血を振り払いその場を離れようと踵を返し歩き出した。

 

 

 「……ん?」

 

 

 思いがけず、足が止まる。

 視線をゆっくりと戻せば、そこには「行かせない」と言わんばかりに呪いの王の足首を掴む凛太郎の姿がある。凛太郎に意識はない、完全に心臓は破壊された。わざわざ生死を確認せずとも、宿儺の五感から得られる情報では足元に転がる呪術師は既に人の形をした肉塊であることは理解出来ていた。

 

 血溜まりに沈む男の姿に、宿儺は鬱陶しそうに息を吐く。

 

 

 「……その手を退けろ。不愉快だ」

 

 

 宿儺の興味は既に凛太郎にはない。

 どこにそんな力があるのか、掴んだまま動かない凛太郎の亡骸。足についたゴミでも払うかのような動作で、強引に振り解いた。

 

 その瞬間。

 

 

 「────ッ!」

 

 

 さながら万力にかけたごとくの並外れた握力、突如として凄まじい力で締め上げる。

 

 メキメキと骨が軋む音と共に、宿儺の足首が握りつぶされ破壊される。宿儺の表情が歪む、それは痛みによってなどではなく自身の予想を上回った僅かな驚愕によってもたらされた変化。

 

 即座に反応する。

 足首を未だ掴み上げる凛太郎の腕を不可視の斬撃によって切り落とす。そして距離を取るかのように足元に転がる凛太郎の体をボールを蹴るように飛ばす。

 

 

 (────何が起きた?)

 

 

 シンプルな疑問が浮かぶ。

 意識はない、あれは完全に死んでいる、ならばなぜ? 首がもげたトンボのように神経が反応して肉体が動いたのか? 様々な予想が脳裏に過るが、そのどれもが違うであろうと予測をつける。

 

 

 視線の先には大きく吹き飛びごろごろと地面を転がっていき、仰向けで力なく倒れ込んだまま血溜まりに沈んでいる凛太郎の姿がある。今にも起き上がってくるような様子は感じられない。

 

 砕かれた足首を反転術式によって回復させる。

 スッと目を細めて観察する、感じる気配も生者ではなく死者のそれだ。

 

 静かに指先を向けた。

 

 

 「『解』───!」

 

 

 放たれる不可視の斬撃。

 地面に転がる凛太郎向かって伸びていく。しかし、放たれた斬撃は凛太郎に直撃する事なく、まるで何かに阻まれ僅かに逸れるかのよう軌道を変えてその背後にあった建築物を大きく切り裂いた。

 

 

 (俺の斬撃が弾かれた? いや……()()())

 

 

 斬撃が弾かれたのではなく、まるで攻撃そのものを()()かのように斬撃が方向を変えていなされた。術式がヒットした感触もない、斬撃は流れに沿うよう凛太郎を()()()飛んでいったようにも宿儺は感じていた。

 

 

 「────ッ!」

 

 

 視線の先で、凛太郎に()()()()()()

 胸に空いた大きな風穴から、長く細い糸のようなモノを伸ばしながらドロッと()()()()()穴の底から這い出てくるように姿を現した。ゆっくりと伸びていき、煤のような黒い微粒子を撒き散らしながら凛太郎の体を包み込んでいく。

 

 数秒もしないうちに、その()()()()に完全に包み込まれた。

 

 凛太郎の中から現れたその()()を観察する。凛太郎の死後発動する術式というわけでもなく、ましてや主従関係を結んだ呪霊が主人のピンチに現れたというわけでもない。

 

 まるでモヤでも掛かったかのように、宿儺はそれの気配を読み取る事が出来なかった。

 

 

 (!……反転術式による治癒……いや、これは()()()()()に近いと言ってもいい。この小僧、一体どうなっている?)

 

 

 瞬く間に凛太郎の肉体が修復されていく。

 宿儺に切り落ちされた腕は黒い何かに包まれると何事もなかったかのように失った腕が元通りになっている。それと同様に、胸に空けられた大きな穴そして破壊された心臓が時間を巻き戻すよう修復され鼓動し始める。

 

 ものの数秒で、凛太郎の傷が完全に修復された。

 突如として姿を見せた黒い何かも、霧となって消えるかのよう飲み込まれて姿を消した。その光景を宿儺は静かに見ていた。

 

 その光景は反転術式による治癒と言うよりは、もはや蘇生に近いものだった。

 

 

 「───ッ……はっぁ!」

 

 「ほう、起きたか」

 

 「は? え?……どういう状況?」

 

 

 バッ、と勢いよく体を起こす。

 

 困惑する。

 何せ先程、無茶な強化の反動で動けなくなり宿儺に胸を貫かれて死んだと思っていたのだ。しかし目を覚ましてみれば自分はまだ生きており、そんな自分を呪いの王は面白いモノでも見たと言わんばかりの笑みを浮かべて見下ろしている。

