プリミティブ・ンホアヘェ!   作:罪袋伝吉

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 新たに増えた生徒二人はグルメ系だった。




食通の娘達。

 

 拠点に五人、生存者が増えた。

 

 一人はスージーの部下で陸軍出身の対テロのエキスパートだというサラ・ワイズマン曹長。

 

 そして、あとの四人は女学校の講師と養護教員の二人と生徒二人。

 

……まぁ、サラ・ワイズマン曹長はルフ鳥にトドメをさしたせいで血塗れ、あとの四人はルフ鳥の嗅覚や視覚から逃れるために泥だらけにされて草むらに隠れていたせいでドロドロにされ……サラ・ワイズマン曹長のせいである……。ついでに血塗れになっていたサラ・ワイズマン曹長に抱きつかれてスージーも血塗れにされたため、計六人は現在、ウチの拠点を流れる水路で汚れを洗い流しつつ服を洗っている最中である。

 

……全部サラって奴のせいじゃねーか。

 

 まぁ、西南の浜辺で回収して来たテントの帆布で囲いをしている為、俺が覗け無いようになっているので安心だ、ってなんか日本語変だなおい。

 

 つうか、俺は俺で覗いている暇などありはしない。

 

 怒涛の解体中なのだ、今は。

 

 回収したルフ鳥のデッカい肉の解体と狼達の餌!それらをまず用意せねばならんのだ。朝飯作りはその後だ。

 

 つか、狼達がガウガウと餌をねだってうるさい。

 

 『お預け』をしているが運び込んだルフ鳥から目を離さず、

 

『腹減った飯よこせそれ食わせろ』

 

 と言う感じでグルルルル、ガウガウと鳴いている。

 

……まぁ、狼達が餌にくれというならばルフ鳥は問題なく食えるってわけなのだろうが、それは人間が食って美味いかどうかというのとはまた別である。

 

 まぁ、狼には美味いんだろうけど。

 

 さて。

 

 俺は庭のデカい木の枝に吊した重量約100キロ近い巨大猛禽類の死体に向かった。

 

 既に首は切り落としてあり、血抜きしてある……というか、胸から心臓に木の槍がぶっささった時点で大部分の血は抜けている。

 

 だがデカすぎてどっから解体するか、正直、困る。

 

 もう羽根は毟ってある。夏用の薄い羽毛布団で五つ分くらいの羽根と弓矢に使う矢羽根用のも大量だ。

 

 羽根の無い鳥は正直不気味だ。皮も鳥肌でブツブツしているがその皮はダチョウ革、オストリッチ・レザーのように分厚く、鞣せばいい素材になりそうだ。

 

 羽根といい皮といい、足の蹴爪もまるで鎌のように鋭くて何かに使えそうじゃないか。

 

「素材としては結構良い感じだが解体がめんどくせーな、こりゃあ」

 

「ウォン!!ガルルルルルッ!」

 

 グレイが苛ついたように鳴いた。

 

「わかったわかった。あーもう、手羽先くってろ」

 

 矢で穿って靱帯を絶ってぶらりと下がった方の翼の肉をナイフでおもむろに切り落とし、素早く筋に沿って皮を剥がして肉を取り出す。

 

 手羽先と言ってもデカすぎて牛の赤身ブロック程度の大きさはあり、狼達の餌としても余るくらいだ。

 

 それを素早く細かくぶつ切りにしてそれぞれの狼用の餌皿にだだだっと盛ってドカドカドカっと出してやった。

 

「おら、食え!」

 俺がそういうや否や狼達は一斉に肉に食らいついた。

 

「ワン!ガフガフガフ!」

 

 おお、良い食いつきだ。つーかうまいのか?

 

 ふーむ、と俺は残していた手羽のぶつ切り肉を串に刺し、水で洗ってから塩胡椒と臭み消しのハーブをまぶして焚き火の脇に立てた。

 

 うむ、実食して試してみなければ美味いかどうかはわからんからな。あ、軟骨も焼くか……ってでけぇな軟骨!

 

……刻んでつくねに混ぜるか。うむ、それがよさげだ。

 

 ザックザクととりあえず片羽根を解体し、鳥皮やら肉を剥がし骨だけにしていく。

 

 翼の靱帯は……そこそこ丈夫そうだ。獣脂を染み込ませつつ干して鞣せば弓の弦に使えるか……?

