ギフテッドAnother   作:龍翠

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短めです。


第十一話

 

 なのはとフェイトの勝負は、おそらく最後であろう局面を迎えていた。フェイトがなのはをバインドで拘束し、魔法の詠唱を始める。とても大きな魔力の反応だ。ユーノたちが助けに入ろうとしたが、なのはがそれを大声で拒否した。

「貴方はこの頃から、真っ直ぐなのですね」

 シュテルが遠いものを見るように目を細めた直後、フェイトの魔法が発動した。

 

 

 モニターの映像を見ながら、プレシアはわずかに眉をひそめていた。バインドで拘束された白い魔導師が、あの魔法を耐えきれるとは思えない。

「シュウ。本当にあの子が勝つの?」

 プレシアの疑わしそうな声に、当のシュウも困惑しきった表情を浮かべる。シュウの話では、あくまで資料を見ての知識だそうだ。勝負の流れ、つまりここからどういった方法で勝負が決まるのか、シュウも知らないのだろう。

「一応僕は、そう聞いていますけど……」

 そんなシュウの声は、どこか弱々しい。自分たちの存在で勝負の結末が変わったかもしれない、とも思っているのだろう。だが、この勝負そのものはシュウの記憶でもあったものであり、シュウはこの二人に対してそれほど大きな接触はしていない。そうそう勝負の結末が変わるとは思えない。

 ――違うわね。

 その考えを、プレシアは首を振って否定する。確かにシュウはフェイトに何かを教えるようなことはしていないが、シュウが記憶している記録とは明らかに違う点がある。プレシアとフェイトの、今の関係だ。一日だけとはいえ自分との思い出を持ったフェイトがどう変わったのか、それは未知数だ。

 これはもしかすると、と思っていると、モニターの映像が切り替わった。

「な……っ」

 白い魔導師は、フェイトの魔法を防ぎきっていた。それどころか、即座にデバイスの形状を変えて砲撃魔法を放つ。フェイトの魔法を耐えきったことと反撃の早さに、プレシアは感嘆のため息を漏らした。

 だがフェイトも負けてはいない。プロテクションを展開して、白い魔導師の砲撃をかろうじて防ぐ。だが、その時にはフェイトは白い魔導師の姿を見失っていた。

 フェイトが視線を上へと上げ、白い魔導師の姿を見つける。相手の目の前には、巨大な魔法陣が展開されていた。その魔法陣へと、周囲の魔力が集まっていく。

「まさか……収束砲撃……?」

 プレシアが愕然とつぶやいた。確かにプレシアが知る中にも収束砲撃を使える者はいる。だが、あれほどの規模となるとどれだけいるか。おそらく今までの戦いから、魔力を回収しやすいように意図的に散りばめていたのだろう。

 経験差もあり、白い魔導師の実力はフェイトのそれを下回る。それを埋めるために練った戦術なのだろう。見事な策だと、心の中で賞賛する。

 フェイトの方を見ると、バインドを受けていた。それでも手を前に出し、プロテクションを何重にもかける。

 そして、白い魔導師が、砲撃を放った。

 

 

「二人とも、無事ですか?」

 シュテルがプロテクションを展開して立つ後ろには、二つの人影。ユーノとアルフだ。二人そろってしばらく呆然としていたが、やがて周囲を見て頬を引きつらせた。

 周囲の景色は一変していた。建物や木々が無残になぎ倒され、吹き飛ばされ、周辺一帯が廃墟と化している。

「これはまた……すさまじいね……」

「あ、ありがとうございます」

 アルフがため息を漏らしながらつぶやき、ユーノが自分へと礼を言ってくる。シュテルはそれには返事をせずに、なのはたちの姿を探す。

 フェイトが海へと落ち、なのはがそれを追って海へと飛び込んだ。どうやらなのはが勝ったらしい。シュテルはそれを認めると、少しだけ頬を緩ませた。

 

 

 モニターに映し出されるのは、フェイトを支えるなのはの姿。シュウはそれを見て、安堵のため息をついた。

 直前に見たのは、なのはの極大の砲撃魔法。それ一発で映し出されていた地域が廃墟へと一変していた。あまりの破壊力に度肝を抜かされたものだ。知識としては事前に知っていたつもりだったが、これほどまでとは思わなかった。

