透き通る様な世界観にいる一般呪術師   作:半ライス大盛り

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お気に入り、感想、評価、ここすき、ありがとうございます。
感想のほうもそのうちまとめて返信したいです。

全然関係ないんですが、先日10年以上一緒に暮らしてたペットが旅立ってしまった。悲しすぎてメンタルがやばい……。エイプリルフールの嘘にしてよ。

「子供が生まれたら犬を飼いなさい」このイギリスの有名な詩はマジですごいと思う、命の尊さをガチで教えられた。





当店でのお触りは禁止されております!

 

これってどういう状況なん?

誰でもいいから簡潔に状況説明してほしい所なんだが。

 

まず隣には唖然とした表情を浮かべる、可愛いというより綺麗といった言葉が似合いそうな女の子が涙を流して赤くなった目でこちらに視線を向けている。

 

そして眼前には先程、蹴り飛ばした()()が設置されていた自動販売機を巻き込む形で向かい側の建物に穴を開けながら派手に吹き飛んで行った。

 

うーん、というかあれって()()、なんだよな。

この状況こそ大体の推測が出来るが、まったくもって想定外の状況に疑問が疑問を呼び、理解が追いつかず思考が迷子になってしまいそうだ。

 

そもそも、()()が呪霊だと確信を持って判断ができない。

 

だというのも、なぜ自分がこの距離に近付くまで呪霊の存在を()()()()()()()()()()()()()()

 

呪霊特有の澱んだ気配と漲るような呪力、数々の呪いを相手にして祓ってきた経験からして間違える筈がない。ましてや見逃すだなんて事もありえない。

 

 

「(……単純に気配を感じ辛い、って訳じゃなさそうだな。となるとそういう術式か?)」

 

 

疑問が尽きない。

ここキヴォトスで生活していた上で最初に疑問に思ったのは呪霊の存在の有無ついて。

 

だが、ある事を理由に呪霊はこの学園都市に()()()()()ものだと思っていた。

 

そもそもなぜ呪霊は存在するのか。

呪霊とは妬みや恨み、後悔や恥辱など、人間から漏出した様々な負の感情(エネルギー)が集積し呪いが形を成す事で具現化する意思を持った異形の存在。

 

死後、呪術師が呪霊に転ずる事があるとしても呪術師から呪霊は生まれない、それはつまり裏を返せば非術師であるただの人間からのみ呪霊が生まれ続けるという事。

 

だが、この学園都市に置いてそれはないと俺は考えていた。

なぜなら学園都市に住む住民、アビドスで生活しているシロコちゃんやホシノちゃん。力の幅に個人差こそあるものの、彼女たちは呪力とはまた違う“不思議な力”をその身に宿しているのを感じ取れたからだ。

 

呪いの存在を感じない世界、呪力とは別の特別な力を宿す住民、この2つの情報から呪霊は発生しないと踏んでいた。

 

 

「(いや、深く考えるのは後だ。優先するべきはそんな事じゃない)」

 

 

意識を思考の海から切り上げる。

吹き飛ばした呪霊の方へと向けていた視線を、酷く怯えた様子の少女へと戻す。そんな彼女に歩み寄り、安心させようと視線を合わせ表情と声色を意識して声をかける。

 

 

「やあ。いい天気だね、君さえ良ければ俺とお茶なんてどう?」

 

「………え?」

 

 

少女はポカーン、となんとも言えない表情を浮かべている。

数秒遅れて、状況に理解が追い付いたのかハッとした顔をして何かを必死に伝えようとしている。しかし動揺していて、声にならない声を発するのみで終わってしまう。

 

 

「ぁ……はっ……はっ……ッ」

 

「大丈夫。ゆっくりでいいよ、まずは深呼吸から」

 

 

こちらの言葉にゆっくりと頷き、少女は苦しそうに胸を押さえ深く息を吸い吐いてを繰り返している。というかこの子めちゃくちゃかわいいんだが。アビドスのみんなと良い、さっき知り合った正義実現委員会とやらに所属しているイチカちゃんといい、なんでキヴォトスには魅力的な女の子が多いのか。

