透き通る様な世界観にいる一般呪術師   作:半ライス大盛り

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 誤字報告などもありがとうございます。


 更新が遅れてしまいスンマソン。
 ちょいとリアルがドタバタしてましたと言い訳しつつ、ゲームしたり惰眠を貪ったりしてました。仕事辞めたい、ちかれたよ…!











人間、遊ぶ時だけ本気出す

 

 

 

 ───肉薄する。

 練り上げた呪力が拳を覆い、唸るような風切り音と共に突き出される。

 

 呪いの力を用いた基礎的な強化術は並のものではなく、強化された肉体から繰り出される基礎体術のみで相手と渡り合えるほどに磨き抜かれたものだった。

 

 深く呼吸する。

 肉体を動かす筋肉の原動力は酸素である。呼吸によって体内に取り込む酸素の量が少なければそれに比例して肉体の出力も低下してしまう。

 

 だが、逆を言えば体内に取り込む酸素量が多ければ多いほど、肺に酸素を大量に取り込み、血液中の酸素濃度を高めて、高い集中力と身体能力を引き出すことも出来るのだ。

 

 ───瞬間、凄まじい速度で距離を詰める。

 踏み込み込んだ軸足、地を蹴蹴って加速する。その一瞬には遅滞もない、瞬間移動と見紛うほどの速度で接近して応戦する。肉体を巡る力を無駄なロスなく、その全てを推進力へと変えることによって生み出した爆発的な加速。

 

 

 「クソッ……!」

 

 

 苦悶の表情から吐き出される呻き。

 

 レジィが睨みつける視線の先に、八重歯を見せるように嗤いながら前傾姿勢で地を駆ける呪術師の姿がある。冷や汗が頬をつたう、まるで“小さな怪物”だ。叩きつけられるプレッシャーに渇いた笑みが溢れる。

 

 

 「くくくっ……オマエ、本当に人間か───ッ!?」

 

 「わりぃが人間辞めたつもりはないんでねェ! 褒め言葉として受け取っとくよッ!!」

 

 

 懐へと飛び込んだ凛太郎が拳を握る。

 回避は不可能、自身と相手の強化された肉体の純粋なスペック差に即座に判断する。故にレジィが取れる選択肢は防御という手段のみ。しかし単純なスペック差で自分を追い立ててくる相手に、通常の防御という手段は意味を為さないであろうということは既に理解させられていた。

 

 

 ───『再契象』!

 

 

 レシートを呪力によって焼き切る。

 術式によって“再現”した鋼鉄製のコンテナが突如として出現して壁となる。レジィの術式によって“再現”され召喚されたモノの式神に近い性質を秘めており、術者の命令によって操作することができる。

 

 だが“再現”によって具現化したモノは与えられた命令を実行した後にすぐに消えてしまう。だが逆に命令を与えなければ召喚の効力は持続し続け長い時間存在することができる。

 

 そして命令は後追いで実行することもできる。

 

 

 (防御に徹する、とでも思ったか。逆にカウンターで潰す! このコンテナで攻撃を防いで後に命令を与えたコイツで吹き飛ばして下敷きにする!!)

 

 

 防御、ではなく反撃に打って出る。

 凛太郎のような肉弾戦主体の術師ならば、自分が得意とする間合いでの戦いには必ず“戦闘のリズム”が存在する。レジィはそこを突き崩さんとする。

 

 凛太郎の“入れ替え”を警戒して彼の視界を遮るように大きな物体を出現させた。その“入れ替え”にどこまで大きな物体が術式の対象として作用されるのか、それは未だ未知数だがレジィは凛太郎の“入れ替え”が彼の視界に映るモノであると予測している。

 

 そして“入れ替える”際に、物体の大きさと距離によって呪力消費量が変化するであろうことは直感していた。

 

 故にまずは彼の視界を遮るように潰した。

 仮にコンテナと自分の位置を“入れ替える”事によって難を逃れたとしても、大型コンテナと人間での入れ替わりでは差異が大きい故に判別はつき易くカウンターも合わせられる。

 

 

 (やれよ位置変え。“入れ替わった”その瞬間、オマエを殺す!)

