ギフテッドAnother   作:龍翠

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少し長め。


第十三話

 

 シュテルが目を開けると、自分を見つめているなのはと目が合った。まさか、と思い自身の頭に触れ、フードが脱げていることに気づく。なのはがシュテルを見て固まっているのは、自分と似過ぎていることに驚いているからか。

 どうしたものか、と考えそうになってから、近づいてくる傀儡兵の足音でその思考を放棄した。今は先にやるべきことがある。先にあれを処理しなければならないだろう。

「すみません、ナノハ。立ちたいのですが」

「え、あ……。ご、ごめんね」

 なのはが慌てて一歩下がる。シュテルは小さくため息をつきながら立ち上がって、その直後に強烈な目眩に襲われた。ぐらりと体が傾きそうになり、なのはに体を支えられる。なのはを見ると、自分を気遣わしげに見てくる視線と目が合った。

「シュテル、大丈夫……? 血が、たくさん……」

 シュテルは怪訝そうに眉をひそめ、そう言えば頭に鈍痛があるなと額に手を触れる。ねっとりとした血が手について、思わず眉をしかめてしまった

 ――これは……少々良くないことになりましたね……。

 目を閉じて自身の体を、魔力の巡りを簡単に調べる。もう少しは保ちそうだが、一度駆体を放棄した方が手っ取り早いかもしれない。ここになのはがいなければ、それを選択しただろう。

「シュテル……」

 心配そうな声を掛けてくるなのはに、大丈夫です、とシュテルは頷いた。駆体の放棄をなのはに見られるわけにはいかない。管理局との間で面倒なことが起こる可能性もあるが、何よりもこれ以上不用な心配はかけたくない。シュテルは傀儡兵へとデバイスを構えると、なのはに言った。

「すみません、ナノハ。少し体を支えていただいてもいいですか?」

「うん。それはいいけど……」

「ありがとうございます。あともう一つ、これから見ることを、誰にも言わないでください」

「え……?」

 なのはが首を傾げる。シュテルはそれ以上は何も言わずに、小さな声で、カートリッジロードとつぶやく。すぐにルシフェリオンが薬莢を排出した。驚きに目を丸くするなのはの目の前で、さらに薬莢が数発排出される。そのたびになのはがびくりと体を震わせる。

 シュテルはなのはの反応にわずかに微笑むと、すぐに魔法を展開した。

「集え明星、全てを焼き消す焔となれ」

 シュテルの眼前に巨大な魔法陣が展開され、魔力が収束されていく。なのはのスターライトブレイカーによく似た収束魔法。その魔法にシュテルの炎熱変換を加え、ついでとばかりにカートリッジの魔力もつぎ込んでいく。

「ルシフェリオンブレイカー」

 シュテルがそう言った直後、その収束砲が放たれた。

 

 シュテルの収束砲が傀儡兵を貫き、包み込み、消滅させる。それだけに留まらず、庭園内部を破壊して外へと貫いてしまった。その破壊力に絶句しているなのはの隣で、シュテルが体を傾けていく。

「わ……っ! シュテル!」

 慌ててシュテルの体を支え、その顔色をうかがう。今の魔法で力を使い果たしたのか、シュテルは気を失っているようだった。このままだと危ないのでは、と考えてしまい、慌てて周囲に人の姿を探す。当然誰もいるわけはないのだが、そこまで考えられるほど冷静ではない。

 一先ず脱出しないと、と思ったところで、その声が届いた。

「こんにちは、なのは」

 そこにいたのは、自分と同い年ぐらいの少年で、最近知り合った子だった。

「シュウ君? どうしてここに……。それに、ユーリも?」

 シュウの隣にはユーリがいる。ユーリはなのはに見つめられると、慌ててシュウの影に隠れた。それにシュウが困ったような笑顔を浮かべながら、なのはへと向き直る。

「その子、僕の仲間なんだ」

 え、となのはが驚いている間に、ユーリが素早くなのはが体を支えるシュテルの元へと移動する。シュテルの頬に手を当て、目を閉じる。ユーリからシュテルへと魔力が譲渡されていくことが感じられる。ユーリはすぐにそれを終え、戸惑っているなのはには目もくれずにシュウの元へと戻っていった。

 ユーリがシュウへと頷き、シュウもしっかりと頷く。シュウはなのはの側まで歩み寄ってくると、二つの封筒を差し出してきた。白い封筒と黒い封筒だ。自分に渡そうとしているのだろう、と察したなのはが受け取ると、シュウが口を開いた。

