空条承太郎の親友   作:herz

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・pixivでは前編、後編、小説パートの3つに分かれていますが、一つひとつの話が長いので、ハーメルンでは前編①、②。後編①、②。小説パート前編、中編、後編の7つに分けました。よって、似非ホラー編はかなり長いです!


・ちゃんねる風似非ホラーの小説パート。全然怖く無いです。ご都合主義、捏造過多。キャラ崩壊あり。

・男主と承太郎で視点がコロコロ代わります。異界から脱出した後。花京院と形兆の大喧嘩。




修学旅行組4名は、異界へ飛ばされた~小説パート(中編)~

 

 

 それは異界から脱出し、ジョセフの波紋による治療が終わった直後に起こった。

 

 

 

 

 

 

 ――花京院が、形兆の頬をぶん殴ったのだ!

 

 

「けっ、形兆!?」

 

「おい、典明。何やってんだ、てめえ……!」

 

 

 俺と先祖が巫女さん――本名は五藤風花。実は既婚者で、六車から五藤に性が変わったらしい――が形兆の下へ駆け寄り、承太郎とジョセフと六車さんが花京院の前に立ち塞がる。

 何でいきなりぶん殴った!?というかこいつ、本当に意外と手の方が先に出やすい奴だな!?

 

 承太郎が花京院を睨んでいる。……しかし彼は、それに怯む事なく形兆に向かって怒鳴った。

 

 

「――何故自分を犠牲にしてまで僕を助けようとした!?危うくお前まで死ぬところだったじゃないか!!」

 

 

 そうか。だからこいつは怒って、形兆を殴りにいったのか。……それは理解できたが、殴るのはちょっとやり過ぎだなと密かに思った。

 

 

「僕1人だったら、ハイエロファントの力を使えば自力で助かる方法があった!だがお前のスタンドは違う!人間1人を持ち上げられるほどの力は無い!

 そんなお前が命綱も無しに飛び込めば、どうなるかなんて分かっていたはずだろうッ!?なんて馬鹿な事を……!!」

 

「…………馬鹿な事、だと?」

 

 

 あっ、ヤバイ。助け起こした男のドスの利いた声を聞き、直感的にそう思った俺は、怒りが収まらない様子の花京院を止めようとする。

 

 

「ま、待て典明――」

 

「――僕なんかを助けるぐらいなら!自分の身を大事にしてくれよ!!僕はお前に助けを求めた覚えは無いぞッ!!」

 

「あああぁぁ!この馬鹿……!!」

 

「シド……?どうした?」

 

 

 承太郎の疑問の声は、悪いが無視させてもらった。一応形兆の肩を押さえながら、俺は目を瞑って天を仰ぐ。……ゴングが鳴り響く幻聴が聞こえた気がした。

 

 

「…………志人」

 

「アッ、ハイ」

 

「その手、離してくれ」

 

「…………形兆の気持ちも分からなくは無いし、怒る気持ちも分かるけど、さ……結局はどっちもどっちなんだから、程々にしとけよ?」

 

「分かっている」

 

「本当かなぁ?……まぁ、どうなっても仕方ねぇか。ほら、どうぞ」

 

「ありがとう」

 

 

 珍しく素直に礼を言った形兆は、ゆらりと立ち上がり、花京院の下へ向かった。その気迫に押されたのか、花京院と承太郎以外の3人はゆっくりと後退する。

 

 

「形兆待て、」

 

「承太郎、よせ。止めるな」

 

「だが、シド……」

 

「今さっきの典明の発言を思い出せば、形兆の気持ちが分かるはずだぞ」

 

「……典明の発言?」

 

 

 形兆の肩を掴んで止めつつ、承太郎は首を傾げていたが……やがて目を見開き、次第に納得の表情を浮かべる。

 

 

「……そういう事なら、仕方ねえな。いいぜ、形兆。行け」

 

「……礼を言う。あんたと志人なら、分かってくれると思っていた」

 

「おいおい、承太郎!?」

 

「空条さん!?」

 

「じょ、承太郎様!止めないんですか!?」

 

 

 ジョセフ、六車さん、五藤さんが慌てたところで、形兆は止まらない。俺も承太郎も、止めるつもりは無い。今の発言だけなら花京院が悪いのだから。

 承太郎の横を通り過ぎ、花京院の前に立った形兆は流れるように彼の頬を殴った!

