「逆ってことは、結局同じってことだろう」
そう言った京介さんの顔は、やっぱり悲しい表情をしていたのだと思う。
間崎京子と山中ちひろ。
ふたりの因縁の全てを知ることはなかったけど、それは俺と師匠の関係と近いものだったように思う。
お互い違う道へと進むことを意識的、あるいは無意識に行っていたという。
近いから遠い。遠いから近い。
「僕」は「俺」になり、「俺」は「僕」になった。
俺と師匠……どれだけベクトルを転換しようが、もうふたりの道が交わることはないのだ。
あの頃の日々は今思い出しても恐ろしい日々で、未知の輝きに満ちていた。
その中心にはいつだって師匠がいた。
師匠が俺の手を引いて、望むと望まないとに関わらず『そこ』へ連れて行ってくれた。
……その師匠はもういない。
俺と師匠もまた、京介さんが言ったように『同じ』なのだろう。
俺の扉は閉ざされてしまったけど、師匠は扉の向こう側へと行ってしまったのだろうか。
大学四年の冬頃。
前に京介さんがバイトをしていた喫茶店に入ると、ヒゲ面のマスターがいらっしゃいと声をかけてくれる。
テーブル席に案内されたのでコーヒーを注文して、彼女に子どもが生まれた話なんかをしながら店に飾られた写真を眺める。
京介さんがバイトをしていた頃の写真、それに師匠や加奈子さんが小川調査事務所の面々と撮られた写真。
どの写真を見ても胸が痛み、どこかほの暗い感情が湧き上がってくる。
……やっぱりここは居心地が悪い。
それもそうだ。ここは師匠や京介さんの居た場所であって、俺の居場所ではない。
きっともうこの店に来ることは無いだろう。そう思い腰を上げようとしたときに、カランカランと入り口のドアに付けられた鐘が新しいお客さんの来訪を告げた。
喫茶店のすぐ上で調査事務所の所長をしている服部さんだった。
「お久しぶりです」
マスターにコーヒーを頼みながら、彼が俺の向かいに座る。
「はぁ、どうも」なんて、気の抜けた返事をしてしまう。
しばらくこちらを見ていたかと思うと、服部所長が口を開く。
「君は……彼よりうまくやれるでしょうか?」
それは『オバケ』案件の話なのだろうと、察しがついた。
「どうでしょう。俺は師匠ほどあくどいやり方はできません」
きっと師匠のようにも、加奈子さんのようにも問題を解決することはできない。
俺は、あのふたりとは何かが決定的に違っている。
「それに、なんだかもう終わってしまった気がするんです」
あの夏に開いた扉は既に閉ざされてしまった。
ずっと、そんな気がしている。
「そうか……。だが宝の山を放置するのも勿体ない」
すいません、と頭を下げる俺に
「気が変わるのを待っているよ」ふたり分の会計をして、所長が店を出ていった。
もう冷たくなってしまったコーヒーを啜りながら、どうしようもない感慨に浸る。
俺は扉からほど遠いところに立ってしまっている。
だからきっとこの先、気が変わることはないだろう。
まだ学生だというのに、なんだか人生が終わってしまったような気がしてならない。
そのことがとても悲しい。