 

 理解が追いつかず、困惑するしかない。

 

 

 「ククッ……小僧、()()()()()。あれが貴様の虎の子というわけか?」

 

 「なに、言ってんだ……」

 

 「ふ、貴様にとっても想定外であったというわけか」

 

 「……さぁな。俺が知るかそんな事……けどまあ、誰かがコインでも入れたんだろ」

 

 

 ペタペタと、そこにあった筈の傷を確認するように手を伸ばした。

 

 何がどうなったのか理解が追いつかない。

 ただ、わかる事があるとすれば()()が己の命を繋ぎ止めてくれたという事くらいであろうか。凛太郎は不思議とそう思った。自分はあの瞬間、殺されて完全に“ゲームオーバー”であったはずなのだ。

 

 だというのにそんな自分に、まだチャンスを与えられた。

 

 小さく笑みが浮かぶ。

 目を覚ます直前、なんだか()()()()()()()()()()()()のを凛太郎は確かに感じていた。もしかしたら気のせいかもしれない、例えそれが自分の願望が生み出したまやかしであったとしても、ただそれでも嬉しかった。

 

 

 「悪いな呪いの王、どうにもまだ死ねないみてえだ……んじゃコンテニューと行こうか」

 

 「ククク……いい、いいぞ。俺もお前も、満足するまでとことんやろう。今度はあんなつまらん幕引きは無しだ津上 凛太郎ォ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 呪いを込めろ。

 例え1分、1秒、であろうとも無駄には出来ない。自分に与えられた奇跡、二度目のチャンス。凛太郎はそれが無理矢理繋ぎ止められた“限りあるもの”であり、時間は残されていないということを本能で理解していた。

 

 例えるならばそれは小さな灯火。

 肉体の損傷は完治している。しかしそれだけだ、消耗した呪力も命を燃やしてすり減らした魂というエネルギーまでは元通りにはなってはいない。既に今の凛太郎の命は残り火のようなものに過ぎない。

 

 そこに誰かが薪を焚べ、僅かな時間だけ延命させてくれただけだ。だからこそ無駄には出来ない、この一瞬で全てを出し尽くす、尽きる命ならば最後まで燃やし尽くして死ね。

 

 故に凛太郎は恐れも何もかもを捨て、自分のありったけを呪力に変える。真正面から挑んだところで呪いの王には勝てない。何もかもが自分には足りてない、だったら今この瞬間だけでも届き得るだけ掻き集めろ。

 

 術師にとって最も簡単に能力を底上げする方法、それは命を賭けた”縛り”。遅かれ早かれどうせ尽きる命だ、凛太郎はこの瞬間自身の命を代償に呪力制限を消し去った。

 

 呪力が膨れ上がる。

 その全てリソースを術式と身体強化へと回す。

 

 

 「ケヒッ……なるほど、そう来るか!」

 

 「行くぞ、宿儺ァ!」

 

 「来い、津上 凛太郎ッ!」

 

 

 全身から赤熱の呪力が陽炎と共に立ち昇る。

 バチチッ、と高まった呪力が紫電となって迸っている。

 

 術式は既に回復していた。

 術式のギアを最大出力まで強引に持っていく。血管を巡る血液が沸騰しているんじゃないかと思うくらいに身体が熱い、肉体は耐えきれずに崩壊を始めているが崩れていく身体をフルオートの反転術式によって繋ぎ止めている。

 

 今の凛太郎は小さな穴が空いたまま限界まで膨らませて続けている風船という状態がしっくり来るような状態である。空気が抜け続けて完全に“中身”が空になるのが先か、それとも空気を閉じ込め続けておく為の“器”が先に壊れるのか。

 

 そんなギリギリの状態。

 

 領域は使わない。

 いや、使()()()()と言った方が正しい。凛太郎の術式「呪力強化」はその効果中、一時的に呪力総量と出力を倍率分増幅させる。

 

 しかし呪力の総量と出力を増幅させたところで、術式や領域展開などを使用して消費される呪力は増幅される以前の素の呪力から消費される。後付けされた呪力からは消費されることはない。

 

 つまり、連続で領域展開を使用できる程の呪力は今の凛太郎に残されていない。だからこそ、自分の術式にのみ意識を集中させた。

 

 “術式の付与の解釈を拡大させる”。

 それにより細胞の一つ一つへ、肉体の隅々にまで術式効果を作用させる至った。

 

 

 「はぁああああ!!」

 

 「ふん」

 

 

 ビリビリと空気が振動する。

 

 宿儺が静かに見つめるなか、凛太郎は両拳を腰に構え、溜め込んだ呪力を気合いと共に全て吐き出した。その瞬間、凛太郎を中心に衝撃波が広がった。全身に叩きつけられる呪力の圧力に、宿儺は目を見開き口元を歪ませる。

 

