透き通る様な世界観にいる一般呪術師   作:半ライス大盛り

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ゼンゼロ始めました、エレンちゃん可愛い。
そして呪術廻戦の連載再開してうれちいよ……!








元気出して相手はキッズだよ!

 

 

 

 「はぁ、はっ……な、なんとかここまで辿り着いた。せ、先生、ミドリ、アリス、大丈夫!?」

 

 「大丈夫です! 寧ろアリスはまだまだ戦えます!」

 

 「わ、私も先生も大丈夫」

 

 “す、少し休ませて。久々に全力疾走して脇腹が痛い……っ。本気でリンタロウと一緒に筋トレしようかな……?”

 

 「顔が死にかけてるよ先生……ところで、ここが差押保管所? であってるんだよね……だいぶ無茶苦茶になってるけど」

 

 

 凛太郎がユウカ、アスナ、アカネの3人の足止めを請け負ってくれているうちに目的の物である『鏡』を取り戻す為、ようやくここ場所まで辿り着いたゲーム開発部。

 

 思わず、といった様子で室内を見渡す。

 差押さえた物を保管していたであろう棚は倒れ、ガラスは砕けて足元に散乱して無惨な姿となっている。どうしてこのような惨状になっているのか、そんな疑問が一瞬だけ脳裏を過ったがどう考えても自分たちの所為だろうと理解した。

 

 こことは違う、少し前まで自分たちが居たフロアからは爆発するような戦闘音がここまで響いてきている。戦闘の余波で伝わってきた振動によって、棚から物が落ちてくるのすら視界に移るくらいだ。

 

 

 「……やっぱ、これ絶対後でユウカに怒られるやつだよね?」

 

 「お、怒られるだけで済むといいいんだけどね……」

 

 

 恐らくここの後片付けをする事になるのはセミナーのメンバーと、恐らくユウカ本人であろう。自分たちが目的を達して、後日ユウカからお叱りが飛んでくるであろう事を予期してモモイとミドリは思わず肩を震わせる。

 

 そしてそんな様子を見ながらシャーレの先生も自分に対して説教が飛んでくる事を予期し、その時が来たら凛太郎も巻き込んで6〜7割くらいは凛太郎(あいつ)の所為にしようと密かに心に誓う。自分は彼に手加減はするように言いました、なんて思いながら。

 

 

 「とりあえず、『鏡』さえ持ち出してここから逃げ切ればミッションコンプリートだよ!」

 

 「そうだね。あとはヴェリタスのみんながどうにかしてくれる、はず……っ!」

 

 

 モモイの一言に顔を見合わせて頷く。

 目的地に辿りついたものはいいが、まずは目当ての物を入手して無事に帰還しない事には話にならない。どこかの誰かさんが、想像以上に暴れてくれているおかげで室内はめちゃくちゃになってしまっている為、この中から素早く『鏡』を見つけ出さなければならない。

 

 

 “ふぅ……そ、それじゃあ、探そうか?”

 

 「あ、先生はもう少し休んでてください。私たちが探しますから」

 

 “うっ……じゃあ、お言葉に甘えようかな”

 

 「うぅ……こういう場合、大抵は壺を壊すか見えない場所に隠された宝箱があればすぐに見つけられるのですが、ここにはそのどちらもありません……っ」

 

 「大丈夫だよアリス、もっと注意深く探せば……ああ! こ、これは!?」

 

 「ど、どうしたのお姉ちゃん!?」

 

 「前にユウカに没収された私のゲーム機! こんなところにあったなんて!まだトロコン出来てなかったんだよね……うへへ、ラッキー!」

 

 「引っ叩くよお姉ちゃん」

 

 「なんでぇっ!!?」

 

 「容赦なくグーで行くよ」

 

 「グーで!?」

 

 

 ミドリの冷めた視線と感情を失ったような表情に本気でビビり散らかすモモイ。

 

 こんな状況で自分の没収された私物を見つけて喜ぶ姉の姿など見たくないだろうに、ミドリの視線が背に突き刺さるのを感じながらモモイはいそいそと作業に戻る。

 

 ───そんなこんなで数分が経過して。

 

 

 「あっ、これだ……見つけた! これさえあれば!」

 

 「ほんとっ!? よし、なら早く帰ろう! リンタローにも脱出してもらはないと!」

 

 “そうだね。なら、リンタロウにも連絡を……アリス?”