 

これから先、俺の理性と心臓が持ち堪えてくれるか心配になって来たぞ。

 

 

「はぁ、ふぅ……あ、あの」

 

「軽い自己紹介といこうか。俺は津上 凛太郎、親しみを込めて凛ちゃんでも太郎くんでも、ま好きに呼んでくれて構わないよ。それで、かわいいお姉さんのお名前を聞いてもいいかな?」

 

「……じゃあ、リンって呼ぶ。えっと、鬼方……カヨコ、私の事も好きに呼んでいい。いや、それよりも──」

 

「───()()が見えてるのかって? もちろん見えてるよ」

 

 

彼女がなにが聞きたいのか予想は出来た。

その言葉に酷く驚いたような様子で、目を見開いている。

 

 

「逆に聞くけど、カヨコちゃんも見えてるって事でいいんだよね?」

 

「……うん」

 

 

静かに頷いて返してくれる。

特殊な状況や呪具を除き、基本的に一般人は呪霊を見る事も触れる事もできない。カヨコちゃんからも呪力は感じない、だというのになぜ視認する事が出来ているのか疑問が残る。

 

しかし深く考える余裕はない。

 

 

「……っ後ろ!」

 

「ん? ああ、起き上がって来たか」

 

 

青ざめた顔のカヨコちゃんの言葉に背後を確認すれば蹴り飛ばした呪霊が戻ってきたようだ。

 

呪力を込めて蹴った訳ではないので、ダメージを負った様子はない。がしかし、横槍を入れられたことが相当気に食わないのか、一目見てわかるほどに表情を歪めて怒りを露わにしていた。

 

 

『お、おおオバエ、じじ、ジャジャ邪魔ずるナぁァァ!』

 

「(……こいつ、喋れるのか。言葉がわかるって事はそれなりの(レベル)の呪いか)」

 

『キキキっ、き聞いてルのかあッ!』

 

「うるせえな。口が臭えから黙ってろよ、鼻が曲がりそうだ」

 

 

簡単な挑発。

奴もおちょくられていると理解しているのか、地団駄を踏み奇声を上げながら自らの体に穴を開ける勢いで全身を掻きむしっている。拙いながらも言語を理解している事からそれなりに高い等級であろう呪霊。

 

さしずめ二級、高く見積もっても準一級といった所であろう。

 

この程度ならさして問題ないな、なんて事を考えているとギュッと服を引っ張られるような感触につい視線がそっちに向く。

 

そこには奴の怒り狂った様子に怯えたカヨコちゃんの姿がある、袖を掴む彼女の手も酷く震えていた。無理もない事だろう、いくらキヴォトスに住み銃器でドンパチしているような子でもアレは少々刺激が強すぎる。

 

 

「に、逃げ……」

 

「大丈夫。俺 結構強いから、カヨコちゃんの身の安全は保証するよ」

 

「な、そんな事言ってる場合じゃ!」

 

「平気だよ。あれの扱いには慣れてる、これ以上 君に怖い思いはさせないからさ」

 

「………ッ!」

 

『あ、アアアアああああカァカァっぁァァ!』

 

「おー、元気いっぱいだな」

 

『きき、きらい嫌イッ!! オマ、オ前嫌いダッ!』

 

「そうかい。俺もお前みたいな害虫(ゴミ)に好かれたいとは思わないね。呪いと友達になるなら里香ちゃんみたいな愛嬌のある子がいいよ」

 

 

せっかくカヨコちゃんとお喋りしていると言うのに、余計な奴が横槍を入れて来る所為でついため息が出そうになる。

 

とりあえず、場所を移すべきか。

今この場で奴を祓ってもいいのだが、周囲への被害を考えたらそうはいかない。派手に吹き飛ばした自動販売機や、その衝撃で壁に開いた大きな穴、遠くから集まって来る気配、軽く騒ぎになってしまう事を想定してこの場を離れるべきだと判断する。

 

 

「カヨコちゃん、走れる?」

 