 立ち昇る濃密な呪力。

 前髪を一房ほど残して、黒髪を鋭く逆立たせたながら赤熱の呪力に包まれた凛太郎。宿儺にも、それがただの虚仮威しではないことがわかった。

 

 

 「おおお!」

 

 「ふっ」

 

 

 重心を低くし、腰を落として構える。

 

 放出した呪力を推進力へと変化させ突撃する。

 踏み込んだ足場を粉砕して捲りあげるほどの、文字通り爆発的な加速。吹き出した呪力が凛太郎を覆い、赤い呪力の輝きが軌跡となっていく。

 

 

 「“力は重さと速さ”だぜ……せぇえ、のッッ!」

 

 「ぐううっ!」

 

 

 繰り出された凛太郎の拳を宿儺は交差した腕で受け止めいていた。まるで巨大なハンマーで殴られたかのような衝撃、威力と衝撃を殺しきれず宿儺はそのまま凛太郎に押し出されるような形で吹き飛んでいく。

 

 

 「ぐ……!」

 

 

 突撃を受け流せないと判断した宿儺は密着した体勢のまま迎え撃つ。隙だらけの胴へと手のひらを押し当て、惜しみなく術式を解放する。

 

 襲いかかる斬撃の雨。

 体の内部から突き抜けるような斬撃と衝撃に体が一瞬にして斬り刻まれる。もろにそれを喰らった凛太郎は勢いを失い、血を吐き出したながら痛みで吹き飛びそうになる意識を繋ぎ止める。

 

 

 「ぶおォッ!」

 

 「体があったまって来たな……そら、簡単に死んでくれるなよ津上 凛太郎ッ!」

 

 「ぐッ!」

 

 

 宿儺のカウンターの拳が叩き込まれる。

 頭から地面に突っ込んで凛太郎は激突する寸前に両腕を着地して反動で起き上がろうとするが、それよりも早く宿儺が動いた。

 

 呪いの王の腕が凛太郎の頭部を鷲掴みにする。

 今度はこちらの番だと言わんばかりに、宿儺は凛太郎を掴んだまま近くにあったコンクリートの壁へと突進する。

 

 ガン、凛太郎の顔が壁を壊す勢いで叩きつけられる。

 しかしそれだけでは終わらず、ゲラゲラと不愉快な嗤い声を上げながら駆け出した。

 

 

 (やば……おれ、いまどうなって、口のなか甘……───!!)

 

 

 まるでかき氷機にでも入れられたような気分だ。

 

 ()()()()()。骨を砕かれ、肉を抉られ、凛太郎の声にならない叫び声と共に無機質なコンクリートの壁が、血痕を残しながら掘削機で穿つように一直線に削り取られていく。

 

 

 常人であれば直視できず、目を背けたくなるような酷い光景が一瞬にして出来上がる。

 

 そして壁面が途切れた所で、宿儺は凛太郎を力任せに放り投げた。

 

 

 「〜〜ッ……いってえなッ!」

 

 

 かろうじて意識を保っていた凛太郎、顔半分を擦り卸ろされた痛みにうめきながらも四つん這いになってどうにか着地する。

 

 即座に潰れた眼球と折れた歯や骨、失った肉を反転術式によって修復させ口内に溜まった血を吐き出すと再び宿儺に向かって走り出す。

 

 呪力を手のひらに集中させる。

 再現するのは“とある漫画”の主人公が使う必殺技、会得難易度Aランクと言われる“回転” “威力” “溜める” の三工程を極めた超高等忍術。それを呪力によって再現し具現化させる。

 

 

 「螺旋丸!」

 

 

 手のひらの上で呪力を乱回転させながら球状に圧縮させた呪力の塊。凛太郎が至近距離で放つ手加減のない、並の相手ならば致命傷になりかねない呪力の一撃。

 

 凛太郎は螺旋丸を宿儺へと叩きつけようと飛び掛かった。

 だが攻撃が届く寸前、宿儺の手が螺旋丸ごと凛太郎の手を掴み、握りつぶした。

 

 不発に終わった攻撃は爆風となって消え、宿儺の腕も呪力によって切り裂かれたような傷を負うが何事もなかったかのように反転術式によって修復される。

 

 

 「()ぅ……げ、マジィ!?」

 

 「ほお、中々興味深い技だ。術式もなく技術のみで、呪力の形態を変化させて放つというわけか……クク、お前は面白いな」

 

 「おま、螺旋丸をそんな簡単に止めんなよ! 俺とファン達が泣くぞ!?」

 

 「知るかそんなこと……それ、隙だらけだぞ」

 

 

 凛太郎は身を離そうと後ろに飛んだが、宿儺がそれを許す筈もなかった。宿儺は凛太郎の手を掴んだまま、身を捻りパワーにものを言わせて振り回さんとするが途中で何かがおかしいことに気がついた。

 

 掴んで押さえた筈の相手の手が()()()()()()

 

 まさか───!

