プリミティブ・ンホアヘェ!   作:罪袋伝吉

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リアルサバイバル系……?

チートは無い。たぶん。


変態じゃねーぞ?たぶん。

 

 夜、龕灯(がんどう)を手に持ち、拠点の見回りをする。

 

 龕灯は別名、強盗提灯(がんどうちょうちん)とか忍び提灯などとも言われる日本に古来より伝わる携帯用ランプの一種である。

 

 強盗、というとなにやら穏やかではないが、一説によると押し込み強盗が使っただの、いいや強盗をとらえる側、つまり火盗改めなどの取り締まる側がつかっただの、諸説紛々である。

 

 龕灯の構造は非常によく考えられている。

 

 竹の筒の中に羅針盤のジャイロの要領で自由に回転できる蝋燭立てを取り付けてあり、龕灯を振り回しても蝋燭を常に垂直にして火が消えないような構造になっている。 

 

 ま、伊賀とか甲賀なんかのニンジャの資料館とかではニンジャ道具のように扱われていたりするが、江戸時代に発明されたものであり、ニンジャが群雄割拠していた時代には無かったというのが定説である。

 

 また昭和の初期辺りまで使われていたという記録があるので割と最近まであった道具だったりする。

 

 しかし、なんでそんなモンを作ったのか?と言われればなんか昔に見た時代劇でニンジャっぽくて格好良さげだったから!というだけである。それ以外に理由は無い。

 

 なんでLEDランタンを使わないんだ?と言われるかも知れないが、そっちは女の子達の所に使わせている。

 

 いや、女の子達を優遇しているわけでは無く、単に松明や蝋燭を使わせて火事でも起こされたら目も当てられないというのが一つ。もう一つは、松明に使う松ヤニのストックが少ないのと、蝋燭もさほど作っていないという事からだ。

 

 松ヤニは採ってくればなんとかなるが、蝋燭に関しては拠点で飼っているミツバチの巣から作るのだが、去年に作った分しか無いのだ。

 

 なんせミツバチも生き物であり季節が巡らねば巣なんぞ採れるもんでもない。

 

「ま、当分はLEDランタンを使わせておこう。太陽光パネルで充電出来るし当分は使えるだろ」

 

 その当分の間にしっかりと火の扱い方を教え込むのと、松明や蝋燭などの照明の生産を行わねばならんだろう。

 

……とりあえず、ちょうど今は春になったばかりなのだ。養蜂用の巣箱を増やしてみるか。

 

 この拠点にはようやく根付いて育ったヤシの木の雌雄が計5本育っている。ヤシ糖を採るつもりで苦労して西南の海岸から実を取ってきて植樹したのだが、そのヤシの木は育ち、花を咲かせるようになった。

 

 今は春、ミツバチもそろそろその花の蜜に誘われて来る頃だ。増やすなら今だ。畑の作物の受粉もミツバチの手を借りねば実らないし、ちょうど良いかも知れない。

  

 なにより蝋燭よりも蜂蜜はいくらあっても困らない。なんせ腐らずカビも生えない甘味だからな。

  

 よし、巣箱増設決定だ。

 

「しかし、やらねばならんことは山積みだな」

 

 頭の中でやることリストを組み立てて整理しつつ、拠点を進んで行く。明日からの作業は激務となるだろうが、しかしやらねばこれからの生存は困難となる。

 

……明日からは女の子達にも働いてもらわねばやっていけんが、とりあえずは自分の寝る毛皮を縫わせて作らせるところからやらせてみるか。いや、それだけでなく、着る服やら使う土器やら道具やら、そういうもんから作らせることで徐々に慣らして行くか。

 

 俺は、ふーむ、と鼻から息を吐いた。

 

「まるでクラフト系のゲームのチュートリアルみたいだが、サバイバルの人材教育としてはそこから始めるのがいいか」

 

 なお、ゲームと違ってめちゃ時間かかるし体力もいるからな?現実のサバイバル、舐めんじゃねーぞ?

