空条承太郎の親友   作:herz

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・男主達が社会人。「空条承太郎の親友は、保護者量産常習犯」の後。ご都合主義、捏造過多。キャラ崩壊あり。

・前半、男主視点。後半、テレンス視点。




 ――知識と器用さを頼るも良し!優しさと素直さに癒されるも良し!甘やかすも良し!

 一家に一台、園原志人ッ!いかがでしょうか?byジョルノ





空条承太郎の親友は、看病する

 

 

「――は?ディオさんが熱を出した??」

 

「っ、ぐ、ゴホッ!?」

 

「うわ、承太郎さん大丈夫ですか!?」

 

 

 ジョナサンからの電話が俺の下に掛かって来て、彼からそんな話を聞いた時。

 俺の隣に座って水を飲んでいた承太郎が咳き込み、向かい側に座っていたジョルノがそれを見て慌てて立ち上がった。

 

 

 場所は、俺の自宅内。承太郎、ジョルノと予定を合わせて、久々に3人で夕食を共にした。食べ終わった後に掛かって来たのが、ジョナサンからの電話だ。

 

 

「……凄く咳き込んでる声が聞こえたんだけど、他に誰かいるのかい?」

 

「はい。承太郎とジョルノがいるんですが、ディオさんが熱を出した事に驚き過ぎたのか、承太郎が水を喉に詰まらせて咳き込んでしまって……」

 

 

 横目で見ると、ジョルノが承太郎の背中を撫でているところだった。落ち着いたかな?……ジョナサンに許可を取り、通話をスピーカーにして話の続きを聞く。

 

 

 で。彼が俺に電話を掛けて来た理由は、ディオの看病を頼みたい、との事だった。

 本当はジョナサンが看病したかったのだが、ちょうど仕事が立て込んでいるらしく、ずっと側にいる事はできない。今日の夜から明日の朝までは問題無いが、それ以降は厳しい。

 

 

「ディオと僕達の家は近所だから、エリナに様子を見に行ってもらう事も考えたんだけど……2人目の子がまだ小さいから、彼女が離れる訳にもいかなくてね……」

 

 

 そう。既に結婚しているジョナサンは、今では二児の父親である。

 家族のためにも、彼は仕事を疎かにする訳にはいかない。もちろん、子育てで忙しい彼の妻に頼む訳にもいかない。

 

 という事で、ジョナサンは俺を頼る事にした。明日は月曜日、つまり俺の仕事は定休日だ。それを知っていたから、俺に頼んで来た訳だな。

 

 

「看病は引き受けますが……そもそも、熱を出した原因は?」

 

「病院にはもう行ったのか?」

 

「ただの風邪ですか?それとも感染症?感染症だった場合は、その対策もしないと志人さんが危ないのですが」

 

 

 スピーカー機能を通して、俺達3人が質問を投げ掛けると……ジョナサンの深いため息が聞こえた。おや?

 

 

「本人は嫌がったけど、病院には僕が無理やり連れて行ったよ。結果は――過労による発熱だってさ!馬鹿だよね!!」

 

 

 かろう。……過労!?

 

 

「はあ?」

 

「何やってるんですか、あの馬鹿兄」

 

「……もしかして、あれがきっかけですかね?少し前に、旧図書館から私設図書館へ引っ越しした時の」

 

「僕もそう思うよ、志人。あの時、ディオはかなり無理をして予定を開けたみたいだし、その上で大量の本を移動させるという労働もしたし。

 その日以降も変わらず仕事を続けていれば、それは過労になるのも当然だね」

 

 

 あの時は"体調崩さなければ良いんだが"とか思ってたけど、まさか本当にそうなるとは。

 

 

「あいつは馬鹿だよ、本当に馬鹿」

 

「あの時、無理はしないようにと言ったはずなのですが……困った馬鹿兄ですね」

 

「やれやれだぜ……馬鹿だな。これが所謂、鬼の攪乱ってやつか」

 

「元吸血"鬼"だけに、ですか?」

 

「誰が上手い事を言えと言った?」

 

「ふふ、ジョルノに座布団1枚かな?」

 

 

 ディオ様、ディオ様。かつての宿敵2人と息子さんにバカバカ言われてますよ?まぁ、俺も馬鹿とは言わないが庇う事はできません。受け入れるしかないでしょう。

 ……あ、もしかして。本人が自覚しているか否かは分からないが、前世で吸血鬼だった時の感覚が、抜け切ってないとか?