 自身の違和感の原因をすぐさま確認する。そこには()()()()()()()()()()()()()()が宿儺の手の中に力なく収まっていた。

 

 

 「───おい、隙だらけだぜ?」

 

 「………!」

 

 

 ()()

 凛太郎は力任せに振り回される寸前、自身の腕を片腕に集中させた“呪力の刃”で即座に斬り落としていた。凛太郎は自身の腕を落とすことになんの躊躇いもなかった。

 

 彼からすれば反転術式によって再生できるならば、腕一本など安いものだと考えているくらいだった。

 

 明確な隙を晒した。

 宿儺が向き直るよりも速く、凛太郎が拳を叩きつける。

 

 ───凛太郎はこの戦いで既に()()()()している。

 

 一度目は偶然、二度目は無我夢中で、三度目も凛太郎が意図したものではなかった。そもそも、()()は狙って行える攻撃ではない。狙って出せる自分の後輩がおかしいだけだ。

 

 しかし凛太郎はこの瞬間、意識を研ぎ澄ませて()()()()()()()()()()()()()

 

 ───それは四度目の黒閃

 この瞬間、凛太郎は自分の意思で黒い火花 を微笑ませた。

 

 

 「ぐうッ───!!」

 

 「はぁあああああっっ!」

 

 

 空間が歪む。

 黒い火花を迸らせながら拳が胴を穿つ。

 

 今の自分が繰り出せる最大呪力出力を乗せた渾身の黒閃。宿儺が口から血を吐き出して重心がブレたことにより膝を突きそうになる、その一撃は呪いの王に絶大なダメージを与えられるほどの会心の一撃だった。

 

 今しかないと、凛太郎が畳み掛ける。

 黒閃の余韻で動けずにいる宿儺を壁へと追い込み、自分の全てをぶつけるが如く連続で拳を叩きつける。

 

 呪力による防御は凛太郎の拳と無意識に使用される術式反転の効果で打ち貫かれた、黒閃をモロに受けた宿儺はなすすべなく攻撃を受け続けている。

 

 しかしその表情に焦りはなく、まるで悦びを露わにするように嗤っていた。そんな呪いの王の姿に不気味さを感じながらも凛太郎は攻撃の手を緩めることはない。

 

 

 「ぬうぅぅ、あぁあああっ!」

 

 

 拳が顔面を撃ち抜いた。

 今まで以上の手応え、殴り飛ばされた宿儺が壁を突き抜けて吹き飛んでいく。

 

 

 (黒閃の余韻が長いな……まだ、思うように動けんッ……)

 

 

 吹き飛ばされた宿儺は焦る事なく、冷静に状況を見据えていた。

 

 視線の先には地面を滑るように追いすがる凛太郎の姿。

 

 宿儺は素直に感嘆していた。

 いくら殴り切り裂かれたようとも立ち上がる耐久性(タフネス)、格上の相手との戦闘では自傷を顧みずそれを反撃の一手とする精神力、そして何より戦いの中で学習して成長するそのスピード。

 

 このほんの数分間の間に、戦闘技術が驚くほどに進捗を遂げいていた。スピードは自分が優っているが、単純な膂力勝負となれば向こうが一枚上手なのではと考えさせられる程だった。

 

 しかし、凛太郎と両面宿儺の間には未だ明確な力の差がある。

 だというのに未だ倒れる事なく、必死に喰らい付き喉を食い破ろうとする獣のような姿で立ち塞がる呪術師は驚嘆に値するものだった。

 

 

 ───突如として凛太郎の姿が視界から消える。

 先程まで爆発的な加速で自分を追っていたというのに、霧散するかのように姿がブレるとその場から音もなく消えて見せた。

 

 

 (あの小僧、どこへ消えた……!)

 

 

 吹き飛ばされていた宿儺は地面に腕を突き刺して減速、滑り降りるように勢いを殺して着地する。そして服に付いた埃を払い、何事もなかったかのように立ち上がると周囲の気配を探る。

 

 逃げたのか?

 一瞬そんな考えが過ったが、それはないと即座に判断した。既に凛太郎は命を賭けた縛りを課している、そして何よりも奴は戦闘の最中に逃げ出すような腰抜けなどではないと宿儺も知っている。

 

 そんな呪いの王の頭上に()()()()()()()()()

 

 

 「……は、ハハハ!」

 

 「いいもんやるよ、受け取りなっ!!」

 

 「クク、わざわざ()()()()()()()! 」

 

 

 視線の先、そこには()()()()()()()()()()()を持ち上げて落下してくる凛太郎の姿がある。それは宿儺が祓った大地への畏れから誕生した特級呪霊、漏瑚が呪いの王へと一矢報いようと解き放った極ノ番「隕」その残骸であった。

 

