・前編の続き。時系列は「空条承太郎の親友は、看病する」の後。
・前半、男主視点。後半、花京院視点。
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「――って、徐倫ちゃんから言われたんだが、どういう事だ?」
「どういう事も何もそういう事だろ?」
「それ以外にどう答えろと言うんだ?」
「ノォホッ!!ノォホホホ……ッ!!」
徐倫と顔を合わせた日から、数日後の夜。とある居酒屋の個室にて、承太郎、形兆、典明と4人で酒飲み――なお、下戸の俺だけ烏龍茶――している最中。
酒の肴になるかと思い、今までに図書館を訪れたジョジョキャラ達何名かの話をしてみたところ。
酒が入って笑いのツボが浅くなっている典明は爆笑しているが、承太郎と形兆からはチベスナ顔が返って来た。解せぬ。
ちなみに。現在の典明の職業はゲームデザイナー、形兆の職業は航空整備士だ。
典明はゲームデザイナーとして、主にゲームの背景やキャラクターなどのイラスト制作を担当しているという。
最近は、彼が制作に関わったとあるゲームが大ヒットした影響で、忙しい毎日を送っているようだ。
それに、彼の描くキャラクターには独特の味があり、それに魅了されてファンになった者がたくさんいるらしい。
形兆は航空整備士として、空港で働いている。大学に入学するまでは、航空自衛隊で戦闘機等の整備士になる事を考えていたそうだが……
入学後にいろいろ学んだ末、自分に一番向いているのは飛行機の整備士だと判断し、そちらに進路を変更。
今では一等航空整備士という国家資格を取得している程の、立派な整備士である。
閑話休題。……やがて。爆笑が収まった典明が、苦笑いを浮かべながら俺を見る。
「君が図書館を訪れる皆を甘やかしてしまうから、そう呼ばれるようになったんじゃないか?」
「甘やかす?……そんなつもりは無かったんだが」
彼らが来てくれるのは嬉しいから、純粋に歓迎しているが。それは別に、甘やかしている訳ではないし。
「……こいつに自覚が無いなら、これ以降も改善される事は無いだろうな」
「やれやれだぜ……これじゃあ保護者の増加が止まらねえ訳だ……」
「保護者、か。ちなみに、それは承太郎が知っているだけでどれ程いるんだい?」
「かなり、いる。ジョースター家とディオはもちろん、ツェペリ家とかリサリサさんとか。
さっきシドの話に出たポルナレフとかジョルノの仲間達とか、そのジョルノ達と前世で敵対していた元暗殺チームの奴らとか。
あと、プッチとかカーズとかダービー兄とかンドゥールとかマライアとか――」
「待て待て待て待てッ!!今聞き捨てならない奴らの名前が聞こえたぞッ!?冗談だろう!?」
「典明……残念ながら、冗談ではない。本当の事だ」
「…………嘘だろ志人……」
「えっ、何が??」
何故か、典明が愕然とした表情で俺の顔を凝視している。……俺の顔に何かついてる?
「…………そんなに癒されるなら、僕も志人がいる図書館に行ってみようかな……?」
「やめとけ、嵌まるぞ」
「親友である承太郎がこう言ってるんだ、やめておけ典明」
「そう、だね……ポルナレフ達のようにドツボに嵌まりたくはないから、やめておくよ」
「え、典明来ないのか?いつでも来ていいぞ、もちろん形兆も。
ただでさえ仕事が忙しくてなかなか会えないんだから、時間に余裕がある時にちょっとでも会えたら嬉しいし」
「…………」
「…………」
「典明、形兆、待て。冷静になれ。どんなに捨てられた猫のような目で見られても負けるな、本当にドツボに嵌まっちまうぜ?」
「……そういう承太郎はどうなんだ?」
「大学時代から互いの家を行き来している俺ならとっくにこいつに嵌まっているが?」
「駄目駄目じゃないか!?」
「説得力が無いぞ!?」
「3人共今日はテンション高いな?酒のせいか?」
「「「お前のせいだよッ!!」」」
「えっ」
「――あれ?僕達、何の話をしてたんだっけ?」
「俺が"皆の癒し"だとか"相談窓口"だとか呼ばれてるらしい、って話」
「ああ、そうだったそうだった」
しばらく馬鹿話に付き合っていたら、典明が話が脱線していた事に気づいた。これ幸いと、それに乗っかる。
「……って、もうその話はいいよね?別の話題にしよう」
「いや、よくないぞ?結局どういう事なのか、明確な答えをまだ聞いてな、」
「じゃあ結論、全てはシドのせい」
「「異議なし」」
「え、ちょっ、」
「さあ、次の話題に移ろうか!」
流された。酷い!しかも全ては俺のせいって何だよ!?俺、何も悪くねぇじゃん!!