 

 

 単純なタイマンなら敗色は濃厚。

 だがそうはならないのが自分なのだと、レジィ・スターは嗤う。

 

 ───だがその薄ら笑いはすぐに消え去る事となる。

 

 

 「アァァァァンッッ、パァァアンチィィ!!」

 

 「……は!?」

 

 

 レジィの読みは決して間違ってはいない。

 だがしかし、そんなもの凛太郎にとっては関係ない。

 

 いまの凛太郎は後輩と久しぶりに顔を合わせられた事によってテンションが振り切り元気100倍と言ってもいい状態である。止まることを知らない彼にとってはこの程度の障害など『なんか的が大きくなったな』程度の感想だ。

 

 躊躇なく拳を叩きつけ、()()()()()()レジィを吹き飛ばす。凛太郎の行動を制限する為に出現させたコンテナが自分を押し潰す為の壁となって襲い掛かる。

 

 

 「───ッ!?(なんて呪力出力、()()跳ね上がるのか!!)」

 

 

 勢い良く吹き飛んできたコンテナ。

 まるで重力が向きを変えたかのように磔にされ飛んでいく。

 

 凛太郎がそこいらの呪術師とは違い間違いなく強者であることはレジィも理解していた。だが彼のそこが未だに見えず、まだ先があるある事に恐怖すら抱く。これだけ暴れてまだ全力じゃないのかと。

 

 だが、悠長に思考している暇はない。

 コンテナに押し出される形で吹き飛んでいくレジィの先にはさっきまで自分たちがいたマンションが聳え立っており、このまま行けば自分はコンテナと鉄筋コンクリートに勢い良く挟まれてしまう。

 

 そうなっては彼の末路はグロテスクなサンドウィッチだ。

 

 

 「ぐ、ぬゥゥゥアアアアアァァァァ!!!」

 

 

 叩きつけられる直前、どうにか意識を集中させて術式を解除する。“再現”によって召喚したコンテナが消滅した事によって圧死する未来は逃れたが、勢いよく吹き飛ばされた慣性まで消えることはない。

 

 そのままマンションの壁面に叩きつけられたレジィだが、全身を呪力で強化しながら衝突に備える事によってどうにかダメージを最小限に抑える。

 

 だが最小限に抑えたと言っても、自動車に引き飛ばされたような衝撃がレジィを襲っていた。

 

 

 「痛ッ……ぐっ、はーっ、はーっ……やってくれたなクソガキ君!」

 

 「───ガッ!?…… れ、レジィ避けろッ!!」

 

 「!?」

 

 

 追撃にを掛けるように向かって来る凛太郎を睨みつける。“契約を再現する”自らの術式『再契象』によって()()したいところだが、その隙がない。何より、凛太郎の“入れ替え”を警戒してレジィはそう易々と触媒であるレシートに手を伸ばせないでいる。

 

 奴は直感で自分が何をしようとしているのか気づくだろうという自信があった。回復するには凛太郎を引き剥がし一瞬の隙を作る必要がある。その難易度に舌打ちをこぼすレジィだったが、殴り飛ばされながら声を張り上げた針の言葉で意識が引き戻される。

 

 そして気づく。

 二手に分断され、もう1人を相手していた伏黒の姿がない事に。

 

 

 「遅えよ───『満象』!!」

 

 「ッ、容赦ないな!?」

 

 

 ぞわり、と全身の産毛が逆立つような感覚。

 見上げた先には素早く針をダウンさせて合流していた凛太郎によって空中へと投げ飛ばされた伏黒の姿がある。彼はレジィの真上を陣取ると動物を模した手影絵を作り出して、『十種影法術』のによって自らの式神を顕現させる。