 凛太郎は岩石の熱に両腕を焦がしながら宿儺目掛けて「隕」を投げ落とす。

 

 それに対して宿儺は避ける素振りすら見せず構える。

 

 

 「“龍鱗(りゅうりん)”」

 

 

 人差し指と中指を立てる。

 銃口を向けるように指先を構えた。

 

 

 「“反発(はんぱつ)”」

 

 

 それは呪詞の詠唱。

 術式の出力を底上げする為の手段。

 

 

 「“(つが)いの流星(りゅうせい)”」

 

 

 目を見開く。

 宿儺の呪力出力が高まったことを肌で感じ取った凛太郎。ゾクリ、とその一撃が自分を絶命させるに事足りる威力を発揮するであろうことを理解させられる。

 

 

 『解』

 膨大な呪力出力と共に放たれた網目状の斬撃。

 

 静かに構えた宿儺から放たれる、目視可能な程の濃密な呪力の斬撃。落下してくる巨大な岩の塊が、まるで豆腐に刃を通すかのように容易く切り裂いた。

 

 

 (さて、これはどうする?)

 

 

 宿儺は確かに見ていた。

 強大な「隕」を盾に構え、そして自分の斬撃に飲み込まれていく凛太郎の姿を。ブロック状に切り裂かれた岩石が周辺に音を立てて落下し、周辺を土煙で包み込んでいく。

 

 宿儺は静かに待つ。

 油断はない。慢心もない。あるのはただ一つの確信、自分に立ち向かうあの呪術師は今の一撃を凌ぎ、自分に拳を向けてくるであろうという確信。

 

 そして土煙を切り裂き、飛び出してくる一つの影。

 その男の姿に歪な笑みを深めて宿儺は嗤う。

 

 

 「ハハハッ、死に物狂いというわけかッッ!!」

 

 「なんつーもん飛ばしてくれてんだ! マジで死ぬかと思ったよ!!」

 

 

 回避は間に合わず、防御しきれないと判断した凛太郎は即席の“縛り”によって片腕の防御を捨てる代わりに、全身の防御を強固な物へとした。それによって自身のへのダメージを最小限に抑えて斬撃を防ぎきった。

 

 即座に腕を修復して殴りかかる。

 

 

 「どうした。もう限界か! もっとがんばれ津上 凛太郎!」

 

 「うるせえな! こちとら限界ギリギリサバイバーだ、っつーのォ!!」

 

 

 しかし凛太郎の攻撃は全て虚しく空を切っていた。

 それに比べて、宿儺の攻撃は逆に面白いほどに当たる。ハイキックを見切られては背中に膝を叩き込まれ、顔面には手刀、さらには反撃の回し蹴りからバランスを崩したところを組まれて投げ飛ばされる。

 

 凛太郎は石ころのように飛ばされて近くの建物に激突し、鮮血に塗れた粉塵と破片をまき散らした。

 

 

 「ほら、がんばれがんばれ。まだ踊れるだろう?」

 

 「くそ、舐めやがって……!」

 

 

 既に限界が近い。

 命を賭けた“縛り”、刻一刻とタイムリミットは近づいて来ている。それでも無駄死にだけはできない、既に消えかけている命の灯火を吹き飛ばされまいと凛太郎は必死に抗っていた。

 

 自分の上にのし掛かる瓦礫を吹き飛ばして、凛太郎は息を整えようとするが目に映る光景に「げ!」と目を見開いて表情を歪めた。

 

 そこには腰を落として()()()()()()()()()()()()()()()()()宿儺の姿があった。その構えには見覚えがありすぎた、何せ自分が決めてとして扱う十八番と言ってもいい『かめはめ波(呪力放出)』なのだから。

 

 すぐさまその場から飛び退いた。

 次の瞬間には、自分が数秒前まで立っていた場所は膨大な呪力の光に包まれ、その熱量に融解するかのように焼け焦げていた。

 

 

 「おま、人の必殺技をパクってんじゃねえよ!」

 

 「はっ、何が必殺技だ阿呆め。ただの呪力放出だろう」

 

 「あ゛あ゛ぁ゛!? お前それはタブーだろうが! 言っとくが、ビッグバンアタックだってただの気功波じゃねえんだよ!」

 

 「……知らん。なんだそれは」

 

 「はあ!? 舐めんなクソが!」

 

 

 ムッキー、と地団駄を踏む過激派読者である凛太郎の姿に宿儺は「なんだこいつ」呆れて溜め息をつく。

 

 ガルル、歯を剥き出しにして唸る凛太郎だが彼は冷静に考えていた。このままでは宿儺に勝つどころか、呪いの王の器である後輩の悠二が目を覚まして主導権を取り戻すまでの時間稼ぎすら出来ずに自分は死ぬであろうと。

 

 

 (……どうせ死ぬんだ。それなら、()()()()()()()()()())

 

 

