空条承太郎の親友   作:herz

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・男主達が大学生、大学に入学した直後から始まる話。

・オリキャラ視点。ご都合主義、捏造過多、キャラ崩壊あり。




 これは、親友組に気に入られて捕獲されてしまった、1人の男の話である――




文学部のとある男は、捕獲された

 

 

 大学の入学式が終わってから、数日後。新入生が対象となるオリエンテーションが開かれた。

 最初は新入生全体へのガイダンス、その次に学部ごとのガイダンス、そして最後に基礎ゼミのクラスに分かれて説明を受ける事になるという。

 

 面倒だが、これに出席しないと後々もっと面倒くさい事になるだろう。仕方なく出席した。

 

 

 やがて。新入生全体へのガイダンスが終わり、次は学部ごとに分かれる事になる。指定された講義室に向かい、席に座るが……

 俺の周りには、誰も座ろうとしない。ここだけぽっかりと穴が開いている。

 

 

(まぁ、俺はこの体格と強面だし。こうなる事は分かっていたが……)

 

 

 大学生活の初日からこの展開は、さすがにへこむ。……どうせ、今回もまともな友達は出来ないだろうな。

 

 

 俺の家族は母親と祖母以外、みんな身長が高いし筋肉質だ。そういう血筋のせいか、俺は末っ子なのに兄弟の中では1番体がデカイ。身長も180を余裕で超えている。

 その上。祖父の顔と同じく強面だから、周囲の人間から避けられるのが当たり前になってしまった……

 

 

 ……はずだったんだが。講義室に入ってからしばらくして、思わぬ出来事が起こる。

 

 

「――君、ちょっといいかな?」

 

「!?……俺、か?」

 

「うん。……この辺りって、もしかして誰かのために席取ってるとか、そういう事?」

 

「……い、いや。そういう訳じゃ、ない」

 

「あ、そうなの?じゃあ、俺がここに座っても大丈夫?」

 

「それは、もちろん……構わない」

 

「ありがとう」

 

 

 俺に声を掛け、更にはにこりと笑ったその男は、自然な様子で隣に座って来た。……俺の顔を見ても怯えないなんて、珍しい奴だな。

 それ以降。わざわざこちらに話し掛けてくる事も無かったため、そこでようやく緊張を解いた。

 

 さりげなく、隣に座る男を観察してみる。

 

 眼鏡を掛けた、つり目の男だ。しかし綺麗に整えられた眉と、鼻筋の通った顔……それから先ほど人好きのする笑顔を見たおかげで、きつい印象はない。

 前髪の片側を耳に掛けて、もう片方は横に軽く流されている。俺の方からは片目が隠れているように見えるため、涼しげな表情も相まってミステリアスな感じがした。

 

 

(なるほど、美形だな。イケメン爆発しろ)

 

 

 講義室にいる同じ学部の女子大生達が、小声で会話しながらちらちらと、この男を見ているのが分かる。何処かで黄色い声も上がった。

 中には近づきたそうにしている女子もいたが、おそらく俺がいるせいで近づけないんだろうな。

 

 誰だか知らないが、この美形は何故俺の隣に座ったんだ?俺とは違って、その顔なら誰とでも馴染めるだろうに。

 

 

(…………いや、)

 

 

 もしかして、こいつ。そういうタイプじゃ無いのか?むしろ誰かと騒ぐ事を好まないからこそ、周囲に人が少ない俺の側に座った……?

 いつの間にか本を読み始めていた美形を見て、俺はなんとなくそう思った。

 

 

 その後。学部ごとのガイダンスも終わり、次は基礎ゼミのクラスで集まる事になる。……早めに教室に行って待っていると、あの美形が同じ教室にやって来た。

 

 

「あれ?君もこのクラスか。よろしくね!」

 

「あ、あぁ」

 

 

 彼は、教室の角の席に座っていた俺の隣に、当たり前のように座った。……俺の顔や体格について、何も反応が無い。本当に、珍しい。

 

 それからすぐに、同じクラスになる学生達が集まって来た。彼らは皆、俺を一瞬見てびくりと肩を震わせる。

 そうそう。この美形がちょっと変わっているだけで、本来なら彼らの反応が当然なんだよ。

 

 

 後に先生もやって来て諸々の説明が終わると、学生同士で自己紹介をする事になった。

 "文学部らしく、自分の名前だけでなく最低限、好きな本のタイトルも言うように"と、先生が言う。それぐらいなら、まぁいいか。

 

 

「園原志人です。あ、ちなみに俺の名前は、志す人と書いてユキトなので。漢字だけ見た時に読み方を間違えないよう、お願いします」

 

 

 自己紹介の最中、俺の隣の美形はそう名乗った。周囲から"へー"とか、"珍しい"なんて声が上がる。……志す人、か……カッコいい名前だな。

 

 

「好きな本は、○○先生の□□シリーズで――」

 

 

 ――何だとっ!?