 

 肉を解体しながら使えそうな素材を吟味していく。

 

「ふむふむ、骨は……やはりサクいな。焼いて骨粉に

、いやガラ出汁……しかしこの骨でとれるか?むぅ」

 

 うーむ、悩む。だが悩むが悩めるというのは良いことだ。材料、素材があるって事だからな。

 

 じゅーっと串に刺した肉が焚き火に炙られて音を立てる。

 

 ひっくり返し、裏面も炙る。いい匂いだ。臭みは少しあるがこれは臭み消しのハーブでカバー出来る範囲だろう。

 

「うぁぁ、ここからいい匂いがしゅるぅぅぅっ」

 

 くんくんと鼻を慣らしながらなんか生乾きのセーラー服の少女がこっちに歩いて来た。

 

 焚き火の周りの焼き鳥を見て、じゅるりとよだれを手で拭き拭きする。

 

……あー、コイツ、サラ曹長と一緒に来た生徒の一人か。つか、泥だらけだったからどんな奴かわからんかったが、なんかちんちくりんな奴だな。

 

 髪の毛も濡れてて前髪が垂れており目が隠れて顔がよくわからない。背は低く胸はぺったん。ただ尻はデカい。

 

「ふぇあぁ、焼き鳥ぃぃ……!」

 

……生き物が捌かれてる所なんてのはグロくて女の子が見たら飯食えなくなる可能性が大だと思ったから誰も来ないように吉水達教師に言っておいていたのになぁ。

 

 ぬぅ、空腹で焼き鳥の匂いに誘われて来ちまったのか。つーかルフ鳥捌くのにかまけてて朝飯作んの忘れかけてたぞ。

 

「……空腹、なのか?」

 

「昨日から、何にも食べてない……です。飛行機でも酔っちゃって、機内食のランチ食べれてない……」

 

……ああ、そいつは可哀想に。空腹のまま逃げまわってたのかよ。

 

 まぁ、食いたいと言うなら食わせてやろう。毒味として役に立つがいい、名も知らぬ少女よ。

 

「そうか。なら一本くれてやる」

 

「えっ、いいの?おじさん!?」

 

……おじさんなぁ。いや、この年頃の子から見たら三十路の俺はおじさんか。少し悲しい。

 

 俺は一番焼け具合のいい奴を一本、ホレ、と少女にくれてやった。

 

「熱いから気をつけろよ」

 

 一応忠告しておく。

 

「うわぁ~、美味しそうな匂い!いただきます!」

 

 が、少女はガジッとかぶりつき、

 

「あつっ!」

  

 と、お約束のように口を火傷する。しかし、

 

「ハフっハフっ、熱い!でも、んんん~っ、美味しい!美味しいよぉ……!」

 

 熱さをものともせず、涙目でもぐもぐと頬張り咀嚼して一本食いきった。なんつう食い意地だ。

 

「そうか。美味い、か」

 

……ふむ、一般人が食っても普通に美味いらしい。

 

 少女が食い終わるのを見計らって俺は手に持った串を串を差し出してやった。

 

「嬢ちゃんいい食いっぷりだな。ほれもう一本食え」

 

「え?良いの?わぁ、やったぁ!」

 

 ま、ルフ鳥の肉が普通に食える事を身をもって証明してくれたのだ。毒味役をやり遂げた……といっても食えるのはわかっていた。美味いか不味いかだけだったのだ……少女に焼き鳥一本や二本、くれてやっても良かろう。幸い美味いらしいからな。

 

 どれ、俺も食ってみるか。

 

 串を渡して俺も一本、焼いたルフ鳥の肉にかぶりついた。

  

「む……。ふむ、思ったよりも臭みは無いな。トリカワの脂も悪くない。若鳥なのが良かったんだろうな」

 

 ルフ鳥の肉は鶏肉よりワニの肉によく似ている。いや、臭みはワニ肉よりもやや感じるがエグ味はなく普通にこの少女が美味そうにがっついている所をみれば他の女の子達に食わせても大丈夫そうである。

 

