都市伝説   作:水無飛沫

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猿夢(前編)

大学1回生の夏。

 

汗が浮かび上がっては蒸発していく。

蝉の声と灼熱の風を一身に受けながら周囲を見渡すと、同じようにうだるような表情をしている師匠がいる。

じりじりと肌が焼けていく感覚。気温は三十度を余裕で越えていることだろう。

 

ギラついた夏の日差しの中に、俺たちは佇んでいた。

目の前には地元で有名な遊園地の入口が見える。

 

「なんですか、これ」

 

隣に並ぶ師匠から返事はない。

――(野郎)二人で遊園地に入ろうとしている。

茹で上がりそうな炎天下以上の、その地獄みたいな絵面に、まったく心当たりがない。

 

「夢でも見てるんでしょうか」

 

自分で口に出して思い当たる。そうだこれは夢に違いない。

だって、俺たちはついさっきまで師匠の部屋で麻雀を打っていたのだから!!

メンツは俺、師匠、綾さん、京介さんの4人。

誰もが勝ち逃げを許さない雰囲気になってしまい徹夜も徹夜、何十時間連続で打っていたのかも思い出せない。

40時間超えたあたりまでは意識があるんだけど。

恐らく連続麻雀記録を更新したことだろう。

 

それというのも、師匠が京介さんに純正九蓮宝燈を直撃食らわせて、煽りまくったのが原因だ。

京介さんが師匠をボコボコにするまで麻雀を終わらせないと宣言して、俺も綾さんも面白い玩具を見つけたように楽しんでいた。

基本的に師匠は麻雀が下手くそなので、長く打っていれば京介さんが堅実に勝ちを重ねていく。

で、京介さんが師匠のスコアを抜いたあたりで今度は京介さんが師匠を煽りまくって、師匠が悔しがって勝負を終わらせたがらない。

そんなわけでこんなに長引いたのだった。

初めのうちはそんな二人を面白がって眺めていたけど、24時間を超えたあたりから正直どうでもよかった。

 

「ええと、さっきまで雀卓囲んでましたよね」

 

アスファルトの照り返しも相まって、フライパンの上に居るような錯覚に陥る。

暑い……とにかく暑い。

先ほどまでの夢うつつの状態で麻雀を打っていた時よりも、よっぽど現実感が強い。

 

これじゃどちらが現実なのかわからなくなりそうだ。

そう口に出すと「お前の一人負けだったからって、現実逃避はよくないぞ」師匠がそんなことを言う。

何を言っているんだ、このスカポンタンは!!

「師匠がラス目だったじゃないですか。どさくさに紛れて負けを擦り付けないでくださいよ」

 

「ん?」と師匠の眉が寄せられる。

「はい?」とこちらも臨戦態勢になる。

 

そんな俺らを鼓舞するように鳴く蝉の声が、やる気を削いでいった。

 

「とりあえず入るか。なんか冷たいもの飲みたいし」

「そうですね」

 

実は終盤の記憶が曖昧なのだ。あれだけ連続して麻雀打っていれば当たり前だ。

終盤なんて、みんな幻覚見始めてたくらいだし……。

 

「大人二枚……あ、お前金持ってるか?」

 

受付で師匠がそう言いながらこちらを見る。

俺は慌てて財布の中身を確認しようとするが、師匠に制止された。

 

「……誰もいない」

「そうみたいですね」

 

すいませーんと受付の奥に声をかけたところで、誰も出てくる気配がない。

 

「ラッキー」

言うや否や師匠が園の中へ入っていってしまう。

「さすがにマズいですよ」

言いながら俺も師匠を追いかけて、ゲートをくぐる。

「確かにマズいかもしれんな」

園に入ってすぐに足を止めた師匠が、なにやら神妙な面持ちをしている。

「防犯カメラとか付いてるでしょうから、すぐに捕まっちゃいますよ」

俺が言うと師匠はそうじゃないと言う。

「よく見てみろ。ここには僕たち以外いないじゃないか」

言われて気づく。視界の届く範囲に誰もいない。

受付や入口だけじゃない。

よくよく観察してみても、動いている遊具にさえ、誰もいないのだ。

お客さんだけじゃない。それを操作しているはずのスタッフも、どこにもいなかった。

「なぁ、この施設どうなってるんだ? どうしてアトラクションは動いてる。

電気は? 管理は? 一体、誰が行っているんだ?」

「ゆ、夢なんですから、そういうこともあるかと」

ゾッとした気持ちを味わいながら師匠をなだめようとしたけど、師匠の「綾の夢だぞ」という言葉に俺はハッとした。

 

「お前も巻き込まれたことがあるならわかるだろ」

 

倉野木綾……師匠の彼女はちょっと不思議な性質を持っている。

能力と言ってもいい。

彼女は未来を予知する夢を見るのだ。

それは眠っているときに付近にいるひとをも巻き込むことがある。

そしてそのことを本人は忘れていることが多い。

 

「じゃあ、これは……」

「ハズレであることを祈るしかないな」

 

綾さんの予知夢は100%当たるわけではない。

ハズレとは、彼女の予知が外れた場合の、ただの夢ということになる。

 

「予知夢じゃなくても巻き込まれること、あるんですか?」

「何度かある。けど、この人気のなさは……」

師匠が苦虫を嚙み潰したような顔をする。

 

「とりあえず綾を探したいが、多分この辺りにはいないんだろう」

 

参ったな。師匠がつぶやきながら日陰に向かう。

俺たちは自販機でジュースを飲んでしばし休憩をした。

 

 

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