透き通る様な世界観にいる一般呪術師   作:半ライス大盛り

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それはそうと、ブルアカのストーリーは更新されきってから読み始める方なんですが今回は『ヤバい』とのことで気になって読み始めたのですが……ヤバいですね。
あそこで終わるのはなしだよ、続きが気になって仕方ないズラ。


今回、予想以上に文字数が多くなりました。
それとネル戦に関しても、力入れて執筆しようかな〜、なんて思ってたんですが。ちょっと戦闘描写が長過ぎて無理です、力尽きました。今回で一区切りという形にさせていただきます。

ゆっくり日常パートやりたい。







バカも休み休みYEAH!

 

 

 

 ───自然と視線が吸い寄せられた。

 ようやく面倒ごとが片付いたと思えば、次から次へと自分の元に引き寄せられてくる災難にため息が出そうになる。

 

 特徴的なのはその小柄な体躯と、身に纏ったメイド服の上から袖を通した派手なスカジャン。中々奇抜なファッションだが、それがどうにも様になっており妙な違和感などを感じるといったこともなかった。

 

 ───そんな彼女を視界に移した時、どこからか生徒が迷い込んだのか?

 

 

 (……あっ、強いなこの子)

 

 

 ───なんて感想が出てくる事はなかった。

 呪術師としての戦闘経験とでも言えばいいのか。気配や立ち姿から一目見て、目の前の小柄な生徒が先程まで相手をしていたメイドの2人よりも圧倒的な“強者”であることを理解させられた。

 

 流石にこれ以上の連戦は勘弁してほしい。

 体力的に問題はなくとも、精神的に色々とキツいのだ。

 

 だる、しんど、やる気でねー、の三拍子だ。

 野郎(やろー)相手なら遠慮なくボコれるが、相手が女の子となれば話は別だ。とにかくやりづらい、もし自分の攻撃で女の子に一生消えない傷でも残ったりしたらどうするのか。

 

 そんな事は許されない。

 凛太郎にとっては介錯なしで腹を切らなければならない程の大事となるだろう。

 

 ともかく、戦闘を避けてこの場をやり過ごそうとした凛太郎だったのだが、現実とはそう上手くはいかないものだ。

 

 

 「どうしたどうしたッ! こんなもんじゃねーだろ、なぁ!」

 

 (───次から次に、面倒だなっ……!)

 

 

 2丁のSMGから放たれる弾丸の雨。

 凛太郎はその場でやり合えば拘束したままのユウカたちを巻き込んでしまうと考えて、少女から追われながらユウカたちの元から距離を取るようにフロアを駆け回っていた。

 

 思わず舌打ちを溢しそうになる。

 どうしてこうもキヴォトスの生徒とは好戦的なのだろうか。

 

 気の強い女性というのも素敵だ。

 しかしもう少しこう、慎みを覚えるというか、お淑やかでいてくれた方が色々と気も楽になるのだが、そんな事は知った事ではないとは言わんばかりに弾丸の暴力が凛太郎に襲いかかって来る。

 

 

 「できれば、これ以上は勘弁してほしいんだけど……どうか、なっ!」

 

 「はっ、これだけ派手にやっておいてタダで帰れると思ってんのか?」

 

 「君がこのまま見逃してくれる、っていうのはどう! もしくはジャンケンで決めよう!」

 

 「そりゃもちろん、無しだっ!」

 

 「だよね〜。うん知ってたッ!」

 

 

 予想通りの返答で泣きそうになる凛太郎。

 

 美甘ネル。

 凛太郎も彼女の存在はある程度知っていた。というのも今回の作戦の概要を聞いた時に、美甘ネルという生徒の情報だけは耳にしていたのだ。

 

 口頭で聞かされただけでその人相や特徴などは知らなかったが、目の前の生徒こそがそのネルという少女であろう事はすぐに分かった。

 

 しかしなぜ彼女がここにいるのか?

