空条承太郎の親友   作:herz

3 / 29


・「空条承太郎の友人と、いつかの未来」でディオが有名になり、旧図書館組の写真がSNS内で一時的に出回ってしまった後の話。

・図書館や大学について、ご都合主義、捏造過多。オリキャラが登場します。

・途中モブ視点が入りますが、それ以外は男主視点。




園原「准教授様の研究室に、差し入れ持ってお邪魔しまーす!」

承太郎「大歓迎」

モブ院生 (超仲良しじゃねぇか!?)




空条承太郎の親友は、思わぬ繋がりを知る

 

 

 ――図書館職員の朝は、早い。

 

 開館前にやらなければいけない仕事が、いくつかあるのだ。特に、俺が勤めている図書館はそれなりに広いし蔵書数も多いから、その分仕事も多い。

 この図書館は朝9時に開かれるため、その1時間前の8時から勤務開始となる。出勤したら、まずは朝礼中に職員同士で今日の業務連絡。

 

 それが終わったら、閲覧用の朝刊を今朝の物に変える。館内にいくつか設置されている検索機を立ち上げる。図書館の入り口付近を掃除する。

 返却ポストを確認し、本の返却手続きをして定位置へ戻す。本棚にある書籍の数々を整理する。利用者から予約希望のあった本を探して確保する……とまぁ、その他にもいろいろだな。

 

 開館時間になると、徐々に人の行き来が増えて来た。今日は日曜日だから、平日よりも利用客が多くなる。忙しくなるだろう。

 

 

 今日の俺は、午前中に受付業務。午後は事務室に引っ込んで、本の修繕。それから、新しく購入する本や、館内で行うイベント等を決める会議に参加する予定だ。

 

 うちの図書館の館長は人脈が広く、イベントの時は大体、館長の知り合いである様々な分野の先生を招き、その人中心のイベントが開催される。

 前回は所謂メンタリストの方が、人間の心理を利用した簡単なマジックを教えるイベントだったな。大人も子供も楽しんでくれたようで、なかなか好評だった。

 

 

「――こんにちは」

 

「いらっしゃいませ。今日も3階に?」

 

「うむ。最近買った新刊を、ゆっくり読もうと思ってね。……この本なんだが」

 

「あ、それ知ってます!読み応えありますよね、そのシリーズ。実は、そのシリーズをこの図書館に入れないかと、館長に提案するつもりでいるんです」

 

「おぉ、それは良いな。期待しているよ」

 

 

 開館から、しばらくして。数年前から常連になっている、ロマンスグレーの紳士がやって来た。なお、顔見知りではあるが名前は知らない。俺も名乗っていない。

 

 

 この図書館は3階建てになっていて、1階から3階で住み分けされている。

 

 1階には漫画やライトノベル、児童書、趣味本などが置かれており、小中学生や高校生の利用客が多い。フロア自体の配色や雰囲気も明るい。

 それに対して、2階には人文書、実用書、文芸書が置かれている。利用客は大学生や社会人、受験生が多く、フロア全体が静かで落ち着いている空間だ。

 

 そして、3階。ここにはカフェが併設されており、自宅から持参した本や、その日借りた本をここで読みたいという利用客がよく訪れる。目の前にいる紳士も、そのうちの1人だった。

 図書館利用カードを持っている客であれば割引が利くし、カフェスペースも日当たりの良い場所で心地が良いと、利用客の間で話題になっているらしい。

 

 

 ロマンスグレーの紳士の来訪から、数時間後。俺は昼休憩のために、手作りの弁当を持って3階にあるカフェに向かった。

 ここは図書館職員にも人気の場所だ。職員達の中には、休日なのにわざわざここに来て本を読む奴もいるぐらいだしな。俺は大体、仕事の休憩時間中に利用する事が多い。

 

 

「あのー、すみません」

 

「…………」

 

「ちょ、ちょっといいですか?」

 

「え?……あぁ、俺ですか?」

 

「そうです!」

 

 