 

 その場合は、人間の体で吸血鬼だった時と同程度の無理をしてしまうのも仕方ない、かもしれない。

 

 

「ちゃんと休める時に休まないから、こうなるんです。僕だって、急に仕事が入った時はすぐに動けるように、普段から休める時に休んでますから。休息は馬鹿に出来ませんよ」

 

 

 とは、ジョルノの言だ。お医者様は大変だよな、休日なのに急患が入ったりするだろうし。

 そんな彼からの"休息は馬鹿に出来ない"という言葉は、非常に重みがある。

 

 

「……ところで、兄さんの容態は?」

 

「あいつ、今はどうしてるんだ?」

 

 

 そして。バカバカ言ったりふざけたりしつつも、ジョルノと承太郎はディオを心配しているらしい。もちろん、俺もだ。

 ジョナサンによれば、今はベッドで眠っているらしい。起きている時も、相当だるそうにしていたそうだ。

 

 そんな状態でディオを1人にするのは不安だし、心配にもなるだろう。俺を頼ったジョナサンの気持ちは、よく分かる。

 

 

「とりあえず、話は分かりました。明日は朝から、ディオさんの家に向かいます」

 

「ごめんね、志人。ありがとう。ディオが回復したら、あいつに遠慮なく我が儘言っていいと思うよ」

 

「あはは、大丈夫です。これぐらいの事で我が儘を言う程、子供ではありません」

 

「むしろディオなら、喜んで我が儘に応えてくれると思うんだけど……」

 

「はいはい、分かりましたよ。何か考えておきます」

 

「本当かなあ?」

 

 

 ジョナサンからの疑いの声だけでなく、俺の隣と向かい側にいる承太郎、ジョルノからも疑いの目を向けられる。

 思わず苦笑いを返した。ジョースター家は隙あらば、俺をこれでもかと甘やかそうとするからな……気を付けないと。

 

 

 ジョナサンとの電話を終えた俺は、一度席を立ち、メモ帳を持って戻って来た。さて、必要な物をメモする作業に集中しなくては。

 

 

「……シド?」

 

「志人さん?」

 

「ストレス性の発熱には解熱剤が効かないんだったか?それ以外は基本的に風邪による高熱の時の対処法を利用すれば良いとして……食事療法が効果的?疲労回復効果がある料理といえば何だ?

 定番だが梅粥とか?しかしそれだけだと栄養バランスが崩れるからもう一品……食欲があるなら豚肉使って無理そうなら野菜使って……あとは果物とか飲み物とか?ビタミンCそれにクエン酸……ちょうど冷蔵庫にレモンあるし先にはちみつレモンでも作るか――」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 

 

「駄目ですね。集中し過ぎて、聞こえてないみたいだ」

 

「……独り言の内容から分かる、相変わらずの知識量の多さ」

 

「確かに、さすが志人さん。看病に関しても、かなりの知識が頭に詰まっているようですね。内科医ではなく外科医ですけど、本職の僕としてもびっくりです」

 

「つくづく器用な奴だよな……こいつが1人その場にいるだけで、どんな事にも対処できそうだ」

 

「豊富な知識、その知識を使いこなす器用さ、他者を助ける事を厭わない優しさ。そして、素直……ふむ。

 

 ――知識と器用さを頼るも良し!優しさと素直さに癒されるも良し!甘やかすも良し!一家に一台、園原志人ッ!いかがでしょうか?」

 

「全財産を支払ってでも買う価値がある、いや、買う。借金しても買う」

 

「ジョースター家の皆で購入しましょう」

 

「そうしよう」

 

 

 

 

「あ?お前ら、今何か言ったか?」

 

「「いや、何も」」

 

「……そうか?」

 

 

 悪ふざけをしている気配を察知した気がしたんだが……気のせいかな?