 

 「?……っ静かに、ミュートでお願いします」

 

 

 ようやく、お目当ての物を見つけた喜びを露わにするかのように飛び跳ねる双子の姿にシャーレの先生の表情も緩くなってしまう。こちらの作戦が完了した以上、長いするのも得策ではない。

 

 端末を取り出してまだ時間を稼いでくれているであろう凛太郎に『鏡』を手に入れた報告をしようとするが、その手は止まってしまう。

 

 この場で1人だけ表情を変えずに佇む少女の姿が視界に映った。

 まるで周囲の気配を探るかのように、耳を澄ませる姿に3人は首を傾げてしまう。

 

 

 「……誰かがこちらに向かってきています。足音から考えて、恐らく人数は1人」

 

 「えっ?……うーん、このままここにいてユウカやメイド部が戻ってきたら困るし、1人くらいならみんなで無理やり突破しちゃおっか」

 

 「……いえ」

 

 「ちょっと待って、ハレ先輩から連絡が来た」

 

 

 モモイの提案にアリスは頷く事なく表情を固くしている。

 そんな中、ミドリが持っていた端末がメッセージの着信を小さく鳴らして点滅した。次から次に何事かと、モモイやミドリは首を傾げたがひとまずはハレからの通信に応じる事にした。

 

 

 「もしもしハレ先ぱ───」

 

 『───逃げて、いや隠れて! 早く! なんとしてもそこから、$!#^&!@#■■……』

 

 「え? どういうこと?」

 

 「切れちゃった……いつも冷静なハレ先輩がどうしたんだろう。ね、ネズミでも出たのかな?」

 

 

 普段聞き慣れぬ先輩のなにやら鬼気迫ったような声音にミドリの疑問は深まるばかりだった。通信の状況は良くないのか、ノイズ交じりに聞こえた音声も途中で途切れてしまい、ツーツーと通信を終了した音声だけが聞こえてきた。

 

 一抹の不安が脳裏を過ぎる、そんな時だった。

 

 

 「接近対象を確認、ミレニアムの生徒名簿を検索……対象を把握」

 

 “え?”

 

 「身長146cm、ダブルSMG、特徴はメイド服の上から龍柄のスカジャン……」

 

 「……え?」

 

 「───ま、まさか……っ!?」

 

 「隠れてっっ!!」

 

 

 アリスの口から伝えられた情報と容姿的な特徴にモモイとミドリは表情を変えて、アリスと先生の手を引いて慌ただしい様子で姿を隠す為に部屋の奥へと走っていく。

 

 

 「せ、先生お尻が出てる!」

 

 “ちょ、狭い……”

 

 「は、早く! 急いでください先生!」

 

 「うぅ……せ、狭いです。モモイ、もう少し奥に……硬いです」

 

 「こ、これ以上は無理だって!……あと硬いですって何が!?」

 

 「───……めちゃくちゃだなコリャ」

 

 「っ!!」

 

 

 ビクン、と肩が跳ね上がった。

 いつの間にか差押保管所の扉の前に立ち室内の様子を確認している影があった。

 

 

 「(や、やっぱり、()()先輩だ!)」

 

 「(ど、どどどど、どうしてここに!?)」

 

 “………あれは?”

 

 

 焦るモモイとミドリの尋常ではない様子に、シャーレの先生は物音を立てないように気をつけながら、そっと物陰から様子を伺う。そこには先ほどアリスが伝えた情報通りに146cmという小柄な体形に身に包んだメイド服の上から羽織った派手なスカジャンという奇抜な格好。

 

 その人物には見覚えがあった。

 今回の作戦を成功させる上で、ヴェリタスが用意した情報を目にした時にあった生徒の情報。

 

 ()()()()

 ミレニアムサイエンススクールの3年生で、ゲーム開発部の前に立ち塞がるであろうと予測していたプロフェッショナルCleaning&Clearing、そのリーダーである。

 

 エージェントとしての依頼成功率は100%と言われ、ミレニアム最強の戦闘力を持つ彼女のコールサインは00(ダブルオー)

 

