・読者様からリクエストを頂いたので、「他キャラ達から見た男主」の話を投稿します!
・内容は徐倫、ジョセフ、アバッキオ、ツェペリ男爵、承太郎の5人から見た男主の話。徐倫視点から順番にご覧ください!
――俺は、知っている。
(あいつが、根っからの聖人君子では無い事を)
――俺は、知っている。
(あいつが、心の奥深くに厳重に仕舞い込んでいる、どす黒い感情の事を)
――俺は、知っている。
(あいつは……俺の親友はきっと、そのどす黒い感情を死ぬまで捨てる事が出来ないだろう、と――)
―――
――――――
―――――――――
大学生活中の、春休みの事だ。その日、俺はシドの自宅に泊まっていた。
俺達の体格差の問題で、ベッドを使うのはいつも俺だった。その日も申し訳なく思いながら、ベッドを貸してもらった……そんな、真夜中に起こった事件。
「――――っ!!」
誰かの叫び声が聞こえ、眠っていた俺は飛び起きた。慌てて、志人の安否を確認する。
「志人ッ!どうした!?何、が……?」
寝室の扉を開けると、ソファーで項垂れている志人の姿があった。周囲に人の気配は、無い。イージスの姿も無い……
という事は、少なくとも敵襲ではない、か。ひとまず安心だな。
「……いきなり叫び声が聞こえたから、何事かと思ったぜ。悪い夢でも見たか?」
「…………」
「……シド?」
声を掛けても、反応が無い。それに首を傾げつつ、彼の肩に触れようとした。
「おい――」
「――触るなあぁっ!!」
「っ!?」
突然豹変した志人は、肩に触れようとした俺の手を強く払った。血走った目で俺を睨んでくる。……しかし、それはすぐに何かに怯えるような目に変わった。
「…………承、太郎……?」
「あ、ああ……俺だぞ。どうした?」
「……お、れ……嗚呼、ごめん、ごめん承太郎、ごめんなさい……!!」
「志人……?」
彼の顔から血の気が引いた。志人は何故か、俺に謝りながらソファーの上で後退りしている。どういう事だ?
困惑しながら再び手を伸ばすと、彼はますます怯えた様子で俺から離れようとする。
「志人、」
「俺に、触らないでくれ……」
「……何故?」
「汚れてるから」
「は?」
「俺の手が、真っ赤なんだ」
その言葉に、思わず志人の手を見る。……当然、その手は汚れていない。赤どころか、血の気が引いているせいで真っ白だぞ?
「……よく見ろ。お前の手は汚れていない」
「嘘」
「嘘じゃねえよ」
「嘘だ――だって、この手で、あのクソ野郎を、殺した……」
「……は?」
「ナイフで刺した。体中刺した。俺の手も体も全部……あの野郎の血で、真っ赤だ……」
…………まさか、悪夢を見た影響か?おそらく志人は夢の中で、あのクソ野郎……志人の父親を、殺してしまったのだろう。
それが現実であると、錯覚しているんだ。夢と現実の区別が付いていない……
「……安心しろ。それはただの夢だ。お前はもう、目を覚ましている」
「…………夢」
「そう、夢だ。落ち着いて、周りをよく見ろ。ここは、お前が大学生活を始めたアパート。お前の家だ。
俺は今日、この家に泊まりに来たからここにいる。……ほら、あのクソ野郎なんて何処にもいねーだろ?」
「…………そう、か……夢、だったか……」
「ああ、そうだ」
どうやら、やっと完全に目を覚ましたらしい。ほっとした。
「……分かったら、もう1回寝とけ。まだ眠いだろ?」
「うん……」
「それか、寝るのが怖いなら今からでも話は聞いてやるが…………志人?」
志人は俺の言葉に頷いたが、自分の両手を……震える手を見下ろすだけで、反応が返って来ない。
「志、」
「血では、汚れてないけど、さ」
「……ん?」
「俺、元々汚れて……穢れているんだ」
「はあ?」
こいつが、穢れている?他でもない志人が穢れているなら、それ以外の奴らも全員穢れている事になるぞ。
それ程に、志人は"穢れ"なんて言葉とは無縁のはずだ。……そう言おうとした、その時。志人の顔が上がった。
昏い瞳と、歪んだ笑みを浮かべる口元。
……ぞっとする。親友のこんな顔を見たのは、初めてだ。
「……だって――だって俺の体の半分は、あのクソ野郎の穢れた血で出来てるじゃねぇか」
ひゅっ、と。息を呑む。
「本当は、この体からあの野郎の血を綺麗さっぱり抜き取ってやりたい。でも、駄目なんだ……
この体のもう半分は、俺の大好きな母さんの血で出来ている……あのクソ野郎の血と、母さんの血が混ざりあって出来た体なんだ」
「――――」
「俺の体には、憎くて怨めしいあの野郎の血だけでなく、優しくて愛おしい母さんの血も入ってるんだ。
どんなにあの野郎の血が穢れていても、これじゃあ抜き取れないだろ……」
「…………志人……」
「じゃあ自殺でもすればいい?違うな。これは母さんからもらった大事な血、大事な体、大事な命だ。
捨てられる訳がない、自ら傷つける事も許されない、死ぬ事も赦されない――!!」
「――志人ッ!!」
彼の両肩をガッと掴み、無理やりこちらに向けさせる。……そうしても、昏い瞳と、歪んだ笑みを浮かべる口元は変わらない。
俺ではない、何処かを見ているような……焦点の合っていない目。頼む、俺を見ろ。見てくれ。戻って来い……!!
