都市伝説   作:水無飛沫

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不幸の手紙

 

大学1回生の春。

僕はその当時、地元のオカルト系ネット掲示板に出入りして、オフ会にもよく参加していた。

 

降霊実験をしてからというものの、よく参加させてもらっているメンバー達と、いつものようにとりとめのない話に花を咲かせていると、突然京介さんが聞いてきた。

 

「なぁお前、なんでこの集まりに来てるんだ?」

「え、魔術とか興味ありますし……」

「それにしては知識なさすぎるんだよ」

 

酒を飲んでいるせいか、目つきが鋭い。

確かに、僕の興味は幽霊とかそっち系がメインで、このサークルの趣旨とは少し違っているのは薄々気が付いていた。

 

「興味、ねえ」

京介さんの目が僕を射抜く。

変な色恋沙汰を持ち込まれて、場の雰囲気を荒らされたくないのだと思った。

 

「まあまあ。京介、その辺にしてあげて」

普段だとみかっちさんが宥めに入る場面ではあったが、その日割って入ってきたのはkokoさんだった。

声に抑揚もなく、めったに感情を表に出さない彼女が、僕は苦手だった。

 

何を考えているかわからない彼女が、どこか嬉しそうに両手を合わせて

「せっかくですし、ちょっとしたオマジナイをしてみましょう」などと言う。

 

オマジナイ? ときょとんとする僕を尻目に、どこからか紙とペンを取り出して、kokoさんが何事かを書き始める。

「見ちゃだめよ」とkokoさんに言われてしまったので、僕は彼女から目を逸らし、少しワクワクしながら待つ。

せっかくだから、とみかっちさんが僕の目に少し季節外れのマフラーを巻いて、周囲が見られないようにした。

女性特有の甘い香りに、少しだけドキドキする。

 

「もういいわよ」

kokoさんの声がして、マフラーが外される。

「はい、これ」と先ほどの紙が入っているらしい封筒を渡される。

折られた頭には可愛らしいカエルのシールが貼られて、封がされていた。

 

この流れではありえないことだけど、女性から手紙を渡されるというシチュエーションに、ラブレターという言葉が頭をよぎる。

「不幸の手紙よ」

クスリと笑いながら、kokoさんが僕に告げる。

その瞬間、時間が止まったように、周囲から音が消える。

僕がそれを受け取ったまま固まっていると、

「持っているだけで不幸になるわ。封を切るともっと不幸になるわよ」

少し嬉しそうな声音で、kokoさんが語り掛けてくる。

「僕の知ってる不幸の手紙と違います」

それじゃどうやっても不幸になるじゃないですか。そう反論すると

「だって君、魔術を経験したいのでしょう?」

これはちゃんとしたオマジナイよ。

kokoさんがそう言って会話を終わらせた。

 

少しひんやりした空気になったところで、その日のオフ会はお開きになった。

翌日は1限から講義があったので、まだ真面目な学生だった僕は、その日はそのまま帰ることにした。

帰り際、京介さんが小さく低いトーンで「気をつけろよ」と僕に耳打ちした。

 

 

それから一週間は酷いものだった。

大学へ行けば様々なトラブルに見舞われるし、師匠に金はせびられるし、道路では車に引かれそうになる。

当時別れた彼女がストーカーになっていることが発覚したり、心霊スポットに行って変な霊に取りつかれもした。

かといって家にいれば変な勧誘がたくさん来てしまう。

半分が自業自得とはいえ、まさに前門の虎後門の狼状態であった。

 

そんな不幸のどん底にいるさなか、またオフ会をするというので僕は是非もなく参加した。

みかっちさんの部屋でこの一週間ほどで起きた出来事を身振り手振り交えながら熱弁した後で、

「kokoさん、これお返しします」

と不幸の手紙を返そうとしたのだけど、

「……いやよ。不幸になりたくないもの」

あからさまにkokoさんが嫌な顔をして、あっち行けと言うようにしっしっと手を振った。

「じゃあみかっちさん!!」

先ほどまでニヤニヤと僕の不幸話を楽しんでいたみかっちさんも、同じ人物とは思えないくらいの表情で

「無理」と一蹴されてしまう。

「京介さん」

上目づかいの最大限愛らしい表情を作って、京介さんをじっと見る。

「……」

反応はない。

「きょうすけさーん」

半ば泣きそうになりながら、僕は最後の頼みの綱に縋りつく。

 

やれやれとため息を吐きながら、京介さんが

「持っていると不幸になる。これが所有を表すのなら、捨てればいい。

捨てると不幸になるなんて言われてなかったんだろ」と言った。

「それだ」

僕はその場でごみ箱に捨てようとしたら、部屋の主であるみかっちさんが必死な形相で拒否してきたので、コンビニにビールを買いに行くついでに捨ててきた。

それでこの件は終わりだと、僕は信じていた。

 

 

翌朝、大学の講義を受けていると見知らぬ封筒が3部、テキストの中からはらりと落ちた。

「……」

心臓が止まるかと思った。というか止まった。

見覚えのある封筒だ。間違いない、僕がコンビニに捨てた不幸の手紙だ。

 

捨てると増えるだなんて聞いてない。

何も知らない誰かに押し付けてやろうか、そんな黒い感情がふつふつと湧き上がる。

この一週間以上の不幸なんて、耐えられる気がしなかった。

僕は慌てていつものメンバーに連絡をすると、昨日の今日なのに集まってくれることになった。

 

その日は珍しく居酒屋で飲むことになり、ビールを口に含むや否や、僕は例の封筒をみんなの前に差し出した。

僕の死んでしまいそうなほど神妙な顔つきを見て、みんなが爆笑し始めた。

あのkokoさんまで、声を立てて笑っている。

 

「酷いです、人の不幸をそんなに笑うなんて」

僕がちょっとイライラしながら糾弾すると、すまんすまんと京介さんが笑いを堪えながら

「先週、仕込んでおいたんだ」なんて言う。

「仕込む……え?」

「まさかお前がそこまで信じやすいタイプだとは思わなかった」

ここで耐えられなくなったのか、京介さんが再び吹き出して笑い出した。

どうやら僕はハメられたらしい。

 

「じゃあ、ここのところの不幸は……?」

「お前の日ごろの行いなんじゃないのか」

 

このイタズラを思いついたのは京介さんだったらしい。

ネタバラシがてらプラシーボ効果とノーシーボ効果についての説明を受けたが、どうにも腑に落ちない。

 

その日は京介さんの奢りだったが、僕は人生で初めての酷い二日酔いを経験することになった。

 

 

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