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 翌日の朝。必要な物を揃えてから、ディオの自宅があるマンションへ向かった。……このマンションは外から見ても中から見ても、どう見ても高級マンションである。

 しかも、優秀なコンシェルジュ達が配置されており、セキュリティ対策も万全である事から、実はディオ以外にもメディアで人気の俳優やらアイドルやら、そんな有名人達が住んでいるらしい。

 

 

 受付でコンシェルジュに応対してもらい、セキュリティカードを受け取ってエレベーター内へ。

 このカードを使うと、目的の場所以外の階では降りる事が出来ないという。……徹底されているな。さすがだ。

 

 ディオの自宅のドアの前に立ってベルを鳴らすと、ジョナサンが出迎えてくれた。

 

 

「おはようございます」

 

「おはよう、志人……ん?その荷物は?」

 

「ここに来る前に買った食材とか、昨日急遽作ったはちみつレモンとかです。

 ディオさんが腹減ったら何か作ってやれるし、逆にあまり食欲無いなら、果物だけでも食べてくれたら良いなと思って」

 

「本当にごめんね!そこまで気を遣わせちゃって……!」

 

「いえいえ、俺が好きでやってる事ですから」

 

 

 その後。俺にいろいろと引き継ぎを済ませた彼は、ディオの事を心配しながらも、慌ただしく仕事先へ向かった。

 さて、そのように心配されているディオだが。昨日の夜中に一度起きて、再び眠りに付いてから、未だに目を覚ましていないという。

 

 寝室に様子を見に行くと、額に冷却シートを張り、眉間に皺を寄せながらベッドで眠っているディオの姿があった。

 寝苦しそうにしている。……既に温くなっていた冷却シートを慎重に剥がし、新しい物に変えた。すると、眉間の皺が無くなる。やっぱり熱かったんだな。

 

 その時、ディオの瞼がゆっくりと開いた。ぼーっとしてるな。金の瞳の焦点が合ってない。まだ寝惚けているらしい。

 

 

「……う……?……じょ、じょ――」

 

「ごめんなさい、ディオさん。俺、あなたのジョジョじゃないんです」

 

「――っ!?」

 

 

 あ、覚醒した。

 

 

「志人……?」

 

「はい、俺です」

 

「な、何故?」

 

「ジョナサンから聞いてませんか?あの人、今日は仕事が忙しいみたいで、その代わりにディオさんの看病を頼まれた俺が来たんです。俺は定休日なので、今日一日ここにいますよ」

 

「…………何も、聞いてないのだが」

 

 

 あらら。ディオが眠っていたから伝えられなかったのか、それとも彼を心配させた事の仕返しとして、あえて伝えなかったのか。

 真実はジョナサンに聞いてみないと分からないが、どうやら俺が来る事を知らなかったようだ。

 

 

「……すまない、迷惑を掛けたな。私は1人でも問題ない。ジョナサンには私から話しておくから、帰りなさい」

 

「え、嫌ですけど?」

 

「は?」

 

「今のディオさんを1人にする事は出来ません。俺が看病します」

 

「……志人。心配してくれるのはありがたいが、帰り、」

 

「嫌です」

 

「志人、」

 

「嫌です」

 

「聞き分けなさ、」

 

「やだ」

 

「…………はあ……」

 

 

 ディオは深くため息を吐き、額を押さえる。頭痛を悪化させたか?でも嫌なものは、嫌だ。

 

 

「何もこんな時に限って我が儘にならなくても……」

 

「そうです、我が儘ですよ。あなたには俺の我が儘を受け入れる義務があります。俺やジョナサン達を心配させた罰です。

 昨日ジョナサンから、ディオさんに遠慮なく我が儘を言っても良いと、許可も出ていますし。ディオさんなら、俺の我が儘にも喜んで応えてくれるとも言ってました!」

 

 

 ここはあえて、無邪気に笑う。昨日は"これぐらいの事で我が儘を言うほど子供ではない"と言ったけど、30代のおっさんだけど、必要ならいくらでも子供っぽくなってやるぞ。

 それに。これで我が儘を通したから、こちらを心配させた罰はチャラにする、という事にも出来るだろう。

 

 他に何か我が儘を言いたい事も特に無いし、これで良いのだ。

 

 

「分かった、分かった……好きにしろ」

 

「よし、勝った!ところで、ディオさん。食欲ありますか?」

 

「いや……あまり無いな」

 

「そうですか。なら、ちょっと待っててください」

 

 

 寝室から出てキッチンに向かい、昨日作ったはちみつレモンを入れたタッパーを持って再び寝室へ。

 