 

 

 お前もか!?

 

 

「……馬鹿な事?自分なんかを助けるぐらいなら俺の身を大事にしろ?助けを求めた覚えが無い?……馬鹿なのは典明もだろうッ!?俺だけではない!貴様も自分の身を大事にしろォッ!!」

 

「は、」

 

「俺が身を投げ出してまで貴様を助けに行ったのは!花京院典明という親友(・・)を失いたく無かったからだ!!

 仕方ないだろうッ!?気が付いたら体が勝手に動いていたのだ!理屈ではない!!」

 

「…………形、兆」

 

「助けを求められていなくても助けに行く!それがダチというものだろ!?それなのに!助けを求めた覚えが無いなどとわざわざ口に出しやがって!!

 

 ――他でもない貴様にだけは!そんな事を言われたくなかった……!!」

 

「――――」

 

 

 形兆の悲痛な叫びを聞いた後、誰もが口を出せずにいる。彼の気持ちは、痛い程に理解できた。

 そりゃそうだよなぁ。俺だって、もしも承太郎にさっきの花京院と同じ事を言われたら、今の形兆のようにぶちギレるはずだ。

 

 こればっかりは、花京院の言い方が悪過ぎた。……とはいえ、形兆が自分を犠牲にした事に怒った花京院の気持ちも、よく分かる。結局はどっちもどっちだろう。

 

 

「…………形兆の言い分は、分かった」

 

 

 と、花京院が静かにそう言って顔を上げる。……しかし彼は苦しそうな表情で、こう続けた。

 

 

「――でも、納得はできない」

 

「っ、典明、」

 

「ごめん。……ちょっと、頭を冷やして来るよ」

 

 

 花京院は、足早に客室から出て行った。それを見た形兆が彼を追い掛けようとする。……俺は、それを止めた。

 

 

「ちょっと待った」

 

「何のつもりだ、志人……!」

 

「典明は頭を冷やして来るって言ってたのに、頭に血が上る原因のお前が追い掛けてどうすんだよ?」

 

「あっ」

 

 

 ばつの悪そうな顔をした形兆。……よし、分かってくれたな。

 

 

「代わりに俺が行って来るから、お前は待ってろ。あと、承太郎。ちょっと……」

 

「ん?」

 

 

 承太郎だけ呼び寄せて、部屋の隅で内緒話だ。

 

 

「典明の方は俺がなんとかするから、お前は形兆の方を頼む」

 

「……俺はシドのように、上手く相手の気持ちを汲み取るなんて出来ないんだが」

 

「大丈夫だって。……今の状況、似てるだろ?」

 

「似てる?」

 

「――高2の頃の、俺達の大喧嘩」

 

「!!」

 

 

 はっとした顔で俺を凝視する親友に苦笑いを向けて、その背を軽く叩いた。

 

 そう、似ているのだ。縁切り事件の時に俺を護ろうとした承太郎と、それをさらに護ろうとした俺が大喧嘩した、あの時と。

 

 

「その時を思い出せば、形兆にどんな言葉を掛けてやれば良いのか、自然と頭に浮かぶはずだ」

 

「……分かった、こっちは任せろ。代わりに典明の事は頼んだぞ」

 

「おう」

 

 

 これで、形兆の方は問題無し。次はジョセフ達だな。

 

「ちょっと典明を探して来ますね。すみませんが、スレへの報告とかは先輩達にお願いします!」

 

「了解、任せとけ。……ただ、2人揃って早めに帰って来いよ?外はもう真っ暗だぜ」

 