 

 それは額に辺津鏡(へつかがみ)の紋様をもつ巨大な像の式神。術式精度によって多少の差が現れているが、『満象』はその重さを限りなく本物(リアル)に近づけている。

 

 3〜6t近い巨体が自重と重力によって加速しながらレジィを押し潰さんと降り注ぐ。

 

 レジィの強化術から繰り出される身体能力ならば『満象』を受け止めて重量に耐えることは可能だ。しかし問題は受け止めた後だ、そんな隙だらけな姿を凛太郎が見逃すはずもない。

 

 故にレジィは痛む体に鞭を打って全力で回避に徹する。

 落下した『満象』の巨体がコンクリートの地面を粉砕して巨大なクレーターを作り上げる。

 

 ───攻撃を回避しようとするレジィと落下する瞬間の『満象』の足元の空間と“入れ替える”事によって回避の間に合わない“ほぼ必中”の攻撃を喰らわせることは出来るが、伏黒からの頼みによって殺すなと言われている為あえて見逃す。

 

 だが、殺すなと頼まれただけであって、()()()()()とは頼まれていない。故に、凛太郎はレジィを“半殺し”にするつもりで追撃を仕掛ける。

 

 伏黒の言う()()()()()()()など、わからないことだらけだが口と片手が動くようにしておけばなんとかなるだろう。

 

 

 「どうした、随分と息が上がってるじゃねえか! ほらがんばれがんばれ、キヴォトス(あっち)の女の子の方がまだやれるぞ?」

 

 「ッ……ガキが、調子に乗るなよ!」

 

 「何言ってんだ、オマエ程度いびった所で気持ち良くもなれねえよ! もうちょいレベリングしてから出直して来てくだ、(さい)ッ!

 

 「グッ、こんのっ!(なんだこいつの打撃!?……ッ呪力特性か! 防御(ガード)の上から“鋭い痛み”がやって来るッ!!)」

 

 

 術式によって“再現”した鉈を構え振りかざす。

 呪力で強化した刃物による一撃を当然のように正面から拳で叩き返してカウンターを織り交ぜて来る凛太郎の姿に驚愕する。その刃が肌を裂くことなく、寧ろ凛太郎の打撃によって刃こぼれすらしている。

 

 ───そんな凛太郎の様子を横目に伏黒は思考していた。

 

 

 (なんつー瞬発力。ふざけた奴だと思ってたが、とんだ怪物じゃねえか! 呪力総量は乙骨先輩ほどじゃないが、呪力の出力と爆発力ならあの人以上だぞ!?)

 

 

 シンプルなド突き合いの戦闘スタイル。

 レジィのように磨き上げられた武術の達人のような洗練された動きがないわけではない、相手と比べたらどこかヤンキー寄りの力任せな戦い方が目立つ部分もあるがそれを押し通せるだけの力がある。

 

 その出鱈目さ加減に度肝を抜かれる。

 漏れ出たような呪力のプレッシャーに叩きつけられ、凛太郎の後ろ姿にかつて少年院で相対した呪いの王の姿を幻視させられる。だが間違いなくあの時の両面宿儺以上だとすぐに直感した。

 

 それに加えて、まるで“こちらの動きを熟知している”かのように合わせて戦っているのだ。それがなぜなのか伏黒にはわからなかったが、自分が動き易く戦い易い戦闘のリズムを整えてくれている。

 

 

 「アンタが敵じゃなくて良かったよ……!」

 

 「お、もしかして褒めてる? いつもツンケンしてる癖にちゃんと先輩を褒め称えてくれて嬉しいぞ後輩」

 

 「だから俺はアンタの後輩でもなんでもないって……はぁ、もういい」

 

 「ははっ、んな露骨に嫌そうな顔されると流石に傷ついちゃうぞ〜!……ま、()()()()()()()()()()()

 