「……ごめん。無理そう、腰が抜けちゃって」

 

「オッケー。そういう事ならちょっと失礼するよ」

 

「え? ちょ!?」

 

 

腰を抜かしたらしく、動けない様子のカヨコちゃんの上半身と下半身をそれぞれの腕で分担する形で支え、お姫様抱っこの形で抱えあげる。

 

軽いな、ちゃんとご飯食べてるのかお兄さん心配だよ。

本人は恥ずかしがっているのか、色白な肌を赤く染めて腕の中で慌てふためく姿がかわいらしい。それはそれとして小さく暴れるのは我慢してほしい。

 

 

「カヨコちゃんってここら辺の地理詳しい?」

 

「そ、それなりには詳しいほうだけど」

 

「そいつはありがたい。じゃあ人が寄り付かないような廃墟とかここら辺にある?」

 

「……ここから、少し離れた所になら」

 

「なら、俺と散歩(デート)と行こうか。そこまで誘導よろしくね」

 

「で………っ」

 

「あ、照れてるぅ? かわいいな〜」

 

 

うん、かわいい。

赤くなった顔で睨みつけてくる姿は怖い所かなんとも愛らしい。荒んだ心が洗われるような気分だ。このまま眺めていたいが、視線を呪霊に向けてもう一度わかりやすく挑発する。

 

 

「来いよ。この子がほしいんだろ? 奪ってみろ、テメェじゃ一生無理だろうけど、なっ!」

 

『…………アアアぁぁッ!』

 

 

乗った。

背を向けて走り出した俺を完全にターゲットとしたのか、数秒遅れて巨大な体躯を引き摺るように後ろを付いてくる。馬鹿デカい怪物が殺意を向けて背後から迫ってくる光景は一般人はおろか呪術師ですらチビりそうなレベルだ。

 

まあ、渋谷でもっと怖い奴と鬼ごっこした経験があるのでそれと比べればたいした事はない。

 

 

「(でけぇ図体の割には結構速いな。手足が多い分速度(スピード)も倍ですよってか?)」

 

 

巨大な体躯に反して重量を無視するような速度。

パワータイプのような見た目でスピードタイプのような俊敏さ。中々の速度だが、しかしその程度だ。いままで戦った相手のように突然 視界から消えるような速さはなく、素の身体能力でも振り切れないレベルというわけじゃない。

 

だが、こっちが人一人(ひとひとり)を抱えているとなれば話は別だ。

背後から感じる気配は徐々に距離を詰めて来ている、このままではいずれ追いつかれてしまうだろう。

 

 

「っ……リン、次そこの道を右に」

 

「カヨコちゃん」

 

「なにっ、どうしたの? 」

 

「ちょっと速度(スピード)あげるからしっかり捕まって。あと、舌噛まないように気をつけてね」

 

「え……───っ!!」

 

 

完全に振り切ってしまっては意味がない。

付かず離れず、それくらいの距離を維持しながら呪霊を誘導しなければならない。

 

───出力を調整する。

必要最低限の呪力を練り上げて身体強化を施す。全身に力が行き渡るような感覚を肌で感じながら舗装路を踏み抜く勢いで加速する。視界に映る全てが早送りになったような景色、風を切り疾走するこの感覚がなんとも気持ちいい。

 

 

「う、くぅ……!(はやっ、私の事を抱えたままでなんて速力)」

 

「うしっ、これくらいのペースでいいか。引き続きナビよろしくねカヨコちゃん!」

 

「わ、わかった。次の交差点まで真っ直ぐ、でも信号があるから」

 

「任せんしゃい。赤信号だろうとへっちゃらだから!……あ、やべ車きた」

 

「え? ちょそういう問題じゃ……〜〜っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……酔ったかも」

 

「あ、あはは、ごめんちょっと速くしすぎた」

 

 

誘導の下走り続け、辿り着いた大きな廃墟。

先程の地区から離れた区画、とあるビルの地下フロアへと通じる道、さらに地上階へと続く階段を上り、迷路にように入り組んだジグザグの通路を潜り漸く到着した目的地。

 