 

 とか思ったりするが、そんなんはさておき。

 

 人材育成っつーか正直、俺もやらにゃならんことがこれから山積みになるだろうから、ある程度はあいつらも自分の事は自分でやってもらわにゃならん。

 

 とはいえ最低限の指導はしなければならないだろうから手はどうしても掛かるだろうし、つまりそれは余計に俺の時間が圧迫していくという事だ。

 

 むむむむむ、と、作業の割り振りなどを考え、頭を働かせる。

 

……教師連中がいるのだ、監督はあいつら二人にやらせよう。

 

 面倒なので投げっぱなし……はさすがにアレだが、元々は引率なのだ、問題あるまい。多分。

 

 見回りを終えた俺は一度俺の家に一端帰って食材を持って庭の大きな焚き火や炉のあるところへと向かった。

  

 家の竈では大人数の飯の仕込みは無理だからである。つうか、竈が小さいのだ。それに狭いしな。

 

 庭の焚き火のある場所は俺の厨房兼工場兼実験場のようなものであり、土器やら屋根の瓦を焼く竈やら、木灰や骨灰などからセメントを作る焼き竈、あと、あそこにあるのは鉄の精錬しようとして失敗したたたら製鉄の炉の残骸などがある。

 

 とにかく火を扱うための様々な炉や台があり、また拠点の中を通る小川から引いた水路も通っており、調理も充分に出来るのである。

 

 つーか、俺の高床式の家の竈の大きさではあの人数分の量の飯を作んのはさすがに無理……ではないが、効率が悪い。なんせ独り暮らし用でデカい鍋とか掛からんし、なにより火力も役不足。

 

……その点、ここの焚き火ならばデカい鍋も扱えるし水も使えるしな。

 

 さて、焚き火の炉に火を入れるとしよう。

 

 俺は龕灯を上に向け、中の蝋燭の火にシュロの繊維を近づけて火を付け、それを焚き火の炉の中に入れて乾いたトウモロコシの葉で大きくし、小枝などを投入して火を安定させた。

 

 火を灯すとなんか安心するのは、人類の遺伝子に刻まれた太古の記憶からなのかも知れない。

 

 火が無けりゃ人間、なーんも出来んのはこの世界に来てから嫌と言うほど思い知っている。

 

 火はケモノと人類を分ける重要な要素である。

 

 ケモノは本能的に火を恐れる。エテコウですらもだ。火は人類の守りだ。幾晩、こうして火を灯しただろうか。

 

「炎の匂い染み付いて、むせる。……燻される的な感じで」

 

 火を灯すたびに、某装甲騎兵なあの歌が頭に浮かぶのは何故だろう。

 

「さよならは言った……覚えもねーし分かれたこともないんよなぁ。つーか女なんざいたこた無いからな」

 

 行きつけの風俗嬢は何人かいたけどな。んで、大抵いつの間にか店から居なくなってる。まぁ、長くいる風俗嬢はよほどの事情があるんだろうけどな。

 

「昔の名前で出ています、ってか?」

 

 いや昭和歌謡かよ。つーかそれはどうでも良い。つーかカムバックせんでくれ、なんかいろいろ想像してしまって悲しくなるから。

 

「湯……だな」

 

 火の次は水、というか湯である。

 

 料理をするという行為もまたケモノと人類を分けるものであり、そして文化の産物と言えよう。

 

 ここには川から水車で汲み上げた水路が通っている。だが、川の水は綺麗に見えるが見えない病原性微生物や寄生虫が存在する可能性がある。

 

 なんせ川には魚や亀のデカいのや、沢ガニのでかい奴などが棲息しているのだ。生物あるところに病原性微生物あり。

 

 マジで生水飲んだら腹がヤバいことになるので注意が必要だぞ。つーか、ゲリゲリゲリッピになって脱水症状起こしてマジで死にかけた俺が言うのだ。マジで

濾過と煮沸は必須だぞ?