 「───よそ見してる暇があるのかいッ!!」

 

 「そりゃな、余裕すぎて欠伸が出てきそうだ。もうちょいやる気出せよおっさん」

 

 「抜かせクソが!」

 

 

 伏黒の言葉に凛太郎はどこか寂しそうな表情を見せる。彼がなぜそんな顔をしているのか、伏黒には理解出来なかったが凛太郎は薄々勘付き始めていた。

 

 ───彼が伏黒 恵であっても自分の知る伏黒 恵ではないかもしれないと。

 

 こちらを警戒する姿に、最初は単純に疑われているだけかもしれないと思っていたが。どうしても彼の言動や行動に拭えない違和感を感じてしまうのだ。まず第一に感じた違和感は、戦う伏黒の姿を見て彼がここまで()()()()()と疑問に思った。

 

 式神と共に自身も前に出る戦闘方法は変わらないが、自分の知る伏黒はもう少し大胆に動いたりゴリゴリの格闘術を扱えたはずだ。それは接近戦を得意とする自分や他の仲間が彼に戦闘スキルを叩き込んだ為だ。

 

 そして何より、伏黒の式神の手札が()()()()()

 最初こそ伏黒が手の内を出し渋っているのかと思っていたが、そうではない。あれは使()()()()()()()()()使()()()()、凛太郎はそう判断していた。

 

 それは戦闘が始まる数分前の出来事だ。

 マンション出て、上の階から外へ放り投げられたレジィたちの姿を発見した時のことだった。

 

 

 『お、あいつらちょうどいいくらいの()()にいるな。恵、()()突っ込ませろ。名前忘れちまったけど、あのデカい牛、前に調()()()()()()()

 

 『は?……なんの話だ?』

 

 『……へ?』

 

 

 あの時、伏黒は本気で何を言ってるのかわからないという顔をしていた。

 

 元々、違和感はあった。

 この世界から拒絶されているかのような疎外感、そして自分のことを知らず剣を向けてきた後輩の姿。それが凛太郎の中にあった嫌な予感を確信に近いものへと変えていく。

 

 それに気がついた時、動揺がなかったと言ったら嘘になるがそれでも可能性の一つとして大いにあり得ると考えていた。

 

 なにせ、シャーレの先生という“前例”がある。

 彼はキヴォトスの外から来たという、自分と同じ外部の人間だ。だが彼からキヴォトスの外の話を聞いた時、自分が知る地名や知識など共通する点がいくつかあれど食い違う部分がいくつも存在していた。

 

 その時これがマルチでバース的な奴だと理解させられた。

 

 いま自分が直面している状況もそれに近いものだろうと、彼の脳内CPUは答えを出していた。つまりこれはD4C、Dirty deeds done dirt cheap(いともたやすく行われるえげつない行為)なのだと。

 

 

 (ジョジョ読んでて良かったな。サンキュー荒○先生ッ!!)

 

 

 並行世界とかパラレルワールドとか難しい話はちんぷんかんぷんだが、雰囲気で理解できるコミックなどでそこら辺の知識は履修済みだ。

 

 再会できたと思えばそうじゃなかった。もちろんショックではあるが、例え世界が違い別人であろうとも凛太郎にとって“伏黒 恵”が大切な後輩であることは変わらない。

 

 ───ならば彼は、全力で先輩を遂行するだけだ。

 

 

 「俺はファニー・ヴァレンタイン大統領だった……ってコト!?」

 

 「キミいきなりなに言ってるんだ?」

 

 「我が心と行動に一点の曇りなし…………!全てが『正義』だ」

 

 「やっぱふざけた奴だなオマエ!」

 

 「はぁ!? ジョジョ読んだことねえのかよ! ちゃんと履修しとけやこのタコ! 」

 

 

 “イェーイ!ジャスティス!!”とよくわからない掛け声と共に殴りかかる。情緒が不安定過ぎる癖にそれでいてふざけた様子と共にこちらを軽くあしらえるだけの実力があるのだからタチが悪い。