大規模な改装工事を行う予定だったが、経営の悪化により倒産してしまい、改装工事も取り壊し作業も中途半端なまま放置され今も残っていると言うこの廃墟こそがカヨコのナビゲートが導いた場所。

 

ここに来るまで色々とあった。

女性を抱えた男性が自動車並みの速度で道路を走ってると好奇の目とカメラを向けられたり、背後から腕を伸ばして来る呪霊の攻撃を右に左に、飛んだり跳ねたりで回避したりと様々なアクシデントがあった。

 

凛太郎 本人としては向けられたカメラに対してピースしたり、スタントマンのように呪霊の攻撃を避けながら走るのはスリルがあり楽しかったが、腕に抱えられているかカヨコからしたら堪ったもんじゃない

 

常に激しく揺れ続ける視界や、なんだか黄色い歓声と共に向けられるカメラに、羞恥や焦燥といった感情がごちゃ混ぜになり精神的にも肉体的にもどっと疲れが押し寄せてきた。

 

 

「さて、それじゃカヨコちゃんはここらへんに隠れてて」

 

「……リンはどうするつもり?」

 

「勿論あのデカブツを片付けて来る」

 

「っ本当に、大丈夫なんだよね」

 

無問題(モーマンタイ)。もう一度言うけどここに隠れててよ、カヨコちゃんを巻き込む訳には行かないしさ」

 

 

取り壊しと改装工事が中途半端に終わっている所為か、上の階と下の階が吹き抜けとなっており、大きく開けたエリアとなっている。

 

あの呪霊を誘い込むにはピッタリだろうと、凛太郎は思案してすぐ側の壁一枚向こう側の影になる場所へと身を隠すよう伝える。

 

距離を突き離した呪いの気配がすぐそこまで近づいてきている。

 

あと数秒もすれば呪霊この場に辿り着くだろう。

ここでなら周囲への被害を抑えられ存分に暴れられる。

 

本当なら“帷”を下ろして完璧な準備を終えてから対処したかったが、キヴォトスで“帷”の効果がどれほどの役割を果たしてくれるか未知数であった為、今回は下すことを見送った。

 

───来た。

 

背後で大きくなった呪いの気配に凛太郎は振り返る。

目と鼻の先と言っていい距離、呪術師としての意識に切り替えようとした時───不意に手を握られた。

 

柔らかな感触に驚きながら、視線を彼女の方へと戻す。そこには不安げな表情で俯いたままなんとも言えない様子の少女の姿がある。

 

カヨコの心は不安と後悔で押しつぶされそうだった。

自分を守るように立つ男は巻き込むわけにはいかない、と言った。なぜ、どうしてそんな言葉をかけてくれるのか。巻き込んでしまったのは、自分だというのに。

 

 

「───ね、カヨコちゃんこの後時間ある?」

 

「───え?」

 

「時間があるなさっきも言った通り、なんか食べに行こう」

 

「……リンの、奢りなら」

 

「もちろん。女の子に財布は出させないぜ、これでもさっき一稼ぎしてきて懐は分厚いからね」

 

「ふふ……なら、待ってる」

 

 

彼女が抱える不安も恐怖も、理解できた。だからこそ気にするなと笑いかける。

 

試したい事はあるが、出来る限りスムーズに祓う、そう決めた。

女の子の前でカッコつけたいと思う気持ちがないわけではない。呪いをナメているわけでもない。ただこの少女を安心させてあげようと凛太郎は思った。

 

彼女の感じる恐怖など拭い去って、安心させ笑いながら帰路につかせてあげたい。その為には呪い(こいつ)が邪魔だ。

 

少女の小さな手を優しく解き、拳を握って構える。

 

 

『みみ見つけタあああぁぁぁアア!!』

 

「ウォーミングアップってところか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこ見てんだウスノロ!」

 

『ジャジャ邪…………ッ魔アアぁぁッ!』

 

 

凛太郎は眼前の呪霊を相手にしながら、その頭の片隅では渋谷で自身が戦った強敵の姿を脳裏に思い描いていた。

 