「ふむ……、肉の感じはやや堅いワニ肉って感じか。まぁ、この方が食い応えはあるな」

 

 俺はモグモグと肉を咀嚼し、焚き火にさした串を見る。あと二本か。

 

「で、嬢ちゃん。まだ名前、聞いてねーな。なんてぇんだ?」

 

「んぐっ?あ、まだ名乗って無かった。というかおじさんの名前も聞いてないよぉ。お腹空きすぎて忘れてた。あはは、舞ちゃんにまた叱られるなぁ」

 

 にははっ、と笑うと串を手に持つ少女は自分の名を名乗った。

 

「わたし、新井律(あらい・りつ)と言います。おじさんは?」

 

 俺は肩をすくめつつ、焼き鳥の串を焚き火から二本取り、それを二本とも新井律に差し出しつつ、

 

「ハラ・ハジメだ。この拠点の持ち主で三年前からここに居着いている。ほれ、食っとけ」

 

 新井は目を丸くした。

 

「え?おじさんの分……」

 

「いや、それはあの鳥の調理法に何が良いかと実験してただけのもんだ」

 

 俺は後ろの木に吊してあるルフ鳥の死体を親指で指差した。

 

「え゛?この肉って、まさか私達を襲ってきた、あの鳥?!」

 

……いや、あんなにデカいのが木からぶら下がってんの気づいてなかったのかよ。

 

「……空腹になると嬢ちゃんは食いもん以外の何も目に行かんのだな。この世界は食う食われるが当たり前だ。狩ったならばその肉は食用にし、皮も爪も羽根も様々なものの素材となる。……まぁ、どうやっても食えない動物もいるが、アイツは当たりだったってこった。……うまいだろ?」

 

 新井律……いや、律でいいか……は、目をまん丸にして、

 

「ほぇえー、リアルモンスターハ○ター!上手に焼けましたー!って!」

 

 うわー、うわーっと律はなんかすごい!とかいいつつ、串の肉を見て、またガブッと肉にかぶりついてモグモグ。

 

「うん、美味しい」

 

……結構、いや、コイツすげー図太いというのかなんというのか。捌いてる最中の獲物を見て食欲落さんとはなぁ。

 

 ふーむ、と俺が思っていると、なんかまた向こうからセーラー服の子が来た。

 

「あ~っ!りっちゃん、こんな所にいた~っ!」

 

 ややぽっちゃり系の少女だ。いや、太っているわけではないが何となく母性的なほんわかした印象である。

 

「あ、舞ちゃん、焼き鳥、美味しいよぉ!」

 

 律は舞ちゃんと呼んだ少女に串をフリフリして呼ぶ。

 

 ふむ、あれが『舞ちゃん』か。

 

「ああーっ!律ちゃん、いいなぁ、いいなぁ!」

 

 『舞ちゃん』がこちらに来ると律は俺から渡された串のうち、一本を『舞ちゃん』に渡した。

 

「うわ~っ、いい匂い……って、いや、あの……」

 

 舞ちゃんは俺を申し訳無さそうに見て、

 

「あっ、先ほどは助けていただきまして、ありがとうございます。ハラさん……ですよね?それに律ちゃんがお世話になったようで……。あの、私、新井舞、と言います。あ、双子じゃなくて、私と律ちゃんとは従姉妹同士です」

 

 ああ、従姉妹同士……って、新井、新井なぁ。どっかで聞いたってどころか俺の元の世界でも新井という人物とは割と繋がりがあった。

 

「ふむ、まさか君達は双子の料理研究家の『新井兄妹』のお嬢さんか?」

 

「えぇ?!父達の事、お知りなんですか?」

 

「まさかおじさん、お母さんと知り合い?」

 

 どうやらそのようだ。

 

 新井兄妹は双子の料理研究家にして評論家である。

 

 新井家は元々、江戸時代に水戸黄門で有名な水戸藩のお抱え料理人として代々続いた料理人の家系である。現在の新井家は日本最大の食品会社『A&E食品』の経営をしている。

 

 この『A&E食品』は世界初の旨味調味料『うまみもと』を開発、販売している企業であり、世界の外食産業の全てがこの『A&E食品』が無くなれば壊滅してしまうとすら言われるほどの大企業であるのだが……。