 そんな疑問が脳裏を過ぎる、彼女は別の任務で不在であるとヴェリタスが掴んだ情報でそう教えられていた。彼女が不在だからこそ、今回の作戦は決行されたようなものだ。

 

 ───弾丸が頬を浅く切り裂いた。

 

 焼けたような痛み。

 

 思わず目を見開く。

 まるで負のエネルギーを打ち消すかのように()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 「随分と逃げ腰だな!」

 

 (ッ……仕方ない、やるしかないか)

 

 

 これ以上逃げ回ったところで撒くことが出来るわけでもない、正直に言って時間と体力を無駄に消費させるだけだ。凛太郎は床を滑るようにしながら、その場で急停止する。

 

 

 「なんだ、漸くやる気になったってわけか?」

 

 「はぁ〜、まあね……だって君、俺のこと見逃してくれそうにないんだもん」

 

 「は、この状況でおいそれと見逃す筈がねえだろ」

 

 

 ネルは動きを止めて、振り返り自分に向き合うように構えた凛太郎の姿に笑みを浮かべる。無駄に逃げ回って時間を掛けさせやがって、なんて言葉は彼女の中にはなかった。

 

 凛太郎がユウカたちを巻き込まないように移動していたのは理解していた。

 

 凛太郎がネルの強さを見抜いたように、彼女もまた眼前の男の実力を見抜いていた。そしてその強さを秘めた者を前にして興味を示しワクワクしてすらいる。

 

 視線が交差する。

 両者が腰を落として、銃と拳を突き出すように構える。

 

 

 (隙のない構えだ。場数は踏んでるってわけか、悪くねえ……だが、なんだこの妙な違和感)

 

 (この子、見るからに接近タイプだ。正直やりづらいが、文句は言ってられないか)

 

 

 ジャッ、と靴底で床を擦る。

 先程まで銃声が響き、騒音に塗れていたいたというのにまるで時が止まったかのような静寂さを感じる。ゆっくりと吐き出した息が聞こえてくる程に神経が張り巡らされる。

 

 ツゥ、と切り裂かれた傷口から溢れる。

 頬から顎へと伝うよう血がゆっくりと流れていく。

 

 そして零れ落ちた一滴の血の雫が宙を舞い、床へと落ちて弾けた。

 

 ───その瞬間、それを合図とした両者が飛び出した。

 

 

 「───ッ!」

 

 「けっ! おらおらおらおらぁっ!!」

 

 

 地を這うように駆ける。

 銃口が火を吹き、降り注ぐ弾丸の隙間を縫うように加速する。しかしそれでも全てを躱し切れるわけではない、弾丸を肩や頬に掠めながらもダメージを最小限に抑えながら確実に距離を詰める。

 

 そして自身の間合いに彼女を捉えた。

 駆け抜けた勢いのまま、スライディングの要領で床を滑り飛び込むと回し蹴りを放つように足払いを繰り出す。

 

 しかしその攻撃は空を切る事となる。

 

 

 「舐めんな! 見えてんだよ!」

 

 

 凛太郎の足払いを空中へ飛び上がることによって回避したネル。彼女はそのまま空中で身を回転させて足元を滑っていく凛太郎をサイトに捉え、容赦なく引き金を引く。

 

 だが凛太郎も自分の攻撃が回避されるであろうという事は予測済みだ。床を滑りながら素早く体勢を整えると、一瞬だけ呪力出力を上昇させてネックスプリングで跳ね起きるとネルの頭上を大きく越えて天井まで飛び上がる。

 

 そのまま天井を足場に着地、天井を蹴って落下速度を追加した飛び蹴りを繰り出す。未だ宙に浮いたままのネルは回避する事は出来ないと判断して両腕で防御する。

 

 彼女の小柄な体躯は砲弾で穿たれたように勢い良く吹き飛んで行く。

 

 

 「ははっ! 思ったよりやるじゃねえか!!」

 

 (っ……足に鎖が、いつの間に!)