それは渋谷で呪詛師の降霊術によって蘇り、再び現世の大地を踏み締める事となった()()甚爾という男の姿。

 

禪院甚爾という男は知らないが、禪院という名には聞き覚えがありすぎた。禪院とは呪術師を多く輩出する名門、呪術界御三家のひとつ。 身近にいる人間では同級生の禪院真希その双子の妹の真依。

 

そして凛太郎が大とつくほど嫌いな、禪院直哉。

男尊女卑を当然とし女性に対して自分とは全く違った価値観を持つ男、彼のその所業を目の当たりにして凛太郎は過去に禪院家当主の息子である彼に喧嘩を売り、殴り飛ばし叩きのめした事がある。

 

その所為で禪院家、というより直哉からの姑息な嫌がらせで昇級を度々邪魔され苦労するハメになる。

 

 

「どうした、こいよ」

 

『あ…………アアアぁぁッ!』

 

 

思い出すのは渋谷での戦闘。

禪院甚爾の肉体の情報を下ろした事により、その姿を変貌させた呪詛師によって行動を共にしていた仲間は再起不能にされた。数秒前までとは比べ物にならない身体能力、かくいう凛太郎自身も不意を突かれそうになったが対処しきれないレベルではなかった。

 

能力こそ高まったものの、()()()()()()()

膂力(パワー)速度(スピード)も桁違いだが、動きは力任せで戦闘経験があるだけのチンピラ程度。

 

押し切れる、そう思ったのも束の間。突然、呪詛師の様子がおかしくなるや否や、後ろに控えていた仲間の、降霊術を扱う呪詛師を殺害したのだ。

 

そこからだった、凛太郎が死を覚悟したのは。

攻撃の重さや動きの俊敏さも、その全てが比べ物にならないほどキレが増していた。先程まで対処出来ていたのに、力の差は五分いや寧ろ押され始めていた。こちらは呪力で強化しているのに、かたや呪力を感じない素の身体能力。

 

まさに剥き出しとなった暴力の塊。

凛太郎は脳裏に焼きつく禪院甚爾の動きを模倣し喰らおうとしているが、どれだけ動きを近づけてもあと少し足りない。

 

 

「(ダメだな。生身であの動きを真似するのはやっぱ無理、単純に俺のスペック不足。呪力込みならいけると思うけど、それでもなんか違うんだよな)」

 

『シシ死ネエエ、死んジャエエエッ!』

 

「うるっせなあ……!! 今考え事してんだよっ!」

 

 

伸びてきた腕を身を翻して回避。

そこから更に懐へ潜り込むと拳を胴体へと叩き込み、浮き上がった呪霊に追い討ちと言わんばかりに回し蹴りを炸裂させる。

 

呪いは呪いの力でしか祓えない。

故に、敢えて呪力を纏わせていない凛太郎の打撃は呪霊への決定打どころかダメージにすらなっていない。しかし凛太郎にとって今はこの方が都合が良かった、何せどれだけ叩き込んでも壊れないサンドバックとしての役割があるのだから。

 

だがしかし、そう遊んでもいられない。

スムーズに祓うと決めた以上、時間をかけてはなられない。

 

 

「そら、アゲてくぞッ」

 

『あ、あぁあああ! きらいきらい嫌イ!』

 

「………チッ!」

 

 

呪いの身体が膨張したかと思えば、膨れ上がった肉体を引き裂いて───いくつもの“腕”が鞭の如く飛び出した。

 

ただでさえ数の多い“腕”が更に数を増やした事に舌打ちを零す。無数の腕の隙間を縫うように、最低限の動きで回避しようとしたが、瞬時に判断を切り替えた。うねうねと動く長い“腕”を部屋全体へと張り巡らせるように伸びている。

 

呪力を練り上げ右腕に集中させ、迸らせる。

呪力を集中させ作り上げた簡易的な呪いの“刃”で肉を裂き、腕を斬り落とし輪切りにしていく。

 

 

「うげぇ、キモすぎるっ!」

 