「それに、異界から帰って来た後で疲労が溜まっているはずです。花京院さんと形兆さんもそうですが、承太郎様と志人様もどうか、あまり無理はなさらないように」

 

「ご心配ありがとうございます!気をつけます」

 

「それから、園原さん。これを……コンビニの物で申し訳ありませんが、軽食です。花京院さんとお二人で召し上がってください。もちろん、空条さんと虹村さんの分も用意してありますから」

 

「おっ、六車さん気が利く!ちょうどお腹ペコペコだったんですよー、ありがとうございます!」

 

 

 意識して明るく振る舞えば、段々先ほどまでの重苦しい雰囲気が消えて来た。こっちもこれでよし、と。

 

 

「じゃあ、いってきまーす!」

 

 

 最後に駄目押しの笑顔で、まるで遊びに行くかのようなノリで手を振れば、3人共笑って見送ってくれた。

 これなら花京院の方は大丈夫だと、あの人達もそう思ってくれるはず。

 

 客室を出てからは、笑顔を引っ込めて走り出す。……さーて。あの世話が焼ける院、もとい花京院は何処行った?

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

「……うーん、若者に気を使われちまったなァ」

 

「やはり、あれはそういう事ですか……」

 

「あァ。……あの子があんなわざとらしく子供のような仕草をするなんて、滅多に無い事だからな」

 

「超光属性の志人様、あぁキラキラ笑顔も尊い……!」

 

「こら、風花。訳の分からない事を言ってないで、早く撤収作業に付きなさい」

 

「はーい、拓海お兄様」

 

「その呼び方はよせ」

 

「ン?……げっ!?仗助達から鬼電が……!」

 

「…………こちらも、ディオさん達からの着信数がとんでもない事になっています……」

 

「あらら、御愁傷様。そちらの対応はお願いしますね」

 

 

 シドが立ち去ると、ジョセフ達救出組の3人はそれぞれ動き出した。……対して形兆は、ベッドに座り込んで項垂れたまま、ピクリとも動かない。やれやれだぜ。

 

 

「そんじゃ、俺達も自分の客室に戻るか。一度ホテルに入った以上、ちゃんと宿泊しないとな。……承太郎、後は頼んだぜ。それと結局2人がどうなったのか、明日にでも軽く教えてくれよ?」

 

「ああ、分かっている」

 

 

 やる事を済ませたジョセフ達が、客室から出て行く。なお、五藤は再び六車に取り憑いたようだ。……興味深い能力だな。

 

 

(…………さて。シドには任せろと言ったものの、ここからどうする?)

 

 

 とりあえず、ベッドに座り込む形兆の隣に間を空けて座った。2人揃って、先ほど六車からもらった軽食を無言で食べ終える。

 

 ……シドと大喧嘩した時は、どんな話をしたんだったか……ああ、そうだ、

 

 

「――大事なもんは、そりゃあ失いたくねえよな。……縁切り事件の時、俺もお前と同じ事を思った。志人を護りたかったんだ」

 

 

 そう言うと、形兆はようやく顔を上げた。情けねえ顔してやがる。

 

 

「だがそれは、相手だって同じ事だ。俺は志人と大喧嘩した時にそれに気づいた。俺と同じくらい、あいつも俺を大事に想ってくれているのだと。

 だから志人も怒ったんだ。俺が何の躊躇いもなく自分を犠牲にしようとした事に」

 

「……なら、俺はどうすれば良かったんだ?典明を怒らせないために!あのまま何もしなければ良かったのか!?」

 

「それは違う。……理屈で言えばそれが正しかったのかもしれないが、お前が自分で言ったんだろ?理屈じゃねえって」

 

「…………」

 

「そういう事なら、間違って無い。少なくとも俺はそう思う。……だが、俺やお前を心配する側はそうは思わねえだろうな。向こうだって、俺達を心配する気持ちは理屈ではないのだから」

 

 

 そこが難しいところだ。だから俺や志人、形兆と典明のように。心配される側とする側で衝突が起こる。

 