 

 

「□□シリーズ……!!」

 

「おっ?君も知ってるの?」

 

「あぁ、俺が好きな本もそれだからな。あれは本格推理小説が好きなら絶対に読むべきシリーズだと思うし、登場人物は誰も彼もが人間味溢れていて魅力的だ」

 

「分かる!俺もそう思うよ。トリックや伏線はいろいろ工夫されてて読み応えあるし、探偵役と助手役の関係とか掛け合いも面白いよね!」

 

「激しく同意する」

 

 

 まさか、こんなところであのシリーズの愛読者と出会えるとは!

 

 

「……あー、こらこら君達。好きな本について語り合うのは後にしなさい。特に、まだ自己紹介してない方はそれを終わらせてからにしてね?」

 

「あっ、すみません!」

 

「……すみませんでした」

 

 

 自己紹介は、俺で最後だ。先生に注意されてしまったので、さっさと終わらせてしまおう。

 

 

「……一色(いっしき)影虎(かげとら)。好きな本は、さっきも言ったように……園原と同じです」

 

「カゲトラ?漢字は?」

 

「光と影の影に、動物の虎だ」

 

「おぉ、カッコいい名前」

 

「……そうか?…………俺の顔と同じで、厳つい名前だろ」

 

 

 園原はカッコいいと言ってくれたが、俺はそうは思わない。……実際に、厳つくて怖い名前だと言われた事もある。

 自嘲気味にそう口にすると、園原はあっけらかんといった様子でこう言った。

 

 

「じゃあ、読み方を変えてみたら?」

 

「……読み方を、変える?」

 

「うん。例えば、影を"エイ"、虎を……ちょっと無理やりだけど"ト"と読む事にして、"エイト"ってあだ名にするとか」

 

「エイト……?」

 

 

 エイト。……エイト、か。何だか、悪くない響きだ。

 

 

「カゲトラって名前は、個人的にカッコいいなと思うけど、君が気にするならエイトの方が比較的柔らかく感じるかな、と。そう思って。

 

 ねぇ、君もそう思わない?」

 

「え、オレ!?……ま、まぁ確かにエイトの方が呼びやすい、か?なぁ?」

 

「お、おう。そうだな」

 

「うんうん」

 

 

 園原は不意に、近くに座っていた男に声を掛ける。その男が友人達に同意を求め、そいつらも頷いた。

 

 

「そっちの君達もさ、どう思う?」

 

「は、はい!良いと思いますぅ!」

 

「ユキトくん、ネーミングセンスいいー!」

 

「カゲトラくんよりも、エイトくんで良いんじゃない?ユキトくん、素敵!」

 

 

 次に、園原は派手そうな女子達の方に声を掛けた。……彼女らはイケメンに気に入られる為に同意したのだろうが、それはともかく。

 気がつけば、同じクラスの学生達は皆、俺をエイトとして受け入れるようになっていた。その勢いで皆と連絡先まで交換する事になり、心底驚いている。

 

 

(こいつ……他人を自分のペースに巻き込むのが上手い……)

 

 

 しかも、俺が皆の輪に入ったのが分かった途端。すぐに一歩引いた立ち位置を確保して、あとはニコニコと笑いながら周りの空気に合わせるだけの存在になった。

 

 ……やっぱり、そうだ。園原は本来なら、大勢で騒ぐよりも静かに過ごす事を好む性格なのだろう。

 でも何故か、今回はわざと周囲の人間を巻き込んで、その場の空気を盛り上げた。……おそらく、俺のために。

 

 

 その後は、説明会も自己紹介も終わった事で解散となった。さっさと教室から出て行く園原の後を追って、廊下に出る。

 

 

「園原!」

 

「……一色くん?俺に何か用?」

 

「礼を、言っておこうと思って」

 

「お礼?」

 

「あぁ……ありがとう。さっき、他の奴らをわざと巻き込んで、俺が馴染めるようにしてくれたんだろ?」

 