 ……気づかなかったふりをしたかったが、肩を叩かれたのでそういう訳にもいかなくなった。人目が無かったらガン無視したいところなんだが。

 俺に声を掛けて来たのは、若い女性だ。服装は私服だが、確かこのカフェの店員だったはず。彼女の顔は、何度か見掛けた事がある。

 

 彼女は俺の隣に座り、スマホの画面を俺に見せた。同席を許可した覚えは無い。

 

 

「この写真に写ってるの、あなたですよね?」

 

 

 ――以前、旧図書館組で夕食をした時の写真だった。……ディオや財団職員が写真を軒並み消して回ったと聞いていたが、やはり完璧には消せなかったようだな。

 写真が出回った直後に保存されてしまったものについては消去が難しいと、ディオ達も言ってたし。

 

 

「……人違いです」

 

「嘘はダメですよ?図書館職員の1人に、ちゃんと確認取りましたから」

 

 

 SNSで俺の個人情報が流れたのも、その図書館職員のせいかもしれない。

 そういう事をやらかしそうな奴ら数名に、心当たりがある。おそらく、そのうちの誰かがこの女に情報を売ったのだろう。

 

 

「この人が、今話題のサイバーセキュリティー会社の社長さんでしょう?で、こっちの人が考古学者の人」

 

「さぁ?どうでしょうね」

 

「それから大学病院のお医者さんと、海洋学者……特にこの海洋学者の人、本当にカッコいいですよね!」

 

「はぁ、そうですか。……ところで、あなたはどちら様でしょうか?」

 

「あ、私は――」

 

 

 女は名乗った後、一方的に話し出した。何を企んでいるのか、俺以外の旧図書館組の情報を求めているようだ。何を言われても、のらりくらりとかわす。

 こっちは実年齢30代、精神年齢40代のオッサンだぜ。嘗めるな。

 

 騒ぎは起こさないように静かに、落ち着いた対応を心掛ける。すると、相手は何も情報が得られない事に焦ったのか、ついには色仕掛けまで使って来た。

 

 今世が三度目の人生であるせいか、そういった欲が非常に薄い今の俺には、それも通用しない。

 その上、今世ではいろんな人から女性のあしらい方を教わったからな。学生時代と比べて、今ではほとんど動揺しなくなった。

 

 

 ちなみに。女性のあしらい方を教えてくれたのは、承太郎、ディオ、アバッキオ、ブチャラティ、シーザー、プロシュートなどなど……錚々たる顔ぶれである。

 

 なお、ジョセフやポルナレフは論外。女性のあしらい方どころか、口説き方を伝授しようとしてくる始末だった。

 特に、ジョセフ先輩。俺は今世で誰かと結婚する気は全く無いので、スージー先輩へのプロポーズの時の話をされても反応に困ります。

 

 

 そして、閑話休題。……つーか、しつこ過ぎるぞこの女。

 しかもいつの間にか、承太郎達の情報を集めるよりも、彼らを紹介して欲しいという要求にすり替わっている。何らかの目的よりも、自分の欲望を優先させているようだ。

 

 

「せめて海洋学者の人……名前は確か、空条承太郎さんでしたっけ?その人だけでも紹介してください!」

 

「友人からは、そういった用件は全て断るようにと頼まれております」

 

「そこを何とか……!」

 

 

 さっきから、財団からの任務を遂行する際の仕事モードで冷たくあしらっているのだが、全く話を聞いてくれない。昼も食べ終わったし、そろそろ終わらせたいところ、

 

 

「失礼。ちょっといいかな?お嬢さん」

 

「……何?今は彼と話してるのよ。邪魔しないで」

 

 

 その時。常連客である、あのロマンスグレーの紳士が女に声を掛けた。どうやら、俺を助けようとしてくれているらしい。

 

 

「話しているというか、私にはお嬢さんが彼に迷惑を掛けているようにしか見えなかったのだが?」

 

「はぁ?ちょっと、オッサン。変な勘違いしないでくれる?アンタの方が迷惑よ」

 

 