 怯えている双子を他所に、シャーレの先生は「思っていたよりも小柄だな〜」なんて呑気に考えていた。

 

 

 「んん?……何か、声が聞こえたような気が……」

 

 「(っ!?)」

 

 「(ヒィィ! ど、どうしよう!?)」

 

 “あ、焦らないで落ち着いてっ”

 

 

 怯えるモモイとミドリを先生はどうにか落ち着かせようとする。

 

 そんな2人の横で、アリスは静かに物陰から入り口の前に立つネルの姿を視界に捉えていた。そして恐怖するかのように、息を潜めて唾を飲み込んだ。いまここで彼女と戦えば勝機はなく、確実に全員がこの場で取り押さえられてしまうであろう事を本能で理解していた。

 

 室内から聞こえた微かな物音に、ネルがゆっくりと近づいてくる。

 

 

 「ふーん、確かに気配がしたんだが……机の下か?」

 

 

 ───やばい。

 全員の心の声が一致した。

 

 彼女はすぐそこまで来ている、覗き込まれたりでもしたらもう終わりだ。ゆっくりと影が近づいて、歩く度に擦れる衣服の音が鮮明に耳に残り、恐怖と絶望といった感情に思考が支配されそうになる。

 

 

 「……あ、あのっ!」

 

 「あん?」

 

 「ね、ネル先輩! 大変なんです!」

 

 「(……え!?)」

 

 

 絶体絶命、もはやそんな時だった。

 気がつけば、もう一つの影が立っていた。彼女の気配と存在感に気を取られるあまり、その側に立つ少女の姿に気がつくことができなかった。

 

 この差押保管所へと辿り着いたセミナーの誰かであろうか、そう思い今度こそ終わりだと絶望したのも束の間、ネルの隣に立つその姿に、聞き慣れたその少女の声音に思わずといった様子で目を見開いてしまう。

 

 

 「……あんたは?」

 

 「せ、生徒会『()()()()』所属の、()()()ですっ」

 

 

 それはこの場にはいないであろうはずの少女。

 ゲーム開発部の部長、花岡ユズの姿がそこにあった。

 

 

 「げ、現在アカネ先輩たちやカリン先輩が別のフロアで侵入者と交戦中で制圧を試みていますが、じょ、状況的に助けが必要かと思い……そ、それでここにいらっしゃると聞いたので……」

 

 「()()()?……はぁ、仕方ねえな」

 

 

 そういえばそんな報告が入ってたな、なんてネルはそんな事を考えながら息を吐いて自分の仕事を増やされた事に対してか、面倒くさそうに頭を掻く。

 

 

 「わ、わたしはここの整理をします。そ、その、戦闘は怖くて……経験も、あまりないですし……」

 

 「んなことはどうでもいいけど、それよりあんた……」

 

 「は、はい……?」

 

 「覚えときな。戦闘で一番大事なのは武器でも、経験でもねぇ……()()だ」

 

 「……!」

 

 「自分がどう思われてるのかくらい、わかってる。あんたが結構なビビりだろうってこともな、初対面でこのあたしに声をかけるなんて度胸がいることだろうからな。その点を踏まえて考えりゃ、あんたは素質あるぜ」

 

 「へ? は、はは、はい! ありがとうございます!?」

 

 「ビビんなって。んじゃ、またどっかで会おうぜ」

 

 

 ガラの悪さと攻撃性の高さにより、ミレニアム内でも何かと怖い先輩として扱われている事はネル本人も理解していた。普段の自分の言動や行動からそれは仕方のない事だと割り切ってもいる。

 

 そんな自分に怯えながらもしっかりと言葉を伝えてきたユズの姿に、彼女の度胸に嬉しそうに笑うとネルは踵を返して保管所を離れていく。

 

 

 「……ふぇぇぇ」

 

 

 そんな後ろ姿を見送りながら、ユズは緊張の糸が切れたかのように腰を抜かして座り込んでしまう。そんな彼女の元へ、姿を隠していた面々が飛び込んでくる。

 

 

 「し、死んじゃうかと思った……!」

 

 「ユズちゃんすごいよ!おかげで命拾いしたよ!」

 

 「え、えへ、力になれてよかった……それよりもアリスちゃんが持ってるのが?」

 

 「はいっ。これが人類と私たちを救う、新たな武器……『鏡』です!」

 