「…………結婚だけは、しない……絶対に子供を作らないって、決めてるんだ」
「……子供……?」
「――あのクソ野郎の血を、出来る事なら、一滴たりとも後世に残したくないから」
「――――」
「……あの野郎が万が一また結婚して、俺の腹違いの兄弟を作っていたらと想像すると反吐が出るが……さすがに、そこまでは対処し切れない。
だからせめて、俺から繋がる血は絶っておかないと。……亡くなった母さんに、墓の前で孫の紹介ができなくなるのは、悪いなと思うけど。
でも、そうでもしないと、俺が堪えられない。あの野郎の血が混ざった自分の子供を、愛せる自信が無い……!」
「志、人……」
「ほら、な?こんな事しか考えられない俺は、心まで汚れてる……体も、心も、全部、穢れて、」
その言葉を聞いた瞬間。志人の手を強く引き、その体を抱き締めた。激しく抵抗されても、逃がさない。絶対に、離さねえ。
「離せ!離せよ、やだっ、承太郎、お前が汚れるから!穢れるから!!離せっ!!」
「嫌だ」
「"嫌だ"は俺の方だっ!!離せって!」
「嫌だ……!」
「やめてくれ!お前を穢したくない――」
「――喧しいッ!!てめえこそ止めろ!これ以上自分の言葉で自分を傷つけるな!!」
「――――」
「頼む、……っ、やめてくれ……志人……!!」
……気がつけば、俺達は2人揃って泣いていた。泣きながら、互いを抱き締めていた。
「――――俺は、知っている」
(あいつが、根っからの聖人君子では無い事を。あいつが、心の奥深くに厳重に仕舞い込んでいる、どす黒い感情の事を。
あいつは……俺の親友はきっと、そのどす黒い感情を死ぬまで捨てる事が出来ないだろう、と――)
・親友君のどす黒い感情を知った承太郎君
今回の一件で、ただでさえ園原へのクソデカ感情を抱いていたところに、ますますクソデカ感情が加算された。
初めて見る、園原の歪んだ表情。父親に対するどす黒い怨みの感情。そして、自分の言葉で自分を傷つけている姿……
それらを目の当たりしてしまい、さすがに堪えきれず、園原を抱き締めて涙腺崩壊。
実は、親友の事を最も理解しているのは俺だと、無意識にそう思い込んでいた自分自身に腹を立てていた。
しかし。既に園原のどす黒い感情を"知っている"自分なら、何があっても園原を死ぬまで支える事が出来ると、自負している。友愛が重過ぎる。
・実は父親をかなり怨んでいた親友君
もしも、父親への恐怖心よりも怒りの方が強かった場合。原作のディオのように、ガチで父親を殺していた可能性が高い。
自分の体に流れる父親の血が憎い。しかし半分は母親の血であるため、愛しさと憎悪が混ざり、心の奥底はどす黒い感情でぐちゃぐちゃ。
今回は父親を殺す悪夢を見た事で心がボロボロになり、普段は厳重に仕舞い込んでいるその感情が、表に出てしまった。
後世には出来る限り、憎い父親の血を残したくない。故に子作りは論外。あと、献血も緊急時を除いて出来ればやりたくない。
承太郎には真夜中の事件について触れて欲しくないのだが、また悪夢を見たらと思うと怖いので、年に一度、今回悪夢を見た日と同じ日の夜は、彼の側で眠ると決めている。
なお。悪夢を見た日は、母親の命日だった。
父親を殺す悪夢が、新たなトラウマとなってしまった。本人が父親への憎悪を捨てない限り、このトラウマは消えない。
つまり、今後一生付き合っていかなければならないトラウマである。……ただし――
「――俺の本体は、決して孤独ではない」
