透き通る様な世界観にいる一般呪術師   作:半ライス大盛り

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お気に入り、高評価、感想、ここすき、大変励みになっておりまする。誤字修正も毎度のことながらありがとうございます。

呪術本誌はそろそろ決着かな。
とりあえず次回からパヴァーヌの続きかしら。

主人公の過去を小出していくか、一気にドンと過去編をやっちゃうべきか悩みますね。過去編始まるとそれはもうブルアカ要素なしの呪術の二次創作になっちゃいますし。

ガッツリ過去編やる必要もないかなとも思ってみたり。
ちょっと気分転換というか、今回は執筆の仕方変えてみました。読みづらかったらすみません。




いのちだいじに

 

 

 

 「……お、シロコちゃん。この自転車カッコよくない」

 

 「ん、でもこのタイプだとライディングには向いてない」

 

 「え、まあカゴついてるしライディング用ではなさそうだよね」

 

 「どちらかというと、私のおすすめはこっち。ギアもしっかりしてて初心者でも扱い……何より私と同じタイプ」

 

 「そ、そこまでガチなやつじゃなくてもいいかな。ほら、普段使いできるやつならそれでいいし、なんなら最悪ママチャリでも」

 

 「………そっか」

 

 「やっぱそれにしようかなァ!?」

 

 「ん」

 

 

 どうも、凛太郎でち。

 えーっ、私は現在シロコちゃんと共に大型ショッピングモールに来ています。そして目の前には楽しそうにロードバイクについて解説してくれるシロコちゃんがいる……チャリコちゃん。ボソッ

 

 なぜこんなことになっているのか、と聞かれたらつい先日のというか数時間前の出来事が原因であろう。

 

 俺がアビドスを訪れて、押し付けられた家具を運んできた時の出来事だ。夕方ぐらいにはアビドスに到着していたのだが、みんなと入れ違いになってしまい、とりあえず帰って来るまで待つか〜なんて思っていたが、気がつけば次の日の朝まで寝落ちしてしまっていた。

 

 んで、気がつけば隣でホシノちゃんが一緒に寝てた。

 正直脳みそがバグり散らかしていた。全然記憶になかったし、いつの間にか隣に彼女がいたんだが、問題はそれだけではない。

 

 なぜか目を覚ましたホシノちゃんが俺を見つけるなり号泣し出して本当に大変だった。なにがあったのか聞いてもガチぐずりだったせいでなにを言ってるのかわからないし、なぜか涙ドバドバなホシノちゃんから俺の方が元気づけられてるしで、朝から状況がカオス過ぎた。

 

 しかもその状況は他の生徒、対策委員会のみんなが登校してくるまで続いたのだからもう大変なんてレベルじゃなかった。俺がホシノちゃんを泣かしたみたいになってたが、正直言って俺も泣き出したかったよ、状況に収集がつかないんだもん。

 

 ノノミちゃんやシロコちゃんが俺に引っ付いているホシノちゃんを引き剥がそうとしてたが、なぜか無言で抵抗して離れようとしないから本当に大変だった。大丈夫ホシノちゃん、なんか精神年齢幼くなったりしてない? 後輩たちの前でやると後で後悔するよ?

 

 なんだかドッと疲れた。

 

 ひとまず、泣き疲れたまま眠ってしまったホシノちゃんは保健室のベットに寝かせて来た。とりあえずまた今度出直すよと、みんなに挨拶をしてシャーレに戻るつもりだったのだが。

 

 

 『ん、リンタローは今から私とデートするべき』

 

 『……わぁーぉ』

 

 

 行く手を阻むかのように立ち塞がったシロコちゃんによってこのショッピングモールへと強制連行されてしまった。いや、いいんだよ? 俺もシロコちゃんお出かけできるのは純粋に嬉しいし、何より二人で出かけるのも久々だからすごい楽しいよ?