 

 「だがな……この距離であたしに、勝てるなんて思うなよ!」

 

 

 飛び蹴りのダメージが響いた様子はない。

 それどころか、彼女はいつの間に自身の愛銃“ツインドラゴン”に取り付けられた長い鎖、それを凛太郎の飛び蹴りを防御した瞬間に彼の足へと絡ませていた。

 

 吹き飛んで行ったネルに引き摺られるように凛太郎の身体が引っ張られる。すぐさまアームギアのワイヤーアンカーを壁へと伸ばして引き寄せられる体を固定しようとするが、間に合わない。

 

 ネルが鎖を手繰り寄せ、空中で身を翻す。

 それに合わせるように凛太郎の身体が鎖を握るネルを軸に回転して、その勢いが加速する。

 

 そして視界の隅にフロアの支柱を捉える。

 彼女が何をしようとしているのか理解するが、回避するどころか拘束を抜け出す事すら間に合わないと判断した凛太郎は全身に力を込めて衝撃に備える。

 

 シールドを展開して防御を強固なものとするが。

 次の瞬間、凛太郎の身体がシールドごと支柱に叩きつけれた。

 

 

 「っ……───ッ!」

 

 

 突き抜ける衝撃。

 肺から空気が押し出される感覚。

 

 コンクリート製の支柱を抉るようにめり込み、拘束が緩んだ彼の身体は瓦礫を周辺に撒き散らしながら飛んで行く。地面をバウンドするように転がってゆき、壁にぶつかった事で漸く停止した。

 

 視界が揺れる。

 油断した、もう少し呪力を防御に回すべきだったと判断のミスを後悔する。

 

 

 「ッッ───……クソいてぇ」

 

 

 ぶつけた衝撃で額を切ったのか、血が出ている。

 

 壁に手をついてふらふらと起き上がる。

 しかし休んでいる暇はない、追い打ちを掛けるようにネルが距離を詰めて来た。やられっぱなしでいるつもりはない、ダメージは抜け切っていないが応戦する。

 

 銃弾をばら撒きながら接近してくるネル。

 避ける暇はない、残るエネルギーも僅かだがもう一度シールドを起動して銃弾を凌ぎ切る。そんな満足に動けないでいる凛太郎に向かってネルは飛び込むと体術を繰り出す。

 

 打撃と銃撃を織り交ぜたような体術を逸らす事で受け流す。

 そしてカウンターの拳を突き出すが、凛太郎の拳は呆気なくネルに受け止められた。

 

 

 「───てめえ、あたしをおちょくってんのか?」

 

 「………へ?」

 

 「このあたしを、バカにしてんのかって聞いてんだよ!」

 

 

 受け止められた拳が彼女の握力によって軋む。

 その痛みに僅かに顔を歪めた凛太郎だったが、目の前の憤怒の表情と抑えきれない怒りが込められたような言葉にポカンと口を開けてしまう。

 

 そんな凛太郎の様子が彼女の神経を逆撫でにする。

 

 凛太郎が強者であるという事は既に見抜いている、その実力が自分に並ぶかもしれないと僅かな期待も寄せていた。しかし目の前の男は本気でやり合うつもりはなく寧ろ手加減しているであろうとネルは気づいていた。

 

 

 「さっきから手抜きしやがって、そんなんで勝てると思ってるなら甘く見られたもんだな」

 

 「………」

 

 「舐めやがって、本気でやれッ! そのつもりがないならすっこんでろ!!」

 

 「───ッ!」

 

 

 彼女の叫びに油断していた凛太郎の腹に蹴りが直撃する。

 碌な防御すら出来ずにいた凛太郎は勢いよくフロアの壁と窓ガラスを突き破りながら隣の部屋まで吹き飛んで行く。

 

 瓦礫の中へと沈んで行く凛太郎の姿をネルは冷めたような目で見つめ、期待外れだと言わんばかりに踵を返して歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  


 

 

 

 

 

 白く濁った空模様。

 呆然と雪の降る寒空を眺めていた気がする。

 

 昨日まであんなに天気が良かったというのに、急に雪が降り始めて来た。感じる肌寒さにもう少し着込んでくればよかったか、なんて他人事のように考える。

 

 まるで燃え尽きてしまったかのように、まるで自分の存在している意味を失ってしまったかのように、四肢には力が入らず自分の頭や肩に降り積もった雪を払い落とす気力すらなかった。

 

 ───いま何時だったけな?