 

「……きっと俺も、お前も。誰かを護る側になる事に、慣れ過ぎたんだ」

 

「……どういう意味だ?」

 

「俺は最強とか、無敵などと呼ばれているから、自然と前に出されて後ろにいる奴らを庇う事が多い。それに、前世では娘もいたからな。

 

 そしてお前は……弟がいるだろう?」

 

「!」

 

「兄として、弟を護る……お前にとっては前世の頃から、それが当たり前になっていた。そうだろ?」

 

 

 修学旅行の時。志人と典明が部分的に似ていると、形兆と2人でそんな話をした事があった。その時は俺と形兆自身の話はしなかったが……

 誰かを護る事に慣れているところ、言葉が足りないところ、不器用なところ……そういった点をあげると、俺と形兆も部分的に似ているのかもしれない。

 

 

「――そんな俺達を逆に護りたいと考えるのが、志人や典明のような人間だ。

 あいつらは頑固だぞ。こっちは護りたいのに、大人しく後ろにいてくれるような奴らじゃねえ。……だから俺は、志人と喧嘩した時に折り合いをつけるしかなかった」

 

「……どう、折り合いをつけたんだ?」

 

「志人は俺を、俺は志人を、互いに護り合う事。どちらかが後ろでどちらかが前に出るのではなく、共に前に出る。……そう、約束した」

 

「…………その結果、2人同時に死ぬ事になっても、か?」

 

「ああ、そうだ。極端に言えば、死なば諸共。……まあ、志人には"野郎と心中なんてごめんだ"と言われちまったがな。

 "互いに生きたままで、心も体も護り通さなければ意味が無い"とも言われた。……俺は志人と2人なら、万が一心中する事になったとしても一向に構わないんだが」

 

「最後の言葉は志人には黙っておけ」

 

「くくっ……!そうするぜ。志人に知られたら、また喧嘩になってしまう」

 

 

 ……さっきよりは顔もかなりマシになってきた、か?相手の気持ちを汲み取るというより、自分の話をするだけになってしまったが、効果はあったんだろうか?

 

 

「……お前らも俺と志人のように少し話し合って、互いを理解して、折り合いをつけてみろ。それが出来なければ……大事な親友を失う事になるぜ。俺もあいつと喧嘩した時は本当に危なかった。

 徐倫に発破を掛けられ、お前のスタンドが志人の下まで導いてくれなかったら……あの時点で、親友を失っていただろうな」

 

「……俺達に、それが出来るだろうか?典明は納得できないと言って出て行ったのに?」

 

「あ?……何だ、お前。分かってなかったのか?」

 

 

 それは意外だった。……いや、だからこそさっき典明を追い掛けようとしたのか?

 

 

「あいつはお前の言い分に対して納得はできない、とは言ったが――理解できない、とは一言も言って無かったぜ?」

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

「――形兆の言い分自体は、理解している。確かにあれは、軽率な発言をした僕が悪かった」

 

 

 花京院はホテルの外にいた。夏の夜中で山の中にいるせいか、外の涼しさは体に心地良い。

 

 ホテルの側に備え付けられたベンチに2人で座り、六車さんからもらった軽食を食べ終わった後。イージスの防音バリアの中で花京院の話を聞いていると、彼はそんな事を言った。

 やっぱりそうだったんだな。こいつは馬鹿じゃない。相手の言い分を冷静に受け止める事ができる男だ。……それに納得するかどうかは、また別問題のようだが。

 

 

「だがしかし、納得はできない!というかお前が言うなよ!?と思った」

 

「あー……なるほど。それはそうだ。先に躊躇いなく自分の身を投げ出した形兆に、自分の身を大事にしろとか……親友を失いたくない、なんて言われてもなぁ?」

 

「そうなんだよ。さっきも形兆に怒鳴ったように、それは僕だってそう思っている。あいつには自分を大事にして欲しいし――親友(・・)を失いたく無いのは、僕だって同じなのに……」

 

 