「んん?……何の事かな?俺は何もしてないよ」

 

 

 園原は、笑顔で惚けた。……お前がそうするなら、一応そういう事にしておいてやろう。でも、感謝は忘れない。

 

 

「というか、わざわざお礼を言いに来るなんて……一色くんは律儀な上に、素直な人だね」

 

「……初めて言われたぞ、そんな事」

 

「えー?本当に?……ふーん、そっか。

 

 

 …………やっぱり他のチャラい奴らとは全然違うな。こいつなら友人になっても大丈夫そう――」

 

「園原?今、なんて?」

 

「あっいや何でもないよ!あはは!」

 

 

 何やら焦っている園原に対し、首を傾げていると……周囲がざわざわし始めた。特に、キャーキャー言ってる女子の声がうるさい。

 その騒ぎが、徐々に近づいて来る。そちらに振り向いた俺は、思わずぎょっとした。

 

 

(…………何だ、あいつ……!)

 

 

 そこにいたのは、帽子を被った男。俺以上に身長が高いし、ガタイもいい。それに、園原に負けず劣らずの美形だ。

 まるで彫刻のような彫りの深い顔に、緑色の目。服の上からでも分かる、筋肉質かつ均整の取れた肉体。さらに、独特の凄みを感じさせる雰囲気……

 

 大学生、だよな?大学生らしくない貫禄だが、少なくとも新入生では無い事は確かだろう。先輩か?……まさか、同じ文学部?

 

 

 そして、次の瞬間。そんなヤバそうな男が、こちらを見て声を上げた。

 

 

「――シド!」

 

 

 よく通る声が、誰かの名前を呼ぶ。

 

 

「おっと、呼ばれた」

 

「えっ」

 

「ごめん。友達に呼ばれたから、もう行くね。それじゃ、一色くん。また明日!」

 

「お、おう。また、な……」

 

 

 ……信じられない事に、それに応じたのは園原だった。シドというのは、園原のあだ名だったらしい。

 

 

(あのヤバそうな奴と、園原が、友達??)

 

 

 彫刻のような美形と合流した涼しげな美形は、周囲の視線など物ともせずに、仲良く会話しながら去って行った。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 あれから、1ヶ月が経過した現在。あの2人の関係は、大学中で噂になっているようだ。

 

 

 園原のおかげで、基礎ゼミで一緒になった奴らと仲良くなれた俺は、噂好きのそいつらから園原達に関する情報を手に入れた。

 

 まず。あのヤバそうな男の名前は、空条承太郎。驚く事に、俺達と同じ新入生だった。

 海洋学部所属であり、入学して早々に海洋学の教授と何やら熱心に難しい話をしていた事から、"海洋学部の天才"などと呼ばれているとか。……意外過ぎる。

 

 次に、園原との関係だが。あの2人は同じ高校の出身で、しかも親友同士だという。……園原が空条に脅されてるとか、そんな関係じゃなくて良かった。

 ちなみに。実際それを疑った連中が園原を心配して、空条がいない時に声を掛けたそうだが、そんなのは事実無根だと、本人が断言したらしい。

 

 あと、園原達は女子学生達から大人気で、早くも空条派か園原派かで分かれたり。

 2人のファンクラブを設立したいと、本人達にお願いする勇者も現れたりしたそうだ。まぁ、どちらにも断られたようだが。

 

 その時2人が断った理由は、"ファンクラブはもう懲り懲りだ"との事。……高校時代でもファンクラブがいたという事か、イケメン共め。爆発しろ。

 

 

(……あ、いや。やっぱり園原だけは爆発しなくていい。彼だけは本当に良い奴だから)

 

 

 ここ1ヶ月の間に、俺と園原はよく話すようになった。履修登録で選んだ授業のいくつかが、たまたま同じだった事もあって、自然と話す機会が増えたのだ。

 そうして会話しているうちに、流れで互いに何故文学部を選んだのかを話す事になったのだが……

 

 

「――小説家?」

 

「……あぁ。俺の目標は、小説家になる事だ」

 

 

 いつの間にか、俺の口は自分の夢まで語ってしまっていた。

 

 

「……小説家になるためには、必ず文学部を選ばなくてはならない……という訳では無い事は、もちろん知っている。

 だが。この学部ならば、小説を書くのに役立ちそうな知識を得られるのではないかと、そう考えてな。ついでに、昔から本が好きだったし」

 