 

 故に、ここには水を濾過する装置を設置してある。

 

 濾過装置の仕組みは簡単で、ここの濾過装置は二つの濾過槽からなる。よく洗った砂利と砂の層を通してゴミや不純物を取り除き、その下にある層では細かい砂と炭の層を通して浄水にするのだ。

  

 まぁ、ひと月に一回ほど濾過装置の砂利やら砂やらは洗ったり交換しなければならんが、安全のためには必要な作業だ。手を抜いてはいけない。

 

 俺は濾過装置に繋がる水路のレバーを引いた。水が出て来ても、少し流しておかねばならぬ。前に出した時の水が濾過槽に溜まっているからだ。

 

 充分に出した後で、土器の鍋に水を張り、火にかける。たとえ濾過しても煮沸は必須。用心に用心を重ねるのだ。

 

……な?サバイバルってすんげー面倒臭いだろ?つーかそこまでやらなくても、っていう苦労が必要になってくんだよ。

 

 安全確認ヨシ!どころではなく、なんかやらかしたらマジで死につながるのだ。ネタどころではすまねーからな?

 

 そして濾過装置から出る水で芋を洗う。芋と言っても長芋っつーか自然薯のようなものである。

 

 さて、コーンブレッドのタネを作ろうか。

 

 コーンブレッドのレシピは本来ならば、トウモロコシ粉、小麦粉、卵、牛乳、バター、膨らし粉、くらいだろうか。  

 

 だが、この世界っつーかウチの拠点には無い材料の方が多い。

 

「はーぁ、バターが無ぇ!牛乳無ぇ!小麦粉なんざ見たこたねぇ!膨らし粉、欲しいけど、そんなシロモンあるわけ無ぇ!おらこんな村嫌だ~おらこんな村嫌だ~」

 

 IKZ○かよ。

 

「村じゃねーけどな」

 

 と、独りでツッコむ。……虚しいけど癖になってて止まらないのよ、あふんあふん。

 

 まぁ、材料が無くとも、無けりゃ無いでもなんとかなる。調理とはそういうもんである。

 

 あと、食えるモンをキチンと使って適切に調理すればたいていは食える。味は知らん!つか不味いもん作っても自己責任っつ!!まぁ、さほど不味くした事は無いけどな。

 

「コーンブレッド職人の夜は、まず、トロロ芋を擂り鉢でトロロにするところからはじまる(森本○オ調)」

 

 いや、何を言っているのだ、と思われるかも知れないが、このトロロをコーンブレッドに入れるのと入れないのとでは仕上がりと味が天と地ほども違うのだ。

 

 なにしろこの拠点で育てているトウモロコシは元は野生種のワイルドコーンである。

 

 たしかに石灰や肥料で土壌を改良し適度に水をやり、要らん芽の間引きをして元の野生種よりは実が大きく味も良くはなりつつあるが、まだまだ旨味や甘味は乏しく、単体で粉にして水で練って焼いてもパサパサして物足りないのだ。

 

 しかも膨らし粉も無いので、そのままだと硬焼きのトウモロコシのクッキーモドキ的なものにしかならないのだ。あとあんまし美味くない。

 

 故にトロロ芋を投入する事を思いついたのである。

 

 お好み焼きにトロロ芋を入れるとふんわり仕上がって美味い、というアレから着想を得たわけである。

 

 結果は成功だった。

 

 入れるとしっとりするし、トロロ芋に含まれる酵素のアミラーゼでトウモロコシのでんぷんをある程度分解するので短時間寝かせて置いておくと甘味も出てくれるのだ。

 

 故に俺のコーンブレッドにはトロロ芋は欠かせない。なお割合、トウモロコシ粉が5、トロロが2だ。

 

「トッロロートッロロー♪トッロロートッロロー♪」

 

 いや、パヤオはやばいだろ。

 

「しかし、米にかけて食いたいほど良い長芋だよなぁ。ああ、出し汁混ぜて麦トロご飯……、いや、焼きサバをほぐしてトロロと混ぜてサバトロ飯もいいな……。ああ、米食いてぇぇ!!」

 

 なお、麦も米も未だこの世界では発見出来てはいない。無論、粟、稗などもだ。

 