「白い封筒はアースラの艦長、リンディさんに渡してほしい。黒い封筒は、シュテルに。目を覚ました時でいいから」

「それはいいけど……。え、一緒に来ないのっ?」

 二人がきびすを返したことに驚いて大声を出してしまう。シュウは振り返ると、一度だけ頷いた。

「うん。僕は僕でやることがあるんだ。じゃあ、またね。なのは」

 そう言って、笑顔で手を振る。隣のユーリも恥ずかしそうにしながらも手を振っていた。

 そして最後に、

「…………」

 シュウは無言でシュテルを見つめ、そしてすぐに、何かを振り切るように立ち去っていった。

 

 二人の姿が消えて間もなく、クロノたちがなのはたちの元へと急いだ様子で戻ってきた。一緒にいるのは、沈んだ表情のフェイトと、アルフとユーノだ。クロノはなのはとシュテルを見つけると、ほっとしたような表情になる。そして次にシュテルを見て、目を剥いて絶句してしまった。

「クロノ君?」

 なのはが怪訝そうに声をかけると、クロノははっとしたように我に返り、何でも無い、と首を振った。

「無事で良かった。ここはもう崩れる。脱出しよう」

 クロノの言葉になのはは頷く。それを確認したクロノがアースラのエイミィへと連絡をする。転移を待つ間、なのははシュウたちが去って行った方向を一度だけ見て、その直後に魔法陣が足下に浮かび上がった。

 

 

 リンディは白い便箋を読み終えると、丁寧に封筒にしまい、テーブルに置く。そしてゆっくりと長いため息をついた。

 この封筒は時の庭園から戻ってきたなのはに渡されたものだ。シュテルの仲間から自分に、ということらしい。自分のことを名指しで指名してきたということに警戒していたのだが、手紙の内容は敵意ある内容ではなかった。

 手紙は直接会えないことに対する謝罪から始まり、管理局と事を構えるつもりはない旨がしっかりと書かれていた。そして最後に、自分たちに対する依頼、というより頼み事が書かれていた。それを思いだし、リンディはどうしたものかと悩んでしまう。

「シュテルさんを預かってほしい、だなんて、ね……」

 差出人の言いたいことは、つまりは匿って欲しい、ということだろう。どういった理由かは分からないが、一緒にいることが困難になり、自分に預けたというところか。リンディ個人としては犯罪者でないどころか協力者である以上、少しの間だけなら引き受けようとも思えるのだが、問題は期間が書かれていないこと。そしてそれ以上に、何者か分からなさすぎる、ということだ。

 リンディもシュテルのフードの中を見た。そしてクロノと同じように驚いたものだ。まさかなのはと同じ顔だとは思わなかった。髪型や雰囲気の違いはあれど、あまりにも似すぎている。

「せめて、素性を明らかにしてほしいものだけど……」

 差出人はこちらのことを知っているようだが、こちらは相手のことを全く知らない。当然ながら連絡を取る手段すらもない。それでも自分に依頼してきたことから、相手はこちらのことを信用しているのだと分かる。信用しすぎ、だとも思うが。

 リンディは何度目かになるかも忘れたため息をつくと、その部屋を後にした。

 

 

 なのはは医務室でずっとその顔を見つめていた。ベッドに横になって眠る、シュテルの顔を。

 シュテルを看た者の話では、魔力の使いすぎ、だということだった。すぐに目を覚ますだろう、と言われている。だが、どれほど待ってもシュテルはずっと眠ったままだ。不安を覚えるが、今の自分にできることは何もない。

 なのはは音を立てないようにそっと立ち上がると、医務室の出口へと向かう。外に出ようとして、扉の向こう側にいるのだろうリンディとクロノの話し声が聞こえてきた。

「反対です。素性が知れなさすぎます」

「ええ、そうね。クロノが正しいのだと思うわ。けれどどうしてかしら、預かっておいた方がいいと思うのよ」

「……勘、ですか」

「ええ。勘ね」

 リンディが小さく笑い、クロノのため息がかすかに聞こえてくる。何の話をしているのだろうかとなのはが聞き耳を立てていると、話が再開された。

「預かるとしても、この後はどうするんですか。この近辺にいる間はともかく、本局に戻ると流石に匿いきれませんよ」

「ええ、問題はそこね……。シュテルさんを預かって、どうするか……」

 それを聞いたなのはが目を瞠る。シュテルの名前と、預かる、という言葉。まさか、と思いながらも部屋の扉を開ける。リンディとクロノが驚いたような視線を向けてきた。

「シュテルは?」

 クロノが奥に見えるシュテルをちらりと見て問いかけてくる。まだ眠ったままだよ、となのはは短く答え、すぐに二人に真剣な眼差しを向けた。

「今の話……。私にも教えてください」

 