 

「どうぞ、はちみつレモンです。うちで一晩寝かせたので、ちょうど良い味になってますよ」

 

「……作って来たのか?わざわざ?」

 

「はい。……食欲があまり無くても、やっぱり何かしら口に入れとかないとその分だけ復活が遠退くので、一口だけでも食べてください」

 

「わ、分かった」

 

「じゃあ、飲み物も作ってくるので。それを食べながらもう少し待っててください」

 

「ああ…………ん?作る?」

 

 

 タッパーを受け取りながら首を傾げるディオを置いて、キッチンへ向かった。

 この家には何度か来てるし、キッチンを借りる事もあった。料理道具の置き場所はちゃんと覚えている。……では、さっそくエプロンを付けて、と。

 

 まずは、包丁で生姜を薄切りに。次に鍋の中へ牛乳と、薄切りにした生姜。それからはちみつを入れて、弱火でかき混ぜつつ5分ほど煮る。

 で、火を消して生姜を全部取り出してから、マグカップの中に注ぎ、最後にシナモンパウダーを掛ければ――完成!はちみつ入り、ジンジャーホットミルク!

 

 ホットミルクを持って寝室へ戻ると、タッパーの中身は割と減っていた。それだけ食べられるなら、思っていたよりも元気があるようだな。

 

 

「はちみつと生姜入りのホットミルクを作って来ました。疲れてる時にこれを飲むと、結構効きますよ。

 ただ、中身はまだ熱いので、少し冷めるまで待った方が良いですね。その間に着替えちゃいましょう。

 

 着替えはここにあります。タオルも一緒に置いておきますから、これで汗拭いてから着替えてくださいね」

 

「あ、ああ」

 

「はちみつレモン、まだ食べますか?」

 

「いや、充分だ」

 

「分かりました、これは下げますね。ついでに、使った鍋とかを洗って来ます」

 

 

 タッパーを持って、またキッチンへ。……洗い物を済ませてから寝室へ行くと、着替え終わった彼がホットミルクを飲んでいた。

 

 

「あ、そうだ。勝手にシナモンパウダーも入れちゃったんですけど、味は大丈夫でしたか?」

 

「大丈夫だ……美味しい。ほっとする」

 

「お、おお。それは良かった。……えっと、服とタオルは回収しますね。洗濯機使わせてもらいます」

 

「……すまない、頼む」

 

「はい」

 

 

 ゆるりと微笑んだ表情を見て、ほんのちょっとだけドキッとした。熱で頬が赤くなっているのも相俟って、色気が過ぎる。魔性の男だ。

 

 

 脱いだ服とタオルを持って、洗濯機の前へ。他の洗濯物も合わせて、洗濯機へ投入して洗剤入れて、スイッチオン。

 それから、再び寝室に戻ると……ホットミルクは既に空っぽ。どうやら、気に入ってくれたらしい。

 

 それを飲み干した魔性の男は、すやすやと眠りに付いていた。――よし、計画通り。

 

 

(生姜もシナモンも体を温める効果があるし、ホットミルクには睡眠効果がある。

 ただでさえ疲れている上に、体がよく温まる効果と睡眠効果が重なったら、それはすぐに眠くなるよなぁ)

 

 

 過労でダウンした今、彼に最も必要なのは休息。特に睡眠だ。ホットミルクの効果で質の高い睡眠を取り、体を充分休ませる。

 そうすれば、次に目を覚ます時には疲れも大分取れて、食欲も出ているはず。洗濯物を干し終わったら、梅粥やちょっとしたおかずを作る準備をしておこう。

 

 おっと、その前に……掛け布団が捲れている。あれでは後々寒くなるだろう。直してやらないと。

 

 

「……ン?」

 

「あ、ごめんなさい。起こしちゃいましたか?」

 

「…………」

 

「……ディオさん?」

 

 

 掛け布団を直した時、ディオが瞼を半分開けた。すると、中から出て来た手が俺の手を弱く握る。どうした?