……某ゴルゴなスナイパーの作者が昔に描いていたリアルサバイバルマンガの元祖とも言われているマンガで笹の実を集めて米のように炊いていたシーンがあってやってみた事があったが、正直、期待していた分、食ったあとの虚無感がパなかった。甘味も旨味も無い、まさに虚無の味だった。あれは二度とやらねぇ、と思ったほどだ。

 

……ああ、稲が欲しい。米が欲しい。マジ食いたい。

 

 そう思うが言っても無いものは仕方ない。

 

 大量のトロロを擦り終えたら、そこへトカゲの卵を割って投入。菜箸でかき混ぜ、一度そっちは置いておく。

 

 そうこうして来たら、火にかけていた鍋が沸騰してきたので、革のミトンを手にはめて鍋を一時火から下ろし、柄杓でトウモロコシ粉を錬るのに使う水もココナッツの殻で作った器にいれて分け、少し冷ましておく。

 

 何故沸騰した鍋を冷ますのかと言えば、肉のアク抜きをするのに沸騰していてはダメだからなのと、トウモロコシを練る用の水をわざわざココナッツを器に分けたのはその方が練る用の水が冷めやすいからである。

 

……大きい器の湯よりも小さい器の湯の方が湯の体積が小さくなるため、冷めやすいのだよ。これ、科学とかでも習うからな?

 

 さて、次はトウモロコシ粉の準備である。白い粉を見るとなんとなく、

 

「末端価格……」

 

 などと言いたくなるが、ストップ!ダメ絶対。つうか、さほどは細かくは無いのでどちらかと言えばコーンシリアルの粉にしか見えない。セーフ(?)。

 

 まな板にトウモロコシ粉で山を作り、その真ん中に手で窪みを作ってそこにトロロ卵を少量ずつ入れて混ぜ合わせる。混ぜ合わせつつ水分が足りないようならココナッツの殻のお椀に移した水を少量ずつ加え、ヤシ糖と岩塩を加え、さらにバター代わりのイノブタの脂身を加熱して取った、トン油に入れて練っていく。

 

 旨味とは甘味であり、甘味を生かすには塩気と油は必須である。塩は甘味を引き立て、油はこってり感を出す。さらに食感にしっとりふわっとトロロである。

 

 まな板にくっつき過ぎないように、目の細かいトウモロコシ粉をまな板にまぶしつつ、生地をこねこね、こねこね、こねこね、こねこねと捏ねていきコーンブレッドの生地は完成だ。

 

「だいたい耳たぶ位の硬さってよく言うが、女性の耳たぶの硬さと二の腕の弛みの硬さって、おんなじらしいって本当なんだろうかな。……つーか二の腕の弛みの柔らかさ=おっぱいの柔らかさ説は俺の中で過去に否定されているのだが、その辺どうなのだろうか」

 

……昔、風俗嬢の身体で確かめた。耳たぶよりおっぱいのが柔らかい。また、油断した腹の肉と乳の肉の柔らかさでは腹の方が柔らかいが、そういえば耳たぶはあんまし触った事ねーからな。うーむ。誰か触らせてくれ。いや、おっぱいの方。

 

 うーむ、おっぱいくらい柔らかいとコーンブレッドの焼け具合はぺったりするので、生地の硬さはやや硬めである。

 

 これを浜辺のテントの中にあった真新しい布……ビニール包装されてたTシャツをナイフで破いて作った……で包んで冷暗所で寝かせればオッケーだ。

 

 次に肉、である。

 

 デッカいイノブタのあばら付き肉、通称バラ肉というやつである。

 

 薫製にしようと思っていたのだが、いろいろあって忘れかけていた奴である。いや、忘れかけていたとはいえキチンと塩やハーブ類をまぶして燻し用の炉にかけていた奴である。

 

 つーか昼に一度帰って薪を足して、と思っていたらルカを保護したりなんだりで薪を足すのを忘れてて火が消えてて、半分薫製半分生肉といった中途半端なものになってしまっている。

 

 おそらく燻蒸をやり直しても失敗するだけだろう。

 

 幸い香りはついているので、この際普通にスープに入れちまったり、焼いておかずにした方がなんぼか良いだろう。

 