「あ、そうだ。志人の話に出て来た、徐倫の結婚の事で思い出したんだけど――
――形兆はどうなんだい?恋人とは上手く付き合えてる?」
「んぐッ!?ゴホッ!ゴホッ……!?」
「お、おい、大丈夫か!?」
目の前で酒を飲んでいた形兆が思い切り噎せたので、慌てて席を立って彼の背中を撫で、落ち着いたところでおしぼりとコップに入れた烏龍茶を渡した。
「…………なるほど。こうして咄嗟に人のために動ける志人の優しさに、皆が虜になっている訳か」
「っ、典明、貴様……ッ!!」
「お前なぁ……自分の親友をこんなにさせといて、まず言うセリフがそれかよ……」
さすがドS院、親友が相手でも容赦が無い。まぁ、酒を飲んでるせいでもあるかもしれないが。
で、形兆の恋人についてだが。
相手の女性は客室乗務員……所謂CAの人で、数年前に出会ってから徐々に距離を縮めて、やがて交際へ至ったという。
最初にその話を聞いた時は、あの形兆に恋人!しかも職場恋愛!?と、承太郎や典明と一緒に大騒ぎしたものだ。
そんな恋人さんの話は、俺も気になる。
「それで、最近はどう?……何だかんだ真面目で硬派な僕の親友は、ちゃんと結婚も想定した上で交際を始めたんだろう?」
「それは、まあ……確かにそろそろ申し込んでも良いかと考えてはいるが、」
「おっ、プロポーズ!?」
「へえ?それはそれは……」
「そこの悪ふざけコンビはニヤニヤするなッ!」
「おい、その呼び方は嫌だって言っただろ」
久々に呼ばれたけど、やっぱりその呼び方はやだ。ニヤニヤした俺達も悪かったけどさ。……でも、真面目な話もしておこうかな。
「なぁ、形兆」
「あ?何だよ、悪ふざけコンビの片割れ」
「恋人の事、ちゃんと幸せにしてやれよ」
「…………」
「それにお前も、一緒に幸せにならないと駄目だからな」
真顔でそう言うと、形兆は一瞬目を見開き、それから笑った。あら、良い笑顔!珍しい。
「"将来は愛する女性と結婚して、子供作って、孫も出来て、最期はその家族に看取られて死ね"……だったな?」
「え?…………あ、」
そうだ。俺は確かに、形兆にそう言った。10年以上前、彼と初めて会話したあの日に。お前、そんな前に俺が言った事をまだ覚えてたのか!
「精々、普通の幸せな人生を送るさ――お前への償いのためではなく、自分の意思で、彼女を幸せにするし、俺も幸せになる」
「――――」
「それで良いんだろ?」
「…………うん……うん!それで良い!よく言った!!」
今の言葉に、前世の俺を殺した罪悪感は含まれていなかった。これなら安心できる……形兆とその恋人は、俺の今世の両親のようにはならないはずだ、と。
「ところで、志人の方はどうなんだ?」
「んん?」
「浮いた話は無いのか?お前だって、結婚について考えた事ぐらいあるだろう?」
あー……珍しく、愉しそうな顔をしている形兆には悪いが、
「俺には結婚なんて一生無理だよ」
「何?」
「それよりも!典明はどうだ?実は職場で気になってる女の子とかいるんじゃねぇの?」
「えっ!?あ、い、いや、それは、」
「その反応!マジでいるのか!?」
「へえ?てめーが惚れた女がどんな奴か、俺も気になるなあ」
俺の恋愛話を有耶無耶にするために典明に話を振ったのだが、意外な事に面白、ゲフン。いい反応を見せてくれた。
そして、俺の話を逸らしたい気持ちを察してくれたのだろう。承太郎もそれに乗ってくれた。これなら、なんとかなりそうだな。
「承太郎までやめてくれないか!?別にまだ惚れてないし、」
「「
「アッ」
「……ふーん?」
「ほーう?」
「そのニヤニヤ顔を今すぐやめろ悪ふざけコンビッ!!」
今なら悪ふざけコンビと呼ばれても気にならない。だって、典明の反応が面白過ぎるから。
……まだ形兆の視線がちょっと痛いけど、何だかんだ優しい男なので、俺が話したくない事を察して追及は止めてくれると思う。ごめんな、形兆。
「というか、僕よりも承太郎こそどうなんだ!?」
「あ?」
「僕よりもモテるんだから、浮いた話の1つや2つや3つや4つや5つ――」
「待て、それはさすがに多過ぎるぜ。お前の中で俺のイメージはどうなってんだ?」
あ、しまった。今度は承太郎に飛び火している。こいつも、恋愛や結婚関連の話題は話せない事が多いだろうし……
「――それに!この際だから聞かせてもらうが、前世の妻はどうしたんだ?」
って、やばい。それは承太郎の恋愛話で一番聞いちゃいけないやつ!!前世の妻に関する例の出来事を知っているのは、こいつを除けば俺と徐倫だけだ。
「ジョセフさん達のように、前世の交際相手を見つけて口説き落として結婚するつもりは無いのか?」
「それは、」
「そうすれば、前世の娘である徐倫だって喜ぶんじゃないか?