 

 

 「ん、次は向こうも見てみよ」

 

 「そ、そうっすね!?」

 

 「?……どうしたのリンタロー」

 

 「いやなんでもないッス!」

 

 

 でもなんでそんなにゴリゴリに距離感近いのシロコちゃん。

 

 ───顔、圧倒的に顔がいい。

 可愛い。それは暴力だよシロコちゃん、いやほんと、もう少し節度を守ってですね。あー! 顔が近いです、そんな鼻と鼻がくっつきそうな距離感で覗き込まないでくださいまし!? あ、耳が幸せすごくいいにおいしゅる……。

 

 

 「───ふんっ!!!」

 

 「っ!……ど、どうして急に自分の顔を殴ってるの?」

 

 「いや、ちょっとデカい虫がいてね。心が汚れてるから駆逐しておかなきゃなって」

 

 「そ、そっか」

 

 

 あまり童貞を舐めないでほしい。

 俺の命にシロコちゃんの手が掛かっていることも十分に理解してほしい。一撃で致命傷になる即死級の可愛さなんすわ、当たらなければどうという事はない……とかじゃないんです。そもそも避けられないんですよ。

 

 というかナチュラルに手を繋いでる上に指を絡ませないでいただきたい。恋人繋ぎとか俺を殺す気ですか? 殺意が高すぎるよシロコちゃんかわいいね。

 

 ふーっ、落ち着くんだ津上 凛太郎。

 

 クールになれ、自分の“欲望”を抑え込むんだ。冷静になる為になにか自分にストレスを与えるような、もしくは気分を萎えさせるものを、所謂SAN値を増大させるものを思い浮かべるんだ。

 

 そう、例えばこの間のメイド服を着たモモイだ。

 あれはあれで中々似合っていて可愛かったが、仕草があざとすぎてちょっとムカついた。あと口に食べカスついたまま横になってる顔がどことなく腹立たしかったが───。

 

 

 「シロコちゃんってメイド服とか興味ない?」

 

 「ん、メイド服?」

 

 「ごめんいまのなし。SAN値チェック入りまーす!───むんッ!!!」

 

 「っ!?」

 

 

 欲望を抑え込めって言っただろうが。

 なにいきなり自分の性癖をひけらかしてんのじゃ己は。でも実はチャイナ服とかも好きなの───んん゛っ!

 

 

 「……リンタロー?」

 

 「ふっ、なにも問題はないさシロコちゃん。ところでどこかで休憩しませんか、クールタイムを挟まないと俺が保たないというか死ぬ」

 

 「う、うん。わかった」

 

 

 とりあえずショッピングモールを併設されている喫茶店に入る事にした。時間的にもお昼過ぎだし、空腹を満たすのにもちょうど良いだろう。腹が減ってはなんとやらだ。今のうちに腹も満たして精神を落ち着かせよう。

 

 ペッパーくんみたいな店員からメニュー表を受け取りテーブルの上へ広げる。

 

 

 「なに食べようか。あ、代金は俺が払うよ」

 

 「………」

 

 「シロコちゃん?」

 

 

 彼女から返事がない。

 

 どうしたのだろうか。

 そう思い視線を上げてみれば何やら様子がおかしい。相手の感情を読む、なんて技や高等テクニックは持っていないので彼女がなにを考えているかわからないが……その表情からなにか思い詰めているのは理解できた。

 

 はて、と首を傾げてしまう。

 

 

 「……ごめん、リンタロー」

 

 「いや、謝られる覚えがないよ!?」

 

 「ううん、いきなり迷惑だったかなって思って。リンタローだってシャーレの仕事で疲れてるのに、私一人だけが楽しくなっちゃってるみたいで……」

 

 

 ン~、なるほど?

 ははーん。されはあれか、さっきから俺の様子がおかしいからか、疲れてるのに無理をさせてると勘違いさせてしまってる感じだなこれは。うん、それはない。断じてない。

 

 寧ろそんな風に思わせてしまったこっちが悪い。

 とりあえず適当に注文して、彼女を元気づける為にお話をするべきか。

 

 

 「シロコちゃん」

 

 「どうしたの?」

 

 「シロコちゃんはもう少し自分の可愛いことを自覚した方がいい」

 

 「ん、知ってる。それにリンタローは私にメロメロ」

 

 「───んぐっ! 図太いね、でもそういう所も素敵っ!」

 

 

 カウンターパンチが強すぎる。

 おかしい、いまの流れだと俺が元気づける流れじゃなかった? なんで自力で復活した上に強力な一撃を繰り出して来てるんだこの子は。そんなムフーッ!みたいな顔をするのはやめなさい、かわいいでしょうが!