 つーかこの大きさなら12人分の朝昼晩の飯に行けるだろうしな。

 

……食肉庫にはまだ背骨付きの半身や肩肉やモモ肉が残っているが、そっちは明日、薫製にしちまおう。それで3日は食いつなげれる。

 

 で、まずスープであるが、まずは肉のアク出しである。

 

 俺は今日ゲットしたナイフを腰から抜くと、バラ肉をだいたい半分にし、分厚い脂身を削ぎ落とした。

 

……これがキチンと薫製になってりゃ脂身の油も出て行っていい感じになってたろうが、このまま煮るとこってりアブラだらけなスープになるだろうからな。

 

 とはいえ、この脂身はまた使えるのでとっておく。加熱すればトン油が採れる。

 

 トン油は揚げ物用の油にしたり、岩塩とハーブを混ぜて調味油にしたり、今回のようにコーンブレッドを作るときのバター代わりになったり、行灯の燃料になったりするので何かと有用である。

 

 また、トン油を取った後の脂身の『油カス』は火で炙ったりしてパリっとさせて『皮せんべい』にして塩を振るとなかなか良いスナックになったりする。

 

……まぁ、食い過ぎると胸焼けするので最近は塩を振らずに狼達のおやつになっているけどな。

 

 俺は適当にバラ肉を半分に切り、火から下ろして湯の温度が冷めた鍋に突っ込み、再び焚き火の上に乗せた。薪はちょうど炭になりかけており、火力もやや落ちている。この位がアク取りに丁度の火加減なのだ。

 

……アクとは肉に残った血や体液であり、臭みの元である。それをまず出しておかねば美味いスープにはならぬのだ。

 

 煮立たぬように注意し、肉からアクが大量に出て来たら鍋をまた火から下ろして今度は濾過装置の排水にその湯を捨てる。

 

 もったいないと思うかも知れないがこんな低温ではまだダシはさほど出てはいない。出たのはアクであり、アクを出した後でダシをしっかり出すのだ。

 

 ダシを良く取るコツは、湯の温度をしっかりと見極める事、これにつきる。

 

 そして洗った肉の鍋にまた水を張り塩を岩塩を少々入れ、再び焚き火にかけそして火力アップのために焚き火に薪を足す。

 

 今度は強火で肉を煮てダシを取るのだ。

 

 火加減を見つつ、タマネギとネギの原種どおぼしき茎、つまりネギを刻み、タマネギを刻み、ジャガイモを剥き、それらをザルに入れて水で洗って置いておく。

 

 ベースとなるスープの肉がいい感じになったら引き上げ、ナイフで肉から肋骨を外したら、エマージェンシーアックスの背についたハンマーで肋骨を割って、肋骨だけを鍋に戻す。肋骨の骨髄からは良い出汁が出るのだ、これが。

 

……やっぱ、金属のナイフは良いな。黒曜石は確かに切れるが、刃がノコギリ状だからスパッと出来ないし、やっぱハンマーも金属製が使いやすい。斧の部分はアレだけど。

 

 そして肉は皿の上で休ませておく。煮すぎてもカスカスになるからな。

 

 手間暇掛けすぎ、と思われるかも知れないが、美味いモンをこの原始生活で作るには手間をかけるしかない。

 

 んなもん、ちょっとレシピや技法を間違えても味の素やコンソメブイヨン使えば何とかなるという甘えはきかない。鰹節も昆布も無いここで、旨味を出すには素材そのものから出すしかないのだ。

 

 飯は活力の源だ。美味いに越したことは無い。

  

……と、後ろの方で、ガサッ、ガサッ、と足音がした。

 

 むぅ、誰だ?と見てみればそこにはキャビンクルーのスージーがいた。額の包帯に血が滲んでおり、痛々しく見える。というか、今回は気配を消さずに現れたなぁ。

 

 つーか、気配を消せるスチュワーデスってなんやねん、と思ったりするが、その辺ツッコんではいかん気がする。

 

 金持ちの令嬢の修学旅行なのだ、護衛的な人間もおそらくは付いていたと考えるべきであり、スージーは多分、そういう訓練を受けた人間なのだろう、と俺は推測していた。

 