 てめぇの方が迷惑だよ。つか、ロマンスグレーのイケオジ紳士さんに対してオッサンとか、超失礼だろ。

 ……お客様に、これ以上ご迷惑を掛ける訳にはいかないな。さっさと話を終わらせないと。

 

 

 ポケットに手を突っ込み――先程から起動させていたICレコーダーを取り出し、それを再生した。中身は女が名乗る前から、今までの会話の音声記録。

 旧図書館組で外食したあの日に隠し撮りされていた事を知った日から、これを肌身離さず持つようにしていた。今回のような、万が一の時のためにな。

 

 ICレコーダーからは、一体どうやって知ったのか、俺達旧図書館組の個人情報をベラベラと喋る声も、俺の意思を無視して強引に話を進めている声も聞こえる。

 うん。これならやり方次第でプライバシー侵害とか、その他諸々の罪を問う事もできるだろう。

 

 

「な、……何、それ」

 

「今までの会話の記録ですが、何か問題でも?……では、お嬢さん。状況が理解できたところで、取引しよう」

 

 

 ――このレコーダーの音声を完全に消去する代わりに、そっちも例の写真のデータを消してくれないかな?

 ニッコリと、わざとらしく微笑みながら話を持ち出せば、女は顔色を悪くして即座にデータを消した。俺もそれに合わせて、女の目の前で音声データを消去する。

 

 

「今後、俺やあの写真に写っていた彼らに関わらない事。この場から大人しく立ち去る事……そして今すぐ、そちらの男性に誠心誠意、謝罪する事。

 これらの条件を呑んでくれたら、先程までの出来事は忘れてあげるけど……さぁ、どうする?」

 

 

 女は俺の言葉に何度も頷き、紳士に謝罪してから立ち去って行った。それを見送った俺は椅子から立ち上がり、彼に向かって深く頭を下げる。

 

 

「お客様にご迷惑をお掛けしてしまい、大変申し訳ございません。先程のお気遣いに対しても、深く感謝申し上げます。ありがとうございました」

 

「あ、いやいや。謝罪は受け取るから、どうか顔を上げて欲しい。……あの様子だと、私の手助けは必要無かったようだね?」

 

「いえ。あれ(・・)を追い払う良いきっかけになりましたし、あなたのお気持ちにも本当に心から感謝しています」

 

「…………女性をあれ(・・)扱い、か。見た目は優男なのに毒舌とは、意外だ」

 

「時と場合にもよりますが、私は"身内に甘く、他人に厳しく"をモットーにしております」

 

「はははは!なかなか面白い若者だね」

 

 

 他人に対してもお人好しだった若い頃が懐かしい。今では明確に身内と他人を区別するようになり、この前承太郎にも"他人へのお人好しが鳴りを潜めた"と言われたぐらいだ。

 

 そんな俺の事を、興味深そうに観察するイケオジ紳士。

 

 

「私は、四方(よも)大也(だいや)という。……以前から聞こうと思っていたんだが、良かったら君の名前も教えてくれないか?」

 

「四方さん、ですね。私は園原志人と申します」

 

 

 そう名乗ると、彼は何故か納得した様子で頷く。

 

 

「――やはり、君がそうか」

 

「えっ?」

 

「いや、こちらの話だよ。……では、私もそろそろ失礼する。次の休日にも利用させてもらうよ」

 

「あ、はい。またのご利用を、お待ちしております」

 

 

 気になる発言を残し、彼は立ち去って行く……と思いきや、こちらに振り向いて笑った。

 

 

「君の親友によろしくね、シド(・・)君」

 

「――――」

 

 

 さらに爆弾を落として、今度こそ立ち去った。……後に、承太郎に四方さんの話をした俺は、その正体を知って驚愕する事になる。

 

 

 

 

 

 

 あ、ちなみに後日。

 

 俺だけでなく、承太郎、ジョナサン、ジョルノにも探りを入れて来た人間達がいて、そいつらがとある出版社の記者達と繋がりがあった事が、財団による調査で判明。

 