 

 それから机の下で俺の足を挟んで遊ぶのはやめなさい。

 そんな楽しそうな顔をしてもダメっす。

 

 

 「ん、一口ずつ交換しよう」

 

 「むぐっ、返事を聞く前に口に突っ込むのはあめようはひろこちゃん」

 

 「リンタロー、私の口元がお留守になってる。食べさせるべき」

 

 「……ははっ、しょうがないなぁ」

 

 

 なんというか、彼女と一緒に過ごす時間はあっという間に過ぎてしまう気がする。久しぶりに顔を合わせたのだ、もう少し一緒に遊びたいのだがそうはいかない。

 

 このあとはゲヘナに行く予定が入ってしまっている。

 そのことをシロコちゃんに伝えると、一瞬だけ悲しそうな顔をしていたので、つい大型犬でも撫で回すかのようにわしゃわしゃと撫で回してしまった。するといつもの表情に戻って耳をパタパタさせていた、うんかわいい。

 

 

 「ん……リンタローは浮気性。けど私は懐が深いから許す───でも他の子にこういうことはしちゃダメだよ」

 

 「落ち着こう、急に目つきが怖くなったよシロコちゃん……というかあらぬ誤解が増えそうな言い方はやめるんだ」

 

 「ん、最後に私の隣にいればいい……という冗談はここまでにして、またねリンタロー」

 

 「じょ、冗談に聞こえなかったぞい」

 

 

 一瞬目がガチになってませんでしたか?

 それはそうと、別れ際に当然のように接吻をしようとしてしないでください。普通に見送ってくれれば満足だからさ。くっ、このアビドススナオオカミ……強すぎる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  


 

 

 

 

 「ん?……やほ、ヒナちゃん!」

 

 「……はぁ、変な気分になるからその“ちゃん”って呼び方はやめて」

 

 「えー、いいじゃん。いい加減慣れてよ、それに空崎さんとヒナさんって呼ぶより全然可愛いじゃん」

 

 

 ゲヘナ自治区の市内地域を歩いていたら珍しい人物を見つけた。

 

 その小さな体に見合わぬ超すごいぷぅわーを秘めたゲヘナの風紀委員長ちゃんことヒナちゃんと偶然出会した。なんだか久しぶりにあった気がする、前回彼女と顔を合わせたのは俺が1日限定ゲヘナ風紀委員をやった時だったか。

 

 

 「どうしてここに?」

 

 「俺は買い物。ヘッドフォン欲しくてさ自治区限定デザインとかあるみたいで、わざわざこっちまで来ちゃった。そういうヒナちゃんは?」

 

 「……私は」

 

 

 欲しかったヘッドフォンが入った買い物袋を見せる。

 自治区限定品でデザインが変わっていて、ゲヘナ自治区のものが厨二病チックなデザインをしておりそれに惹かれてここまで来てしまったのだ。

 

 そういうヒナちゃんはなんでここに、なんて思って聞いてみたが、何やら口籠もっている様子だ。どうしたのだろうか、なんて思っている時だった。

 

 近くで銃声と怒号が聞こえてきた。

 飛んできた流れ弾を回避しようとして、それよりも早く動いたヒナちゃんが翼を広げて防御してくれる。

 

 脇道から何やらゾロゾロと怪しい集団が出てくる。

 

 

 「くそ、お前らさっさと逃げるぞっ!」

 

 「畜生、なんでここが……ってどうしてゲヘナの風紀委員長がここにいるんだよっ!!?」

 

 「はぁ……こういうことよ」

 

 「あ、なるほどね。お仕事だったわけだ、手伝おうか?」

 

 「大丈夫よ。これくらい私一人で十分だから」

 

 「まあまあ、そう言わずに二人でやればもっと早いでしょ」

 

 「……なら、お願いしようかしら」

 

 

 トンッ、と逃げ惑う不良生徒たちを追いヒナちゃんが飛び上がった。相変わらず大変そうだな、なんて思いつつ彼女の後に続く。どうせならパパッと片付けてヒナちゃんとおしゃべりでもしようかな。

 

 呪力を練り上げる。

 全身に負のエネルギーが満ちていく感覚。意識を切り替えるよう静かに息を吐いて、拳を握る。正直言って加減は苦手だ、だから細心の注意を払って無力化する。

 

 相手がロボットや野郎(ヤロー)なら遠慮なくぶん殴れるが、女の子が相手となればそうはいかない。このキヴォトスで毎度戦闘を行うと、正直に言って気が気ではないので本当に勘弁してほしいくらいだ。

 

 だが、そうは言っていられない状況というものもある。

 

 突撃したヒナちゃん1人でも事足りるだろうが、彼女ばかりに負担をかけるわけにはいかない。それにこんなはちゃめちゃな世界なら万が一という可能性だってある。

 

 息を整え踏み込む。

 

 

 「───っ、あ?」

 

 

 視界が反転する。

 糸が切れたように動かない。

 

 転んだ?……いや、違う。

 気がつけば俺の身体は鈍い音と共に地面に倒れていた。

 

 四肢に力が入らない、満ちた呪力が霧散していく。身体が重い、まるで自分にだけ重力の負荷が大きくなり地面に縫い付けられたかのように動いてくれない。

 

 何が、起きてる?

