・第三者視点。ご都合主義、捏造過多。キャラ崩壊注意。
・前作シリーズの時間軸から、10年以上経過している設定。
これは、空条承太郎とその親友が出会った日から、10年以上が経過したある日の話――
空条承太郎の親友と、いつかの未来
――とある大学の、広い階段教室。そこでは現在、ある講義が行われていた。
その講義を行っている男性講師は、大学の学生達……特に女子学生からの人気が高い。
まるで彫刻のような美形であり、服の上からでも分かる鍛え抜かれた肉体。そしてマイクを通して聞こえる、男性らしいバリトンの美声。それらは、多くの女性を惹き付ける。
しかし、彼の人気が高い理由はそれだけではない。……彼の提示する課題の難易度の高さは玉に瑕だが、それにさえ目を瞑れば、彼ほどに分かりやすい授業をする講師はこの大学にはいないのだ。
そのため、彼の講義は履修登録期間中にすぐに定員オーバーになってしまう。そういう意味では男子学生にも人気があり、この大学で最も人気が高い講師と言えば、彼の名を出す学生が多いだろう。
そんな彼の名は――空条承太郎。
主に海洋生物学を専門としているが、それ以外の海洋学関連にも造詣が深い、優秀な海洋学者である。
今日も今日とて。大勢の学生を相手に海洋生物学の講義を行っていた承太郎は、その最中に階段教室の最奥にある入り口から、誰かが静かに入って来た事に気づく。
最初は遅刻者かと思って眉をひそめたが、その人物の顔を遠目に見て、目を見開いた。
それから常に被っている帽子のつばに触れて、自然な動作で顔を隠し――ほんの一瞬、微笑む。
「……少々早いが、切りがいいので今日の講義はここまでだ。先ほど私が言った課題は、必ず来週までに提出するように」
その後。しばらく講義を続けた承太郎は、いつもより早めに講義を切り上げた。……彼にはこれから、大事な約束があるのだ。
次々と学生達が席を立っていく中、階段教室の最奥から1人の男性が下りてきた。その男性に、周囲の女子学生達は目を奪われる。
承太郎よりは背が低く、体格も細い。しかし、承太郎に負けず劣らずの整った顔立ち。眼鏡を掛けており、涼しげな印象を持たせる男だ。
大学生にしては、雰囲気がかなり落ち着いている。……もしかしたら、大学生ではなく院生かもしれない。いや、あるいは外部の人間だろうか?
そう予測する者達や、単にその男性に見惚れている女子学生達の視線が集まる中。彼はまっすぐに承太郎の下へ向かう。
教材などの片付けをしていた承太郎は、近づいて来る男性に気づき――ニヤリと、男臭く笑う。それを目撃した女子学生達から、小さく黄色い声が上がった。
彼女達にとって、滅多に表情を動かさない承太郎の笑顔は、例えどんな種類の笑顔であっても貴重な表情である。
「――よお、園原センセイ」
「やぁ、空条センセイ……って、俺は先生じゃないよ?」
「別にいいだろ、司書センセイ」
「……まさかと思うけど、俺がこの大学の図書館司書にならなかった事をまだ気にしてるのかい?」
「…………」
「えっ、本当に図星?」
「勘の良いセンセイは嫌いだぜ」
「えぇー……?その話は随分前に終わったじゃないか」
「俺の中では終わってない」
「嘘だろ承太郎……君は本当に根に持つタイプだなぁ。そういえば、高校の期末試験の結果で競った時も、」
「それこそ何年前の話だ、止めろ」
「じゃあ、君も根に持つのを止めてくれ」
「お前がうちの大学の司書に転職したらな」
「だが断る」
「ちっ……」
「こら、不良学者。舌打ちは止めなよ、まだ学生がたくさん残ってるのに」
「目付きの悪さが殺人犯の不良司書にだけは言われたくねーな」
「あはは。喧嘩売ってんのか、てめぇ」
「被った猫が取れてるぜ、シド。一体誰のせいだ?」
「君のせいですが何か?」
「何、だと?」
「そのわざとらしい顔止めて?つーか君もう片付け終わっただろ、さっさと行くよ」
「アイアイサー」
……いつの間にか、階段教室内は静かになっていた。その場に残っていた学生達のほとんどが、彼ら2人の会話を聞いていたのだ。