 

 スマホを開いて時間を確認してみれば、未読となったまま溜まりに溜まった友人たちからのメッセージの件数が画面に表示されていた。どうしたもんか、なんて考えながらただ画面を眺める。

 

 ピロン、と新しく送られて来たメッセージが画面の一番上に表示された。『いまどこに居るんだ』『連絡くらいしろ』そのどれもが似たような内容のメッセージだった。

 

 それらを未読にしたまま、煩わしく感じてスマホの電源を落とす。

 

 

 「……なんか、疲れたな」

 

 

 それは少年から漏れ出した心の奥底にある本音だった。

 

 現在は1()2()()2()6()()

 自分の復讐は2()()()に人知れず終わってしまった、

 

 脳裏を過ぎるのは2日前の大きな戦い。

 自分は何もできなかった。駄々を捏ねるように身勝手に暴れて、それが原因で取り押さえられて、大事な場面で我が身可愛さに拳は止まってしまった。

 

 恩師や友人、仲間たちにすらにも酷い言葉を浴びせた気がする。

 だというのに仲間たちは気にするなと言わんばかりに、自分に笑い掛けていつものように接してくれている。

 

 それが嬉しくて、申し訳なくて、それでもそんな仲間たちに対して『何も知らないくせに』なんて心のどこかで思ってしまっていた自分自身にどうしようもない怒りを覚える。

 

 

 「………ははっ」

 

 

 気持ち悪い。

 『もうこんな後悔はしたくない』『()()()護る為の力を』なんて綺麗事と共に力を磨き上げて来たというのに、結局自分の中にあった本音はそんなものじゃなかった。

 

 『ぶち殺してやる』

 

 際限なく湧き上がる殺意と憎しみ。

 きっとアレが自分の中にあった、腹の底から出た本音だったのだ。自分自身を騙すように隠していた津上 凛太郎という人間の本当の顔。だがそんな感情も、いまでは嘘だったかのようにナリを潜めている。

 

 人知れず復讐が終わったことに、安堵すら覚えていた自分が気持ち悪くて仕方ない。

 

 ───いっそ、全てを捨てて暴れ尽くしてやろうか。

 

 そうすればこの胸の中で渦巻く言い表しようのない感情も少しはマシになるか、なんて考えてしまう。

 

 

 「───よぉ、こんなところにいたのか不良生徒」

 

 

 視界に映る景色が色を失っていく、そんな時だった横から聞き覚えのある声が聞こえて来たのは。

 

 俯いていた顔をあげて、声の主の方向へと視線を向ける。

 そこに居たのは覇気がなく、どことなく気だるげな雰囲気を醸し出しているコートの似合うハードボイルドな風貌といった男性。

 

 そんな男の姿を凛太郎は知っていた。

 

 

 「……なんだ、()()()さんか」

 

 「ったく、なんだとはなんだ。それよりもお前、どうしてこんなとこにいる。謹慎中で寮の外への外出は許可が降りてないだろ」

 

 「あ〜、そういえばそうだったかな」

 

 「つか、どうやって抜け出して来たんだ」

 

 「んー、普通に歩いて」

 

 「……はあ、お前なぁ」

 

 

 日下部(くさかべ) 篤也(あつや)

 東京都立呪術高等専門学校の2年の教師を担当している1級呪術師。

 

 よっこいせ、なんて年寄りじみた言葉と共に日下部は凛太郎が座るベンチの横へと腰を下ろした。そんな大人の男の姿に凛太郎は「なんだこの人?」なんて疑問符を頭の上に浮かべながら首を傾げる。

 

 この人とはそこまで親しいわけでもなかった気がする。凛太郎が呪術高専に入学するにあたって、夜蛾学長と問答をした時に日下部がおり、それ以降は顔を合わせれば何気ない会話を少しするくらいだった。

 

 言ってしまえば、その程度の関係だったはずだ。

 

 