君はもう30を過ぎているが、今から財団に頼んで探し出せばギリギリ間に合うのではないかと、僕はそう思うけど?」
「いや、あいつはもう俺が見つけた――あ、」
「え?」
「は?」
……思わぬ発言を聞いた典明と形兆が、見事に固まった。承太郎のお馬鹿さん。
「承太郎くーん?それ、こいつらにも話してよかったんだっけ?」
「…………いや……よくない……」
ですよねー。徐倫に話した時も口止めしたくせに、自分で口滑らせてんだから世話ないわー。
そこからは、もう、大変だった。典明と形兆の、承太郎への追及が止まらなかったのだ。
おかげで俺の話は完全に有耶無耶になったが、承太郎を犠牲にしてしまったような気がして、何だか罪悪感が……
で、最終的に。追及を避けるのに疲れた承太郎が自暴自棄になったのか、
「――前世の妻を見つけた時には既に隣に他の男がいてどっちも指輪がついていて可愛い子供まで一緒にいたんだが何か文句あるか?」
と、ノンブレスで言い切った事により、自らの行いを激しく後悔した典明と形兆が誠心誠意謝罪して、その話はそこで終わった。
俺はその後、明らかに気まずい雰囲気に包まれた酒の席を、再び盛り上げるのに苦労した。
俺が下戸だった事に感謝しろよ、てめぇら!素面だったからこそ、皆を気遣いながら場を盛り上げる事が出来たんだからな!?
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久々の飲み会は、志人以外の3人に程よく酔いが回ったところで――実を言うと、僕はまだまだ飲めるが――お開きとなった。
何年も前に志人が相当な下戸だと聞いた時は驚いたが、この4人で飲み会になると、彼がいつも送迎役を買って出てくれるため、そこは素直に感謝している。
志人が運転する車に乗り込み、出発してからしばらくして。先程からうとうとしていた形兆が、こてっと眠ってしまった。
志人を除いた3人の中では一番酒に弱いし、仕事の疲れもあって眠気に負けてしまったのだろう。
しかし。そんな彼を見た僕は、"これだ!"と思った。
「運転を任せておいて申し訳ないんだけど、志人。僕も寝ていいかな……?」
「あぁ、いいぞ。お前らの家まで、まだ時間掛かるしな。着いたら起こしてやるよ」
「本当にごめんね、ありがとう」
そう言って座席に寄り掛かり、瞼を閉じて眠った……振りをする。
僕達が眠っている間に、志人達がどんな会話をするのかが気になった。さっきから、どうしても引っ掛かっている事がある。
――俺には結婚なんて一生無理だよ。……志人は確かに、そう言っていた。その言葉に不穏な気配を感じて、彼の事が心配になったのだ。
「……承太郎。さっきは、ありがとな」
「ん?」
「典明に恋愛話を振った時。俺が話を逸らしたいのを察して、それに乗っかってくれたんだろ?」
「ああ、その事か。別に礼を言われる程の事でもない。俺が勝手にそうしただけだ」
「あと、ごめん。俺もお前に恋愛話を振られた時は、話を逸らしてやりたかったんだけど……」
「気にすんな。典明のあの勢いじゃ、割って入るのも難しかっただろう。……俺もつい、口を滑らせちまったしな」
……やはり、そういう事だったのか。普段の承太郎は、滅多に恋愛話に乗らない。だからきっと、あれは志人を庇うためだったのだろうと、予測はしていた。
「……シド。お前の結婚についての考えを、他の奴らに話すつもりは、」
「ねぇよ。……そもそも、さ。俺の事を信じてくれてる人達に、こんな事を話せる訳が無い。俺の心と体がいかに穢れているかを――」
「志人!」
「っ、」
「……自分の言葉で自分を傷つけるのはやめろって、言ったはずだよな?」
「…………うん……ごめん……」
志人の心と体が穢れている?何の話だ。いったい志人のどこが穢れているというんだ?……そして承太郎は、そんな彼の事情を知っているのか。
「つーか、俺の事よりもお前は?」
「俺?」
「お前だって、前世の奥さんが今世では既に結婚していた事は徐倫ちゃんにも話していたが、お前自身の正直な気持ちについては、何も言ってないだろ?