 寝てる場合じゃない、速く起き上がれよ。そう思い、念じているのに体は制御を失ったかのように答えてくれない。

 

 ドクン、と()()が鋭い痛みに襲われる。

 全身の血管や神経がぐちゃぐちゃに混ぜられたかのような激痛に襲われた。

 

 

 「が、ぎぃ……ぁぁぁ!」

 

 

 血液が沸騰する音が聞こえる。

 全身の血管が広がっていくのがわかる。

 

 視界が赤く染まる。

 全身が震えて、滝のように汗が吹き出してくる。

 

 思考にノイズが走る。

 “自分が自分じゃない何かに塗りつぶされていくような感覚”。血液が逆流しているんじゃないかと思うぐらい、内側で血管がドクドクと脈打っている。

 

 ()()()()()()()()()

 この痛みを、この状況を経験したことがある。キヴォトスで目を覚ますよりも前の戦い、あの夜の渋谷で呪いの王である両面宿儺と戦った時の感覚にている。

 

 ()()()()()()()()

 まるで肉体という殻を破り出てこようとしてるかのような。それだけではない、自分の身体が根本から作り変えられていくような。

 

 

 (領域、いや……術式の、肉体への限界負荷───っ!?)

 

 

 跳ね返りが来た時の症状に似ているが、違う。

 だめだ。これ以上思考が回らない。痛みでのたうち回ることもできない。

 

 ()()()()()

 まるで“()()()()()()()()()()()()()()()()()”、皮膚の下で何かが這いずり回り蠢いているような感覚。経験した事のない痛みに涙すら出てきた。本当にどうなってるんだこれ、マジで痛い。

 

 

 「?……っリンタロウ!?」

 

 

 俺の様子がおかしい事に気がついたのか。

 遠くにいたヒナちゃんが近くにいた不良生徒を吹き飛ばすと、俺の側まで戻って来てくれた。ダメだ、声が出ない。口から出てくるのは声にならない空気の漏れる音と、血が混じった唾液が出てくるだけだ。うわ、汚ねえ。

 

 声が遠ざかっていく。

 

 

 「アコ! 救護班をこっちに回して……負傷者が、津上 リンタロウが倒れた!様子がおかしい!」

 

 

 ダメだ。

 意識を保つことができない。

 

 底の見えない暗闇の中へと引き摺り込まれていく。

 

 ───……ぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  


 

 

 

 

 

 

 頭が痛い。

 頭蓋の内側で何かが這いずり回ってるみたいだ。

 

 俺の意識が、なにかに()()()()()()

 

 

『……ごめん、なさいっ』

 

 

 声が聞こえた。

 先の見えない水底へと沈みゆく感覚。

 

 啜り泣く少女の声だった。

 

 

 『ごめん、ごめんね凛太郎……私が、私のせいで……っ!』

 

 

 朽ちた廃墟。

 飛散する瓦礫の山。

 

 不気味に点滅するライトの灯り。

 砕けたコンクリートの床から顔を覗かせる花畑。

 

 ───その場所を知っている、記憶に刻まれている。

 

 ()()()()()()()()()

 

 忘れるわけがない、間違えるはずがない。だってここは自分の罪の証が刻まれた場所であり、弔った彼女が眠る場所だ。この場所で、彼女を殺して凛太郎(おれ)という呪術師が生まれたのだから。

 

 

 『ごめんね。これは私のわがままだから』

 

 

 今でも手に染み付いてるんだ。

 ()()()()()()()()()()()()

 キミの柔らかく細い喉が跳ねたあの嫌な感触を。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 涙を流しながら彼女が微笑んでる。

 啜り泣く泣く彼女の姿を見て誰かが嗤ってる。

 

 

 『驚いた。まさかここに来て自我を取り戻すとは、純粋な愛ほど歪んだ呪いはないってことかな?』

 