 「……日下部さんこそ、なんでここに? 俺のこと連れ戻しに来たん」

 

 「んにゃ、俺はコンビニに行く途中で偶然お前を見つけただけだ」

 

 「へー……()()ねえ」

 

 

 その言葉がすぐに嘘だと分かった。

 なにせこの近くにコンビニなどはなく、1人になりたいと思った凛太郎がわざわざ人通りのない場所まで来たのだ。偶然で立ち寄れる場所ではない事は凛太郎がよくわかっている。

 

 

 「───………」

 

 「………、───」

 

 

 会話はなかった。

 日下部は凛太郎に対して何か言うわけでもなく、ただ横に座りどこからか取り出したチュッパチャプスを口に放り込んで転がしていた。ただお互いに無言の時間が流れる、だからと言ってそれが気まずいというわけでもなかった。

 

 何の為に日下部がここに現れたのかなんて凛太郎には理解出来なかった。ただ日下部は静かに、そして自分の言葉を待っているようにも感じた。

 

 そんな日下部の雰囲気に背を押されるように、気がつけば自分の口からゆっくりと言葉が紡がれる。

 

 

 「なぁ、日下部さん……俺って強いよね?」

 

 「んぁ? そうさな、ただの一年坊主にしては十分過ぎるくらい強いだろうよ。ま、生意気にもな」

 

 「はっ、だよね……でも勝てなかったよ」

 

 

 無意識のうちに拳を握り込む。

 未だ新しい2日前の記憶が凛太郎の脳裏にこびりついている。

 

 あのまま押し切れば勝てたかも知れない。

 だが復讐の相手である夏油 傑に重い拳を叩きつける寸前で、凛太郎は負けた。覚悟が足りなかった自分自身に負けたと言ってもいい、どれだけ呪いの言葉を吐いてもいざその瞬間が訪れた時に凛太郎は足が竦んだ。

 

 自分の復讐心も覚悟も、その程度だったのだと自嘲してしまう。

 だというのに、自分の中で怨嗟の炎は未だに燻っている。

 

 

 「───確かに勝てなかったが、負けたわけじゃないだろ」

 

 「……へ?」

 

 「お前はあの瞬間、踏み止まれた。憎む相手と同じ、ただの人殺しにはならなかった……それだけだ」

 

 

 そんな日下部の言葉に呆然としてしまう。

 まるで凛太郎の弱さを肯定するかのような言葉を投げかけられ、ついつい怪訝な視線が隣にいる日下部へと固定されてしまう。

 

 そんな凛太郎からの視線に気がついた男は、話はそれだけだと言わんばかりに顔を逸らしてしまう。

 

 

 「え、もしかして……慰めてくれてます? 男からのそういう気遣いはちょっと気持ち悪いんで遠慮しておきます

 

 「ブッ飛ばすぞクソガキッ」

 

 

 うわマジかこいつ、なんて顔をしている凛太郎に対して、少しでも気にかけてやろうなどと思っていた自分がバカらしくなり胸ぐらを掴んで額に怒筋を浮き上がらせる。

 

 胸ぐらを掴まれたままの凛太郎は「はは、冗談やで冗談」なんて笑っているが、そんな彼の様子に本気でシバいてやろうかと殺意すら覚える日下部だったが、どうせ時間の無駄なので手を離して腰を上げた。

 

 凛太郎もそんな日下部に続くように立ち上がり、自分の体に積もったままの雪を払い落とす。

 

 

 「………優しいんすね、ありがとう日下部さん」

 

 「……なんか言ったかクソガキ」

 

 「いんや、ただの独り言。あ、腹減ったからなんか奢ってよ」

 

 

 自分の後ろを歩く凛太郎の姿に、日下部は呆れたように息を吐いて笑う。

 

 日下部 篤也という男から見て、津上 凛太郎という少年はどこか危うい雰囲気を持った少年だった。彼を初めて見たのは凛太郎が夜蛾学長との問答の時に偶然居合わせた時だ。

 