「なるほど……文学部は、ただただ文学作品を読み解くような、そんな講義ばかりじゃない。言語も、歴史も、哲学も学べる。

 多くの知識を得るのに最適な場所だろうね。確かに、小説家という仕事に活かせそうだ」

 

「…………」

 

「……一色くん?」

 

「あ、悪い。……その……お前は、さらっと受け入れて、しかも否定しないんだな」

 

「否定って……小説家を目指す事を?」

 

「あぁ」

 

 

 初めてだ。この夢を話した側から、"似合わない!"とか"その体格で小説家?"とか"お前には無理"とか……そんな類いの言葉を言われなかったのは。

 

 

「明確な根拠も無しに否定なんてしないし、何事もやってみないと分からないだろう?だから俺は、一色くんの夢を応援するよ」

 

「…………良い奴だな、お前は……その言葉、俺の家族に聞かせてやりたい」

 

「家族?」

 

「ずっと前から、小説家になる事に反対されている。……そんな貧弱な職業よりも、考古学を学んで発掘調査員になれって、しょっちゅう言われるんだ」

 

 

 俺の家族は皆、考古学が関わる職業に就いていたり、大学院に通っていたりする。

 職業だけを言うなら、考古学の大学講師とか、発掘調査員とか、考古学の研究員とか、博物館の職員……とかな。

 

 その中で末っ子の俺だけが、考古学関係ではない職業を目指している。あの人達は、それが気に入らないんだろう。

 

 "俺は体格に恵まれているのだから、それを発掘のために活かすのは当然の事だ"……と俺に言ったのは、じいちゃんだったか?

 冗談じゃない。体格が良いから、とか。家族みんなが考古学を学んだのだからお前も、とか。たかがそんな理由で、勝手に俺の将来を決めるな!

 

 

「……そんな感じで家族と喧嘩して、その勢いで家を出て、大学から一人暮らしを始めた。……ふっ、馬鹿みたいだろ?笑っていいぞ」

 

「笑わない」

 

 

 家の事情を語り終えると、園原は真剣な眼差しと声でそう断言した。

 

 

「家族と喧嘩して、勢いとはいえ家出してまで叶えたい夢なんだろ?笑う訳がない。それ程に大事な夢を否定して、馬鹿にして、笑うなんて……そんなの、あり得ない」

 

「…………園原……」

 

「一色くん。……その夢を絶対に叶えて、家族もそれ以外の奴らも見返してやりなよ」

 

「……ありがとう。頑張る」

 

 

 珍しく不敵に笑う園原に向けて、同じ笑みを返した。……不思議だ。園原にそう言われると、本気で絶対に夢を叶えてやろうって気になれる。今までイケメン爆発しろ、とか思っててごめんな。

 

 

「……で、園原は何故文学部に?」

 

「ふふ……君と大体同じ理由だよ。俺も叶えたい夢があるから、そのために文学部を、というかこの大学を選んだのさ」

 

「その夢とは?」

 

「――最高の図書館司書になる事!

 

 俺は本が好きだ。単純に読む事が好きだというのもあるけど、本の存在自体も好きだ。本は時に、生きる術を教えてくれる。

 そんな本の数々に囲まれて、一生を過ごしたい。俺の事を助けてくれた本に、俺なりのやり方で恩返しがしたい。

 

 だから、図書館司書を目指しているんだ」

 

 

 そう語る姿は、俺以上に真剣に見えて……しかしほんの一瞬、悲しそうな雰囲気を感じた。

 

 

「……園原、お前……過去に、何かあったのか?」

 

「え?」

 

「一瞬、悲しそうにしてた……気がする」

 

 

 俺がそう言うと、園原は目を大きく見開き……そして、儚い笑みを浮かべる。それを見て、本当に何かがあったのだと確信した。

 

 

「……一色くんって、実は人の機微にかなり聡いよね」

 

「そう、か?それも初めて言われた」

 

「自覚無いのか」

 

「?」

 

「そうだなぁ。一色くんが相手なら、そのうち俺の過去も話せる……か、も?」

 

「??……よく分からないが、無理して話す必要は無いと思うぞ」

 

「本当にいい子だね、君は」

 

 

 ……同い年のはずなのに、園原は俺の事を子供を見守るような目で見ている。何故だ。

 

 

 そして、この日以来。彼から俺に声を掛けて来る事が急に増えた。

 俺は園原の事を友達だと思っているが、向こうはどう思っているんだろうか?もしも……もしも、俺と彼の気持ちが同じだったら、嬉しい。

 