そして、肩を並べて部屋から出て行く2人の大人の後ろ姿を、唖然と見送る。
「…………え?今の、誰……?」
「それは空条先生と話してたイケメンの事?それとも空条先生の事?」
「いや、両方でしょ!?」
「空条先生、いつもは"私"なのに"俺"なんて言うんだ……!」
「口調も全然違ったよな……?」
「そう、だな……つか、空条先生と話してた人マジで誰だよ」
「あんなに気安い会話してたし……同年代?友人?」
「あの空条先生に友人なんて存在がいたとは……!?」
「ちょっと、それはいくらなんでも失礼過ぎ!」
……学生達に好き勝手に言われているとは露知らず。承太郎とその友人――園原志人は、気安い会話をしながら建物の外に出た。
なお。そんな彼らの姿を多数の学生が目撃しており、すぐに大学中に噂が広まる事になるのだが……それはさておき。
今日の彼らは、ある人達と夕食を共にする約束をしており、園原が運転する車でとあるレストランへ向かった。
目的地に到着し、車から降りてレストランの中へ。……既に、彼ら以外の者達が待っていた。
「――
「おう」
「すまん、待たせたか?」
「いや。我々もつい先ほど来たばかりだ」
「承太郎、志人!久しぶりだね!」
「お久しぶり、で、いたたた!すみません、ちょ、ハグの力、強過ぎ……!」
「あっ、ごめんね!?久々過ぎて、加減を間違えちゃった……」
「……俺ならまだ良いが、シドの時は気をつけろよ」
「ごめん……」
「……僕の時はそれを見越して握手のみにしておいたのですが……やはり、正解でしたね」
「おい、弟分。それをもっと早くに言え!」
「全くお前は……発掘調査で逞しくなり過ぎたのではないか?この馬鹿力め」
「え、何だい?鯖折りして欲しいって?」
「誰がいつそんな事を言った!?俺を殺す気か貴様!!」
「ディオ兄さんの死因、ジョナサンによる鯖折り……」
「えっ、何それ怖い」
「…………洒落にならねえぜ」
賑やかに合流し、5人になった彼らは席に座って会話と夕食を楽しむ。……そんな彼らに、周囲の注目が集まっていた。
元々、体格の大きい顔立ちの整った男性に、金髪で妖しい色気の漂う男性、金髪の美青年の3人がいたところに、さらに2人の美形が仲間入りした。周囲がざわつくのも当然だろう。
彼らが座っているテーブルは他の客がいる席から離れているが、念のため他の客に会話を聞かれないよう、全員が声量を落として会話していた。
「……5人で集まるのが久々過ぎて忘れてたぜ。そういやこの面子で集まると視線の痛さが倍になるんだったな……!」
「こればかりは仕方ないですよ、志人さん」
額に手を当てて嘆く園原に対し、美青年――ジョルノ・ジョースターが苦笑いを見せる。
「僕も含め、顔が良い男が5人も集まって仲良く食事をしていれば、一体どんな関係なのかと周りが気にしてしまうのは当然です」
「ただ家族5人で外食をしているだけなのにね……」
「正確には家族4人と、その4人と親しい男1人ですね」
体格の大きい、承太郎と似た顔立ちの男性――ジョナサン・ジョースターがそう呟くと、園原がその言葉を訂正した。
「そんな事を言わないでくれ、志人。前から言っているはずだぞ。お前はジョースター家の一員と言っても過言では無いと」
余裕の笑みを浮かべて口を開いた金髪の男性――ディオ・ジョースターが、園原に流し目を送る。……男にしては色気があり過ぎる眼差しに動揺する事もなく、園原はジト目で応じた。
「同じ男をそんな目で見ても通用しませんからね。ディオさんはそういう顔をしている時、大体分かっててやってるのがバレバレですから」
「ククッ……!それが一瞬で分かる程の長い付き合いをして来たというのに、まだつれない事を言うのだな」
「つれない事というか、事実なので。……ジョースター家の方々は俺を散々甘やかしてくれましたし、ずっとお世話になってますし、これ以上負んぶに抱っこという訳にはいきません。俺なりに、けじめを付けているだけです」
ジョースター家と何年も付き合って来た事で、いろいろと鈍い園原でもさすがに気がついていた。