 夜蛾の言葉に、凛太郎は『強くなりたい』そう答えた。

 もう何も奪われないようにと、後悔したくないと、夜蛾を睨むように言葉を発した彼の瞳はこの世の全てを憎むような暗く冷たい目をしていたのを日下部は覚えている。

 

 その目を日下部は知っていた。

 大切な人を喪い全てを拒絶してしまうような暗い瞳を。

 

 そんな彼の瞳が、かつて息子を亡くしたことが原因で心を病んでしまった自分の妹の暗い瞳と重なって見えてしまった。その所為か、時々凛太郎を気にかけることが日下部にはあった。

 

 

 「俺だってカツカツなんだ奢らせようとすんな。というか、真っ直ぐ帰るぞ主役のお前がいないんじゃ、いつまで経っても始められないだろうが」

 

 「は? 主役?……なんの?」

 

 「お前の誕生日パーティだとよ。まさか自分の誕生日まで忘れてたのか?」

 

 「……そっか。そういや今日、誕生日か」

 

 

 日下部の言葉に凛太郎は足を止めて、たったいま思い出したと言わんばかりに呆けた表情を浮かべていた。

 

 

 「いやでも、あんなことがあった後で誕生日会ってのはちょっと、気が進まないというか」

 

 「西宮や三輪たちも来てるぞ」

 

 「───行きまァす!」

 

 

 現金なやつだな。

 うへへと、鼻の下を伸ばして笑う凛太郎の姿に呆れてしまう。

 

 

 「あ……そうだ、あれ教えてよ。日下部さんのシン・陰流のオリジナル全自動(フルオート)。アレ気になってたんだよね身勝手の極意みたいで」

 

 「無理無理、悪いけどそもそものあれは一門相伝で門外へ技術を"教える"のは“縛り”で禁じられてんの! だから無理ッ!」

 

 「ああ、そうだっけ? じゃあ見せてくれるだけでいいよ、あとは自分で“パクる”から」

 

 「はぁ? かっー、これだから才能マンは!」

 

 

 ───いつの間にか、白く濁っていた空は晴れており、2人の上から眩い日光が降り注いでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  


 

 

 

 

 ───轟音。

 突如として背後から響いた、凄まじい衝撃と爆発音のようなものにネルは驚いて足を止めた。その音の発生源はつい先程、自分が蹴り飛ばした男が吹き飛んで行った壁の向こう側から響いて来たものだとすぐに理解できた。

 

 凛太郎によって再起不能となったままであろう後輩たちを回収して、ほんのちょっと小言を言ってやろうだなんて思っていたネルだったが、その予定は今しがたなくなる事となった。

 

 ゆっくりと振り返る。

 そこには自分の予想通り、あの男が立っていた。

 

 

 (随分と、懐かしい光景を見せられていた気がする……)

 

 

 ぼんやりと意識が覚醒した。

 自分が意識を飛ばしていたのはほんの数秒程度か、状況を確認して理解する。派手に攻撃をくらい吹き飛んだが、特に目立った損傷はない。打撃や銃弾によるかすり傷がある程度で、骨や内臓に大きなダメージがあるわけではない。

 

 先程のネルの蹴りを喰らった瞬間、山勘で咄嗟に呪力出力を引き上げて防御したのが功を奏した。

 

 そして無傷とも言っていい状態で現れた凛太郎の姿に、ネルの口元が弧を描き始める。それはある種の期待であり予感だった、目の前の男は先程とは明らかに違うという。

 

 

 「───昔さ、友人から“もう少しコンパクトに戦おうよ”……なんて言われた事があるんだよね」

 

 「……は? いきなり何言ってんだ」

 

 「急にそんな事言われても困るんだよね。ビーム撃ったり拳圧飛ばしたり、そーいう派手なやり方の方が慣れてるし性に合ってる」

 

 

 突然、誰かに聞かせるわけでもなく虚空に向かって語り出した凛太郎にネルは眉を顰めて訝しむ。そんな反応を示す彼女に、凛太郎は気にする事はなくポツポツと独り言を進めていく。

 

