都市伝説   作:水無飛沫

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饅頭怖い その4

 

師匠と師匠(の偽物)が一触即発。

僕はただあわあわとその様子を眺めることしかできなかった。

「おい」

「お前はどう思う」

メンチを切りあっていた師匠×2が突然僕の方に顔を向け、意見を求めてきた。

いやだなぁ。こういう時だけ意見を求めてくるのやめてくださいよ。一生恨まれるじゃないですか。

『早く答えろ』

威圧の二重奏。

ただでさえ怒ってると圧の強い師匠がふたりで睨んでくるのは精神衛生上よろしくない。

ヘビに睨まれたカエルっていうのはこういう状況のことを言うのだろう。

「どっちもお綺麗だと思います、はい」

だが僕の脳をフル回転させた回答さえも、師匠ズにはお気に召さなかったようで、お互いの怒りはお互い向けられる。

イーチアザーというどうでもいい英単語が現実逃避気味の僕の頭の中に浮かんで消えた。

「人に化けるとは、いい度胸してるな、おい」

「おいおい、お前、本物のつもりでいるのか? はっ、笑える」

嘲笑する師匠に向けて、師匠が渾身の右ストレートを放つ。

――ドゴォ。

目を背けたくなるような音を響かせて、師匠の放った渾身の右ストレートに迎え撃つ師匠のクロスカウンターが炸裂する。

しかし、お互いのリーチは互角。痛み分けといったところだろう。

倒れこんだふたりが、今度はマウントを取り合おうと、もしくは寝技や関節を決めてやろうとフローリングの上でくんずほぐれつしている。

(これがキャットファイト……)

僕のカラカラに乾いた喉が、ごくりと鳴る。

師匠と師匠が絡み合って、あんな恰好やこんな格好になっている。

あまりにも暴力的で美しい光景に、僕は恍惚として見入ってしまっていた。

『なに突っ立ってんだ!!』

組み合いながらも、ふたりが僕に向かって叫ぶ。

……僕にも手伝えってこと?

だけど混戦の中で、僕にはもう師匠と師匠の区別が付かなくなってしまっている。

「これじゃどっちが本物かわかりませんよ」

「お前、本気で言ってるのか?」

偽物の師匠は、僕が師匠が怖いといったから生まれた。

だから、僕の思念からできあがった師匠だということだ。

つまり観察すればどこかに本物の師匠との違いが……。

 

対峙するお互いの顔をよく見る。

顔はふたりとも師匠そのもので、どうしてかわからないけど意地の悪そうな笑みを浮かべている。

それにふたりとも、目の下の傷跡は薄っすら光っている。

とても違いがあるようには思えない。

それじゃあ、と体つきを確認しようと絡み合っている師匠たちの体をじっと凝視する。

(うぅ、師匠。別にこれはやましい気持ちで見ているわけじゃないですからね)

言い訳をしながらそれぞれの体を見比べていると、僕はあることに気づいた。

「師匠、偽物がわかりました!!」

僕が叫ぶと

「よくやった」

「早くしろ」

と師匠ズが答える。

「恨みっこなしですよ」

僕は片方の師匠を羽交い絞めにした。

女性特有の体の柔らかさと、いつもの師匠の匂いが僕の鼻孔をくすぐる。

「よくやった」

師匠の渾身の蹴りが、僕の捕らえている師匠のどてっ腹に炸裂した。

容赦ないな、この人……。

 

偽物の師匠が黒い霧のようになって闇に溶けていく。

肩で息をして呼吸を整えている師匠を横目に、僕は少しだけ悪いことを考えていた。

もし僕の仮定が正しければ……

「こわいなーこわいなー、饅頭怖いなー。あー、饅頭こわいなー」

試しにつぶやいてみる。もちろん、頭の中には最高に美味しいお饅頭を想像している。

「お前なぁ」

師匠が呆れ気味に僕を見る。

僕は闇の中を凝視する。この実験は大変価値がある。

影が集約したかと思うと、そこに僕の想像通りのお饅頭が現れる。

「これ、どんな味がすんだろうな」

師匠が拾おうとするのを、服の裾を引っ張って寸前のところで止める。

「落ちてるものを食べちゃダメですよ。もう帰りましょう」

僕の実験は成功に終わった。今日の成果はこれで十分だった。

「なぁ、ちょっとだけ、先っちょだけ」

「ダメです。おなか壊したらどうするんですか」

なおも食い下がろうとする師匠の手を引いて、僕たちはその廃校舎を後にした。

 

 

 

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