『い、いた、痛イ! 痛い痛いイタイ!』

 

「ならそのキモい腕しまえ!」

 

 

憎悪に歪んだような呪霊の顔。

痛みと憎悪に暴れる呪霊は、無数の腕を鞭のように振り回す。その威力自体も目を見張るものがある。まるで小さな嵐だ、生身で受ければ骨を粉々にへし折るだけのものはあるだろう。

 

降り注ぐ拳の雨を掻い潜り、縦横無尽に伸びる腕を地面に滑り込み回避する。低くした体勢から、全身をバネのようにして跳躍、ガラ空きとなっている呪霊の顔面に拳を振りかぶる。

 

だがその打撃は呪霊の体躯を僅かに揺らすだけの一撃だった。

 

痛くも痒くもない一撃、自分に対してダメージの通らない打撃。呪霊の表情が不気味に歪む、それは自分を苛立たせる存在の攻撃は自身を脅かす決定打になり得ない事を理解して浮かべた侮蔑の笑みだった。

 

邪魔をする存在の命を刈り取ろうと、着地の瞬間を狙い腕を伸ばす。

 

 

「───()()、二撃目も来るぞ」

 

『ハァ?………ギギィィ!!?』

 

「いい技だよな。自慢の後輩のとっておきだ」

 

 

ワンテンポ遅れて響いた呪力よる2()()()の衝撃。

油断しきっていた呪霊の顔面に叩き込まれた見えない砲弾に穿たれたような一撃。痛みのあまりのたうち回るが、そんな隙だらけの姿を見逃してやるほど凛太郎は優しくはない。

 

呪力を込めた拳を振りかぶり、息をつく暇も与えず打撃を叩き込む。鋭く、突き刺されたような打撃の痛みに呪霊は悲鳴を上げてもがき苦しむ。これ以上好きにやらせるかと、失った部位を呪力で修復、更に全身を呪力で防御するが、徒労に終わる。

 

 

「“痛え”だろ。呪力の特性って言えばいいのか、俺の呪力は“鋭い”んだよ。三年の先輩にも変わった呪力を持ってるのがいるんだが、って言ってもわかんねえか」

 

『ううう、うるさイッッ! きき消えろオぉぉオ!』

 

「ほら、ちゃんと防御(ガード)しろ。無駄だけどなァ!」

 

 

呪力を乗せた拳を再び振りかぶる。呪霊は呪力を高め、防御を固めて拳を受け止めるが、そんなものは()()()()

 

例外を除けば、呪力特性や術式効果というものはシンプルな呪力による肉体強化では防ぎきれない。それに加えて凛太郎の“鋭利”な呪力は分厚い木材に釘を打ち込むように、防御の上から呪力を貫通させて鋭いダメージを与える事ができる。

 

満身創痍、膝をつく呪霊の姿に潮時かと凛太郎は判断する。

 

 

「さてと、そろそろ終わりにするか」

 

『……な、なななんでええ!』

 

「………あ?」

 

『なななんで! なんでなんでナンデぇえ!!』

 

 

どうしてこうも一方的に自分だけが殴られているのか。

体格も、膂力も、強度も、存在としての格も自分の方が優れているというのに、なぜこうも目の前の矮小な存在になすすべなくやられているのか理解できない。

 

“苛立ち”が募る。

 

“怒り”とは術師にとって重要な起爆剤(トリガー)だ。そも呪力とは怒りや恐怖、後悔、憎しみ、妬みなどの人間の負の感情が元となって発生するエネルギー。

 

相手を怒らせてしまったばかりに格下に遅れを取る事もある。逆もまた然り、“怒り”で呪力を乱し実力を発揮できず負ける事もある。

 

そしてその起爆剤は、この呪いにも当て嵌まる。

 

 

「……!(こいつ、呪力が)」

 

『あ、あああぁぁあああ! しねシネ死ね死ネえぇぇえ!! 』

 

 

高まった負のエネルギーに警戒する。

獣のような体躯にツギハイダかのような人間の頭部、削ぎ落とされた鼻、空洞の眼窩、瞳のない顔で憎悪に表情を歪ませて凛太郎を睨みつけている。

 