 

 アリスが掲げる『鏡』に表情が綻ぶ。

 これでようやく、ゲーム開発部を存続させる為の新作ゲームを作ることが出来るのだ。この『鏡』があればヴェリタスに頼んで伝説のゲームクリエイターが作ったとされる神ゲーマニュアル『G.Bible. 』が手に入る。

 

 

 「喜ぶのは後にして、急いでここから離れよう! ネル先輩がここに戻ってきたら今度こそ終わりだよ!」

 

 「そ、そうだね……!」

 

 

 モモイの言葉にハッとする。

 折角この場を切り抜けたというのに、ネルがこの場に戻ってきてしまえば元も子もない。一行はネルと鉢合わせにならないように、彼女が向かった方向とは別のルートで脱出しようとする。

 

 

 “……あ”

 

 「ど、どうしました先生……?」

 

 “さっきの子が向かったのって、さっき私たちが来る時に来た道だよね”

 

 「そうですね。けど、そことは別のルートで脱出できます」

 

 “いや、そうじゃなくて私たちが来た道って凛太郎がまだ……”

 

 『………あ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 (───油断は、なかった)

 

 

 なんて言えば、嘘になるかもしれない。

 だけどそれ以上に、不測の事態であろうと自分たちならば対応できるという自信があった。

 

 ()がシャーレの先生と同じ『キヴォトスの外』から来訪した存在であるという情報は耳に入っていた。

 

 彼がアビドス自治区でゲヘナ風紀委員会やカイザーコーポPMCの兵隊、カタカタヘルメット団と呼ばれる不良生徒たちを相手に大立ち回りをしていた事も風の噂で知っていた。

 

 しかしその噂の数々も尾ひれがついたものも数多くあり、どこまでが本当でどこからが嘘なのか判別はできなかった。しかし、判別はできなくとも警戒をするに越した事はない。

 

 彼女たちは()()を要請された時から、マークを付けていた。

 だがどれだけ警戒しようとも、どんなに備えようとも、対処し切れない実力差というものはあったのだ。

 

 視界に火花が散った。

 額から流れた冷や汗が頬を伝って地面に落ちる。

 

 

 「あなた、いったい何者ですか……っ!?」

 

 「嫌だな、人をそんな怪物みたいに。ただの一般人さ、今は勇者パーティの一人だけどね!」

 

 「くぅっ!」

 

 

 ───迅い。

 

 暗闇の中で、青く輝く鋭い眼光が軌跡を残しながら疾走し影を纏いながら飛び出してくる。咄嗟に武器を構えて引き金を引く、しかしそれよりも速く飛び込んで来た影は銃身を叩く事により照準をずらした。

 

 放たれた弾丸はあらぬ方向へと飛んでいき、壁面へと直撃した後に地面へと転がった。

 

 続け様に放たれた回し蹴りを背を逸らす事で避ける、隙を見つけて反撃(カウンター)を繰り出そうとは考えない。そんな事をすれば()()()()()()()()()()()()()、故に回避に徹して静かに援護を待つ。

 

 

 「早いねお兄さん!」

 

 「そうかい? まあ、身体動かすくらいしか取り柄がないから、ね!」

 

 「うわわっ!」

 

 

 凛太郎は背後から飛んで来た椅子を振り返る事なく最小限の回避すると、放物線を描く様に飛んでいったそれをアームギアに搭載されたワイヤーアンカーを発射して先端を突き刺してキャッチする。

 

 そして投げつけて来た本人、アスナに向かって投げ返す。

 凛太郎が回避する隙に狙い撃とうとしていた彼女だが、自分の予測を超えるような反撃の仕方に驚きながらも回避する。

 

 

 (ったく、面倒だな……!)