 

 だが、いつまでも遊んでいるつもりはない。

 凛太郎が呪力出力を更に引き上げる。レジィが繰り出してきた鉈による攻撃を手の甲で逸らすと、拳を握り身を捩りながらカウンターの一撃を放つ。

 

 即座に回避しようとするレジィであったが、凛太郎が一歩踏み込む方が速かった。そのまま顎をぶち抜く勢いで拳を横薙ぎに振るう、確実に相手の意識を刈り取るつもりで放った拳だがその攻撃がレジィに届くことは無かった。

 

 

 「………は?」

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 顔面に直撃するはずだった一撃は空を切る事となる。なにが起こったのか理解できず呆然としてしまう、カウンターを叩き込む筈の拳がまるで透過されたかのように文字通りすり抜けてしまったのだから。

 

 

 (───何が起こった……!? コイツの術式か? いや違う、コイツの術式は契約の再現とかいうやつだ。何がどうなってんだ!)

 

 

 一瞬の思考、実態を失ったかのようすり抜けた拳を確認する。

 そこにはテレビ画面の映像が崩れるような、ノイズが走るようなエフェクトに拳が包まれ乱れるように拳が()()()()()

 

 腕が折れた訳でも変形させられた訳でもない、しっかりと感覚はあるのにまるで腕がなくなったかのような現象に襲われる。相手の術式でも自分の術式でもない、呪力の“起こり”の反応などはなく突然自分の身体は()()()()()()()みたいに。

 

 

 (………まさか!)

 

 

 なぜ、と理解は追いつかないがもしかしたらと思い当たる節がある。

 

 だが悠長に考え事をしている場合ではない。突然の事態に思考が固まり動きの止まってしまった凛太郎、そんな隙だらけの姿をレジィが見逃すはずもない。

 

 気がつけば鈍い光を放つ刃が突き出されていた。

 

 

 「が……ッ!?」

 

 「よくわからないが、急に()()()()()! 戦闘中に考え事はよくないんじゃないかー!!」

 

 「痛ッ……てめぇ、服が汚れちまうだろうが……!!」

 

 

 刃が凛太郎の脇腹へと深く突き刺さる。

 

 ()()、と再び理解が追いつかない疑問に襲われるが考え事に時間を割いてられるほどの余裕はない。凛太郎は鉈がこれ以上深く刺さらないように、脇腹を裂いてこようと力を込めて来るレジィの腕を掴んで止める。

 

 ミシミシ、と腕を砕かんばかりの握力に驚くレジィだが彼の攻撃はまだ終わらない。レジィの装備している鉈は術式によって“再現”し召喚したものだ。その性質は式神にも近く、故に召喚したモノには一度きりとはいえ簡単な“命令を与える”ことができる。

 

 鈍い輝きを放つ刃が意思を持ったかのように動き出すとドリルのように回転する。そして勢いよく飛んでいくと、凛太郎の脇腹に文字通りの風穴を開けた。

 

 地面を掘り進むかのように肉を裂き、命令を完遂した血で汚れた鉈は役目を終えたと言わんばかりに粒子となって消えた。

 

 

 「───ッッッ!!」

 

 

 思わず痛みで声にならない悲鳴をあげる。

 よろめいて膝をつきそうになる凛太郎だが、拘束が緩んだ一瞬の隙を見逃さなかったレジィが凛太郎の腕を振り払うと殴りかかり追撃を仕掛ける。

 

 

 「形勢逆転ってところかな!! 油断してるからそうなるんだよクソガキ君ッ!」

 

 「ッ、テメェせっかくノノミちゃんに直してもらった制服がオシャカになったらどうすんだ……っ!?」

 

 

 『再契象』によって召喚した包丁が宙に浮かび飛んでくる。

 レジィ殴り飛ばされた凛太郎が地面を転がりながらも、“分解”によって地面の一部を崩すことで作り出した瓦礫を捲り上げるように飛ばして防御する。

 