 『……』

 

 『おや、怖い顔をしてどうしたんだい? 言っておくが、彼を■したのは私ではなく君自身だろう?』

 

 

 額に縫い目のある女は誰だ、思い出せない。

 

 ……違う。

 わからない、何かがおかしい。

 

 

 『何をするつもりだい? いくら君の術式があろうと、死者の蘇生は無理だろ。諦めて大人しくしてくれないかな?』

 

 『うるさい……無理じゃない。()()()()()()()()()。最悪だけどあなたのおかげで、魂を切り分ける方法はなんとなく理解できた』

 

 『……ははっ、確かにそれなら()()()()()()()()だ。だとしても、それじゃ肉体と魂の情報が足りない事くらい理解してるだろう? それに彼の魂は既に砕けてる、生きようとする意思がもう彼にはない』

 

 『……それでも、凛太郎は立ち上がってくれるよ。肉体と魂の情報が足りないなら、()()()()()()()

 

 

 どうして彼女は泣いていてんだっけ? 何も、思い出せない。

 

 彼女が締め殺した男は誰だ?

 彼女が涙を流しながら抱えている少年は誰だろう?

 

 潰された両目、暗がりで顔がよく見えない。手足はねじ切れたように折れてる、それだけではなく抉られた心臓が地面に転がっていた。あれは()()、この場には俺と彼女しかいなかった筈だ。なぜ彼女はあんなにも悲しんでいるのだろうか?

 

 

 『私の()()、あなたにあげるね……だから生きて』

 

 

 こんな光景、俺は知らない。何かが食い違ってる。なにか、()()()()()()()()()()()()()

 

 ───彼女との口付けはどうしようもないほど血の味がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  


 

 

 

 

 「これと言って大きな問題は見られませんでしたが……随分と疲れが溜まっていたみたいですね。最近何か激しい運動などはしたでしょうか」

 

 「へ……?」

 

 「何か心当たりはありますか?」

 

 「心当たり、心当たり〜……ん〜?」

 

 

 そんなことを言われても、特に思い当たる節がない。

 

 ……いや待て。

 あるかもしれない。つい最近のことだと、俺がやった『チキチキ呪力でBON!』な筋トレ方法がよくなかったのかもしれない。あれやった後だと、全身ズタズタになるから呪力消費が激しすぎてめちゃくちゃ疲れるんだよな。

 

 もしかして、あれがいけなかったのか?

 

 そんな俺の表情を読み取ったのか、目の前の少女───氷室セナちゃんは重いため息を吐いていた。ご、ごめんなさい。でも本当にあれが原因なのかわからんし、そんな怖い顔しなくてもいいじゃん……てへ。

 

 しかし流石キヴォトス、女の子のレベルが高い。

 とても可愛い子がたくさんいて俺は幸せですよ……けどこのセナちゃん俺が目を覚ました時に「……死体が喋ってる」とかなんとか、それに近いニュアンスのことを言ってたのでちょっと怖いっぴ。

 

 ───あの後、気絶したらしい俺はゲヘナ学園の救急医学部の元へ運び込まれたらしい。寝てる間に、色々と検査されたらしいが、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 「……はぁ、とりあえずしっかり休んでください」

 

 「す、すんません……ところでモモトークやってる?」

 

 「プライベートの時にお願いします……一つお聞きしたいのですが」

 

 「はいはい、なんでございんしょ?」

 

 

 ペラペラと、書類に目を通していたセナちゃんが不意に手を止めてこちらを見てくる───なんだ、まさか告白イベント?(違う)。

 

 

 「過去に、()()()()()()()()などはおありですか? 特に目部や胸部などといった場所に」

 

 「……へ? い、いや特にそういったことはないかな。うん、今まで一度も手術とかの経験はないっす」

 

 「……そう、ですか。それならいいんです。では、気をつけてお帰りください」

 

 

 なにやら納得言ってない顔だ。

 そんなセナちゃんに背を押されるまま、室内を出る。

 

 な、なんだったんだ一体?

 

 手術の経験などないが……もしかしてあれか?