※「ウィル・A・ツェペリ、曰く――」の、その後。イージス視点。
志人は私設図書館から出て、寄り道もせずに、ある場所へ向かっている。
俺の本体の心は今、かなり不安定だ。この状態なら俺が勝手に姿を現して、彼に寄り添う事もできるけど……俺はあえて、姿を見せなかった。
このまま俺が外に出たら、志人は自分の心がどうなっているのか、目に見える形で分かってしまうから。
――体中がどす黒くなった、自分の体を見つめる。……肌も、鎧も、翼も、杖も。その全てが黒く濁っていた。
10年ほど前。志人が初めてあの胸くそ悪い悪夢を見た日も、俺はこの姿を志人と承太郎に見せくなかったから、本体の心の中に閉じ籠っていたんだ。
こんな姿を見たら、承太郎はますます悲しむだろう。志人はますます、自分の体に流れるクソ野郎の穢れた血を憎むだろう。
何よりも大切な2人の心を護るために、この時だけは、姿を見せてはいけない。
……目的地に到着した頃には、既に日が暮れていた。志人は目的地の扉の前で、ドアチャイムを鳴らす。
合鍵持ってるんだから、勝手に入っちゃえばいいのに。志人はいつも、中に家主がいると分かっている時はそれを鳴らすんだ。全く、俺の本体は真面目だなぁ。
「――おかえり」
「…………ただいま」
家主――承太郎は、温かい笑顔で志人を出迎えてくれた。たったそれだけで、志人の張り詰めた心が和らいでいくのを感じる。
志人を中に招き入れると、承太郎は彼を見て目を見開く。それから、玄関の脇にあるカレンダーを見た。
「……今日は、命日じゃねえよな。そもそも3月はとっくに過ぎている」
「!」
「何があった?」
少し顔を見ただけで、いろいろ察してくれたようだ。さすがだね、我らが親友。
「…………ウィルさん、が……」
「……あの人が、どうした?」
「俺の心が、美しい、って……」
「…………」
「冗談きついぜ……本当に……」
「…………そうか」
承太郎はそれ以上何も言わずに、無言で志人を抱き締めて、頭を撫でてくれた。
彼は、志人の事を否定しない。
志人が"自分の心と体が汚れてる、穢れてる"と言い始めると怒るけど、それはあくまでも、自分の言葉で自分を傷つけている事に怒っているだけ。
志人の発言そのものを否定している訳じゃない……それが、志人にとっては救いになっているんだ。
――例え、志人の体に穢れた血が流れていても、承太郎は彼を拒絶しない。受け入れてくれる。
志人の体を抱き締めたり頭を撫でたり、彼の発言を否定しないようにしたりして、その意思を態度で示しているんだ。
多分、今の志人に"お前の心と体は穢れていない"と言っても、彼には通用しないと分かっているんだと思う。
志人の両手が、承太郎の大きな背中に回される。……彼に縋り付きながら、志人は安堵のため息をついた。
再び、俺の体を見つめる。――徐々にだが、体の色が元の純白に戻って来た。あとは、今日1日承太郎と一緒にいれば、明日には元通りになっているはず。
こんな風に、俺の体の色が無事に元通りになっていくのを見る度に、俺は安心する。
(――志人は、1人じゃない)
彼には今もこうして、支えてくれる人がいる。心がどす黒く染まっても、それを綺麗に元通りにしてくれる人が、側にいるんだ。
……ただ。できれば、志人の半身である俺も側にいるって事を、忘れないで欲しいんだけどなぁ?
イージスホワイト、曰く――
「――俺の本体は、決して孤独ではない」