いや、ほんと宿題は宿敵だった。
さて、海で遊んだりショッピングしたりで満ち足りた夏休みを過ごしている自分だが一点だけ上手くいってない事がある。
《夏休みの宿題》だ。
小学校までは良かった。
なにせこちとら転生者だ、自由研究も含めて3日で終わらせることが当たり前だった。
しかし中学生になってスマホやゲーム機が解禁されてからは前世よろしく学校が始まる1週間前まで手をつけていなかったりした。
これではマズいと心機一転、高校生からは夏休みの始まる前から宿題をどんどん終わらせ、夏休み前半にはもう終わるようにしていた。
していた、のだが……。
「梅ちゃんとっくに宿題終わってると思ってた、意外だね」
こんなつもりじゃなかった。
もちろん言い訳はしようと思えばできる。
友達と買い物とか友達と遊びに行くとか今までやったことがない環境で浮かれ上がり過ぎたせい……やめよう、自分で思って自分で悲しくなるのは生産性に欠ける、自虐は悪い文化(文化じゃない)。
結果、夏休みが終わる2週間前に半分以上残っている宿題を桜と片付けることになった。
……なぜ桜と一緒なのかと言うと、いつものように桜から遊びのお誘いを受けた自分が宿題を理由に断ろうとして、では一緒にやらないかという話にいつの間にかなっていたからだ。
……うん、なってた。
自分はとことんコミュニケーション弱者であるらしい。
「でも梅ちゃん久しぶりじゃない?」
なにが?
「私の部屋に来るの」
……そうだっけ?
「そうだよー」
今の会話で分かるだろうが、自分達が居るのは桜の部屋、更に言えば桜が借りているアパートの一室だ。
あの件がなければここには一度も来ることはなかったのだろうと思い、改めて部屋を眺めてみる。
そんなに広くはない部屋だ。
白い壁紙に家具が並び、端っこにはピンク色の掛け布団が畳まれたベッドがある。
枕元のそばに小さな机があり、そこにあの招き猫時計が小物と共に置かれていた。
あいも変わらず憎たらしい表情である。
と、いけない、宿題を終わらせねば。
後は「ねえ梅ちゃん」ぬぇ。
なんだろうか、自分は後……数学の問題集を片付ければ終いなのだが。
「実は紹介したい人がいるの」
その時脳内に電流走る。
どういうことだ桜は自分に告白していたではないかいや確かに自分は断った断ったけどけれども切り替え早過ぎないかそういえば女性は失恋した場合切り替えというか未練とかが残らないというかつまり過去をバッサリ切り捨てることが多いとか聞いたことがある気がするいや待てそうじゃない桜に恋人が出来たからといって自分に紹介する必要などないだろうむしろ気まずさマックスな状況下に置かれること間違いないではどういうことだ桜一体何がどうなったボカヌポゥハンニャムリャジャルビンゼ?
まて、自分は地球人、発狂などしていない。
覚悟を決めろ、これは試練だ。
試練は乗り越えてゆくもの。
桜、その紹介したい人とは!?
「私の弟、大樹っていうの」
……弟?
「こんにちは、大樹っていいます」
現在自分の目の前には桜に似た、しかしかなりの男前な青年がいた。
身長が高く体格もいい、これで中学生だというのだから将来有望である。
あの紹介したい人という話から10分程で彼は現れた。
もうそろそろ着く頃だろうから一声かけとこうと思っての発言だったらしい。
ではあれか、自分が慌てふためいた時間は完全な無駄だったのか……。
そう思うと段々イライラしてきた。
しばらく桜とは口を聞かない。
「よし、大樹も来たことだし休憩にしよっか!実は今日のためにシフォンケーキ作っといたんだー♪」
なんと素晴らしい仕事をするんだ桜よ、自分は今日から桜の奴隷だ。
「姉さん、この人ちょろくない?」
「こんなになるの友達だけだから大丈夫だよー。可愛いでしょ」
「外見とのギャップがあって戸惑う」
「ありゃー」
さては馬鹿にしているな?
シフォンケーキ程素晴らしいケーキはない、もちろん他のケーキも素晴らしい、王道のショートケーキにチョコケーキ、家で作りやすいチーズケーキもお値段以上の高級ケーキ、そんな中シフォンケーキがなぜ素晴らしいのか……
他より低カロリーだからだ!!!!
「梅ちゃんね、食べたら食べた分だけ着いちゃうの……お尻に」
「あ……ふーん」
セクハラですよ?
あ、待て桜、自分はそのままがいい、だから今持っているジャムは待ってくれ。
「えーい♪」
待てと言っただろう!
おい、そんなに楽しいか、鏡や体重計を見て困る自分を見るのがそんなに楽しいか?
「うん♪」
桜、お前さてはSだな?
全くもう……おいし。
「ふふ〜ん。さ、大樹も一緒に食べよ?」
「え、あ、うん」
そういえばなのだが、確か桜に彼氏がいるという噂を聞いたことがある。
もしかして、この弟と桜が一緒にいた所を学校の人達に見られたからなのだろうか。
案外そんな気がしてきた、彼氏がいるのになんで自分に告白してきたのかと考えたりしたからな。
だが今はこのシフォンケーキである、うまうま。
「なぁ姉さん、この人のこと……」
「私のだからね?」
「……。」
「ん?」
「緑川さん」
んぇ?なんです?
「姉さんとどうか、幸せになってください」
どゆこと?
それからしばらくして大樹くんは帰って行った。
しかし、最後にどうしてあんなことを言ったのだろうか……あんな出荷される家畜を見るような目で。
こんなんになってるのはプレッシャーを受けてるからではない……はず。