 そう、親友。……まさか、こいつらがいつの間にか互いを親友と呼び合うようになっていたとは。これは先輩親友組として、後輩親友組を何としても仲直りさせないとな。

 

 

「だから僕も形兆も譲れなくて今こんな事になっているんだと、分かってはいるんだが……」

 

「分かる分かる。互いに相手を大切に想っているからこその衝突だよな。いつかは必ず起こる事だ。それが今で良かったと俺は思うぜ。

 これが良い年した大人になった後で起こってたら、もっと拗れてたぞ。きっと」

 

「…………承太郎とあんなに仲が良い君にとっては、喧嘩なんて縁遠い物なんじゃないか?そんな君に分かると言われても……」

 

「え?俺達も互いに殴り合う寸前ぐらいまでいった大喧嘩なら、やった事あるけど?」

 

「ええっ!?」

 

 

 あれ?なんか超驚いてる?……あぁ、そうか。形兆はいたが、花京院は縁切り事件の時にその場にいなかったよな。

 

 

「形兆や他の後輩組から聞いてないか?高2の時の縁切り事件で犯人を誘き寄せた後、その犯人のせいで俺と承太郎が大喧嘩した話」

 

「全っ然聞いてない!まさか、例の縁切りのスタンドで?……いや、でも君達には通用しなかったという話は聞いてるしな……」

 

「スタンドは関係なく、最後に犯人が俺に対して逆上して、それを承太郎がわざと自分に敵意を向けさせる形で俺を庇い、そんな承太郎をさらに俺が庇うという無茶をやらかした事がきっかけで、大喧嘩になったんだよ」

 

 

 そこから、大体の事情を説明する。……俺と承太郎も互いの事が大切で、どうしても護りたくて、譲れなくて、そして衝突したのだと。

 

 

「で、いろいろ省略して結論だけ言うと、俺と承太郎は互いを護り合う事で折り合いをつける事にした。どっちも譲れないなら、こんな風に妥協点を見つけるしか無いよな」

 

「……そうやって、承太郎との絆を深めた訳か」

 

「まぁ、そんなところだ」

 

 

 あの大喧嘩は、俺達にとって重要な分岐点だった。あれを乗り越えたから、俺達は今でも親友同士でいられるんだ。……あのまま、関係が終わってしまう事だってあり得た。

 おそらく今の花京院と形兆にとっても、この大喧嘩が分岐点なのだろう。

 

 

「……僕達も、君達のように折り合いをつけられるだろうか?大切な存在を、失わずに済むだろうか?」

 

「それは実際にお前が形兆と話し合ってみないと、分からないな。これはお前達2人の問題なのだから、2人の妥協点は2人にしか分からない」

 

「ああ、正論だな」

 

「だが、」

 

「?」

 

「そんなに互いを大切に想っているなら、相手の事を考えて、ちゃんと譲り合えるさ。きっとな」

 

「…………そう、かな?」

 

「そうだよ。――だって、大切な存在を失いたくないのは、形兆も同じなのだから」

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

「――失いたくないのは、向こうも同じ……か」

 

「そうだ。どう見ても、典明はお前を特別に信頼してるだろ。……親友を失いたくないという気持ちは、よく分かる」

 

 

 典明は頭の良い奴だ。形兆の言い分を理解していないはずがない。……それから、失いたくないと思っているのは形兆だけではないと、改めて伝えた。

 そもそも、互いの事が大事だから典明は自分を犠牲にした形兆に対して怒ったし、形兆も自分を蔑ろにする典明に対して怒ったんだ。

 

 そんな2人なら、親友同士の関係をこれからも続けるためにはどうすれば良いのか、真剣に考えるはず。

 

 

「……断言する。お前と典明なら、何があっても悪いようにはならねえよ」

 

「…………そう、か」

 

 

 形兆は安堵のため息をつき、ようやく緊張を解いた。この様子なら、こいつの方は大丈夫だろう。典明は……シドがいるし、向こうもどうにかなるだろ。

 