「あはは……。なのはには逆らわないようにしよう……」

 背筋が寒くなるのを感じながら言うシュウに、プレシアがどこか楽しそうな笑顔で告げる。

「貴方のお友達も似たようなことができると言っていなかったかしら?」

「……そうでした」

 シュテルとなのは。二人の模擬戦はどういったことになっているのか、少しだけ興味が出てくる。もっとも。怖すぎるので見たいとも思えないが。

「さて、そろそろね」

 プレシアが立ち上がる。そして杖を掲げた。それだけで、プレシアが何をしようとしているかを理解する。

「プレシアさん……」

「何も言わないでくれる? もう決めたことで、引き返せないことなの」

 それを聞いたシュウは、しかしまだ何かを言おうとしていたようだったが、やがて諦めて力なく頷いた。

 

 

 海上に轟音が響き渡る。それに、その魔力反応に気づいたフェイトが天を仰ぎ、呆然とした様子で、母さん、とつぶやいた。直後に雷が二人を襲う。

「なのは!」

「フェイト!」

 ユーノとアルフが叫ぶ目の前で雷に打たれるフェイト。なのはがそれを助けようとするが、なのはの魔力ではどうすることもできない。なのはの目の前でバルディッシュは破損し、ジュエルシードが消えていった。

「フェイトちゃん!」

 雷がやみ、すぐにフェイトを抱き留めた。

 その一部始終を見届けて、シュテルは静かにその場を後にする。誰にも気づかれないように結界から出て、シュウへと連絡を取るために移動した。

 

 

『シュウ。そちらはどうなっていますか?』

 シュテルの声に、シュウは苦い表情を浮かべる。声だけの通信で良かったと心の底から思う。シュウはどう説明したものかしばらく考え、正直に話すことにした。

「プレシアさんはこの事件のこの後を知ってる。そして、変更するつもりがない」

『そうですか。それがあの人が選んだ答えなら、私は何も言いません』

「うん……」

 結局シュウは、自分の目的を果たせなかった。第一の目的は帰るための方法を調べてもらうことだったが、これはもう必要ないとプレシアには言ってしまっている。第二の目的は、できればプレシアにはフェイトとの関係を改善してもらいたかった。こちらはできれば程度の目的だったが、これも失敗したことになる。

 シュウが気落ちしていると、通信の向こうでシュテルが小さくため息をついた。

『貴方が気にする必要はありませんよ、シュウ。私たちにできることは終わりました。王たちの元に戻り、しばらくはゆっくりしましょう』

 シュテルなりの優しさなのだろう、シュウは嬉しそうに頬を緩ませたが、ごめん、と首を振った。

『なぜ、ですか?』

 シュテルの戸惑いを含んだ声。珍しいものを聞いたと思いながら、シュウは答える。

「プレシアさんは忙しそうだから……。迎えに来てほしい、かな?」

「…………」

 シュテルが一瞬言葉に詰まり、やがて、仕方のない方ですね、とため息交じりの言葉が聞こえてきた。

 

 

「私はあなたのことが、大嫌いだったのよ」

 そう告げて、すぐにプレシアは行動を開始した。庭園中に傀儡兵を配備し、己の舞台へと向かう。一世一代の、最期の大舞台だ。

「……ああ、忘れるところだったわね」

 ふとシュウのことを思い出し、一度研究室に向かう。資料の束をデバイスに格納し、ついでに傀儡兵の設定に手を加える。

「攻撃対象は目についた生命体全て。例外の登録は、私とシュウ。あの子がどこにいるか分からないけれど、これで襲われることはないでしょう」

 管理局との通信を終えたところでシュウを地球へと帰そうと思っていたのだが、気づいた時にはすでに姿が見えなかった。後ほど自分を訪ねてくるか、そうでなければ管理局に保護してもらえるだろう。プレシアが彼を攫うように命令したことはフェイトが証言できる。悪いようにはならないはずだ。

 それでも、可能ならばもう一度直接会っておきたい。これは、礼を兼ねて直接手渡したい。そう考えながら、プレシアはアリシアと共に研究室を後にした。

 

 

 時を同じくして。

「さあ、行くか」

「久しぶりに暴れるぞー!」

「少しは加減しないといけませんよ?」

 静観していた者たちも動き始めた。

 




さあ暴れましょう。

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