 もはや自分に呪力出力のリミッターはない。

 自死は免れない。それならば、今の自分にしかできない方法で限界をこじ開けることが可能だ。自分にも危険が伴う可能性を考えて封じていた手段を存分に試す事も可能だ。

 

 ───凛太郎は術式と、その拡張術式の『界王拳』のギアを“四段階”に分けて使用している。なぜならばそれは術式効果のリスクを抑えて、自分の肉体が術式発動中と術式解除後の“跳ね返り”の反動に耐えられるであろうラインを見極めた“四段階”だからだ。

 

 しかし術式には、“理論上は上限がない”。

 凛太郎自身が負荷と反動に耐えられるかどうか、()()()()()()()()()()()

 

 自然と笑みが笑みが深まる。

 かつては心のどこかで恐怖を覚えて踏み越えられなかった一線。しかし今の彼に恐怖はない、寧ろ初めての試みである為、凛太郎はワクワクしてすらいた。

 

 

 「いっちょ行くぜ……!」

 

 

 呪力が迸る。

 重心を落とす。腰に両手の拳をあて、構えをとった。

 

 赤熱に揺らめく呪力が輝き、それは巨大な炎のように広がっていき凛太郎の体を押し包む。空気が爆ぜるように振動して凛太郎を中心に増していく膨大な呪力の嵐が地面を抉り、瓦礫を巻き上げている。

 

 赤い呪力が光の柱となって解放される。

 

 

 「かいいい、おおおお……っ……けええええええんんん!!」

 

 (なんだ、この尋常ではない呪力の膨れ上がり方……ッ!)

 

 「1()0()()だぁ───っ!!!」

 

 

 凛太郎の雄叫びが地鳴りのように辺りを震わせた。

 

 息を飲んだ。

 自分に届き得るであろうほどの膨大な呪力の塊。天を突くほどに聳え立った呪力の柱、光の中からゆっくりと浮かび上がる影。押し寄せる強烈な波動に、宿儺の体がビリビリと震える。

 

 一時的なものであろうと、その呪力出力と総量が特級相当であろう事が理解できた。

 

 凛太郎の目が向けられた刹那。

 

 

 「───は?」

 

 

 ───気がつけば宿儺は天を見上げていた。

 ワンテンポ遅れて響く轟音と衝撃、自分が反応もできずに殴り飛ばされた事を理解するのに数秒の時間を有した。空中で体勢を整えて着地しようとするが、またもや視点が切り替わる。

 

 いつの間にか自分の体は衝撃と共にコンクリートへと叩きつけれていた。

 

 

 (───速い! この小僧、いつの間に……!)

 

 

 即座に理解する。

 例え制限付きの力であろうと、目の前の呪術師は数秒前までとは比べものにならない別次元の存在へと成ったこと。

 

 

 「ケヒッ、いいぞ! 貴様は本当にっ、俺を楽しませてくれるな!」

 

 「……っ……!」

 

 

 答える余裕はない。

 限界を超えた強化の負荷と“跳ね返り”の反動で吹き飛びそうになる意識をどうにか保っている。既に崩壊しかけている肉体がいまも悲鳴を上げている、体を動かす度にブチブチと筋肉が千切れていくような感覚に涙が出そうになるくらい痛い。

 

 痛みを堪えて拳を突き出す。

 音を置き去りにする拳は、呪力を乗せて肉を穿つ拳圧となって飛んでいく。目視できず、反応が遅れて直撃したことにより怯む。

 

 

 「ッッおおおおぁあああああ!!」

 

 

 接近戦。

 攻撃を受けながしながら放たれた宿儺の蹴り。

 

 それが届く寸前、凛太郎は軽く飛び上がって、上からカウンターの蹴りを叩き込む。交差した腕で受け止めたものの、ガラ空きとなったワキに凛太郎の回し蹴りが直撃する。

 

 骨を砕く感触。

 吹き飛ばされ、着地したところで宿儺が指先を構える。

 

 放たれた巨大な斬撃を凛太郎は僅かに半身を引いただけでやり過ごし、素早く飛び掛かって宿儺を殴り飛ばした。吹き飛びながら広げた手のひらから連続で放たれる斬撃、凛太郎はそれを軽やかに回避して更に連続で拳を打ち込んでいく。

 

 宿儺は一撃喰らうごとに突き抜ける衝撃に満足に動けなくなるほど怯んでいた。

 

 両者共に、その表情は苦痛に歪んでいた。

 

 

 (やはり速いな! 奴の拳も厄介だ、そう何発もまともに喰らえば俺とてただでは済まないか……)

 

 「おい! しっかり見とけよ! こいつが本場のかめはめ波だ!!」

 

 「……!」

 

 

 呪力が膨れ上がる。

 凛太郎は空中で両手に呪力を収束させ、ギチギチと反発する呪力を圧縮させて重ねて合わせた巨大な負のエネルギーを作り出す。上下に重ねた両手を腕を腰に引き寄せた。

 