 

 

 

 

 

 ――さて。そんな、ある日の事。

 

 

「……今、なんて言った?」

 

「いや、だからさぁ。エイトは園原とつるむの止めた方がいいんじゃね?って」

 

 

 ちょうど自分が出席する講義が無い時間帯に、基礎ゼミで同じクラスの奴に呼び出され、突然そんな事を言われた。

 

 

「……何故だ?園原は凄くいい奴だぞ」

 

「いや、まぁいい奴かもしれないけど。あいつ、男好きだって話じゃん?」

 

「は?……何の話だ」

 

「え、知らねーの?最近よく聞く噂で――」

 

 

 そいつ曰く。"園原志人は、同性愛者"という噂が、最近になって急に広まったらしい。

 

 女子学生とつるむ姿はあまり見掛けないが、その代わりに空条や、空条と似た体格の男――多分、俺の事だ――と一緒にいる姿はよく見る。

 それに、女の恋人がいそうな気配もない。それなら、ガタイのいい男が好みの同性愛者なのだろう。

 

 ……なんて話が、学生達の間で話題になっているそうだ。それを面白がっているのか、目の前でその話を得意げに語る男はニヤニヤしている。

 

 

「そういう訳だから、お前も気をつけろよ」

 

 

 そいつのニヤニヤした面を殴らないように我慢して、なんとか頷きを返した。

 

 

 その後。園原と合流した俺は、例の噂話の事を彼にも教える。

 

 

「あちゃあ……ついに一色くんの耳にも届いちゃったか……これは、承太郎がそれを知るのも時間の問題かな」

 

「知ってたのか!?」

 

「うん。承太郎と一色くんに実害が無いなら、放っておいてもいいかと思って」

 

「よくない!!」

 

 

 俺や空条に実害が無いなら放置、っておかしいだろ!?お前自身に実害が出てるのに!

 

 

「……こういうのは、こっちが過剰な反応を見せると、噂を面白がってる奴らが調子に乗っちゃうんだよ。無視するのが正解だと思う。

 

 おそらく。君にこの噂を教えた人間は、そういう奴らのうちの1人だ。

 一色くんの反応を見て楽しみたかったのか、一色くんを通じて俺を揺さぶりたかったのか、あるいはその両方……だろうね」

 

「…………つまり、俺は、いいように利用された、のか……」

 

「多分、そうだと思う。……うん、よし。今後も君が悪い奴らに利用されないために、何か対策を考えておくよ」

 

「……自分のためじゃなくて、俺のために?」

 

「そうだよ?俺のせいで、友達である君に迷惑が掛かってるんだから、なんとかしないと」

 

「…………」

 

 

 友達、と断言された事は嬉しい。しかし、彼のその言い方は自身を蔑ろにしているように聞こえて……素直に喜べなかった。

 

 

 ……その日の講義が全て終わり、大学から出ようと歩いている最中。俺は、園原の事を考える。

 

 彼は、優しい。凄くいい奴だ。でも何故か、その優しさを自分自身に向けようとは思わないらしい。

 他人の事はよく気遣うくせに、自分に関する事は雑に扱う、お人好しだ。……そんなお人好しのために、俺に何か出来る事は無いのか?

 

 周囲の人間が俺を怖がる中、園原だけが、俺に話し掛けてきてくれた。友達として扱ってくれた。その恩を返したい。

 

 

(……ん?)

 

 

 ふと、何かが聞こえたような気がして、足を止めた。……気のせいじゃない。誰かの苦しそうな声が聞こえる!

 咄嗟にそちらへ向かうと、徐々に声が大きくなっていく。声は複数。全て男の声だ。

 

 到着した所には、小さな庭のようなスペースがあった。講義室がある建物の裏側……裏庭、ってところか。こんな場所があったんだな。

 そこで、4人の男達が何やら揉めているようだ。1人が胸ぐらを掴まれ、2人はそれを怯えた様子で見ている。

 

 そして相手の胸ぐらを掴んでいる、最後の1人が――

 

 

(――空条、承太郎……)

 

 

 こんな場所で喧嘩か!?大学の先生達に見つかったらまずいぞ!

 

 

「……てめーら、だよな。俺の親友が同性愛者だって噂を広めたのは」

 

 

 ……何?奴らが、噂を?どういう事だ?