ミチミチと音を鳴らし裂けた額から現れた大きな瞳。ピリピリと、膨大な呪力がその瞳に収束していくのを肌で感じ取った。

 

 

「(……まさかこいつ)」

 

『死んジャええええええ!!』

 

「やっぱそれ呪力放出(ビーム)だよねッ!?」

 

 

呪力の高出力指向放出。

出力が達する前に潰そうと動き出した凛太郎よりも早く呪力の充填(チャージ)が完了する。最大出力に達した呪霊が放つ、文字通り最後の咆哮。

 

どうする、凛太郎は瞬時に思考を回転させる。回避する、それはダメだ。あれだけの呪力量、周辺の被害がどれだけのものになるかわからない。

 

そもそも、近くにはカヨコが身を隠している。彼女にだって危険が及ぶ。彼女の身に何かあればすぐにフォローに入れるよう近くに置いておいたが、それがここで仇となった。

 

ならば自分の呪力放出により相殺させる。これもダメだ、あの呪力放出を相殺できるレベルまで呪力を溜めるのに時間がかかる。

 

───だったら選択肢はひとつだ。

 

呪力を注入して術式を起動。

自分自身の出力(ギア)を更に()()()引き上げる。全身から溢れ出すほどに高まる負のエネルギー、息が詰まるような感覚、全ての呪力を身体強化へと回す。

 

 

「ぐぅ!!……ぐ、ぎぎぎ! だっりゃああ!!」

 

『……なんで、ナンデ!どうしてえぇえ!!』

 

「ふぅー、あぶねえあぶねえ。ちょっと焦ったぞ」

 

『 どおォォォしテ死んでなイいいぃいぃ!』

 

「いやいや、流石に今のはやばかったって。生身で受け止めてたらタダじゃすまなかっただろうし」

 

 

呆然と立ち尽くす。

最後の呪力を振り絞った渾身の一撃。それをあろうことか()()で受け止められた。それだけではなく、解き放った高出力の呪力の軌道を上空へと無理矢理逸らすことで完全にいなされた。天井には呪霊の呪力放出によってポッカリ大きな穴が開けられている。

 

 

「さてと、それじゃ今度は俺の番だな。いいもん見せてやるよ」

 

『………あ、ああ、アアアあああぁああぁああぁぁ!!』

 

「おいおい、逃すわけないだろう。ここできっちりお前は祓う(殺す)、それが呪術師(おれ)の仕事だ」

 

 

矮小な存在だと見下していた。

自分よりも遥かに劣る脆弱な生き物だと、決めつけていた。この男を殺し、あの少女の前でバラバラにして絶望を与えてから喰ってやろうと考えていた。だが実際はどうだ、自分など霞む程の圧倒的な呪力量。気圧され、無意識のうちに足が下がった。

 

自分は捕食者なのだと思っていたが、それは勘違いだった。逃げなければ、恐怖に思考が埋め尽くされた呪霊が後ろ姿を見せて逃走する。

 

だがそれよりも速く、呪霊の背後へと音もなく回り込んだ凛太郎がその巨大な図体を、一撃で逃げ場のない空中へと蹴り上げる。吹き飛んでいく呪霊を尻目に、意識を集中させて練り上げた膨大な呪力を両手に収束させていく。

 

 

「すぅ……いくぞッ!!」

 

 

呪力の制御(コントロール)技術、そこから繰り出す高出力指向放出の扱いに関しては五条先生を除き、凛太郎は自分が高専一であると自負している。

 

呪術師としてスカウトされ高専に入学したその日。

呪力の制御は一朝一夕でどうこうなるものではないと、グレートティーチャー五条は呪力とはどういったものか実戦を交えて凛太郎にそう言った。だがしかし、次の日には凛太郎はコツを掴んだと言って目の前で拙いながらも高度な呪力放出を行ってみせた。

 