 

 数日後の早朝。高町家のインターホンが押され、桃子と士郎が客人を出迎えた。二人の前にいるのは、娘のなのは。二人はおかえり、となのはを抱きしめ、そしてなのはの後ろに立つ客人を見る。

 リンディとクロノは丁寧に頭を下げて挨拶をする。ここに来るのは、なのはと共に魔法のことを説明しに来た時以来だ。桃子と士郎は柔和な笑顔を浮かべ、彼女を見た。リンディの背中で眠る、愛娘とうり二つの少女を。

「一度来てくれた時に思っていたけれど、やっぱりなのはによく似ているわね……」

「ああ……。まるで他人とは思えないよ。素性が知れないということでしたが、こちらは大丈夫です」

 士郎の後半の言葉はリンディに向けたものだ。リンディは、よろしくお願いしますとシュテルの体を士郎に預けた。

 あの後、事情を聞いたなのははすぐに実家に電話をしていた。両親も最初は素性が知れないという点で渋っていたようだったが、以前なのはと一度一緒に来た子だと知ると、それならばと引き受けてくれた。どうやら桃子と士郎も、シュテルには何か思うところがあったらしい。

 シュテルは未だに目を覚ましていない。そのことを不安に思いながらも、高町家へと帰ってきた。

「申し訳ありませんがよろしくお願いいたします」

 リンディが丁寧に、深く頭を下げる。シュテルを背負っているので頭を下げられない士郎の代わりに、桃子がリンディと同じように頭を下げた。

「お気になさらずに。何か分かれば連絡をください」

「はい。必ず」

 お互いに連絡先を交換して、リンディとクロノはアースラへと帰っていった。

 二人を見送って、なのはは両親と共に家に入る。リビングに行くと、兄の恭也と姉の美由希が朝食の準備をしていた。二人とも、なのはを見て安心したようにほっと息をつき、微笑んでくれる。

「おかえり、なのは」

 兄と姉の言葉に、なのはは照れくさそうに笑ってただいま、と答えた。

「父さん。その子が?」

 恭也の視線が士郎の背で眠る少女へと向けられる。少女の素顔を見た恭也と美由希もまた、両親と同じように驚いていた。

「ああ。しばらく預かることになった。ただいつ目を覚ますか分からないらしいから、それまでは家にいる人が時折様子を見に行くようにしよう」

「うん。分かったよ」

 美由希が返事をして、恭也もしっかりと頷いた。

 シュテルはなのはの部屋の側にある空き部屋へと運ばれた。なのはが帰ってくる前にベッドだけは用意したらしく、真新しいものが部屋の隅に置かれている。それ以外は何もない。本来はちょっとした物置として使っていた部屋だったのだが、中のものは片付けたらしい。

 シュテルの体をベッドへと横たえると、士郎は一息ついた。シュテルの体に上布団を掛け、静かに退室してくる。

「医者、とかはいいのかな?」

 問われたなのはが頷いて、リンディとクロノが話していた内容を思い出しながら言う。

 曰く、何かしらの魔法によるものなのかは分からないが、栄養などを摂取していないにも関わらず身体に異常はないらしい。どういった理由か分からないために手が出せない状態とのことだ。魔力さえ全快すれば目を覚ますだろう、ということしか分からない。それすらも仮定の話で、さらにそれがいつになるかも、やはり分からない。

 士郎はそうか、としばらく考える。

「この子はなのはにとって、どういった子かな」

 しばらくしてから士郎の口から出た言葉に、なのはもまた少し考え、答えた。

「魔法の使い方を教えてくれたもう一人の先生で、危ないところを助けてくれた恩人で……」

 そこで一息つき、わずかに見えるシュテルの寝顔を見て、

「私の、大切なお友達」

 そう締めくくった。

 士郎はなるほどと微笑みながら頷いた。

「早く目を覚ますといいね」

「うん!」

 

 

 時空間の某所。結界に包まれた誰もいないその場所に、転移魔法の光とともに人影が現れた。最初に出てきたのはディアーチェで、ユーリ、レヴィ、そしてシュウが続く。

 シュウはその建物を見て、感嘆のため息を漏らした。

 時空間にぽつんと浮かぶ浮島のような場所に、小さな二階建ての建物が建っている。建物の周囲には何もなく、それ以前にまず浮島そのものが小さい。少し歩けばすぐに端に到達してしまう。