 

 

「なっ、何の話だ!?オレらは何もしてない!」

 

「ほう……この動画を見た後でも、同じ事が言えるのか?」

 

 

 そう言って、空条はスマホを操作し、奴らに動画を見せているようだ。音量を大きくしてくれたおかげで、建物の陰に隠れている俺の所にも、それが届いた。

 

 

 

 

「――――知り合いを片っ端から掴まえて、"園原は同性愛者だ"吹き込んでやったし、それに園原が普段から空条とか、一色だっけ?

 そいつらにくっついてるおかげで、より現実味のある噂になったしな」

 

「……で?園原には、いつ話を持ち掛けるんだ?」

 

「そうだな……噂がもっと広まれば、いつもすかした顔してやがるあいつも、さすがに参るだろ。

 

 その時を見計らって、合コンに誘う。そうすれば、噂を消したいと考えたあいつは、ホモじゃなくてヘテロだって事を証明するために、参加せざるを得なくなる」

 

「で、空条と並んで女子に大人気の園原が合コンに来るって宣伝すれば、その分イイ女がたくさん集まるって事だな!ははは!最高の計画じゃねぇか!」

 

「おい!声がデカイぞ。誰かに聞かれたらどうする――――」

 

 

 

 

 ……そこで、音は途切れた。短い会話だったが、奴らの下衆な企みを知るには充分だった。

 

 

「……動画に映っていたのは、間違いなくてめえらだった。……これで、言い逃れはできなくなったぜ」

 

「そっ、それは、その……!」

 

「す、すいませんでした!!」

 

「オレ達が悪かったです、ごめんなさい!!」

 

「……罪を認めて謝罪する、か。それは大いに結構。だが――

 

 ――だめだね。例えシドがてめえらを許したとしても、この俺が許さん」

 

 

 その宣言には、静かだが相当な怒りが籠められている。あいつにとって、園原はそれ程に大事な親友なのだろう。

 

 

「てめーらには、罰を与える。……1週間だ。1週間以内に、大学内で広まったシドが同性愛者だという噂を消せ。

 あの噂はデマだったと、学生達にそう認識させるんだ。そしてもしも、1週間以内にその噂が消えなかった場合……

 

 この動画を、あらゆる方法で拡散してやる。てめーらがこんな下衆な事を仕出かす野郎共だと、周囲の人間が知ったら……さて?どうなる事やら」

 

 

 うわぁ、悪どい。その動画の拡散はヤバイぞ。多分、女子からの非難が殺到するはず。

 

 

「ひい……っ!!」

 

「お、お願いします!それだけは、それだけは止めてください!!」

 

「……ふっ。今時のネットの力は怖いからなあ。てめえらも、それはよーく知っているらしい……だったら、何をすればいいのか、分かるよな?」

 

「分かる!分かりますっ!!全力で噂を消して来ます!!」

 

「よし。……あ、それからもう1つ。今後、俺やシド、ついでに一色。この3人に接触した場合もアウトって事で、さっきの動画を拡散してやるからな。

 それが嫌なら、二度と俺達に関わるんじゃねーぞ。いいな?」

 

「は、はい!!」

 

「じゃあ、解散だ。……消え失せろ」

 

 

 下衆な企みをしていた奴らは、一目散に逃げ出した。それを見送り、深くため息をついた空条は、こちらに振り向く。

 

 

「……そこに隠れてんのは誰だ?出て来い」

 

「っ、……すまない。つい、盗み聞きしてしまった」

 

 

 まさか、気づかれていたとは。……謝罪しながら姿を見せると、空条は器用に片眉を上げる。

 

 

「一色影虎……そうか、お前だったのか」

 

「俺の事、知ってるんだな」

 

「ああ……俺の親友から、話は聞いている。同じ文学部のダチで、律儀で素直ないい奴だ、ってな」

 

「…………良かった。本当に、俺の事を友達だと思ってくれてるんだな、園原は」

 

 

 今日はちょうど友達だと断言してくれていたし、疑っていた訳じゃないが、他でもない空条の口からもそう聞いた事で、ようやく安心できた。

 俺と園原は、ちゃんとした友達なんだな……うん、良かった。

 

 

「……なるほど、な」

 

「え?……何が?」

 

「……シドが、お前は自己評価が低過ぎるって言ってたんだ。確かに、その通りだな。

 

 自信を持っていいぜ、一色。俺の親友は人を見る目があるからな。

 そんなあいつがお前をダチだと認めたという事は、お前はそれだけ、本当にいい奴だって事だ」

 