 

「…………それにしても、」

 

「ん?」

 

「やはり、俺ではあんたに敵いそうにないな」

 

「……はあ?何の話だ」

 

「本当に、典明に特別に信頼されているのは俺ではなく、承太郎だという事だ。……あいつがあんたを信頼する理由が、よく分かった。これは敵わねえな」

 

「……形兆?」

 

 

 一体何を言っているんだか、さっぱり分からん。俺が首を傾げると、形兆は珍しく清々しい笑みを見せた。

 

 

「――俺は、空条承太郎にはなれない。……よし。諦めがついた」

 

「だから何の話だ??」

 

「あんたと志人にだけは絶対に教えない。これは、俺と典明だけが理解し合える事だ」

 

 

 …………駄目だ、よく分からん。それにこいつらが教えたくないと言うなら、深くは聞かない方が良いだろう。

 

 その時、シドから電話が掛かって来た。……向こうも終わったか?

 

 

「承太郎、そっちはどうなった?こっちは何とかなったぞー」

 

「こっちも終わった。……相手を気遣って言葉を考えて話すのは疲れる。やはりこういうのはシド、お前の仕事だ」

 

「馬鹿、お前。ただでさえ不器用で言葉が足りないんだから、今のうちに慣れとけよ。せっかくの優しさを周りにもっと知ってもらうためには、無言の行動だけでなく言葉が必要なんだからさ」

 

「お前だけが俺の優しさを知っていれば良いんだよ、ハニー」

 

「ははは、わざとらしい臭いセリフがお似合いだなアホダーリン」

 

「今の冗談は面白くなかったか?」

 

「そうだな、今のは……5点?」

 

「5点?この俺にそんな点数を付けるとは、良い度胸だな」

 

「何様俺様承太郎様ですかヤダー――つか、眠い」

 

「俺もだ。さっさと戻って来てお前も寝た方が良い。俺もお前も眠気のせいで、いつもの悪ふざけが大分おざなりだ」

 

「だよな、戻るわ」

 

「ああ。待ってるぜ」

 

 

 電話を切り、ふと形兆を見ると……何故か所謂チベスナ顔をしていた。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 承太郎とのおざなりな悪ふざけを含めた電話が終えて、大きな欠伸を1つ。……おかしいな。俺達は異界でも仮眠を取ったはずなのに、何故こんなに眠いんだ?

 

 

「形兆も落ち着いたみたいだし、あとはお前ら2人で話し合ってくれ。俺も承太郎も眠い……んん?何だそのチベスナ顔」

 

「……ちなみに、志人がアホダーリンって呼ぶ前に承太郎は何と言ったんだ?」

 

「"お前だけが俺の優しさを知っていれば良いんだよ、ハニー"だって。無駄にイケボで寒かったわ」

 

「…………君達、相変わらずの仲の良さだな」

 

 

 典明はますますチベスナ顔になった。何で??

 

 

「何なんだろうな、君は。突然現れたかと思えば既に承太郎の隣が定位置になっていて、承太郎はそれを拒否するどころか、自ら君を自分の隣にぐいぐい引き込んでいるように見えるし……」

 

「典明?何の話だ?」

 

「……そうだな。承太郎が多くの人にとっての光なら、承太郎にとっての光とは誰なのか……そう考えた時。

 その答えは君なのだろうな、という話だよ。君が承太郎の光だ。……分かってはいたが、これは分が悪いな」

 

 

 俺が、承太郎の光?……よく分からんがちょっと物申したい。

 

 

「俺は光よりも、影がいいなぁ」

 

「は?……影?」

 

「うん。光は上からとか先の方で、下とか後ろの方を照らすものだから、本人の側にいられる訳じゃねぇだろ?

 

 ――でも影なら、ずっと本人にくっついてるじゃん」

 

「――――」

 

「だから俺は、承太郎から離れてる光よりも、ずっとくっついてる影が良い。それならいつまでもあいつを支えていられる」

 

 

 ……あれ?なんか思考が変になってる気がするぞ?