 その出版社は、一躍時の人となったディオへの取材中に、しつこく追及してきたり失礼な真似をしたりと彼を不快にさせたため、その取材を全面的にお断りしたばかりだったとか。

 俺達に探りを入れられた事に大変お怒りになったディオ様は、財団と協力して、その出版社にとって都合の悪い情報やその証拠などを集め、出版社側に突き付けて脅迫もとい、警告した。

 

 実は俺も、その証拠集めにちょっとだけ協力している。――ICレコーダーだけでなく、スマホの音声アプリでもこっそり録音しておいた音声記録を、財団側に提供したのだ。

 

 スマホでの録音は、イージスにやってもらった。スマホの周りに不可視のバリアを張っておけば、空中に浮くスマホ、なんて不思議な状況を目撃されずに済む。

 あとは普通に録音するだけだった。……いやー、スタンド能力って本当に便利。一般人には基本的に見えないからな。

 

 それから。俺達に探りを入れて来た人間達は全員、財団職員達によって秘密裏に確保され、プッチ神父のスタンドで記憶DISCを抜き取り、俺達の個人情報などの記憶を改竄した上で解放。

 記憶を改竄された奴らは、俺達の職場の関係者である学生や社会人だったのだが……全員がそれぞれの理由で自ら退学、及び退職。記憶を上手く改竄する事で、そうなるように誘導したらしい。

 

 ディオからその話を聞いてさすがに同情した俺は、そいつらに対して心の中で合掌しておいた。強く生きろよ……

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 この大学・大学院には、大学生から院生まで大人気の先生がいる。

 

 空条准教授。最近、30代という若さで准教授になった海洋学者だ。……オレは、そんな彼が持つ研究室に所属している院生である。

 あの先生は基本的に静かで、無駄話とかはしないから少し取っ付きにくいが、講義は聞いていてためになるし、とても分かりやすい。

 

 うちの研究室には、真面目に研究をやりたい院生や研究員が揃っているから、彼みたいなタイプの先生の方がありがたいと思う。

 

 

 そんな、ある日のこと。日が暮れて帰宅時間が近づいて来た時、空条先生が突然こんな事を言った。

 

 

「……これから、私の友人がこの研究室に来る」

 

「えっ!?」

 

 

 声に出して驚いたのは、空条先生に心酔している助教の男。しかし、オレを含めた院生や研究員達も、声には出していないが驚いている。

 

 

(きっと、噂の"友人様"だ!)

 

 

 以前。空条先生に向かって気さくに話し掛ける、先生に負けず劣らずのイケメンが現れたという噂が流れ、一時期大学中で話題になった事がある。

 

 普段は寡黙な空条先生が、その人と話している時はよく喋っていたとか。凄く仲が良さそうだったとか。

 また別の日に、学生からその人の事を馬鹿にされて、怒りのあまりボールペン1本を片手でへし折ったとか……

 

 そんな噂が広がるうちに、誰かがその謎のイケメンの事を"友人様"と呼び始めて、いつの間にかそれが定着していた。

 

 

「……今から少し席を外すが、もしもその間に私の友人……園原志人と名乗る男が来たら、ここで待つように伝えて欲しい」

 

「はっ、はい!分かりました」

 

「ん、頼む。……あいつの容姿は、黒髪で眼鏡を掛けている美形だ。一目見れば分かるだろう。では、行って来る」

 

 

 そう言って、先生は退出した。

 

 

「空条先生が美形と認める程の友人!?」

 

「やだ、気になるじゃない……!」

 

「こら、そこ!手を止めない!空条先生のご友人が来る前に、せめて研究資料や機材の片付けだけは確実に終わらせるように」

 

「はーい」

 

 

 一体どんな人なのかと、院生と研究員達が話し合う前に助教に叱られてしまったので、片付けに集中。

 やがて、それが終わった頃。研究室の扉がノックされた。ちょうどその近くにいたオレが扉を開けると、

 

 

「――こんばんは。……園原志人という者ですが、空条はいますか?」

 

 

 あら、びっくり。そこには眼鏡の似合うイケメンが……って、この人が"友人様"か!