 

 

「…………おれが、」

 

「はい?」

 

「おれが、ねるまで……ここに、いてくれ」

 

「――――」

 

 

 目を見開き、驚愕する。……元ラスボス様が、まるで子供のようだ。思わずちょっと可愛いなと思ってしまった。

 

 

「ゆきと?」

 

「あ、あぁ、はい。いますよ、ここに。ディオさんが寝るまで」

 

「ん」

 

 

 俺の返答に満足したのか、安心したように笑って目を閉じた。……程なくして、寝息が聞こえて来る。

 それを確認してから手を外そうとしたが……少し考えて、手はそのまま、近くにあった椅子に座る。

 

 

(せめて洗濯が終わるまでは、このままにしておこう)

 

 

 今のディオは、まるで――母親に縋る、子供のようだった。その姿に、母親を亡くした自分を重ねる。

 ……彼が前世で、俺と同じく母親を亡くした事も思い出すと、何だか、切ない気持ちになった。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 ――鬼の霍乱とは、まさしくこの事だろう。

 

 

 まさか、あのディオ様が高熱を出して会社を休む事になるとは……しかも、原因は過労。

 前世のディオ様の配下のうち、あの方が立ち上げた会社に所属している者達も、その知らせを聞いて驚愕していた。

 

 

(そういえば、今世のあの方は人間だったな……)

 

 

 あの美貌や普段の言動、そしてあらゆる能力の高さから、前世で吸血鬼だった時と比べてもあまり変わっていないのだ、と。

 俺を含めた誰もが、そう思い込んでしまったのだろう。……今後、あの方には小まめに休息を取っていただく必要があるな。万が一の時は、元配下達にも協力してもらおう。

 

 

 前世から信者だった連中を除いた元配下達は、ディオ様……否、DIO様に対して複雑な心境を抱いている者がほとんどだった。

 前世であの方に従っていたのは忠誠心というよりも、恐怖心が先立っていたのだが……今世では違う。

 

 少なくとも俺は、今世のディオ様の事は純粋に尊敬している。おそらく、他の元配下達も同じだろう。

 だからこそ。会社を設立して以来、初めて体調を崩したあの方の事を、元配下達の誰もが心配しているのだ。

 

 

 そんな中。ディオ様が不在である今日に限って、どうしてもあの方と直接会って確認しなければならない案件が出て来た。

 申し訳なく思いながらも、あの方と連絡を取ってみると……昨夜と比べれば、今はかなり調子が良いらしい。自宅へ訪問する許可が出た。

 

 それを聞いた元配下達が、自分も一緒に行きたい、あの方のお見舞いがしたいと言い出した。

 さすがに全員行くのは迷惑が掛かるからと、ディオ様に許可を取った上で、俺以外に2人までなら同行を許す事に。

 

 いろいろと熾烈な争いがあったが、結果的に同行者となったのはマライアとヴァニラだった。

 

 

「ねえ、あんたはいつもディオ様の送り迎えをしてるんでしょう?あの方の自宅内に入った事はあるの?私は今日が初めてなんだけど」

 

「いや、無い」

 

「あら、そう。……テレンスはどう?行った事ある?」

 

「まさか。無いですよ。そもそも、あの方のプライベートに踏み込む度胸などありませんから。……プライベート自体は、非常に気になりますが」

 

「そうよね!気になるわよねえ、ディオ様の私生活!でも踏み込めない……!」

 

「同意する」

 

 

 ヴァニラが運転する車に乗り、3人であの方の自宅マンションへ向かう途中、そんな会話をしていた。

 

 ヴァニラは我々の会社の警備責任者であると同時に、ディオ様の護衛と車での送迎役も勤めている。マライアはディオ様の秘書、俺は会社の副社長だ。

 なお。我々3人がいない会社の事は、専務であるンドゥールに任せてある。……いろいろ押し付けてすまない。

 

 

「でも、あの子……志人はそのプライベートに踏み込めるのね」

 

「ディオ様の看病、か……あの男、ディオ様に何か失礼な真似はしていないだろうな?」

 

「志人に限ってそんな事あり得ないわよ。ヴァニラだって、本当は分かってるでしょう?」

 

「…………ふん」

 

 

 園原志人。ディオ様だけでなく、ジョースター家のお気に入りであり……あの空条承太郎が、親友だと公言する男。

 俺もいろいろあって知り合う事になったが、あれは不思議な男だな。今までに出会った事が無いタイプの人間だ。

 