 それは凛太郎のかつての出来事、彼の決め手の殆どが得意とする呪力放出による大技だ。ところ構わずビームを撃ちまくる凛太郎の姿に一緒に戦っていた乙骨 憂太が苦言を申したのだ。

 

 

 「まあ、そいつの言い分にも一理あるなって思ったわけよ。でもさ、コンパクトになんて言われても知らんし、どうしたもんかな〜って考えてたんだよ」

 

 「───ッ!」

 

 「考えに考えて、閃いたんだよ───相手に抵抗させずにフィジカルだけでゴリ押せばそれはコンパクトだなって」

 

 

 脳筋過ぎる解答に何を言ってるんだこいつ、なんて表情をしていたネルだったがすぐにその顔は驚愕で塗り潰される事となった。

 

 ズンッ、と重力が重くのし掛かって来るような感覚。

 凛太郎から放たれた威圧感(プレッシャー)が、地面に足が沈み込んでしまうのではないかと錯覚してしまう程の息苦しさがネルへ叩きつけられる。

 

 

 「本気でやれ、か……うん、そうだね。少しだけ本気(マジ)でやろう。じゃなきゃ()()()()()()()()君に対して失礼だろうし、何よりも……」

 

 「───女性のわがままはくらいは、きいてあげなきゃな」

 

 

 袖を通していた制服の上着は脱ぎ腰に巻きつける。

 邪魔になるだろうと半壊寸前のアームギアを腕から外して地面に転がす。

 

 術式を用いないただの呪力強化では、その身体能力は僅かだがキヴォトスの住人に軍配が上がる。そしてネルやホシノといった、一般的な生徒よりもずば抜けた力を有している生徒を相手にそれだけでは力不足である事は理解できた。

 

 練り上げた呪力を術式に流し込む。

 

 

 「“飛天(ひてん)”」

 

 

 故に凛太郎は術式という手札(カード)を切った。

 “点火”したばかりの術式ではせいぜい最大出力(ギア)を2ndに持っていくのが精一杯であろうが、いまは逆にそれがよかった。相手の命を奪うつもりはない、ギアは1st状態で固定する。

 

 

 「“降伏(ごうぶく)”」

 

 

 しかしそれだけでは足りない。

 それだけの呪力強化では彼女と同等に渡り合えるだけの力を得るだけだろう、凛太郎は彼女の抵抗を許す事なく圧倒して再起不能させると決めた。

 

 その為の手札を更に切る。

 それは明確な隙を晒す事となる“呪詞の詠唱”と“掌印”を模した“縛り”よる術式効果の底上げ。

 

 

 「“(ほろ)びの(ひかり)”」

 

 

 根を張るように細胞の隅々まで呪力を巡らせて、輪郭を描きそこへ“熱”を流し込むように自身の肉体を最小限に抑えたリスクと共に最大限のリターンで強化を施す。

 

 

 「さてと、じゃあやろうか」

 

 「……ははっ、マジか」

 

 

 ───本当に人間か?

 目の前に立つ凛太郎の姿に、そんな感想を抱く。

 

 気を抜けば足を引いてしまいそうな雰囲気(オーラ)に気圧されそうになる。だがそれと同時に、これほどまでの変化を見せた凛太郎にどうしようもないほど興味が引かれてしまう。

 

 

 「さっきみたいにつまんねえマネしたら、わかってるだろうなぁ」

 

 「もちろん。そういう君こそ、気は抜くなよ?

 

 「───ッ!!」

 

 

 凛太郎が()()()()()()()()()

 

 奇妙な構えだ、そう思っていたのも束の間。

 次の瞬間、凛太郎が視界から消えた。

 

 鈍い痛み、僅かな浮遊感。

 数秒遅れて、自分の身体が打ち上げられている事に気がついた。

 

 反応出来なかった。

 先程まで自分が立っていたはずの場所に、掌底を繰り出したままの構えで佇む男の姿に自分が殴り飛ばされた事を理解させられた。

 

 

 (……迅ぇ!)