 次第に輝きを増して、圧縮された膨大なエネルギー量に宿儺は回避を判断したが、それよりも速く凛太郎の姿が消えた。瞬間移動と見間違うほどの速度で凛太郎は既に宿儺の懐へと潜り込んでいた。

 

 

 「10倍ッ、かめはめ……はああああ───!!」

 

 

 放たれる極光。

 視界を埋め尽くす程の膨大な呪力を収束させた高出力指向放出。ゼロ距離で放たれたかめはめ波に宿儺の姿が飲み込まれていく。僅かに上空へと傾けて放った呪力は高層ビルを融解させるように抉り空へと伸びて消えていく。

 

 

 「はぁ……は……っっ……ぐぅ……はっ、はっ……!」

 

 

 膝をついて肩で息をする。

 活動限界が近い、既に視界はボヤけて体には力が入らなくなって来ている。いまの一撃は確実に宿儺を捉えていたはず、凛太郎は震える膝に力を入れて宿儺、というよりはその器である後輩の無事を確認しようとする。

 

 

 「……あいつ、()()()()()()?」

 

 

 しかし宿儺の姿は見当たらない。 

 周辺を見渡してみても、今の一撃の余波で吹き飛んだ建物は瓦礫が積み重なっているだけだった。「まさかマジで殺しちゃった?」そんな考えが一瞬だけ過ったが、あの呪いの王がそんな簡単にくたばる筈がないと考えを改める。

 

 

 「───なっ!?」

 

 

 次の瞬間、凛太郎の足元が切り刻まれた。

 疲労により反応が遅れ、瓦礫に飲み込まれるように体が落下していく。何がどうなったのか理解ができない。落下した先は広い空間、渋谷駅の地下通路だった。

 

 ───そして視線の先には笑みを浮かべて接近してくる宿儺の姿がある。

 

 

 「ケヒッ、ハハハハハハ!!!」

 

 「が、ごぉあああああ!!」

 

 

 悲鳴にも似た叫び声と共に凛太郎が殴り飛ばされる。

 油断していた凛太郎は防御もできずモロに拳を喰らい、吹き飛んで行き地下通路の壁に叩きつけられる。

 

 そして宿儺は追い討ちをかけるかのように、地下通路の階段に取り付けられていた手すりを斬撃で切り離すと槍を投げるように投擲する。

 

 呪力を纏い投擲物と化した鉄の塊が凛太郎の腹を深く貫き、壁へと磔にした。

 

 

 「ぐう、がああぁぁあああッッ!!」

 

 「ククッ……今のは危なかったぞ。直撃すれば俺とて無事では済まなかっただろう……当たればの話だがな」

 

 「クソが、大人しく喰らっとけよ……ッ!」

 

 

 宿儺は先程の一撃を凌ぎ切っていた。

 自力での回避は間に合わないと判断して自身の足元を切り裂いて、地下通路へと繋がる入り口を作り出して地下に滑り込む事によって凛太郎のかめはめ波は回避していた。

 

 しかし完全な回避とはいかず、掠っただけで片腕を持っていかれたその威力に驚くくらいだった。

 

 

 「………ッ!」

 

 

 宿儺が何かを小さく呟いた。

 痛みでうめく凛太郎はそれを聞き取れなかったが、呪いの王が何かしたということだけは理解できた。

 

 宿儺は徐に両手を重ね合わせ、手のひらに顕現させた()が収束していく。

 膨大な熱量に熱せられて周辺は徐々に融解していく、凛太郎も宿儺が繰り出そうとしている一撃が途轍もなくやばいものであろう事を嫌でも理解させられる。

 

 指先で炎を手繰り。

 矢を番えるように宿儺は構えた。狙い撃つ先は串刺しとなって動けずにいる凛太郎。

 

 

 「さて……避けろよ、津上 凛太郎」

 

 「いや無理ゲーだろこの状況!!」

 

 「ふっ、根性だ」

 

 「まさかの精神論……!?」

 

 

 笑顔で容赦なく放たれる一撃。

 凛太郎はなす術もなく火柱に飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 「タフな奴だ……まだ息があるのか」

 

 

 宿儺は瓦礫を踏み締めて立っていた。

 宿儺が解き放った広範囲かつ高火力を誇る火柱が立つほどの一撃で周辺のビルは吹き飛び、辺り一面は既に渋谷としての面影がないほどに更地とかして焦土となっていた。

 

 肉が焼けるような甘い匂いが鼻腔を擽る。

 視線の先には片腕を失い、肉は千切れ全身をやけ焦がしながらもどうにか人の形を保っている凛太郎の姿がある。反転術式は既に機能しておらず、傷が回復する様子もない。

 

 先程の一撃で完全に殺すつもりだったというのに、まだ生きている事に素直に感心してしまうくらいだ。

 