 

 

「あ、あ、あー、えっと、」

 

「園原さんですね?空条先生はただ今席を外しておりますので、中でお待ちいただけますでしょうか?」

 

「分かりました。失礼します」

 

 

 何を言えばいいか焦っていたら、助教がフォローしてくれた。慌てて道を開けると、中に入って来た"友人様"を見て、女子の院生と研究員が小声でキャーキャー言っている。

 

 

「おっと、忘れてしまう前に……こちら、差し入れです。良かったら、皆さんで召し上がってください」

 

「こ、これはご丁寧に……ありがとうございます。君達、園原さんにちゃんとお礼を言いなさい」

 

 

 "友人様"が助教に渡した袋……あのマークは、ちょっとお高い洋菓子店のやつだ。これは嬉しい。言われた通り、オレ達は揃って素直にお礼の言葉を口にする。

 そこへ、空条先生が戻って来た。……さて、突然だが。オレは人間観察にはちょっとした自信がある。そのおかげなのか、ある瞬間を目撃した。

 

 空条先生が、"友人様"を見て――凄く嬉しそうに目だけで笑った、その瞬間を。

 

 それはほんの一瞬で、次の瞬間には無表情に戻ってしまったが、その無表情も心なしかいつもより穏やかな気がする。

 何だったんだ?今の。夢か?幻か?……こっそりと手の甲をつねると、痛みを感じた。少なくとも夢じゃない。

 

 

「……シド、悪い。待たせた」

 

「やぁ、承太郎。さっき来たばかりだから、大丈夫だよ」

 

 

 シド?……あだ名か?あの空条先生が、誰かに対して親しげな呼び方をするなんて驚きだな。彼はこちらに歩み寄ると、助教が手にしている差し入れの袋に気づいたようだ。

 

 

「……わざわざ買って来たのか」

 

「うん。研究を頑張っている皆さんのために」

 

「ふーん……」

 

「あ、その顔。承太郎も欲しいんだよね?そうだろうと思って……じゃーん。君専用、お菓子の詰め合わせ!はい、どうぞ」

 

「ほう?気が利くじゃねえか」

 

「確か、この店のクッキー好きだったよね?」

 

「ん、ありがとう。……上行って、少し食べるか。あの人が来るまで、まだ時間がある。お前も来い」

 

「上って、あの階段の先の?初めて来たけどこの研究室、ちょっと変わってるね。中2階があるなんて」

 

「あそこが、俺の執務室になっている」

 

「へぇー……」

 

「コーヒーと紅茶、どっちがいい?」

 

「紅茶」

 

「分かった。上に行ったら淹れてやるよ」

 

「ありがとう。……そういえば、これから夕食食べに行くのにお菓子食べてもいいのかい?」

 

「小腹が空いてるんだ」

 

「あぁ、無駄にデカイ体ってやっぱり燃費悪いよね」

 

「逆にお前は燃費が良さそうだな」

 

「俺の体が小さいって言いたいのかコラ」

 

「無駄にデカイって先に言ったのはてめーの方だろ」

 

 

 

 

「……ああ、そうだった。君達」

 

「え、あっ、はい!」

 

「戸締まりは私がやる。掃除が終わり次第、全員帰宅して構わない」

 

「了解しました、お疲れ様です!!」

 

「ん、お疲れ」

 

 

 最後に、オレ達に声を掛けた空条先生は、"友人様"と共に中2階へ上がり、姿が見えなくなった。しかし中2階にはドアが無いので、下にいても彼らの声が聞こえる。

 オレ達は暗黙の了解で、できる限り静かに掃除を始めた。もちろん、彼らの会話を聞くためだ。

 

 

「コップは俺が出すよ。何処にある?」

 

「そこの棚の真ん中。緑と黒のやつが俺の、青と黒のやつがお前のだ」

 

「……あぁ、これだね。でも青と黒のやつ、まだ開けてない新品みたいだけど、使っていいのかな?」

 

「構わない。次に来た時も、お前はそれを使え」

 

「分かった」

 

 