「……なるほど、作業というのは明日の食事の準備だったのね」

 

 と、台の上に並んだ食材を見てスージーは言う。

 

「なに、人数が増えたからな。とは言え今のあの子らに手伝え、とは言えん。……身体も精神も疲れてるだろうからな。つうか、アンタも怪我しているんだ、休まんと治りが遅いぞ?」

 

 俺は湯に浮かんでくるアクをお玉で掬いながらそう言った。

 

 実際、スージーの怪我は額だけでは無い。脇の肋骨にエテコウから殴られた打撲の痕があり、また足首を捻挫している。満身創痍である。

 

 打ち身の軟膏を渡して手当てするように言ったが、手当てをしてすぐに治るわけではなく、打ち身打撲の治癒は日にち薬だ。つーか寝とけよ、マジで。

 

 だがスージーは溜め息を吐き、

 

「……あの子達の泣く声で居たたまれなくなってね。ほら、多くの人が今日だけで亡くなってるから」

 

 そう言って、ここ良いかしら?と焚き火の近くの木の切り株に座った。

 

 俺はグラグラと沸き立つ鍋と向かい合い、アク取り作業をしながら溜め息を吐いた。

 

「あんたもそうだろ。同じ航空会社の同僚を亡くしているんだ。……無理することは無い」

 

「……彼らは同僚じゃないわ。私は航空会社の人間じゃないわ。任務のためにキャビンクルーに扮してただけよ」

 

 突然のカミングアウトである。

 

「日本のVIPの子供達の護衛のためにアメリカ政府から派遣されたボディガード。それが私」

 

 スージーは航空会社の制服のベストのポケットから身分証のような物を出して俺に見せた。

 

 そこには英語でいろいろ部署やら何やらが書かれており、スージーの顔写真があった。

 

 アメリカ大統領直属……保安局なぁ。そんなんあるんか、アメリカには。うーむ。アメリカ政府のそういう関連はようわからん。関わった事もねーし。

 

「……ふむ、英語はイマイチわからん。だがあんたが26歳なことはわかった」

 

 適当にそう言っておく。なるほど、メリケンエージェントさんかい。

 

「いや、年齢なんてどこにも書いて無いわよ」

 

 呆れたようにスージーが言う。とはいえ反応的にはどうやらその辺りの年齢らしい。こういう時にやたらと喜ぶのは年増であり、若い奴なら怒るものである。まぁ、例外はあるが。

 

「ふむ書いてなかったのか、すまんすまん。で、おねーさん何歳?スリーサイズは?彼氏いる?あとタマネギは好き?焼いたピーマンは?」

 

「言わないわよ!つかスリーサイズとか関係無いわよね?!あとタマネギはわりと好きだけどパプリカはそんなに好きじゃ……ってなんの関係があるのよ!?」

 

「ふむふむ、彼氏ナシ、と。タマネギとピーマンはここの拠点の食事にわりかし出て来るぞ。と、いうかどちらも原種に近いが、育てやすくて成長も早いからな」

 

 俺は鍋のアク取り作業を終え、茶を入れようと台の上に置いてある土器のポットを取り、濾過装置から水を汲んだ。

 

「彼氏がいないならなんなのよ?セクハラ?!」

 

 目くじらを立てるスージーを横目に、焚き火の中にポットを置き、また薪を焼べる。

 

「いや、単に言葉で誘導しつつ遊びながら情報収集をしているだけだ」

 

「遊びながらって……」

 

「すまんね。俺が君に関して望む情報はさほど多くは無かったが、もうある程度は得てしまった。というか君は素直で正直過ぎる。……サバイバル技術をそこそこ持っており、ジャングルでの行動もこなせる。戦闘技術、それも実戦的な格闘術も持ち合わせており、隠密行動も得意ときている」

 

 俺がそういうと、スージーの顔が険しくなった。

 

「ただものじゃ無いと思っていたけれど、あなたは何者なの?というか望む情報とは一体……?」

 