きっと徐倫ちゃんも、今日その話を聞いた典明達も、お前がただ失恋しただけだと勘違いしてるぜ?それでいいのか?」
本当は志人の話の方をもっと深く聞きたかったのだが、本人が話を逸らしてしまったのなら、仕方ない……そう思っていたら、聞き捨てならない話が聞こえた。
承太郎の正直な気持ち?それに、彼はただ単に失恋した訳ではない?どういう事だ?
「……徐倫の時は、それを話すかどうかギリギリまで悩んだが……今はこれで良かったんだと思っている。
正直に話したところで、あいつらに本当の意味で理解してもらえるとは思えないからな」
「あー……なら、ディオさんとかジョルノとかジョナサンとかは?あの人達なら分かってくれんじゃないか?」
「確かにあいつらなら、実際に聞かれた時は話しても良いかと思うが……」
……気に入らない。徐倫と僕と形兆は駄目で、ディオとジョナサンとジョルノは良い?何故だ?僕達とディオ達の違いは何だ?訳が分からない。
「とりあえず、今のところはお前だけが全てを知っていれば、それで十分だな」
「そうか。……まぁ、承太郎自身が変に勘違いされて嫌な思いをしていないのであれば、俺もこれ以上は何も言わねぇけど」
「ふふ……」
「え、何だよ?」
「……お前のそういう、さりげなく心配してくれるところも好きだぜ、ダーリン」
「急な告白やめろハニー、ってだからそれはお前の柄じゃないと何度言えば」
「くく……ッ!」
…………いつの間にダーリンとハニーを交代したんだ?確かに、ハニーは承太郎の柄ではない。
というか、この2人は悪ふざけも仲の良さも相変わらずか。もう10年以上の付き合いだろうに、よく飽きないな?
「……そうだ、シド」
「んん?」
「互いに独り身だし、いっそのこと俺と付き合ってみるか?」
「は?」
は??
「――――うわぁ無いわぁぁ……」
「酷いな、親友。そこまでドン引きしなくてもいいだろ?」
「ドン引きするなって方が無理だ。お前、酒飲み過ぎ。冗談にしてもそれは無い」
「そうか、そうだな。……確かに、ちょっと飲み過ぎたかもしれん。ドン引きされてるのに何故かお前が可愛く見える」
「やめろ。他でもないお前がシーザー先輩みたいな事言うな、鳥肌立つ」
「ははは、他の男の名前を出すなんて妬けるなあ、ハニー」
「酔っ払いダーリンは黙ってろ!」
……ああ、何だ。悪ふざけの延長か。全く、紛らわしい奴らめ!
志人が酒を飲んでいなくて良かったな。これで承太郎だけでなく彼まで酔っ払っていたら、さらに酷い事になっていたかもしれない。……しかし、
(本当に冗談、だよな?志人の方は無さそうだが承太郎の方は、まさか本気で――)
――いや、無いな。それは無い。断じて無い。全ては悪ふざけコンビのせいだが、そこまで妄想してしまうのは、さすがに2人に失礼だろう。
(そろそろ、本気で寝てしまおうかな。志人のあの発言とか、承太郎の本当の気持ちとか、僕が知りたかった事はまだ解決していないが……
これ以上聞いていても、2人が悪ふざけを続けるだけだろうし)
そう思った僕は、未だにふざけている2人の会話――そういえば、声量は小さいな。一応は眠っている僕達に配慮しているという事だろう。
とにかく。その会話を聞き流し、徐々に眠りについていく。
次に目を覚ました時、この悪ふざけコンビを相手にどんな顔をすればいいのか……なんて、下らない事を考えながら。