 

 

 凛太郎は内心で舌打ちを溢す。

 

 請け負った仕事である以上やり遂げる。が、ただでさえ女の子を相手に拳を向けるのはやる気が出ないというのに、自分の“想像以上に動ける”敵を相手にしながら時間を稼がないというのはどうにも骨が折れる。

 

 

 (それにこの二人、()()()()()()()()()()())

 

 

 一見、互角にも見える攻防だが凛太郎は自分が押されているように感じている。

 

 凛太郎は現在、術式を介した呪力強化ではなく術式を介さない呪力のみの身体強化でアスナとアカネの2人を相手にしていた。

 

 というのも単純に凛太郎が気乗りしないのと、術式を使用すれば確実に相手に怪我を負わせるであろう事を理解していたからだ。

 

 彼女たちの身体能力はフィジカルギフテッドに近いものを感じる。しかしいくらキヴォトスの生徒の身体能力が優れていようと、術式によって得た膨大な呪力で自分が攻撃なんてすればタダでは済まないであろうと考えていた。

 

 

 「アスナ先輩っ!」

 

 「うん。いっくよッー!」

 

 (どうしようかな……術式なしだと流石に手こずるけど、術式ありだと怪我じゃ済まないんだよな)

 

 

 最悪の場合、アスナとアカネを命を奪ってしまう可能性だってある。

 

 2人がかりの猛攻を捌きながら呑気に考える。

 片や射撃と体術を織り交ぜた接近戦、そしてもう片方はそれをカバーするかのような射撃といつのまにか仕掛けていた爆撃をこちらに浴びせてくる。

 

 呪力で強化していようと爆発は痛いのでしっかりとアームギアのシールドを展開して防御する。しかし残りのエネルギー量を考えるとそこまで多く使えない、最小限の展開時間でどうにか凌ぎ切る。

 

 流石に鬱陶しい。

 しかしそれ以上に厄介なのが……。

 

 

 「っ!……ぐぅ!?」

 

 

 反射的に、というよりはほぼ勘で動いていた。

 危機感知とでも言ううべきか、産毛が逆立つような感覚。

 

 フロアの窓を突き破り高速で飛来した弾丸、凛太郎は咄嗟に呪力を込めたアームギアを盾にして防御する事によって直撃を免れた。

 

 しかしその威力に身体が吹き飛ぶ。

 どうにか直撃を防ぎきり寸前で後方に飛んで威力を軽減したが、それでも襲いかかる衝撃に堪えきれず地面を転がる羽目になった。

 

 

 「いちち……こりゃ長引かせたら、負けるかもな〜」

 

 

 的確な狙撃による援護射撃。

 跳ねるように起き上がり、凛太郎は視界に捉える事のできない遠くのスナイパーを睨みつける。いまのはガード出来てなかったら死んでたかな、なんて思いながらアームギアに突き刺さった弾丸を抜き取りその辺に放り投げる。

 

 狙撃が誰の仕業なのかは理解していた。

 

 ()()()()()

 ミレニアムサイエンススクール2年生。Cleaning&Clearingの後方火力支援担当で、コールサインは「ゼロツー」。エンジニア部やゲーム開発部の面々から耳に入れた一通りの情報ですぐさま狙撃手の正体に予測をつけた。

 

 

 「あっちは、ヒビキちゃんたちがどうにかしてくれるのを待つしかないか……?」

 

 

 流石にこの距離で狙撃手に対する反撃の術がない。

 いや、完全にないわけではないのだが流石に“かめはめ波”などの呪力の高出力砲での反撃は論外なので、結局はこちらからはどうする事もできないのだ。

 

 狙撃手への対策に出てくれているエンジニア部のヒビキとウタハの2人がどうにかしてくれると信じて、攻撃を凌ぐしか凛太郎にはやる事がない。

 

 

 「そろそろ、きれいに片付けてしまいましょうか。派手に暴れすぎて生徒会から後始末のことで小言を言われるのも遠慮しておきたいですからね」

 

 「……っ!」

 

 

 

 アカネの言葉に、うげっと表情を顰める。

 

 うだうだ言ってはいられない。

 向こうはこれ以上長引かせる気はないらしい。

 

 静かに息を整える。

 ───少し、本気でやるか。

 

 出力を調整しながら全身に呪力を漲らせる。加減し過ぎた所為で負けてしまいました、なんて笑い話にもならない。これ以上遊び過ぎてしまえば形勢を変えられないほど不利になる可能性もある。

 

 ()()()使()()()()、だが出せる力の範囲で全力で潰しに行こう。

 その為の手札を一枚切る。

 

 

 「うし、ちょっといいかなお二人さん」

 

 「あれれ、もしかして降参かな?」

 