「……俺よりも、園原の方がいい奴だ。彼は、お人好しが過ぎる」

 

「なんだ、よく分かってるじゃねえか。……まあ、より正確に言うなら、自分が気を許した相手に限ってお人好しになる、だけどな」

 

 

 と、何やら満足そうに頷いた空条は、俺の顔をじっと見つめる。……俺が首を傾げると、目を細めた。

 

 

「……お前なら、大丈夫そうだな」

 

「うん……?」

 

「シドの事、よろしく頼むぜ。……学部が違うと、万が一の時にあいつの側にいられない事もあるだろう。俺がシドの側にいられない時は、お前に任せたい」

 

「…………俺に出来る事は、あるのか?俺はあのお人好しのために何かしてやりたいと思ってるが、具体的に何をしてやればいいのか、分からない」

 

 

 せっかくだからと、先ほど考えていた事を聞いてみる。すると、空条は緑目を大きく見開き、それから……子供を見守るような目で、俺を見る。

 デジャビュ。確か以前、園原にもこんな目で見られたよな?何故だ??

 

 

「……簡単だ。シドを支えてやればいい」

 

「園原を、支える?」

 

「ああ……友人として、お前なりのやり方で、シドを支えてやってくれ」

 

「……その支え方が分からないんだが」

 

「心配するな、一色。お前なら、自然とそれが出来るはずだ」

 

「……うーん?」

 

「くくく……ッ!」

 

 

 俺がこんなにも悩んでいるというのに、空条は楽しそうに笑っている。解せない。

 

 

「……気に入った」

 

「え?」

 

「おい、一色。携帯出せ。連絡先交換するぞ」

 

「あ、あぁ。分かった」

 

 

 空条は、園原以外の人間には興味を持たないんじゃないかと、そう思っていたんだが……違ったのか。それは良かった。

 

 

「それから……今日見た事は、シドには何も話すなよ。あいつには、余計な心労を掛けたくない。

 事情を全て話せば、自分のせいで俺やお前に迷惑が掛かったと、変に勘違いして自分を責めちまうからな」

 

「……分かった。園原には何も言わない。……しかし、さすがは彼の親友だな」

 

「ん?」

 

「今日、園原がちょうど似たような事を言ってたんだ」

 

 

 そう言って、俺が同じクラスの奴に利用された事。園原が既に噂を知っていた事。

 そして、彼の自分を蔑ろにするような発言について、空条に説明する。……空条は、渋い顔になって口を開いた。

 

 

「……やれやれだぜ。あいつは、全く……そういう所は本当にいつまで経っても変わらねえな……

 

 一色。これからもたまに、シドの話を聞かせてくれないか?その代わりに何か礼を、」

 

「お礼なんて、いらないよ。たまに園原の話をすればいいだけだろ?分かった、引き受ける」

 

「……すまない。頼む」

 

 

 園原だけじゃないな。空条も、親友想いの良い奴だ。……お前も、今までイケメン爆発しろとか思っててごめんな。

 

 

 その後。連絡先を交換した俺は、"1人で考えたい事があるから"とその場に残る空条と別れて、帰路についた。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 そして……1週間が経過した頃。例の噂は、既に聞こえなくなっていた。下衆な企みをしていた奴らが、あの動画の拡散を防ぐために頑張ったんだろうな。

 

 "あの噂、デマだったんだってさ"……と、つまらなそうに俺に話したのは、あの日俺に噂を吹き込んだ、同じクラスの男だった。

 それ以来、奴とは距離を置いている。園原の、俺の友達の噂を面白おかしく話していたあいつには、もうあまり関わりたくない。

 

 

 で、肝心の園原本人はというと、

 

 

「少なくとも、この一件で承太郎と一色くんに迷惑が掛かる事は、もう無さそうだね。良かった」

 

 

 ……と、呑気に笑っていた。お前はもっと自分を大事にしろよ!?

 

 

「あ、そうだ。一色くんって、普段は誰とお昼食べてる?」

 

「……誰とも食べてないが」

 

「えっ!?」

 

 

 彼のおかげで、基礎ゼミの同じクラスの奴らとは仲良くなれたが、昼食を共にするような奴はいない。

 実際、誘われた事も無いし。……別に。別に、寂しくなんか、ないぞ。1人で飯を食べる事には慣れている。

 

 

「なんだ、それならもっと早くに誘っておけばよかった」

 

「ん?」

 

「――って事で、今日のお昼は俺と承太郎と3人で食べようね。はい、決定!」

 

「なっ、」

 

 

 何、だと……!?