 

 

「あー、駄目だこりゃ。典明、俺そろそろ限界近いわ。眠気のせいで自分が今何言ってんのか、全然分かってねぇんだもん。早く部屋に戻ろうぜ」

 

「――――」

 

「……典明?」

 

「……ふ、……ふふ、ははははははっ!!」

 

「典明ぃ??」

 

 

 ヤバイ。もしかしてこいつも眠気で頭おかしくなってたりする?

 

 

「ははっ!はははは……っ!!なるほど!これは敵わないッ!!そもそも僕なんかと君じゃ、勝負にもならないな!

 むしろ承太郎が羨ましいと思ったのは、これが初めてだ!いつもなら君に嫉妬するところなのに!」

 

「はぁ??」

 

「よーし、分かった――僕は、園原志人にはなれない。……今のうちにそれを思い知る事ができて、良かった」

 

「……よくわかんねー、はやくもどろうぜ」

 

「ああ、ごめんごめん。かなり眠そうだね。戻ろうか」

 

 

 たまにふらつく体をイージスに支えてもらいつつ、正気に戻った花京院と共に客室に戻ると、すっきりとした表情の形兆に出迎えられた。よしよし、大丈夫そうだな。

 

 さらに中に入ると、眠そうな顔をした承太郎と目が合う。

 互いに会話する程の気力はもう無いので、弱々しくロータッチして健闘を称え合ってから、それぞれのベッドにダイブ。

 

 

「承太郎、志人。寝る前にシャワーぐらい浴びたらどうかな?」

 

「「ねむい、あした」」

 

「……ふふ、はいはい。おやすみ」

 

「「おやすみ、イージス」」

 

 

 ねむい。

 

 

 

 

 

 

「……イージスが消えたし、志人は……うん、眠ったね。承太郎はどうかな?」

 

「この人も寝ているぞ」

 

「そうか。……彼らは僕達とは違って初めて異界に飛ばされたし、かなり疲れたんだろう。その上僕達の喧嘩のせいで、無駄に体力と気力を削らされたのかもしれない」

 

「…………礼と、謝罪だな」

 

「うん。明日ちゃんと言わないと」

 

「……ところで、さっきの喧嘩とは別の話になるんだが……何処までも冷静で頼りになるこの人と話していたら、ようやく諦めがついた。

 

 ――俺では、典明にとっての(・・・・・・・)空条承太郎にはなれない」

 

「!……面白いタイミングだな。実は僕もさっき、志人と話してようやく諦めがついたところだよ。

 

 ――僕では、承太郎にとっての(・・・・・・・・)園原志人にはなれない」

 

「ほう?……ずっと承太郎が承太郎がとうるさかったお前が、か?一体どういう心境の変化だ?」

 

「それがだね、聞いてくれよ!僕が承太郎にとっての光は君だなって言ったら、志人はこう言い返して来たんだ。

 "承太郎から離れてる光よりも、ずっとくっついてる影が良い。それならいつまでもあいつを支えていられる"って。

 

 ……凄いよ、本当に。あのいろんな意味で大きな背中をいつまでも支え続けるなんて、僕は承太郎に対してさすがにそこまでは考えられない。これはもう敵わないなと思った」

 

「光より、影か……確かに光は物体から離れてそれ照らすものだが、影はずっとくっついているな。

 なるほど。お前は承太郎に相当入れ込んでいたが、志人はそれ以上だったという事か……

 

 ……そういえば、承太郎もこんな事を言っていたな。"俺は志人と2人なら、万が一心中する事になったとしても一向に構わない"と」

 

「何がどうしてそんな重い話になったんだ!?」

 

「それは今度詳しく話す。今はそれよりも……」

 

「……ああ、そうだった。さっきの喧嘩の事……互いに折り合いをつけないとね」

 

「ベランダに出て話すか。志人達を起こさないようにしなければ」

 

「うん、そうしよう」

 

 

 

 

 

 

 

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