――彼らが園原を、意図的に甘やかしてくれた事も。養子縁組などの関係がある訳でも無いのに、園原を本当に家族の一員として扱ってくれている事も。
園原はそれを心からありがたく思っているし、これからも自分を甘やかして来る彼らを受け入れたいと思っている。
だがしかし、それに合わせて園原も同じくらい甘えるのかと聞かれれば、話は別である。
園原はジョースター家に適度に甘えるつもりではいるが、ディオに言った通り、基本はこれ以上負んぶに抱っこという訳にはいかないと考えている。
だからせめて"ジョースター家の一員"という立場ではなく、"ジョースター家と親しい人間"という立場に留めておく事で、本人なりにけじめを付けているのだ。
「…………これが反抗期というものだろうか?どう思う?ジョナサン」
「いやいや。反抗期にしては時期が遅過ぎるし、真面目過ぎるよ」
「人間としては非常に立派ですし、そんな
「……やれやれだぜ。俺達はシドの自立心の強さを、甘く見ていたのかもしれん」
「そうだね……この子は僕達の事をなかなか頼ってくれないから……」
そして同時にため息をつくジョースター家4名を見て、園原が引きつった表情を見せる。
(おいおい……俺はいつもあんた達を頼ってばかりなんだが?マジかよ、ジョースター家)
園原はそう思っていたが、彼らにとってはまだまだ足りないらしい。……何年経ってもこの件に関しては"ズレ"がある。彼もまた、こっそりとため息をついた。
だが。もしもジョースター家以外で今世の園原の悲惨な過去を知っている者達が、彼らの会話と園原の心情を聞けば、"それはジョースター家が正しい"と口を揃えて言うだろう。……閑話休題。
「……ところで。客観的に考えると職業がかなり個性的だよな、俺達。俺以外が家族である事を知らない人達からすれば、一体どういう繋がりだと突っ込みたくなるやつ」
「……はい。海洋学者で、大学の講師です」
「はーい、僕も考古学者で大学の講師やってまーす」
「はい。大学病院の外科医ですが、何か?」
「ン、……サイバーセキュリティ会社の社長だ」
「はいはい、しがない図書館司書ですよー……って、俺の職業だけ冴えない感じがするな」
というか皆さんノリがいいですね、と。順番に小さく手を上げて自分の職業を言葉にした4人に対し、園原は思わず笑う。
「……あぁ、そういえば。俺の方からちょっとした報告がある」
と、承太郎が落ち着いた声音でそう言った。園原達は顔を見合わせる。……彼らを代表して、園原が続きを促した。
「お前がわざわざそう言うなんて、珍しいじゃねぇか。どんな報告だ?」
「別に大した事じゃねーよ。一応言っておく、ってだけで」
「へぇ?……それで?」
「近いうちに、准教授になる」
「ほうほう准教授――っ、いやいやいやいや!?」
「それの何処がちょっとした報告ですか
割りと大きな爆弾を放り込まれ、園原とジョルノがぎょっとした様子で突っ込む。彼ら2人程では無いが、ジョナサンとディオも驚愕していた。
「30代で准教授って、普通はそんな簡単になれるものじゃないよ……?僕もまだ講師の立場だし……」
「……近年は少子化などの影響で、教授や准教授のポストに空きが無い大学が多いと聞いているが……そんな中で空きが出来た上にそこに入り込むとは、さすがは若き天才博士だな」
「よせ、ディオ……中身の年齢も足したら70以上になる俺が若き天才なんて呼ばれたら、むず痒くて仕方ねえ」
「クク……ッ!それもそうだな。……まァ、何はともあれ。出世おめでとう」
「おめでとうございます、承太郎さん」
「…………」
ディオとジョルノが承太郎に祝福の言葉を掛けるが……ジョナサンは、浮かない表情で承太郎を見る。
准教授になるという事は、教授程ではないがいろいろと責任が伴うだろう。……承太郎が
ジョナサンがそれについて聞こうかどうか迷っていると、彼よりも先に口を開いた男がいた。
「なぁ、承太郎」
「ん?」
「念のために聞くが――無理をしている訳では無いんだよな?」