 興味はあったが、下手に近づけばディオ様や承太郎、他のジョースター家の反応が怖い。

 俺以外にもそう考える元配下達が多く、一部の例外を除けば、我々の中には園原と積極的に関わろうとする者はいない。

 

 その一部の例外が、マライアだ。この女は、園原と知り合った日から何度も連絡を取り合っているらしい。

 理由は分からないが、この女も園原の事を気に入っているようだ。

 

 

 さて。ヴァニラが運転する車は、ディオ様が住んでいる高級マンションに到着した。車から降りて、受付へ向かい――

 

 

「「「――あっ」」」

 

「……あ?」

 

 

 …………ゲームに例えるなら、ラスボスに遭遇してしまったような気分だな。

 

 

「空条承太郎……」

 

「あんた、何でここに?」

 

 

 俺だけでなく、ヴァニラとマライアも警戒している。……ディオ様とジョースター家が和解した事は知っているが、それでも前世のあの方を倒した男を警戒するなというのは、さすがに無理な話だ。

 

 

「……てめえらも、あいつの見舞いに来たんだよな?」

 

「は?」

 

「すまないが、もう一度確認を取ってくれ。彼らもディオの客だ」

 

「かしこまりました」

 

 

 予想外の反応に対して、こちらが混乱している最中。受付ではあれよあれよという間に話が進み、いつの間にか我々の手の中にはセキュリティカードがあった。

 承太郎に促され、揃ってエレベーター内に入ったところで我に返る。

 

 

「待ちなさい。あなたはディオ様に、何の用があってここに来たんですか?はっきりさせてください」

 

「……親友の様子を見に行くついでに、あいつの見舞いに来た。それだけだ」

 

 

 なるほど。ディオ様の事はあくまでも園原の"ついで"か。それなら、まだ納得でき……いやいや待て待て。見舞い?承太郎が?ディオ様の?見舞い??

 

 

「そう見せかけて、弱っているあの方に何か危害を加えるつもりではないだろうな?」

 

「ちょっとヴァニラ、よしなさいって!ディオ様からも敵対するなって言われてるでしょう!?」

 

 

 ヴァニラから殺気を感じる。この男は、ディオ様の信者達の中でも過激派の代表格だ。当然ながら、承太郎が前世のディオ様を殺害した件については、未だに根に持っている。

 しかし我々は、マライアが言っているように。今世ではあの方から"ジョースター家とは決して敵対するな"と、厳命されている。この男もそれを知っているはずだが……

 

 そんなヴァニラに対し、承太郎は冷静だった。

 

 

「……本当にその気があるなら、10年以上前にやっている。なんせ俺は、元々あいつと同じ家に住んでいたからな」

 

「む……」

 

「それに……ディオに危害を加えるつもりの人間が、他でもないてめえと同じエレベーターの中に乗ると思うか?

 こんな密室じゃ、てめえのスタンドにすぐに呑み込まれて終わりだろ」

 

「…………ちっ」

 

 

 確かに、承太郎の言う通りだな。……納得したのか、ヴァニラは警戒は解かないが、殺気だけは収めた。

 

 

 エレベーター内は、それ以降静かになった。誰もが無言のまま、目的の階に到着する。扉が開き、承太郎が先に外に出た。

 ……彼の足に迷いは無く、やがてディオ様から聞いていた部屋のドアの前に辿り着く。あの様子を見るに、承太郎はここに来る事に慣れているのか?何故?

 

 呼び鈴を鳴らすと、出迎えてくれたのは園原――何故かエプロンがよく似合っている――だった。

 相変わらずの目付きの悪さだが、それがニコニコと子供のように笑うと、目付きの悪さが緩和される。

 

 

「シド、あいつの様子は?」

 

「朝はかなりだるそうだったけど、今では結構調子が良さそうだ。熱も下がって来たし」

 

「……見舞いに来て損したな」

 

「こらこら、そんな事言うなって」

 

 

 不遜な事を言う承太郎に対し、苦笑いを浮かべた彼の目が、こちらに向いた。

 

 

「マライアさん、テレンスさん、ヴァニラさん。お久しぶりです」

 

「直接会うのは久々ねえ。メッセージアプリでやり取りしてる分、久しぶりな気がしないけど」

 

「どうも、お久しぶりですね」

 