 滲むように血で赤くなったパーカーを見ながら『お気に入りの上着がダメになっちゃった』なんて考えながらも、どう切り抜けるべきかと考える。

 

 

 「津上ッ!」

 

 「……! サンキュー後輩っ」

 

 「させるかッ!……チッ」

 

 

 声に反応して視線を向ける。

 そこには焦ったような表情の伏黒と、彼の足元に出現した可愛らしい白い兎の群体の式神『脱兎』が目に入る。その意図を察した凛太郎はすぐさまその一匹に視界のピントを合わせ“入れ替える”。

 

 視界がモノクロに染まった瞬間、一瞬で『脱兎』と凛太郎の空間が入れ替わった。僅かな浮遊感を感じた後、彼は『脱兎』の群体に頭から突っ込みモフモフとした感触を全身で味わう事にある。

 

 

 「おい、大丈夫かっ!?」

 

 「うぅ……正直言って痛くて泣いちゃいそうだよぉ」

 

 「っ……下がってろ、あとは俺が」

 

 「いや、治せるから気にすんな」

 

 「なっ、反転術式か」

 

 「おう。といっても、限定的なやつだけどな……おー、いちちち」

 

 

 『脱兎』の群体に揺らされながら上着を捲り上げて腹にできた傷口を確認する。『呪力強化』によって肉体が反射で半自動的に行う反転術式によって傷を修復できるレベルでギアは上がっているが。

 

 

 (……()()()()()()())

 

 

 反転術式は機能している。

 だがどういうわけかその回復速度は著しく低下しており、いつもならば瞬時に回復できているような傷がゆっくりと修復されていっているのだ。

 

 ()()()()()()()()()()()

 凛太郎はそれを瞬時に理解した。

 

 どういうわけなのか疑問は残るが、あの瞬間自分の呪力出力が著しく低下した。その所為で本来なら容易く防げていた筈の刃物による攻撃が凛太郎の肉体を貫通させた、防御しようとした瞬間呪力出力が低下していた為防ぎ切ることができなかった。

 

 原因があるとすれば、()()()だろうと自身の片手に視線を向ける。あの時襲われた謎の現象。あの奇妙なノイズは消えているが、どういうわけかあのノイズの所為でこっちの呪力が乱されたことに舌打ちをこぼす。

 

 あのノイズに襲われた瞬間、身体が《吹き飛びそうになった》。といって文字通り飛んでいくという意味ではなく、まるで肉体の構成を維持できず消えていってしまいそうな……そんな感覚だ。

 

 恐らく、()()()()()。 

 理屈はわからないが、キヴォトスに戻されそうになっている。

 

 

 「はぁ、めんどくさ……さっさと片付けんぞ恵」

 

 「言われなくても最初からそのつもりだ」

 

 「ははっ、頼もしいね後輩」

 

 

 いつまたあの現象に襲われるかわからない、故に速攻で片付けるべきか判断した。

 

 このままチビチビ回復していては埒が開かない。 

 凛太郎が調子を確かめるように手を握ったり開いたりを繰り返した後、意識を集中させながら空いた片手を腹の傷口に押し当てる。

 

 正のエネルギーを術式に流し込む。すると、手のひらから出現した()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が傷口を包み込むと腹に空いた風穴が一瞬で塞がり()()された。

 

 

 「お、うまくいったみたいだな。使い慣れてないから調()()が難しいがやりゃできるもんだな」

 

 「───なんだ治しちまったのか。反転術式まで使えるとはゴキブリみたいにしぶとい奴だな」

 

 「ん? げ、そりゃ俺のセリフだよ。お前まだ動けたのか、しつこい男は嫌われるぞ?」

 

 