はっと顔を上げたジョナサンがそちらを見ると、承太郎に真剣な眼差しを向ける園原の姿があった。……ジョナサンは、それを見て安心する。
そうだ。承太郎の側には、誰よりも頼もしい味方がいたのだった、と。
「――嗚呼。やっぱり、そこで俺を真っ先に心配してくれるのがお前だよな……志人」
嬉しそうに、幸せそうに笑ってそう言った承太郎は、そのまま穏やかな表情で話し続ける。
「……実は前せ、いや、昔は。海洋生物の研究や財団からの依頼を中心に行動するため、出世の話は全て蹴っていたんだが……
今回は世話になった教授から勧められた事もあって、素直に助手から助教、助教から講師へと。学生を指導する立場になってみた。
研究のみに集中するのではなく、そういう経験をするのも必要かと思ってな。……すると、これが意外と苦にならなかったんだ。
自分の知識が、教えた事が、学生達の中に吸収されて――彼らの記憶に遺される。
昔の俺と、今の俺が積み重ねた努力が、そんな形で少しでも後生に伝えられていく……一度そう考えたら、年甲斐もなく楽しいなと思ってしまった。……悪くない感情だ」
「……そうか」
承太郎の話を聞く園原の表情も、穏やかになった。
「……准教授になれば、自分の研究室を持つ事ができる。世話になっている教授との兼ね合いもあるが、基本は俺の裁量に任せると言ってくれた。
当然、今までよりも責任が付いて回るだろうが、それでも俺は准教授になると決めた。
俺なりにいろいろ考えた末にちゃんと覚悟をして、決めた事だ。――後悔は無い。もちろん、無理もしていない」
「……確かに、そうみたいだな。……よし、分かった。俺はお前を応援するぜ、親友」
「おう。……ありがとう、親友」
園原が差し出した手に承太郎が軽く手を打って、ロータッチ。……親友同士で、もう何年も前からお決まりになっている動作だ。
今も子供のように笑い合っている彼ら2人の絆の強さを見る度に、ジョナサンは泣きそうになってしまう。
前世からずっとずっと見守って来た愛し子が……承太郎が幸せそうにしている事が、嬉しくて仕方ない。……ジョナサンは常日頃から、承太郎を支えてくれる園原に感謝している。
「……さて。私からも、1つ報告がある」
「兄さんも?……あなたまで"ちょっとした報告"とか言って実際は重大発表、なんて事はありませんよね?」
と、ディオが改まった様子で報告があると言い出したので、ジョルノが彼にそんな言葉を掛ける。……ディオは得意気に笑った。
「ならば、先に言っておこう。重大発表だ。――我が社で長年開発を進めていたセキュリティソフトウェアが、ようやく完成した」
それに対し、園原達4人は驚きながらも祝福する。彼らは以前から、ディオの会社が特に力を入れている計画について聞いていた。
それが、ディオの言うセキュリティソフトを完成させる事だったのだ。
これは、ただのセキュリティソフトではない。――例えどんなサイバー攻撃を受けたとしてもそれを完全に防ぐ、万能のセキュリティソフトである。
現在世に出ている、どのセキュリティソフトよりも優れた物を開発する……それこそが、ディオが学生の頃から考えていた計画だった。
「これは法人向けだが、いずれは個人でも使いやすいようにまた開発を進めたいと思っている。……ちなみに。これを最初に売る相手は、スピードワゴンの石油会社だ」
「スピードワゴンさんの?」
「……いつの間にスピードワゴンとそんな話を?」
「かなり前から先に交渉を進めていたのだ。……最終的に石油会社だけでなく、財団の方でも使わせてくれないかと打診された。いずれ、そちらにも導入されるだろう。
これで上手くいけば、スピードワゴンが我が社のセキュリティソフトウェアについて、アメリカで宣伝してくれるという」
「石油王が宣伝してくれたら一躍有名になるのでは……?すげぇな」
「ジョセフの会社には売らないのかい?彼にも宣伝してもらったら、きっと日本でも話題になるよ。今では不動産会社の敏腕社長として有名だし」
「もちろん、ジョセフとも交渉済みだ。奴の会社には石油会社の次に売るという事で、話を付けている」