 「いんや〜。最初に謝っておくべきかなぁ、と思ってさ」

 

 「……謝る?」

 

 「うん───多分、()()()()()()()()()()()()()()()って話を」

 

 「ッ!」

 

 

 アームギアの電力をシールドの防御機能ではなく、対象を鎮圧する為の攻撃手段に切り替える。アームギアのフレームをスライドさせて内部構造を露出、そこからツマミを回転させてシフトさせた。

 

 右腕に装着したアームギアの装甲が浮き上がり青い光を発しながらバチバチと放電していく。簡単に言えば、スタンガンやスタンロッドといった物と同じ仕組みだ。

 

 しかしその威力は絶大であり、通常のモノとは比べ物にならないだろう。何せエンジニア部の魔改造品、その威力は既に確認済みだ。

 

 目に見えた凛太郎の武装の変化にアスナとアカネも警戒を露わにする。ただでさえ厄介な相手だというのに、これ以上何をするつもりなのか。

 

 拳を振り上げて走り出す。

 

 

 「───ッ!!」

 

 

 来る。

 凛太郎は遠距離からの攻撃手段を有していない、それはこの数分の攻防で理解していた。その武器の形状と変化から察するに懐に踏み込むことで使用する強力な武装だと予測した。

 

 故にメイド部の2人は待ち構える。

 何かあれば即座にフォローし合える距離で、凛太郎が隙を見せた瞬間に2人がかりで対応できるように。向かってくる相手に照準を合わせて待てばいい。

 

 そんな2人の姿に凛太郎は密かに嗤う。

 それは決して間違った対処法ではないだろう。

 

 だが、()()は意表を突いて崩す一手だと確信していた。

 

 

 「喰らえッ───……ロケット、パァァァァァンチッッッッッ!!

 

 「………へ!?」

 

 

 それ飛ばせるんかい。

 予想外過ぎる攻撃手段に2人の心の声が重なった。

 

 突き出した凛太郎の拳が文字通り発射される。

 凛太郎の腹の奥から絞り出されたような掛け声に呼応するとかのように、右腕のアームギアの拳の部分だけが切り離されジェット機のように飛んでいく。

 

 マジンガーなんちゃらさながらな綺麗なロケットパンチを目の前にして凛太郎は目を輝かせるが、呆けている暇はない。

 

 まさかそんな攻撃が残されていたなんて思いもしていなかったアスナとアカネは慌てた様子で回避行動に移る。

 

 

 「悪いねメイドさん、まずは君からだ───!」

 

 「やばっ……へ?」

 

 「アスナ先輩っ!?」

 

 「舌噛まないように気をつけてね!」

 

 

 高速で飛来したロケットパンチを回避する為に左右へ分かれるように回避した2人、凛太郎はワンテンポ回避が遅れていたアスナの方へと狙いを絞り接近する。

 

 そしてそのままアスナを押し倒すかのようなスピードで組み付くと、飛び込んだ速度を維持したまま足を止めることなく()()を目指して駆ける。すぐさま凛太郎の拘束を振り解こうとしたアスナだが、凛太郎が目指す先を視界に移して表情を驚愕に染める。

 

 硬質なガラスが耳障りな音を立てて派手に割れる。

 

 凛太郎が目指す先はロケットパンチで砕け散ったミレニアムタワーのガラス張りの壁面、凛太郎はアスナを抱えたままこのタワーの最上階からその身一つでダイブした。

 

 

 「う、うっそーー!!?」

 

 「うっひょ、たけぇー!」

 

 

 急降下する。

 

 その身に遅い来る突風と浮遊感。

 視界に映る景色が下から上へと流れていく。

 

 このまま落下し続ければ2人仲良く地面のシミになるだろう。いや、キヴォトス人の頑丈さならもしかしたら助かるかもしれないし、地面に叩きつけられて真っ赤なザクロになるのは凛太郎だけかもしれない。

 

 常人なら卒倒するような光景だが凛太郎は焦る事なく、左腕に残されたアームギアからワイヤーアンカーを発射してミレニアムタワーの壁面に突き刺して固定する。

 

 急激な負荷が襲いかかる。

 そしてそのまま突き刺したワイヤーアンカーを軸に、振り子の原理でミレニアムタワーのガラス張りの壁へと自分の背を盾にアスナを庇いながら激突する。

 