 そう言い、スージーはベストのポケットに手を入れ、二連式の小さな銃、たしかデリンジャーとかいう小型拳銃を出してそれをゆっくりと俺に向ける。

 

「物騒だな。だがそいつは最後の武器にとっておけ。切り札はいくらあっても足りない世界だからな」

 

 俺は乾燥した笹の葉を火で軽く炙り、その葉を扇のように広げてスージーに見せた。

 

「ドーモ、スージー=サン。23代目トビ=カトウ・デス」

 

 笹の葉で一瞬の隙を作り、俺はその一瞬で滑るように移動し、スージーの持つデリンジャーをするりと容易く奪ってやった。

 

 おそらく、スージーには俺が動いたようには見えなかっただろう。

 

 トン、とスージーの額を人差し指で押さえ、力点を制して身動きすら出来ぬようにし、そしてスージーの目を覗いて瞳術……つまり眼力を使って掛ける催眠術のようなものだ……を使って意思の力を一時奪った。

 

「……うーむ、まさか銃なんて持っているとは思わんかった。さすがメリケンエージェント、怖や怖や」

 

 思わず流れで瞳術なんそ使ってしまったが、むぅ、どうすっかなぁ。

  

 そう、俺の正体はニンジャである。

 

 伝説の忍者である加藤段蔵、その23代目を襲名した由緒正しいかどうかはさておき現代のシノビである。

 

 とはいえ、服部半蔵とか風魔小太郎とか猿飛サスケとかそういうメジャーどころに比べればあまり有名では無い気がするし、そもそも御先祖も武田信玄の手の者に殺されたとかそういう事になっており、さらに現代においてニンジャなんてもんは需要もない。

 

 ゆえに俺は正体を隠して普通にビジネスマンというのかサラリーマンやってたわけなのだ。

 

 無論、忍術とかそういうのを使ってズルして仕事をしていたわけでは無い。

 

「……つうか悪い癖が出てしまったなぁ」

 

 ついついアメリカのエージェントというか、諜報部員なんて奴が目の前にいるとおもったらいらんちょっかいをかけちまった。

 

……結果として俺のワザマエには手も足も出ない感じでその辺はちょっとガッカリだったが。

 

……とりあえず乳を揉んでみる。

 

「む?86のG」

 

 おっぱいはガッカリでは無い、いや、いい。すんごく良い。舶来おっぱい、侮り難し。

 

 もみもみ、もーみもみ。

 

 さすがメリケンやのう。張りがあって良い乳じゃのう。大きいのに釣り鐘型。ナイスおっぱい……って何やっとんのじゃ、俺。自重しろ、俺。

 

 いかんいかん、と頭を振り、考えてまたスージーの目を見て、

 

「答えろ。お前は本当に護衛なのか?」

 

「……イエス。日本のVIPいや、むしろそれらはオマケだ。アフリカの石油王の孫娘がメインだった。現政権はイギリスや他の国を抑えてリカルド氏との交渉を有利に進めようとしている。そのためにはマリアンナ・リカルドになんら脅威や危険を及ばさないようにと最高の警護体制を構築せよと我々に命じたのだ……」

 

……うーむ、瞳術をかけるとその人間の本当の話し方が出て来る時があるんだが、スージーちゃんの本性ってお堅いタイプなのな。

 

「飛行機の事故は、テロによるものか?」

 

「少なくともテロ組織などの脅迫や犯行声明は無かったはずだ。あの時、何か壁のような物に衝突した途端に旅客機はエンジンを停止し、そのまま海に墜落した」  

 

……壁、ねぇ。まさか次元の壁とかそんなんか?うーむ、俺の時とはなんか違う転移の仕方だよなぁ、それ。

 

「……他のエージェントはいたのか?」

 

「キャビンクルーに私の部下が一人いた。浜辺に上陸して生徒達の護衛をしていたが、どうなったかわからない」

 

……ふーむ、浜辺には他のキャビンクルーの制服の死体は無かった。ラプター共に襲撃をされた時に生徒を連れて逃げたと見て良いだろうが、だが森に逃げたのでは無いとすれば、その生存は絶望的だろう。

 