 建物は円錐形で、屋根は綺麗な円形。窓も多くあるようだが、太陽のないこの場所に意味はあるのだろうか。

 三人が建物の中に入っていくので、シュウも慌ててその後を追った。

 中は少し広めのホールになっていた。壁は全て本棚で埋められていて、隅に二階に上がるための階段が見えるだけだ。少し上って見てみたところ、二階も同じような構造だった。ただしこちらは一階より狭く、いくつかの小部屋に繋がる扉がある。

「シュウ」

 一階から呼ばれてシュウが戻ると、ディアーチェが折り畳まれた紙をシュウへと振っていた。見つけたぞ、とこちらへと差し出してくる。

「一度会っただけだが、感謝せねばならんな」

 そう言いながら、ディアーチェは本棚へと視線を映す。シュウは紙を広げて中の文字を、手紙を読み、ただ静かに頷いた。

 

 庭園から脱出したシュウたちは、拠点に戻ってプレシアから受け取った研究資料を広げた。様々な数式や文章が並んでいるなか、一際目立つように書かれていた文章は、別時空へと渡る方法は存在しない、という結論だった。

 シュウたちが肩を落とす中、ディアーチェが言う。それほど簡単に結論を出す者なのか、と。シュウがそう言えばおかしいと不思議に思い、もう一度資料を読みあさる。すぐに、文章や数式は何かしらの規則性を保った書き方がされていることに気がついた。暗号、というものだろう。

 管理局に見られてもいいように、という考えからか。用心深いと思いながらも、解読に取りかかる。解読を終えたのは、それから丸二日後だった。

 資料に本当に書かれていたのは、時の庭園の離れへの行き方だった。念のためにと作っておいた場所らしく、貴重な書物などはそこに収められているらしい。四人は早速その離れへとやってきて、今に至る。

 シュウが目を通した手紙には、暗号を解いてここまで来たことに対する賞賛と、何度も止めてくれたにも関わらず自分の意思を貫いたことへの謝罪、そして、この離れを自由に使っても構わない、という旨が書かれていた。

「ではありがたく、ここを拠点とさせてもらおうか」

 それを聞いたディアーチェは頷き、レヴィとユーリは早速二階の様子を見に行く。それを微笑ましく思いながら見送っていると、

「……して、続きは?」

 ディアーチェの言葉に、鋭いなとシュウは笑う。手紙に書かれている本棚へと向かいながら、答える。

「別時空への転移については時間が足りなくて調べきれないから、自分たちで調べるように」

「まあそうだろうな。それだけか?」

「あと一つ。この辺り、かな?」

 扉の側の本棚から、シュウは目的のものを探し始める。そしてそれは、すぐに見つかった。分厚い本と本に挟まれているのは薄いノート。それを手に取って見てみると、誰のものか分からない字で、記録とだけ書かれていた。それを開いて少し読む。

 フェイトに関することの記録だった。毎日の生活模様から始まり、その日どういった魔法を学んだかなどが書かれている。プレシアの文字ではないので、話に聞いたリニスという使い魔の文字かもしれない。

 そしてそのノートには、折り畳まれた便箋が挟まれていた。せめて封筒に入れればいいのに、と内心で苦笑しながらそれを抜き取り、ノートを戻す。

「これを、フェイトに届けてほしいって」

 それは、プレシアからフェイトへの手紙だった。何を思ってこの手紙を残したのかはシュウには分からないが、きっと届けるべきものだろう。シュウのその考えを察したのか、ディアーチェは頷いてくれる。

「転移場所はアースラでいいな?」

「うん。できればフェイトがいる部屋に直接行きたいんだけど……。誰かに見られると困るし」

「無茶を言ってくれる……」

 だめかな、とシュウが眉尻を下げると、ディアーチェは小さく鼻を鳴らしてきびすを返した。そして、

「アースラの機器への隠蔽工作も必要だろう。一日待っておれ」

 そう言うと、ディアーチェも二階へと姿を消した。後に残されたシュウはディアーチェの言葉に顔を綻ばせ、何か手伝えることはないかと自分もディアーチェを追った。

 

 

 心地よい闇の中をゆらりゆらりと漂いながら、パストは小さく欠伸をする。どうにも妙な事態になってしまったが、これはこれで楽しそうだ、とも思える。

 次は何があるかな、と内心で楽しみにしながら、パストはいなくなった友人を想う。虚数空間へと消えてしまった、短い付き合いの友人を。

「ああ、まったく……」

 パストは、らしくないね、と孤独に淡く微笑んだ。

 




相変わらず管理局が関わるとご都合展開まっしぐらですよ……!
次話で無印編は終わりです。

誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。
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