「ディオ様に失礼な事はしていないだろうな?」

 

「やだなぁ、そんな事しませんよ」

 

「……半ば諦めていたが、やはり知り合いか」

 

 

 承太郎が我々と園原を交互に見て、深くため息をついた。先程までは何を言われても無表情だったくせに、今は苦々しげな表情を浮かべている。

 奴は"愛すべき爆弾魔"やら、"余計な保護者"やら。よく分からない独り言をぶつぶつ言いながら、先に中へと進んで行く。園原と我々も、それに続いた。

 

 

「……ン、来たか」

 

「おう。……ほらよ」

 

 

 廊下からドアを開けて中に入ると、ソファーに座ってくつろいでいるディオ様がいた。……元気そうだな。安心した。

 そんなディオ様の前に、承太郎が何かの袋を置いた。先程から持っていた物だが、袋には某カフェチェーン店のロゴが付いている。

 

 

「これは?」

 

「…………ここのカフェラテが好みだって、前に言ってただろ」

 

「確かに言ったが……覚えていたのか。しかもわざわざ私の見舞いのために買って来た、と」

 

偶然(・・)、その店の前を通り掛かって、たまたま(・・・・)、それを思い出して買っただけだ」

 

「ふふ、そうか」

 

「そんなに元気なら買って来なきゃ良かったぜ」

 

「つれない事を言うな。……ありがとう」

 

「…………ふん」

 

「承太郎、そこは笑顔で"どういたしまして"って言わなきゃ」

 

「うるせえ、シド。ニヤニヤすんな。……おいディオ!てめえもだぞ!」

 

「ククク……ッ!」

 

 

 …………ん??

 

 

(何だこのフレンドリーな会話は)

 

 

 一瞬。承太郎とディオ様の前世の因縁についての記憶が、頭からすっぽ抜けてしまった。

 彼らはそれが当たり前のように会話を続けているが、俺は唖然とするしかない。何だあれは!?驚いている俺がおかしいのか?

 

 いや。おかしくなかった。マライアだけでなく、ヴァニラも俺と同じ反応をしている。

 

 

「じゃあ、俺は夕飯作って来るから」

 

「ああ」

 

「すまないな、頼んだ」

 

 

 園原がキッチンへ向かい、それを見送ったディオ様と承太郎の会話が続く。

 園原がいたからこそ、3人で仲良くしていたのではないか?……そう予測していたが、そういう訳でも無いらしい。2人だけでも和やかに会話している。

 

 

「……あの子のおかげで助かった。まさか、1日でここまで体調が回復する事になるとは」

 

「あいつ、自分が世話されるのはとことん遠慮するくせに、他人の世話なら嬉々としてやる奴だからな……」

 

「そうだな。……それにしても、志人は家事能力が相当高いな。家政夫にでもなるつもりか?それなら私が大金を払って雇いたいのだが」

 

「……ああ、そうそう。昨日、ジョルノがこんな事を言ってたぞ」

 

「ン?」

 

「――知識と器用さを頼るも良し。優しさと素直さに癒されるも良し。甘やかすも良し。一家に一台、園原志人。いかがでしょうか?ってな」

 

「破産も覚悟して言い値で買うぞ」

 

「それには及ばない。ジョースター家で金出し合って買えばいい」

 

「なるほど。購入後はジョースター家で独占しよう」

 

「そうしよう」

 

 

 ディオ様が!あのディオ様が!真顔で冗談を言っている!?しかも承太郎まで!?あなた達はそんなキャラでしたか!?違いますよね!?

 

 

「おっと、すまない。お前達を放っておいたままだったな。……テレンス。さっそくだが、例の資料を出してくれ」

 

「アッ、ハイ」

 

 

 ディオ様、急に仕事モードに入らないでください。温度差でグッピーが死んでしまいます。

 

 

 その後。簡単に仕事の話を済ませて、先ほど会話が出来なかった分、ディオ様を相手にマシガントークをするマライアとヴァニラをどうにか制御して……その場から辞去する事にした。

 元気そうに見えるが、この方はまだ完治している訳ではない。これ以上疲れさせないように、早めに立ち去らねば。

 