その抜かりない様子に、園原は内心で"ディオ様マジディオ様"とこっそり拝み……ふと、思う。
「ところで、ディオさん」
「ン?」
「――そのセキュリティソフトの名前は?」
園原がそう聞くと、ディオは居住まいを正し、真剣な表情で彼を見つめた。
「その事なんだが、実はまだ正式に名前を付けていない。私が社員達に我が儘を言って、先伸ばしにしている状態だ。
だが、私の中では既にこういう名前にしたいという願望がある」
「それなら、その名前にすればいいのに……」
「あぁ、そのつもりだ。お前から許可を貰えたら、すぐにでも正式に名付ける」
「はっ?……どういう事です?」
何故、セキュリティソフトの名付けに自分の許可が必要なのか。……首を傾げた園原に対して目を細めたディオは、その名前を口にする。
「――アイギス・セキュリティ。……志人のスタンド、イージスの名前をラテン語にして、このセキュリティソフトに使わせてくれないか?」
「…………えっと、それはわざわざ俺に許可を取る程の事ですか?ギリシア神話のアイギスの盾から名前を取るなら、俺個人の許可なんて必要ないでしょう?」
「いや。ギリシア神話から名前を貰ったのではなく、志人から名前を貰ったという事実が欲しいのだよ」
「んん……?」
「……ああ、なるほど。もしかして、兄さんが今日身に付けている例のブローチも関係しているのでは?」
ディオに向けて微笑んだジョルノがそう言うと、彼も微笑み、アイギスの盾をモチーフにしたブローチに触れる。
「……私はいつも、このブローチを付けて仕事をしている。会社を立ち上げた日から今まで、ずっとだ。……あのクリスマスパーティーでの出来事を、忘れないためにな」
――女神の盾という神聖な物は、自分には分不相応である。……当時、ディオは本気でそう思っていた。
しかし、前世の宿敵であるジョナサンと承太郎。前世の自分の息子であるジョルノ。そして今世で出会った園原がそれを否定し、今世のディオを認めてくれた。
特に園原は、このブローチをディオの下へ導いてくれた存在であり、ジョースター邸という鳥籠の中から自由になるきっかけを生み出してくれた存在でもある。
「志人がいなかったら、スピードワゴンが動く事もなかった。私が周囲から完全に認められる事もなかった。
――俺という鳥を籠の中から解き放ってくれたのは、自由の身にしてくれたのは、お前なんだ」
「――――」
「そんな大恩がある志人の、黄金の精神が具現化したイージス・ホワイトから、その名前を貰いたい。……どうか、頼む」
園原は、ディオの切実な願いを聞いて思わず呻き、両手で顔を隠す。……普段は無自覚に人たらし爆弾を投げてディオを固まらせる園原だが、今回ばかりは彼の負けだった。
「…………そんな殺し文句言われて、断れる訳ないだろ……!!」
「では……?」
「どうぞどうぞ好きにお使いくださいぃ……!むしろイージスに因んだ名前を付けてくれるなんて光栄でしかない」
「ありがとう、志人。恩に着る」
「まっ、待て待て待てっ!!社長がそんな簡単に頭下げたら駄目だろうが!?」
前々世のディオ様ファンとか前世と今世の信者に知られたら俺が殺される!!と、心中で叫んで焦る園原とは逆に、一部始終を見ていた承太郎達は大声で笑っていた。
――この日から、数週間後。
アメリカの石油王が、アイギス・セキュリティと名付けられたセキュリティソフトウェアと、そのソフトを開発した会社についてアメリカで宣伝し、大きな話題となった。
その後。日本の不動産会社の敏腕社長も続けて宣伝を行い、そのソフトを開発したサイバーセキュリティ会社を取材したいという声が殺到する。
それから記者会見が開かれる事になり、顔見せをした男性社長の妖しい色気と美貌と共に、さらに話題となった。
……ここまでは、ディオの予想の範囲内だったのだが。ディオの存在が有名になった直後、思わぬ出来事が起こる。
――旧図書館組が夕食を共にしたあの日の写真が、SNS内で出回ってしまったのだ。
どうやらあの日、レストランにいた他の客によって隠し撮りされていたらしい。