 振り返った先、そこにはダウンさせた筈のレジィの仲間である針が立っていた。その男の姿に凛太郎はうげーっと表情を歪ませる、加減していたとはいえなんでまだ動けるんだと文句を言いたいくらいだ。

 

 正直言って相手をするのも疲れてきたところだ。

 『殺さなきゃいいんだよな』凛太郎は伏黒へと視線を送り、彼が頷いたことで嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

 そして間合いを詰めて鋭い指先を向けてきた針の左腕を受け止め、瞬時に“分解”する。彼の左腕には大きな亀裂が入るとボロボロと崩れ落ちていき、蹴りを叩き込めば鉱石でも砕くかのように左腕がバラバラに粉砕された。

 

 

 「が、がアアアアァァァァあああア!!??」

 

 「うるせえな、腕が無くなっただけだろ。引っ込んでろハゲ、さっきからテメェだけ釣り合ってねーんだよ」

 

 「や、やりやがったなこのガ、ブッ!?」

 

 「口が臭えからデケェ声出すな」

 

 

 顔面に拳を叩き込んで今度こそ気絶させた。

 動かなくなった針を蹴り飛ばして、距離を取ったままのレジィへと視線を向ける。そこには既に『旅館の領収書』を『再契約』によって再現したことにより回復した男の姿がある。

 

 

 「キモッ、なんでテカテカしてんだ」

 

 「ふふ。俺の術式は契約の再現ってとこでね、こういうこともできるのさ。いま使ったのは五つ星旅館「星空亭」2泊3日オイルトリートメント付きの領収書だ……つまり今の俺は温泉に浸かり二日間体を癒した状態になったというわけだ」

 

 「え、なにそれ普通に羨ましい……でも温泉は直に浸かってこそだろ」

 

 「それは否定しないさ。だが、それに比べて君たちはどうかな? そっちの式神使いの子は先の戦闘での負傷に加えて複数の式神の併用、そしてクソガキ君は反転術式を使えるみたいだがそんな大技そう何度も使えないだろ?」

 

 「ちょい見てこれ、一年の時にみんなで温泉旅行に行った時の写真」スマホチラリ

 

 「は……!? アンタなんでそんな写真持ってんだ。それにこの写真、五条先生に先輩たちまで……偽物、じゃなくて()()()()()?」

 

 「マジマジ、いやーあの時はめちゃくちゃ楽しかったな! はしゃぎ過ぎて出禁くらいそうになったけど、んでこっちがコスメショップでバイトした時のやつ。顔が良いって事で俺は外でキャッチやらされてた」

 

 「話を聞けよクソガキ共ッ!!」

 

 「うるさ。話が長えんだよおっさん、悪りィが男との長話に興味ねえんだわ。御託はいいからさっさと終わらせようぜ」

 

 

 気怠げに懐にスマホをしまいながら構える凛太郎の姿に苛立ちが加速する。(ブラフ)を仕込みながら発動させるつもりであった手札(レシート)を正面から発動させる、どこまでいっても自分をイラつかせる凛太郎を確実に殺すために。

 

 だが彼は怒り支配されて突き動かされるような愚かな人間ではない。

 

 

 「ミンチにしてやるよッ!!」

 

 

 ───『再契約』!

 

 自らの呪力によって焼き切った触媒を掲げる。

 “再現”によって出現した2台の大型トラックが無人のまま排気管を震わせながら爆音でエンジン音を響かせると、急加速しながら突っ込んでくる。それに加えて、彼のとっておきの領収書を追加で“再現”させる。

 

 それは建築面積40坪木造軸組の家屋だった。

 上空に出現した二階建ての家屋が彼らの逃げ道を塞ぐように落下して来る、まるで隕石でも降ってきたかのような光景が視界に広がる。

 

 焦りはない、懸念が発生した。

 

 

 「おい、どうする!?」

 

 「最初に出してた玉犬だが、まだやれるか?」

 

 「……問題ない。あの程度の損傷でやられるほどやわじゃない」

 