 

 

 ズキズキと内側に響いてくるような痛みに顔を顰める。

 吹き飛ばされた勢いを殺し、どうにか着地するネルだったが瞬く間に接近した凛太郎が拳を振り上げる。目で追えない程の彼のスピードに驚きながらも、迫り来る拳の軌道上に銃身を差し込む事で受け流す。

 

 

 「ぐぅ……!?」

 

 

 だが気がつけば足を払われ、バランスを崩した身体を掴まれ投げ飛ばされていた。地面に倒れ込むネルに追い打ちかかけるかのように、凛太郎の鋭い蹴りが地面に突き刺さる。

 

 ネルは地面を転がる事で回避すると、速度で翻弄しようと凛太郎の周辺を駆け回り。そして背を見せたまま立ち尽くす凛太郎、そんな隙だらけな姿にネルは目を細めながらも引き金を弾き銃弾を浴びせようとする。

 

 だが、

 

 

 「っ……おいおい、どういうカラクリだそりゃ」

 

 「さあ? 悪いけど、ネタバレはなしだ」

 

 

 凛太郎は振り返る事なく、僅かに身体を傾けると銃弾の隙間を縫うように回避する。まるで背にも目があるかのように、弾丸の軌道が見えていたかのような最小限の動きに驚きを隠せない。

 

 もちろん、凛太郎は背中に目があるわけでもなく、実際に攻撃の軌道がわかっていたわけでもない。

 

 ───シン・陰流 簡易領域。

 これをよく知る呪術師であれば、凛太郎が何をしているのかは一目瞭然だろう。彼が行っているのはこれに非常に近い代物だ、しかしあくまで近いだけであり全くの別物でもある。

 

 平安時代に蘆屋貞綱によって考案された技。 

 “領域”から身を守るための弱者の“領域”。

 

 一門相伝であり門外不出であるこの技術を、凛太郎は日下部 篤哉との特訓の末に見様見真似で体得している。シン・陰流と呼ぶより、もはや我流 簡易領域と呼べる代物だが、それでも彼はこれをシン・陰流に近いものとして機能させていた。

 

 そして現在行っているのが、日下部同様に領域内に侵入したものを全自動(フルオート)反射で回避と迎撃を行うというオリジナルのプログラムを組み込んだものだ。

 

 違いがあるとすれば、本家同様に足元から簡易領域を引き延ばしているのではなく領域結界のように自分を中心とした簡易領域を作り上げていると言ったところだろう。

 

 もちろんデメリットも存在するが、そこは割愛させて頂こう。

 

 

 「すごいでしょこれ。因みに俺は“身勝手の極意”って呼んでる。もしくは疾風迅雷」

 

 「……はっ、お前が何言ってるかあたしにはさっぱりだが、ようはそれがとっておきってわけか?」

 

 「うーん。とっておきの一つ、ってところかな」

 

 「面白ぇ、ならそのとっておきごとぶっ壊してやるよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 

 凛太郎
「や、生きてる?」

 ネル
「痛っ……おい、勝手に殺すんじゃねえよ」

「そっか、元気そうでよかったよ。正直やり過ぎたかなって思ってたし」

「テメぇ、本気じゃなかっただろ?」

「いや、本気だった。全力全開だったか、と言われると困っちゃうけど」

「……クソが、舐めやがって。マジでやるとか言ってただろうが」

「そりゃマジだったよ。けどそれは別として、俺も君も殺し合いがしたい訳じゃないでしょ? これでもやり足りないなら、また今度遊ぼうか」

「……ッチ。ならそれまで首を洗って待っとけ」

「もちろん。女性からのお誘いを断るつもりはないよ……あ、それはそうとお願いしたいことがあるんだけどいいかな?」

「あ、なんだよ? 碌な事じゃなかったら無視するからな」

「いや、ちょっとメイド服を何着かお借りしたくてですね。ロングスカートだと嬉しいです、はい」

「……?」

「できればサイズは大・中・小で揃えてもらえると助かります」

「………はぁ?」





ぶっちゃけどの時間帯に更新されると読みやすい?

  • 07:00くらい
  • 19:00くらいやな
  • 21:00くらいやでー!!
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