 青と黒のコップ。……それについては、オレ達全員に心当たりがあった。

 この研究室が開かれた当初から空条先生の執務室に置かれているが、全く使用される気配が無い、謎の新品のコップ。それが、青と黒の2色で彩られた1つのコップだったのだ。

 

 以前。研究員の1人が空条先生のためにコーヒーを淹れようと、そのコップを使おうとしたのだが。空条先生は何故か、そのコップだけは使うなと拒否した……という出来事があった。

 オレ達の間では、新品のコップの謎に関していろいろ憶測が飛び交っていたが……その真相は、"友人様"専用のコップだったから?

 

 つまり。研究室を開いた当初から、いつか訪れるであろう"友人様"のために、わざわざ専用のコップを買っておいて新品のまま保存しておいたって事?マジで??

 

 

(やべぇ、いろいろツッコミたい……!!)

 

 

 本当に、さっきからツッコミを入れたくて入れたくて仕方ないんだ!

 

 空条先生が目だけで笑った時とか、その後の会話のテンポが早くて先生も饒舌だなとか、甘い物食べられるんですねとか、一人称"俺"なのかとか、先生自ら紅茶を淹れてあげるんですかとか、先生に対して無駄にデカイと言える"友人様"の度胸が凄いとか、"友人様"専用のコップを自分の執務室に置いておくってどういう心境なの??とか、つーか超仲良しじゃねぇか!!とか。

 

 あぁ、一気にツッコミたい!でも空条先生の反応が怖くて言えない!!

 

 

 仕方ないので、掃除を終えた全員が研究室から退出した後。同じ院生同士で、そのツッコミを言い合って発散しながら帰る事にした。

 

 

 

 

 

 

「――あれ、教授?」

 

「やぁ、お疲れ。……空条君達は、研究室にいるのかな?」

 

「あ、はい。いらっしゃいますよ」

 

「そうか、ありがとう。気を付けて帰りなさい」

 

「はい。お疲れ様です」

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 研究室で承太郎と雑談を始めてから、しばらくして。待ち人がやって来た。

 

 

「改めまして、園原です。先日はお世話になりました――四方教授」

 

「いやいや、こちらこそ。あの図書館は居心地が良いから、いつもありがたく利用させてもらっているよ」

 

 

 うちの図書館の常連であるロマンスグレーの紳士、四方さん。彼はこの大学院の海洋学教授で、承太郎の現在の上司である。

 

 まだ高校生だった頃、承太郎がこの大学に入学するきっかけとなった論文を書いた教授。それが、四方さんだったのだ。

 彼は40代で教授に就任したそうだが、承太郎曰く、その年齢で教授になれる人はなかなかいないとか。それだけ凄い人だって事だよな。さすが我が親友の上司。

 

 にしても、承太郎から四方さんの正体を聞いた時は本当に驚いた。

 

 四方さんは大学内で講義を行う事もあるが、基本的に今俺達がいる大学院内にいるらしい。

 よって。ただの大学生……それも海洋学部ではなく、文学部に所属していた当時の俺が彼を見掛ける機会は、全く無かった。

 

 そのせいか、図書館の常連客である紳士と、承太郎から何度か話を聞いていた教授の存在が、俺の中で結び付かなかったのだ。

 

 で、先日。あの女が俺に絡んでいた時に承太郎の名前が出て、それを聞いた四方さんの方が先に俺の正体に気づいた。

 彼はあの時、俺が承太郎の友人だと確信したから、助けてくれたのだろう。

 

 

 今日はそんな彼と承太郎と共に、3人で外食する約束をしている。これは四方さんの希望だ。特に断る理由は無いので、承太郎から話を聞いた時に快諾した。

 

 

「園原君の事は、空条君からよく聞いているよ。……むしろ彼が話すのは、そのほとんどが君の話でね」

 

 

 到着したレストランにて。夕食を食べながら3人で会話していると、四方さんからそんな話が出た。何だって?初耳だぞ、そんなの。

 

 

「教授、」

 