 「なら走れ。あのおっさん()()()()()()だぞ、いまチラッとだが原付のバイク出してるのが見えた。お前と玉犬の速度(スピード)なら追いつける」

 

 「は?……この状況でどうしろって───!」

 

 「───俺を信じろ。ビビらず突っ込んでこい、何があっても走り抜けろ」

 

 「ッ……くそ、やってやるよ!」

 

 

 言い争っている暇はない。

 既に大型トラックそこまで迫ってきており、上空に出現した家屋も衝突寸前だ。まだ何か言いたげな伏黒であったが、真っ直ぐ自分を見つめて来る少年の姿に背を押されて走り出す。

 

 そんな後輩の姿を見ながら、早々に準備に移る。

 自分や伏黒をトラックや家屋、周辺の物体などと“入れ替える”ことで回避することは出来るが、もし次に“入れ替え”を発動させれば数秒のインターバルが発生するだろうと凛太郎は直感していた。

 

 具体的な回数制限は分からないが今までの鳴らし運転の経験もあってか、恐らく発動できるのは後一回程度だろうと。ここに至るまで何度も“入れ替える”術式を発動させてきた、ならばこの結果は当然のことだ。

 

 この残された一回は自分ではなく伏黒に使う。

 自分ならばトラックに轢き飛ばされようと家屋に潰されようと大丈夫だろうという自信と、これから自分が繰り出さんとする一撃に伏黒が巻き込まれた際の()()でもある。

 

 

 「術式順転……()()()()───『黯』」

 

 

 水を汲み上げるかのように両手を重ねる。

 手のひらに出現した水墨によって描かれたような黒炎を手繰りながら操作する。それは表象した凛太郎の術式のイメージによって作り上げれた“崩壊”の力を宿した黒い炎。

 

 構えを模倣する。

 それはかつて渋谷での戦いで呪いの王、両面宿儺が凛太郎の前で披露した爆炎の一撃。弓で敵を射るのと同じように、噴き上がる黒炎を弦を引くように引き絞る。

 

 

 ───『飛炎』!!

 

 

 構えを見せ相手に回避の猶予を与えるという“縛り”によって飛距離と速度、そして威力を底上げした一撃が放たれる。放たれた崩壊の黒炎の余波によって地面が大きく抉れその力が“伝播”する。

 

 黒い炎の矢は前方を走る伏黒に向かって真っ直ぐ伸びて行く。彼に着弾する寸前、黒炎と彼を“入れ替える”ことによって射線上から回避させる。

 

 そして『黯』が大型トラックへと正面から衝突した瞬間、削り取られたかのようにトラックに“大きな穴”が開く。目の前の光景に驚いた伏黒だが、凛太郎の言葉に従い足を止めることなく一瞬で走り抜けた。

 

 ───崩壊は“伝播”する。

 着弾から数秒遅れて、黒炎によって“火柱”が立ち昇った。

 

 黒炎の火柱に飲み込まれるように“再現”によって出現した家屋やトラック、周辺の建築を一瞬にして文字通り崩壊させていき塵へと変えた。

 

 

 「……ちょいオーバーキルだったか? まぁいいか、とりあえずメグミンが戻って来るまで待ってよっと」

 

 

 思ったよりも火力があったことに驚くが、周辺に人間がいないであろうことは確認済みなので廃墟が()()()()()だけだと欠伸を零した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







 津上 凛太郎
「喉渇いたな、あそこの自販機ぶっ壊してなんか飲むか」

 ???
「大丈夫かそこのメガネの少年よ!!? なにやら物騒な爆発があったみたいだが!? もう大丈夫だぜい!」

 津上 凛太郎
「?……あ、あなたはッ!?……()()()()()()()()






ぶっちゃけどの時間帯に更新されると読みやすい?

  • 07:00くらい
  • 19:00くらいやな
  • 21:00くらいやでー!!
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