都市伝説   作:水無飛沫

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2日目。




家譲ります(中編その3)

 

師匠に車で連れられること一時間、たどり着いたのは市役所に隣接した大きな図書館だった。

「……やるか」

つぶやいてから、師匠が地元の郷土史やら伝承、はては童謡童話まで手当たり次第に手に取り机に積み重ねていく。

あっけにとられて本の山に見とれていると「お前も読むんだよ」と隣に座らされてしまった。

 

げんなりしながら師匠を見ると、いつのまにか眼鏡をかけている。

「あれ? 眼鏡なんてかけてましたっけ?」と聞くと、師匠がふふんと笑って「知的に見えるだろ」と応えた。

伊達か。まぁ似合ってるんだけど。

なんでも、施設の人に好印象に見えるようにするテクニックとのことだ。

机をこんな風に使うのだ。多少のまじめな雰囲気は必要なのだろう。

 

僕はその中の一冊をしぶしぶ手に取って読み進める。

パラパラとページをめくっていると「そんなペースじゃ夜中までかかるぞ」とお叱りの声が聞こえてくる。

「地域を限定したうえで目次を確認して、必要ない部分は読み飛ばして、目を通すのは最小限にしろ」

はーい、と返事をして本を処理していくが、一向に関連してそうな話は見つからなかった。

 

そもそも。

無人にしてはいけない家、恐ろしい井戸、這いまわる怪異。

何から調べていいか非常に曖昧なのだ。

狐や狸といった動物の民話とも、幽霊の仕業とも、それこそ神様の仕業も考えられる。

どれを読み飛ばしていいかも判断に悩む。

結果、目次だけでは細部までは読み取れないので、念のためどういった話が書かれているか、目を通す必要にかられてしまう。

 

途中、市役所の食堂で最安値のうどんを啜って、全部読み終えるまでに夕方までかかってしまったが、収穫はほとんどなかった。

帰りの車の中で残念がっていると「書物ではわからない、ということがわかっただけでも収穫だ」と師匠が言った。

「この後はどうするんですか?」

「明日は近くの家に聞き込みをしようと思う。郷土資料で出てこなかったとなれば、戦後に始まった現象だと推測はできる。

年代なんかがはっきりすれば、そのあとまた図書館で今度は新聞を漁ればいい」

 

途中、師匠が車をスーパーに寄せた。

「食材の買い足しですか?」

聞くと、師匠は首を横に振って「すぐに戻ってくるから待ってろ」と言った。

それからほどなくして、左右の手に大きな袋に一升瓶を数本入れて師匠が戻ってきた。

 

夕飯は相変わらず師匠の手作りだ。

久々の頭脳労働にくたくたに疲れ果ててしまった僕は、師匠が夕飯の準備をしている明るいうちにシャワーを浴びさせてもらった。

浴槽を洗うのは明日でいいだろう。

 

着替えて髪を拭いていると、師匠から声がかかる。

居間へ行くとすでに食卓には料理が並んでいる。

白米、味噌汁にサラダ、メインは焼き魚だ。

一生ここに師匠と住みたい。

「毎晩師匠の味噌汁が飲みたい」と口走ると

「甘えすぎだ、ボケ」と言われてしまった。

 

食後、

「お前、スーツは持ってきてるか?」と聞かれて首を横に振ると

「じゃあ明日は留守番だな」そう言うと師匠もシャワーを浴びに行ってしまった。

 

ガサゴソと家の周囲からは音が聞こえてくる。

僕は師匠の入浴シーンを覗きに外に出る気にはなれなかった。

 

 

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