「仕事が絡まない話をする時は、大体が園原君の話になる。とにかく頼りになる親友で、掛け替えの無い存在だと、彼にしては珍しく嬉々として語ってくれたよ」

 

「ちょっ、」

 

「自分が如何に園原君を大事にしているのか、それはもう熱心に、饒舌に語っていたなぁ。それ以外にも数々の思い出話を――」

 

「――四方教授……!!」

 

「はっはっは!分かった分かった。もう言わないからそんなに睨まないでくれ、空条君」

 

「…………あまり、からかわないでください」

 

 

 おや、珍しい。承太郎が本気で困った顔になっている。しかも、普段なら敬語を取っ払ってもおかしくない状況なのに、ちゃんと我慢してるぞ?

 ……ふーん、なるほど。承太郎はきっと、四方さんの事を心から尊敬しているのだろう。だから揶揄されても、怒るのを我慢しているんだ。

 

 それに、四方さんの飄々としたところが、前世の"おじいちゃん"……ジョセフと被って見えているのかもしれない。こいつ、意外とお祖父ちゃん子な一面もあるし。

 

 

「……ところで、承太郎。君、自分から俺に向かって褒め言葉を言う時は動揺しないくせに、他人に話した事を暴露される時は恥ずかしいのかい?君の照れるポイントがよく分からないよ」

 

「うるせえ…………他人の口から本人に言われちまったら、格好がつかねえんだよ」

 

「今更そんなの気にする必要ある?」

 

「あるだろ」

 

「んん?別に、格好がつかなくても承太郎は承太郎だし、俺がその程度の事で親友やめる訳でも無いし。

 

 そもそも、元から外見も中身も全部カッコいいから、気にする必要は皆無だと思うけど?」

 

「だからてめーそういうとこだぜって毎回言ってんだろ親友この野郎」

 

「はぁ?」

 

 

 何故か大きくため息をついた承太郎が、帽子のつばで目元を隠し、頭を振る。特に変な事を言った覚えは無いんだが?

 

 

「……あぁ、なるほど。空条君がよく言っていたのは、こういうところ(・・・・・・・)だね?」

 

「ええ、こういうところ(・・・・・・・)です」

 

 

 ん?何の話?

 

 

「人たらし爆弾……上手い事を言ったものだ。揶揄が全く感じられない純粋な褒め言葉を不意討ちで投げられたら、それは誰もが被弾してしまうだろう。

 そして君曰く、保護者がどんどん増えていく訳だな?」

 

「はい。……困ったものです」

 

「と言いつつ。それもまた、彼の才能であると認めているんだろう?」

 

「まあ、そうですね。さすがは我が親友。こいつにはチョウチンアンコウのような誘引突起が何処かに付いているんですよ、きっと」

 

「ははは!チョウチンアンコウ?餌となる獲物の代わりに保護者を引き寄せている、と?本当に君は園原君の話になると、途端に面白い男になるなぁ」

 

 

 だから何の話?俺はいつからチョウチンアンコウになったんだ??……そんな疑問を口に出そうとした時、別の話が始まってしまった。

 

 

「君達は確か、高校時代からずっと友人関係が続いているのだったな?」

 

「はい。10年以上続いています」

 

「その長い友人関係が始まったきっかけは?」

 

 

 四方さんにそう問われた承太郎は俺と目を合わせ、ニヤリと笑った。俺も同じ顔で笑う。

 

 

「「――まるで少女漫画」」

 

「はっ?」

 

 

 きょとんとした顔の四方さんに、俺達の出会いについて語る。

 

 当時。学校の廊下で大量の本を無理に運んでた俺が、女子生徒複数から逃げていた承太郎と激突して全部落としてしまい、それをこいつが拾い集めてくれた……という、少女漫画のようなエピソードを。

 それを聞いた彼は大笑い。俺達も笑った。本当に一生笑えるネタなんだよな、これ。あの日が懐かしい。

 

 

 その後も四方さんに、高校時代の出来事を語る。……それはやがて、俺が夏に死にかけた例の事件の話に繋がった。

 

 