 承太郎は後に、園原と共に帰るつもりでいるという。よって、しばらくはこの場に残るそうだ。今はディオ様と会話している。

 それとは逆に、園原はわざわざ料理の手を止めて、我々の見送りのために玄関まで来ていた。律儀な男だな。

 

 

「マライアさん。ちょっといいですか?」

 

「あら、何?」

 

 

 すると。マライアを呼び止めた園原が、1枚のメモ用紙を彼女に渡した。

 

 

「これは?」

 

「ホットミルクのレシピです。……実は朝、ディオさんにこれを出したんですけど、結構気に入ってくれたみたいで。後におかわりを要求された程です」

 

「えっ?あの方のお気に入りのレシピ!?」

 

「はい。ちなみに、かなりのリラックス効果があるようです。おそらく体調を崩していたせいだと思いますが、朝に飲んだらお昼を過ぎてもぐっすりでしたよ」

 

「まあ……!」

 

「では、優秀な秘書さん。今後あの人が仕事中にまた無理をした時は、これを出してゆっくり休ませてください。よろしくお願いします」

 

「任されたわ、ありがとう志人!」

 

「どういたしまして」

 

 

 なんと。アフターケアまでやるのか、この男は。先程のディオ様ではないが、本当に家政夫にでもなるつもりか??

 と、俺が何とも言えない気持ちになりながらも、彼の様子を見ていた時。ヴァニラが口を開いた。

 

 

「…………園原」

 

「はい?何ですか、ヴァニラさん」

 

「……ディオ様と、承太郎の関係についてなのだが」

 

 

 俺も、マライアも。はっと顔を上げて、彼らを見つめる。確かに、あの2人の事は気になっていた。本人達に直接聞く訳にはいかないが、園原が相手なら……

 

 

「まさか……いつも、ああなのか?」

 

「ああ、とは?」

 

「……前世の因縁を忘れたように、揶揄したり、冗談を言い合ったりしている事だ」

 

「なるほど、それですか。それなら和解した日から数ヶ月後には、既にああなっていたので……かれこれ、10年以上はあんな感じですね」

 

「「「10年……」」」

 

 

 3人揃ってそう呟き、直後に絶句。

 

 

 ……今世のジョースター家とディオ様は和解している。だがそれは、ディオ様と承太郎の個人同士の関係にはそこまで影響していないだろうと、そう思い込んでいた。

 しかし実際は、多大な影響が出ていた訳か。まさか、あれほど距離を縮めていたとは……

 

 

「……という訳で。今世の承太郎が、今世のディオさんと敵対する可能性は非常に低い。いや、皆無と言っても良いかもしれない」

 

「!」

 

「もし良かったら、今日の承太郎とディオさんの様子を、マライアさん達のお仲間にも伝えてくれませんか?それで皆さんに安心してもらえたら、ありがたいですね」

 

 

 園原は、我々が懸念していた事をピンポイントで話題に出した。その微笑みを見ていると、不思議な事に本当に安心してしまう。

 

 

「それに。万が一また2人が敵対した場合は、俺がなんとか止めてみます。とりあえず、それぞれをバリアで隔離してしまえば、時間は稼げると思うので」

 

「それは……頼もしいですね。万が一の時は、園原にお願いしますよ」

 

「あ、でも戦闘能力では役に立てないと思うので、全面的に頼りにされると困ります。バリアを張るぐらいしかできないし」

 

「いえ。他でもない園原志人が、あの2人を止めるという事自体に、大きな意味があるのです」

 

「んん?」

 

「…………確かに。あまり認めたく無いが、あの様子を見る限り、承太郎だけでなくディオ様にも、園原の存在が有効、か……」

 

「そうねえ。志人さえその場にいれば、もしもの事があっても何とかなりそうだわ」

 

 

 おそらくだが、あの2人が距離を縮めたきっかけには、園原が関わっていると思う。

 ジョースター家のお気に入りの噂が流れ始めた時期と、ディオ様がジョースター家と和解した時期は、ほぼ同じだったからな。

 

 

 ヴァニラとマライアが言うように、ディオ様と承太郎にとって、園原の存在はかなり大きいのだろう。

 

 

(――"一家に一台、園原志人"か……なるほど、真理かもしれない。あらゆる意味で)

 

 

 よし。ディオ様が仕事でまた無理をしたその時は、真っ先に園原を召喚するとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

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