2日目。
師匠に車で連れられること一時間、たどり着いたのは市役所に隣接した大きな図書館だった。
「……やるか」
つぶやいてから、師匠が地元の郷土史やら伝承、はては童謡童話まで手当たり次第に手に取り机に積み重ねていく。
あっけにとられて本の山に見とれていると「お前も読むんだよ」と隣に座らされてしまった。
げんなりしながら師匠を見ると、いつのまにか眼鏡をかけている。
「あれ? 眼鏡なんてかけてましたっけ?」と聞くと、師匠がふふんと笑って「知的に見えるだろ」と応えた。
伊達か。まぁ似合ってるんだけど。
なんでも、施設の人に好印象に見えるようにするテクニックとのことだ。
机をこんな風に使うのだ。多少のまじめな雰囲気は必要なのだろう。
僕はその中の一冊をしぶしぶ手に取って読み進める。
パラパラとページをめくっていると「そんなペースじゃ夜中までかかるぞ」とお叱りの声が聞こえてくる。
「地域を限定したうえで目次を確認して、必要ない部分は読み飛ばして、目を通すのは最小限にしろ」
はーい、と返事をして本を処理していくが、一向に関連してそうな話は見つからなかった。
そもそも。
無人にしてはいけない家、恐ろしい井戸、這いまわる怪異。
何から調べていいか非常に曖昧なのだ。
狐や狸といった動物の民話とも、幽霊の仕業とも、それこそ神様の仕業も考えられる。
どれを読み飛ばしていいかも判断に悩む。
結果、目次だけでは細部までは読み取れないので、念のためどういった話が書かれているか、目を通す必要にかられてしまう。
途中、市役所の食堂で最安値のうどんを啜って、全部読み終えるまでに夕方までかかってしまったが、収穫はほとんどなかった。
帰りの車の中で残念がっていると「書物ではわからない、ということがわかっただけでも収穫だ」と師匠が言った。
「この後はどうするんですか?」
「明日は近くの家に聞き込みをしようと思う。郷土資料で出てこなかったとなれば、戦後に始まった現象だと推測はできる。
年代なんかがはっきりすれば、そのあとまた図書館で今度は新聞を漁ればいい」
途中、師匠が車をスーパーに寄せた。
「食材の買い足しですか?」
聞くと、師匠は首を横に振って「すぐに戻ってくるから待ってろ」と言った。
それからほどなくして、左右の手に大きな袋に一升瓶を数本入れて師匠が戻ってきた。
夕飯は相変わらず師匠の手作りだ。
久々の頭脳労働にくたくたに疲れ果ててしまった僕は、師匠が夕飯の準備をしている明るいうちにシャワーを浴びさせてもらった。
浴槽を洗うのは明日でいいだろう。
着替えて髪を拭いていると、師匠から声がかかる。
居間へ行くとすでに食卓には料理が並んでいる。
白米、味噌汁にサラダ、メインは焼き魚だ。
一生ここに師匠と住みたい。
「毎晩師匠の味噌汁が飲みたい」と口走ると
「甘えすぎだ、ボケ」と言われてしまった。
食後、
「お前、スーツは持ってきてるか?」と聞かれて首を横に振ると
「じゃあ明日は留守番だな」そう言うと師匠もシャワーを浴びに行ってしまった。
ガサゴソと家の周囲からは音が聞こえてくる。
僕は師匠の入浴シーンを覗きに外に出る気にはなれなかった。