「……あの時は本当に血の気が引いた」

 

「俺もその翌日の断罪の話を聞いて血の気が引いたよ」

 

「あれは当然の報いだ。退学処分になるよりはマシだろ」

 

「いや、むしろ退学処分の方が幸せだったんじゃ……?」

 

 

 しれっとしている承太郎とは反対に、俺の顔は引きつる。あの後、いじめの犯人達は無実の生徒達から冷たい目で見られ、所謂針のむしろだったしなぁ……

 

 そこでふと、四方さんを見る。無言で何か考え込んでいるようだ。承太郎もそれに気付き、訝しげな表情になる。

 

 

「教授?……どうしました?」

 

「…………もしや、君達が卒業したのは――」

 

 

 そんな彼の口から、俺達が通っていた中高一貫高の名前が出る。えっ?何で分かった?

 

 

「確かにそうですが、何故それを四方さんが知っているんですか?」

 

「それに答える前に、1つ聞かせて欲しい。――三谷大星という男を知っているかね?」

 

「……知っています。私達は、彼が管理人を務める旧図書館の利用者だったので」

 

「そうか、やはりな……君達から聞いたその事件の話が、10年以上前に大星から聞いた話とよく似ていたからね。きっとそうだろうと思っていたよ。

 基本的に、本に関係する事以外には興味関心が薄いはずのあの子が、そのいじめの被害者の事だけはやけに心配していたものだから、印象に残っていたんだ」

 

 

 三谷さんが、俺を心配していた?……退院後、初めて旧図書館に行った日。彼の態度はいつも通りで、俺を心配する素振りなんて全く見せなかったんだが?

 

 って、いやいや。それよりも気になる事がある!

 

 

「あの、三谷さんと四方さんは、どういったお知り合いなんでしょうか?」

 

「大星は私の弟だよ」

 

「「弟!?」」

 

 

 マジですか!?

 

 

「ちなみに苗字は、私が婿入りした事で三谷から四方に変わったんだ」

 

「顔が全然似てねえ……」

 

「それはよく言われる。どうやら私は父親似で、大星は母親似のようだから」

 

 

 あのブックフェスの時の六車さんといい、今回の四方さんといい、いくらなんでも世間狭過ぎじゃねぇか!?……だがしかし、この繋がりは面白い。

 

 

「不思議な縁ですね。俺達にとって、あなた方ご兄弟が先生という事になりますし」

 

「先生?」

 

「……ああ、確かに。俺は四方教授の下で海洋学を、シドは三谷の下で司書の仕事を学んでいたからな」

 

「ほう?あの大星が、園原君に?」

 

「はい。三谷さんには旧図書館に通っていた頃だけでなく、高校卒業後もお世話になりました」

 

 

 そうそう。卒業後も連絡を取って、時間がある時にいろいろ教えてもらったのだ。今ではあの人も俺の素顔を知っているし、結構仲良くなれたと思う。

 

 ……これは余談だが。俺の目付きの悪さと口の悪さを知った彼は、以前俺が危惧した通り、眼鏡坊主から不良坊主という呼び方に変えようした。

 もちろん、俺は拒否した。それどころか、人の名前をなかなか呼ぼうとしない三谷さんを相手に粘りに粘って、ついに園原呼びを定着させた。頑張ったぞ、俺!

 

 また、後にそれを知った旧図書館組の残り4名も、自分達の本名を呼ばせようとしたが、頑固な三谷さんは俺以外の名前を決して呼ぼうとしなかった。

 この人は基本的に、親しい身内以外は本名では呼ばないと決めているらしい。ちょっとだけ優越感。

 

 

 それはさておき。

 

 

「……ふむ。大星とそれほど親しいのであれば、あの話は既に聞いたかな?」

 

「あの話、とは?」

 

「……何の話だ?」

 

「おや?……その様子では、2人共知らないようだね。私もつい最近、大星から聞いたばかりなんだが――」

 

 

 

 

 

 

「――旧図書館が、近々取り壊しになるらしい」

 

「「――――は?」」

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。