「通信機か何か、連絡手段は無いのか?」

 

「……何度か小型通信機で交信を試みたが応答は無かった。緊急信号用に発煙筒も持っているはずだが、この森では発射していてもわからない」

 

……通信機の故障か死んだかのどちらか、というよりは死んだ可能性大だ。俺もこれ以上は危険を冒したくはない。見捨てるべき、か。

 

 聞きたい情報はだいたいわかった。とはいえ最後に暗示だけ掛けておこう。

 

「……俺とお前はこの世界でサバイバルするために協力する仲間だ。いいな?」

 

「ああ。そうだ、我々は仲間だ。協力し合おう……」

 

 よし、これで善し。

 

 あん?エッチな暗示?あのなぁ、そんなもんで欲望を晴らしても虚しいだけで孤独感が心をむしろ蝕んで辛くなるだけなのだ。

 

 つーか男なら女は真っ当に真っ直に口説いてなんぼやぞ?……つーかさっき欲望に負けて乳揉んどったが、アレはほら!鉄砲なんぞ向けて来やがったペナルティ?そういう奴だよ!たぶん!

 

「術を解いたらお前は俺がニンジャだと言うことを忘れる。よろしくな相棒」

 

 俺は奪ったデリンジャーをスージーのベストのポケットに直した。

 

 そして術を解く前になんかもったいなかったのでもう一度乳を揉み揉みしたり、耳たぶプニプニしたり、二の腕さわさわしたり、脇の下くんかくんかしてからパチン!と指を鳴らして瞳術を解き、素早く一瞬で俺は元の場所に戻った。

  

……これはコーンブレッドを捏ねる時の参考だ。けしてやましい目的ではない。イイネ?

 

「はっ?!」

 

 スージーはまるで居眠りから覚めたようにビクッ!として周りを見回した。

 

「え?え?あれ?」

 

 俺はとぼけたように、

 

「大丈夫か?つーかやっぱり疲れてるんだな」

 

 と言い、火にかけたポットの取っ手を火傷しないように分厚い皮を使って取り、炙った笹の葉を入れ、よく茶が出るように揺すった。

 

 竹製の湯飲みを台に並べてコポコポっと注ぎ、それをスージーに手渡し、

 

「とりあえず俺の話は聞いてたか?三年前に突然、この世界に来ていたって話」

 

 そう言った。無論そんな話はしていない。ただ俺達は普通に話をしていたんだ、という風に思わせるためにそう言っただけだ。

 

 暗示をかける前と後の記憶の齟齬を誤魔化すための嘘といったところだ。

 

「えっと……いいえ、そんな話してたかしら?」

 

 うん、いい反応だ、よしよし。

 

「あー、マジで早く休んだ方が良いぞ。それ飲んだら寝床に帰って寝な。とにかく怪我してんだろ?早く治すこった」

 

 心配するように俺は言い、笹の葉の入った竹の湯飲みに口をつけてズズズッと啜る。

 

「ま、とにかく俺達はここで『生き抜くために協力しあわなけりゃならない』。元の世界に戻る方法がわからん以上な」

 

「ええ、協力し合いましょう。よろしくね?」

 

「ああ。協力し合おう。……つーか茶が冷めるぞ」

 

 俺は何食わぬ顔で茶を啜るのだった。

  

……とりあえず、耳たぶと二の腕とおっぱいの柔らかさに関してはなんとなく理解したが、同じ柔らかさなのかどうかはよくわからなかった。

 

 まぁ、三年振りのおっぱいは柔らかかったのは確かであるが、術で揉んでも楽しくはなかったのは確かである。あと、脇のにほひ、香しかった。

 

……変態じゃねーぞ?念のため。

 




・主人公はニンジャなのはチートに入るのだろうか?

・なお、書いている人は実際にコーンブレッドやら作って検証してますが、蜜蝋蝋燭作ろうとしてバチに刺されて病院に運び込まれ(アナフィラキシー)、二度とやらないってマジで思いましたとさ(本当)。

・おっぱい?だれか検証させてくれ。

【次回】

 ベッドに潜む影(未定)。
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