  俺の身体にある傷跡のこととか言ってるのか? いくら反転術式で治ると言っても限界はあるし、特に俺の肉体が反射で行う反転術式じゃ呪力質力にムラがあるから変に跡が残ったりするんだよな。

 

 ぱっと見じゃわかりづらいが、結構今までの傷跡が残ってるから変に勘ぐられちゃった感じか? だとすると悪いことしちゃったな、特に()()()()()()()なんて見ていて気分のいいものじゃないだろうし。

 

 

 「───もう平気なの?」

 

 

 響く足音に振り返る。

 そこにはゲヘナ学園の風紀委員長であるヒナちゃんが立っていた。俺の姿を見るなり安堵のため息を吐いていた。心配をかけてしまったようだが、そこまで気にかけてくれていた事がちょっと嬉しい。

 

 

 「お、ヒナちゃん。ごめんね、なんか迷惑かけちゃったみたいで」

 

 「気にしないで。それよりも、あなたはもう少し自分の心配をするべきよ」

 

 「ははっ、別にこれくらい大丈夫だって……うっ、善処します、はい」

 

 

 そんなジトッ、と見つめないでおくれ。

 ヒナちゃんみたいな女の子にそんな顔を流石に申し訳なくなってしまう。手伝うよ、なんて息巻いて、ただでさえ忙しい彼女の仕事を増やしてしまったのだから。

 

 まあ、そのおかげで目を覚ました時に様子を見てくれていたアコちゃんにガミガミ言われてしまったが、わかったからその服装どうにかなんないの?なんて言ってみたが。

 

 アコちゃんは『なんですか目を覚ますなりセクハラですか!?』なんて叫んでいた。うるさい、寧ろこれって俺が逆セクハラされてるでしょ。目のやり場に困るからマジで横乳しまってもろて。じゃないと布の隙間に指突っ込むぞ。

 

 

 「とりあえず、シャーレまで送っていくわ。車もアコに準備させてあるから」

 

 「えぇ!? いやそこまでしてくれなくてもいいって、歩いて帰れるから大丈夫だから、ヒナちゃんだって忙しいでしょ」

 

 「帰り道であなたに何かあれば、また私の仕事が増えるのだけれど」

 

 「うぐっ……ヒナちゃんにそれを言われると、流石に反論できないよ」

 

 「……ふふっ、なら大人しく着いて来て」

 

 

 そこまで言われてしまっては逆らうことはできない。

 大人しくヒナちゃんに案内されるがまま着いていくと、なんだか国のお偉いさんが乗り回してるような、いかにも高級車という車が止まってた。

 

 え、僕今からこれに乗るんですか?

 別にそこら辺のバスかタクシーでもいいですよ……え、ダメ? そうですかってなんでお前まで車に乗ってんだ横乳女、そこどかんかいヒナちゃんの隣の席は俺のもんやぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  


 

 

 

 

 薄暗い室内、その場に一人で黙々と作業をこなしていたセナは、先程の資料をもう一度手に取って目を通す。

 

 

 「………やっぱり、変ですね」

 

 

 それは凛太郎の診断書。

 クリアファイルにまとめられた書類を取り出して、ボードの上に貼り付ける。薄暗いフィルム、それはこの救急医学部の元へ運び込まれた凛太郎が診察した際に撮った彼のレントゲン写真だ。

 

 

 「……手術の経験はない」

 

 

 ───()()()()()()()()()()()()

 彼の身体には至る所にうっすらと様々な傷跡が残っていた。火傷の痕や切り傷に刺し傷、弾痕のようなものまであった。しかしそこまでは問題ない、所詮は過去の傷跡であり癒えた怪我だ。

 

 だが彼の左胸にある傷跡だけが不可解だった。

 それは大きな穴だった。「胸の穴」あるいは背後から見れば「背中の穴」とも言える大きすぎる傷跡。なぜこんな傷跡が存在しているのか、普通なら即死してもおかしくない……いや生きてるのが不思議なくらい酷く痛々しい傷跡だった。

 

 そしてそれ以上に不可解なのは。

 

 

 「……まるで、中身が違う」

 

 

 レントゲン写真に映る彼の心臓に違和感を覚えた。

 人によって体格が違うように、心臓も人によって違う。しかしこれは一般的な男性の心臓というよりはまるで女性の臓器に近い大きさをしているのだ。疑問は尽きない、わからないことだらけだがこれ以上は相手のプライバシーに踏み込む問題だ。

 

 セナは息を吐いて、そそくさと資料を片付けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







 ???
「あなたがくれた心臓(いのち)だから」







ぶっちゃけどの時間帯に更新されると読みやすい?

  • 07:00くらい
  • 19:00くらいやな
  • 21:00くらいやでー!!
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