 

 「もう限界か……」

 

 

 ゆっくりと近づく。

 凛太郎の呪力が、命の鼓動が徐々に小さくなって行くのを宿儺は確かに感じ取っていた。命の掛けた“縛り”、限界を超えた術式による強化の反動、その代償として小さな命の灯火が消えていく。

 

 

 「見事だ。津上 凛太郎」

 

 「認めよう、純粋な呪力と体術のみでの殴り合い。俺と戦った者で貴様の右に出る者はいないだろう」

 

 

 純粋な賞賛。

 ただの暇つぶし以上に、両面宿儺にとって凛太郎との戦いは有意義な時間であった。風前の灯火、ゆっくりと消えていく凛太郎の命。“縛り”によって自死させるくらいならば、楽しませてくれた礼としてこの手でしっかりと殺してやろう。

 

 宿儺は動かない凛太郎を掴み上げて、貫いた。

 

 

 「ゴホッ、なんども、言わせんなよッ……テメエに、褒め……られても嬉しくねえよ。それに、まだ……終わってねえぞ」

 

 「ククク、口の減らん奴だ。賞賛は素直に受け取っておけ」

 

 

 まだ意識があった。

 既に虫の息。胸を貫かれたまま中へと浮き、しかしどこまでも自分に悪態をつくような態度に宿儺は笑う。

 

 

 「要らねえよ……ああ、けど、礼は……言って、おくぜ……ありがとよ、()()()()()()()()()()!」

 

 「……なに?」

 

 「───領域展開

 

 「───!!」

 

 

 ()()で掌印を結ぶ。

 目を見開く、先程まではなかったはずの片腕がいつの間に存在している事に驚いてしまう。反転術式はそれ相応の呪力を消費する、失った腕を再生させるなどもう出来ないとすら考えていた。

 

 宿儺の考えは正しかった。

 だが凛太郎は失った片腕を再生させた訳ではない。千切れて吹き飛んだ自分の片腕を密かに回収しており、新たに腕を生やすのではなく、()()()()()に過ぎない。それによって呪力の消費を抑えていた。

 

 形成された()()が宿儺と凛太郎を包み込む。

 しかし呪力不足によって展開された領域はおよそ領域とは呼べないほどに見窄らしいものだった。生得領域の具現化すらできておらず、術式の必中効果すら付与できていない。

 

 もはやただの結界と言ってもいいような代物。

 

 宿儺はため息を吐く。

 

 

 「それで、この領域で何ができる?」

 

 「さあな、けど……おかげで、テメエを……閉じ込められた……射程距離に、入ったぜ……ッ!」

 

 「?……っ……まさか───!!」

 

 

 生得領域の具現化など必要ない。

 必中効果もこの距離まで近づいてしまえば必要ない。

 

 ただ宿儺の逃げ道を塞ぐだけの時間と手段があればよかった。

 

 凛太郎が最後の呪力を振り絞る。

 それは宿儺の一撃を喰らった瞬間まで練り上げ続けたなけなしの呪力、それを術式効果によって臨界点まで急激に増幅させる。指向放出など必要ない、ただ無制限に解き放つのみ。

 

 

 「んじゃ、大人しく死んでくれ呪いの王」

 

 「貴様───!!」

 

 

 ()()

 凛太郎を中心に呪力が爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






呪いを知らないかつての後輩
 
「え、凛太郎先輩っすか?」
「 めちゃくちゃいい人ですよ! カツアゲされそうになった時とか、よくわからない状況で死ぬかも! って状況になった時とか、凛太郎先輩に助けられんですよね!……あ、でも聞いた話だと昔は結構やんちゃしてたみたいっすね。」
 
 
呪いを知らないかつての同級生
 
「凛太郎君についてですか?」
「僕は彼とはあまり親しい仲ではなかったので、詳しくはわからないですけど……そうですね、今の彼は昔とは似ても似つかいないって感じですかね? 人が変わったといいますか……前の彼は誰に対しても棘があるといいますか、すごく尖ってたというか……まるで別人ですね。何か心境の変化があったんじゃないですか?」
 
 
凛太郎の父?

「ッ……凛太郎について聞きたい?」
「どこで誰に、何を聞いたのかは知りませんけど、あの子について話すことはありません……か、帰って来れませんか?」
「……はぁ、わかりました。まず、私自身もよくわかってません。それだけは理解してください……幼馴染を見つけたと言って家で出て行ったあの日、数日後に帰ってきた息子は、あの子は()()()()()()。声も姿も同じなんです……けど、わ、私には分かります。分かるんですよッ! あ、あれは、()()は私の息子じゃないっっ」

───父の記憶に残るのは、母親によく似た黒髪と()()()。口数の少ない物静かな少年の姿だった。







今後の展開。※参考程度

  • 時計じかけの花のパヴァーヌ編
  • エデン条約編
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