これには五条も目を見開いて驚いた。

なぜなら今までなんとなくで呪力を使っていた生徒が男の夢と希望が詰まった、ロマンの塊である必殺技を披露してきたのだから。あまりにも完成度の高いそれに腹を抱えて笑ったほどだ。

 

そこから更に、五条が保有する対象の術式・呪力を視覚情報として詳細に認識できる特殊な瞳『六眼』により呪力の流れや操作を精細に読みとってもらい技術を磨き上げてきた。

 

全ては自身の憧れを完全なものとする為に。

 

 

「かぁ───、めぇ───」

 

 

大気が震える。

それは今か今かと、収束に収束を重ねた呪力がその瞬間を待ち望む聲に聞こえた。

 

 

「はぁ───、めぇ───」

 

 

呪いの王からは「何が必殺技だ阿呆め。ただの呪力放出だろう」と呆れられたがそんな事は関係ない。寧ろその威力を身を持って味わわせてやった。反転術式を使わざるを得ないほどのダメージを与えてやったのだから、文句は言わせない。

 

 

「波ァァァァァッ!!」

 

 

───極光。

その両手に溜めた負のエネルギーを、呪いに向けて解き放つ。

視界を埋め尽くす程の膨大なエネルギーの嵐、止め処なく溢れる力の奔流は呪霊を一瞬で呑み込み、チリ一つ残さずに消失させる。

 

 

「………綺麗」

 

 

空へ登っていく光の柱。陰に隠れていた少女はその美しさに愕然と息を呑んだ。蒼白い巨大な光はどこまでも伸びていき、キヴォトスの空の彼方へ消えていく。

 

 

「……ふ〜、やっぱ必殺技と言ったらこれだよな!」

 

 

我ながら会心の出来栄え。

誇らしげに笑みをこぼす少年と、唖然と空を眺める少女がその場にはいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





・津上 凛太郎
「うし。そんじゃあ、何食べに行こうかカヨコちゃん」
たぶんこいつを当番にするとホーム画面で『Super Survivor』流れ出す
時たま生まれてくる種族を間違えたんじゃないかと周囲から思われてるバカ。禅院家に喧嘩を売った事があり、憂太と仲良くしすぎて嫉妬した里香ちゃんから頭を鷲掴みにされたこともある。本人は年頃の女の子の照れ隠しだと思ってる。

割と行動力のあるオタク、だが行動力がありすぎる所為でタチが悪い。
因みに必殺技は悠二だけではなく男子生徒全員の心を鷲掴みにした。


・鬼方 カヨコ
「ふふっ……なんでもいいよ。そうだ、私以外にも呼びたい人がいるんだけど大丈夫?」

あまりにも人間離れした動きをする凛太郎を見て深く考えるのはやめた。今のところの予定では“見える子ちゃん”はカヨコのみ。自分を悪夢から救ってくれた凛太郎には感謝してる、それ以外の感情があるかどうかは本人もまだ気づいていない。


一部の大人からの評価(1〜5の評価)

五条悟:5pt
「頼もしい生徒だよ。馬鹿と天才は紙一重というか、凛太郎は間違いなく()()()()に来れるだけの潜在能力(ポテンシャル)があるね。手解きしたとは言え呪いや呪力に理解のなかったパンピーが次の日にかめはめ波を覚えてくるとは思わないじゃん! ……けど歌姫と硝子をナンパしに行くのは本気でどうかと思うよ、見る目ないって」

七海建人:4pt
「五条さんが連れてきただけの事はありますね。いや、来るべくしてこちら側に来たと言うべきか。あれでまだ発展途上なんですから末恐ろしいですよ、まったく……それと彼からはなんだか五条さんと近しいものを感じるので苦手です」






次回でようやく先生が登場するかもです。
因みに先生は♀ではなく♂です。ちゃんとついてます。今回、途中からなんの小説書いてるかわからなくなった一人で笑ってましたね。

次回の投稿はちょっと遅れるかもです。
エタってた所為で放置してたアクナイのエッチな小説も投稿しなきゃならんので。





今後の展開。※参考程度

  • 時計じかけの花のパヴァーヌ編
  • エデン条約編
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