 

 新井兄妹は、その企業の経営者一族の出であるのに、料理とは何たるか、まだ知らない美味が世界にはあるはずだ!と、家をおん出て料理の求道家、つまり料理研究家になって活動しはじめ、今やテレビやメディアでも引っ張りだこなくらい、推しも推されぬ人気料理研究家となっている。

 

 ふーむ、その娘達が食に関して執着するのは父親達の血なのかも知れない。

 

……まぁ、俺の数少ない常識人に最も近い知り合いではあるが、料理や食材が絡むととんでもない兄妹で、とにかく珍しい食材には速攻で食いついてとにかくそれを研究せねば止まらないという面があったが……。

 

「ああ。ナタデココを日本で最初に新井兄妹に紹介したのは俺でな。それ以来の付き合いだ」

 

「ナタデココ!父さんと叔母さん、あれのおかげで名前が売れたって言ってました!そうだったんですか、ハラさんが……!」

 

「ええ、おぢーちゃんもアレでかなり儲けられたって言ってたよね、ナタデココ」

 

 二人は目を丸くして驚いていた。 

 

「ハハ、そうか。新井さん達の娘さんか。……縁というのは奇しきもの、だな」

 

 と、くぅ~っと舞の腹の虫が鳴いた。舞は顔を赤くして上目遣いで、

 

「えっと、この焼き鳥、いただいてもよろしいのでしょうか……?」

 

 と、聞いてきた。ふむ、なかなか可愛いではないか。

 

 俺は苦笑しつつ、

 

「ああ。熱いうちに食うと言い。というか昨日から食って無かったんだろ?」

 

 そういうと、舞は恥ずかしそうに、はい、と言って串にかぶりついた。

 

「あ、美味しい。あのトリって美味しいんだ……。スパイスは……胡椒とタイム、山椒の実。……これは唐辛子?いえ、パプリカのようでもありますが……」

 

 ふむ、新井優氏の娘はどうやら舞の方らしい。スパイスやハーブを次々と言い当ててる。

 

「ああ、それは唐辛子やパプリカ、ピーマンに分かれる前の原種に近い植物の実だ。辛みと甘さが曖昧だろ?まぁ、たまにめちゃくちゃ辛いのがある辺りが万願寺唐辛子っぽいんだがな」

 

「ああ、なるほど!でも山椒が加わると、風味が締まって、それと胡椒とが絶妙ですね。これで醤油があれば……」

 

「むぅ、なんて正しい評価だ。……だが、醤油は無い。酒もみりんも味噌も無い。つうか麹も大豆も米もないんだ」

  

 俺がそういうと、二人はガガーン!!と顔を青くし、一昔前の少女漫画……主にガラスのなんたら……のような驚愕の表情を見せた。

 

「ええっ?!お米が……ない……?」

 

「酒もみりんも……お味噌も無い……ですって?」

  

 いや、そこまで絶望せんでも。いや、気持ちもよくわかるんだが。

 

「探索は続けているが、危険な世界だ。なかなか進まなくてな」

 

 俺がそういうが、二人は

 

「お米……白いお米が無い……。お、お味噌汁も無い……。美味しい料理もお米が無いと……」

 

「ああ、発酵食品系の調味料が無い……。いえ、昆布や鰹節も無いのかしら……」

 

「うむ、無いな。海は危険過ぎて近寄れないからな。あとは牛乳も無い。……卵はトカゲから採れるがな」

 

「……おおふっ、トカゲの卵……」

 

「ああ……絶望的ですぅ」

 

「いや、ニワトカゲの卵は美味いぞ。使いやすいし」

 

 俺がそう言うも、二人の食通の娘は俺が何を言っても絶望からなかなか立ち直らなかった。

 

……つか、料理研究家の娘だから料理くらい出来るだろうとか思って朝飯作んの手伝わそうとか考えてたが、全く使えなかった、というか。

 

 朝飯食わせてようやくなんとか放心状態から回復したという……。

 





・海原○山って、サバイバルな食い物とかでも文句を言いそうだよなぁ、とか思ったりなんだり。

・マンガでサバイバルクッキングで強そうなのと言えば多分、スーパー食○しん坊かな、と。

・トリコは省く。

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