ディオと共に食事していた4人の顔立ちが整っていた事、4人がそれぞれ職場で有名になっていた事が重なり、彼らの名前もすぐに晒されてしまった。
しかし。その事態にいち早く気づいたSPW財団と、その知らせを受けたディオが自分の会社の社員達に命じて、SNSにばら蒔かれた情報を軒並み消して回り、今後も情報が出回らないように対策したため、事なきを得た。
発見が遅れていたら、とんでもない大事になっていただろう。まだ高校生だった時の園原が巻き込まれたファンクラブ事件のように、万が一何らかの犠牲者が出てしまったら……
ディオはそう考えて冷や汗を流し、今後の行動には気を配ろうと心に決める。旧図書館組やジョースター家の人間にもこの出来事を伝え、注意を促した。
そして、後日。大学でいつも通り講義をしていた承太郎に対して、ある学生からこんな質問が飛んだ。
「――空条先生って、あのサイバーセキュリティ会社の社長の身内で、それ以外にも不動産会社の社長とか、考古学者の先生とか、大学病院のお医者さんとかも同じ家族なんですよね?」
「……あ"ぁ?」
「ネットでそんな情報があったんですよ。それに、家族で仲良く食事してる写真もSNSに上げられてたり……
その写真の中で、一緒に食事していた先生の友達が図書館司書だって話も出てたんですけど、本当にそうなんですか?デタラメだったりしません?
先生の家族は皆エリートっぽい職業だし、その友達も実際は司書なんて
――バキッ!!……そんな不穏な音が、承太郎の手元から聞こえた。一番前の席に座っていた学生達が、彼の手元を見て一斉に顔を青くする。
承太郎の手に握られていたボールペンが、見事にへし折られていた。
「……やれやれ。ペンが1本お釈迦になってしまった」
そう言って、承太郎が自分の顔の横でへし折ったペンを軽く振る。……彼に質問していた学生も、青ざめた。
「……君が言った私の友人の職業は、確かに図書館司書だ。デタラメではない。
そして彼は――私の掛け替えのない親友は、図書館司書という仕事に誇りを持っている。彼が誇りを持つ仕事は決して
彼を侮辱する事は、この私が許さん。……よく覚えておけ」
「…………は、はい……」
承太郎の怒りは、階段教室内にいた全ての人間に伝わり、重苦しい雰囲気に包まれる。
その空気は、講義が終わって承太郎が退出するまで続いた。……後に多くの学生が、この日は生きた心地がしなかったと語る。
その後。承太郎がこの出来事について、メッセージアプリの旧図書館組のグループで愚痴をこぼすと、ここ最近ディオ以外の3人の周辺でも、身内について探るような真似をする者が多数いたらしい。
これはさすがに怪しいと、財団にこの件の調査を依頼すると……承太郎達に接触した人間達が、とある出版社に所属する記者達と繋がりがあった事が判明。
その出版社は、ディオに取材をした者達の中でも特にしつこく、失礼な真似をする事もあったため、最近ディオがその取材を全面的に断ったばかりだったという。
これを知ったディオは財団と協力し、様々な証拠を集めてそれを出版社側に突き付け、"これ以上余計な真似をすれば、名誉毀損やプライバシーの侵害等で出るところへ出るぞ"と、しっかり警告した。
これ以降も、ジョースター家の人間と園原や、他の前世の仲間達に接触し、有名人のスクープを狙って探りを入れる者達が増えた。
その結果。ジョースター家の中でも特にメディアに取り上げられる事が多いディオが代表者となり、声明文を出した。
その内容をまとめて、一言に意訳するなら――俺の身内とその仲間達にこれ以上手を出せば、ただでは済まさんぞォッ!!……といったところだろう。
さらに。ディオはSNSを利用して、その声明文と似たような内容の動画を配信。
この世の物とは思えない美貌を持つ帝王が静かに激怒している様子は、多くの者の記憶に刻み込まれた。
ジョースター家の人間と同じ中高一貫校に通っていた者達は、この一件で例のファンクラブ事件中に行われた、
(マスコミ、いやマス
――あの惨劇はもう二度と見たくない!!