 

 「さて、空の旅は楽しんでもらえたかな?」

 

 「……すごかった!!」

 

 「はは、そいつはよかった。んじゃ、そこで大人しくしてて!」

 

 

 窓ガラスを突き破り放り出された勢いのまま転がる。凛太郎は痛みに唸りながら立ち上がると、アスナに怪我がない事を確信してから茫然としたまま動けないでいる彼女をワイヤーで拘束する。

 

 だが、どこか楽しそうにしている彼女の様子に凛太郎はつられるように笑いながら、もう1人のメイドを押さえ込む為に足に力を入れる。

 

 状況の確認は素早く済ませる。

 落下し続けた時間はほんの数秒程度だ、恐らく自分の現在地は先程の場所から3〜4階離れた下の階だろうと予測を付ける。わざわざもう一度壁を登って上に行くのも面倒だ。

 

 ───()()()()()

 

 呪力出力を上げて身を屈める。

 そしてその力のままに踏み砕く勢いで跳躍する。

 

 もはや砲弾と化した凛太郎はミレニアムタワーの床と天井を突き破りながら、数秒前まで自分が居たこのタワーの最上階へと粉塵を巻き上げながら一瞬で帰還する。

 

 

 「やぁ、来ちゃった♡」

 

 「っ……貴方、なんでもありですか……!!」

 

 「あ、さっきの子は無事だから安心してよ」

 

 

 床を突き破り背後に現れた男に対して驚愕に染まる表情。

 

 アカネがこちらを視認し対応する前に凛太郎は接近、彼女の腕を掴みハンマー投げのように回転させて投げ飛ばすと素早く拘束用ワイヤー弾を打ち込んで磔にして拘束する。

 

 ふぅ、と息を吐く。

 

 

 「よし、お仕事完了かな……流石に暴れ過ぎた気もするが」

 

 

 これユウカちゃん許してくれるかな?

 眼前の惨状に思わず頬が引き攣りそうになるのを感じる。

 

 割れた窓ガラス、突き破られた床や天井、飛び散った瓦礫にバラバラになったフロアの支柱。何も知らない生徒に、敵対組織の人間がここへ乗り込んでセミナーを襲撃したと言えば簡単に信じてしまいそうな光景だ。

 

 とりあえず小言だけでは済まないであろうと覚悟しておくか。

 などと凛太郎は考えながら、ゲーム開発部の方はどうなったのか連絡を飛ばそうとして。

 

 背後の気配に気がついた。

 そこにいたのはスカジャンを羽織ったメイド姿の生徒だった。

 

 

 「おいおいおい、随分と派手にやってくれたみたいだな」

 

 「……うわ〜、ヤンキーなチビメイドだ。流石キヴォトス守備範囲広いって」

 

 「お前いまチビっつたか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 〜かつての風景〜
〜ある日の任務帰り〜


凛太郎
「うっす。待たせて悪いな、なんかトイレ並んでて時間かかった。しかも前のハゲじじいの糞が長くて余計時間くったわ。危うく漏れるとこだった」
 
乙骨
「あ、あはは、この時間帯だと駅前も混むだろうから仕方ないよ。あ、それと補助監督の人がそろそろ迎えに来てくれるみたいだよ」
 
凛太郎
「ふーん……んじゃ、時間までここらへんぶらぶらしてようぜ! ネットの書き込みだと、この近くにある個人経営のラーメン屋が美味いらしい」
 
乙骨
「へえ、そうなんだ……そういえば僕たち何も食べてなかったね」
 
凛太郎
「まあ、それもそうだが……なによりも!」
 
乙骨
「……なによりも?」
 
凛太郎
「店員の女の子がめちゃくちゃ可愛いらしい! こりゃ行くしかないだろ!!」
 
乙骨
「あ、やっぱりそっちなんだね」
 
凛太郎
「そうと決まりゃ、行くぞ憂太ついてきな! ついでにラーメンの写真あいつらのLINEに送って飯テロしようぜ!」
 
乙骨
「え、ちょ! 待ってよ津上くん!」

ぶっちゃけどの時間帯に更新されると読みやすい?

  • 07:00くらい
  • 19:00くらいやな
  • 21:00くらいやでー!!
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