 

 

 

 

 

 

「…………2人が既に知り合っていて、しかも連絡先まで交換してたなんて、俺知らなかったんだけど?」

 

「悪いな。言い忘れてた」

 

「えー……?なんか仲間外れにされた気分」

 

 

 昼休みに入り、園原に引きずられる形で食堂までやって来た。そこには既に空条が待っていて、珍しくきょとんとした顔で俺達を出迎えた。

 そして現在。4人席に座る俺の目の前には、子供のように拗ねている園原と、そんな彼を見て苦笑いを浮かべる空条が、隣り合わせで座っている。

 

 

 周りの視線が、痛い。……強面モブの俺なんかがイケメン2人と一緒にいてすみません。

 

 

「……えっと、園原?」

 

「んん?」

 

「何故、俺を誘ったんだ?今までは空条と2人で昼飯を食べてたんだろ?」

 

 

 この2人が、自分達以外の別の誰かと一緒に飯を食っている姿は、おそらく誰も見た事が無い。昼休み中、彼らは必ず2人で行動していたから。

 ……という情報を耳にしたのはかなり前の話だが、今でもそれは変わらないらしい。そのはずが、今回は何故か俺を誘った。

 

 

「何故って……例の噂も落ち着いたし、そろそろ君の事を承太郎に紹介したいなって思ったからだよ?

 まぁ、何故かお2人さんは?俺を仲間外れにして?いつの間にか知り合ってた訳ですけど?」

 

「……悪かったって、シド。機嫌直せよ」

 

「俺のご機嫌を取りたいなら、その美味そうな照り焼きを献上しなさい」

 

「ほらよ」

 

「わーい」

 

 

 俺の問い掛けに対し、あっさりと答えた園原。……空条の弁当から照り焼きをもらって、ご機嫌である。

 食べ物で機嫌直すとか、本当に子供みたいだ。というか、空条も園原も見るからに美味そうな手作り弁当なのだが?

 

 どちらも1人暮らしだと聞いているし……つまり、あれは自分達で作ったのか。凄いな。

 

 

「……俺がいても、2人の邪魔になるんじゃないか?」

 

「まさか!それは無い!」

 

「俺も。他の奴らはお断りだが、一色なら歓迎する」

 

「それは、ありがたいが……本当にいいのか?」

 

「大丈夫、大丈夫。――だから、何か困った事があったらすぐに俺達に言って。君は大事な友達だから、遠慮しなくていいからね!」

 

「……シドが友人として認めたのであれば、俺にとっても一色は友人だ。他の奴らに文句は言わせねーよ」

 

 

 彼らの声は、よく通る。周囲がざわざわし始めた。そして、周囲の反応を気にしている様子の園原達。…………嗚呼、そういう事か!

 

 

「園原」

 

「んん?」

 

「……今のが、"対策"なんだな?」

 

 

 俺が、同じクラスの男にまんまと利用されてしまった時。それを知った園原が、俺のために何か対策を考えると言っていた。

 その対策が、これだったのでは?こんなに学生が集まっている食堂で、声を大にしてそんな事を言えば、周囲の人間は俺に対して迂闊な行動は取れなくなるだろう。

 

 

「…………あはは、バレた?」

 

「ほう?お前並みに察しが良いな」

 

「鋭いだろ、彼」

 

「ああ」

 

 

 やっぱり、そういう事だったらしい。

 

 

「……気を使わせて、すまない。何かお礼が出来ればいいんだが……」

 

「お礼?……んー、じゃあ1つだけお願い」

 

「何だ?」

 

「これからも、お昼は俺達と一緒に食べよう。ね?」

 

 

 ニコニコと笑う園原と、それとは対象的に無表情の空条。……しかし共通しているのは、何故かひしひしと感じる、"まさか、断らないよな?"という圧。

 

 

 俺は、苦笑いで頷いた。そんなに圧を出さなくても、ぼっち飯から脱却できるんだし、最初から受け入れるつもりだったよ。……嘘じゃないぞ、本当だぞ?

 

 

 

 

 

 

 






 おかげ様で、この作品がpixivの方でランキング入りしました!読者の皆様、閲覧していただきありがとうございます!

 なお、作者はまだ戸惑っております笑

 今までランキングに入った事が無かったのに、何故いきなり……?本当にランキング入りの基準が分かりません(・・;)

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