ギフテッドAnother   作:龍翠

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個人的には並な長さ。


第二話

 

「戻ったぞ」

 アパートの部屋の扉が開き、そんな声が入ってくる。シュテルはそちらを見て、わずかに驚いたようだった。

「お帰りなさい、ディアーチェ。凜々しいお姿です」

「茶化すなシュテル。適当なイメージで作っているだけだ」

 ディアーチェは不機嫌そうな声音でそう返答したが、その表情は柔らかい。どうやらまんざらでもないらしい。ディアーチェの姿は、正しく成長すればこのような姿なのだろうと思える大人の姿だ。ディアーチェは部屋に入ると、大きなため息をついた。

「お疲れ、ディアーチェ」

 シュウがお茶を用意すると、ディアーチェは礼を言ってそれを受け取った。

「すまぬな。……ユーリとレヴィはどうした?」

「晩ご飯の買い出しだよ。すぐに戻ってくると思うけど」

「ふむ。そうか。ではシュテルからの報告は夕食時に聞くとしよう」

 それまで少し休む、とディアーチェは部屋の隅で座り込んだ。そのまま顔を伏せてしまう。どうやらかなり疲れているらしい。

「ずいぶんとお疲れのようですね……」

 シュテルが小声でそう言って、シュウは神妙な面持ちで頷いた。

「働くって大変だと思うから……」

 ディアーチェの方を見ると、早くも整った寝息を立て始めている。シュテルはその様子をしばらく見ていたが、小さな声でありがとうございます、とつぶやいた。

 

「たっだいまー!」

「ただいまです」

 レヴィが元気な声で帰ってきて、ユーリは控えめな挨拶と共に帰ってくる。その声でディアーチェが目を覚まし、わずかに笑みを見せた。

「あ、王様! お帰り!」

「うむ。うぬもご苦労だった」

「えへへ」

 ディアーチェに褒められ、破顔するレヴィ。もちろんユーリも、という声でユーリも満面の笑顔になった。

 レヴィとユーリが持ち帰った袋からコンビニ弁当を人数分取り出す。海苔弁当や唐揚げ弁当、焼きそばなど種類はそれぞれ違う。まずは誰から選ぶかで話し合おうとして、しかしすぐにシュウの、じゃんけんで、という提案が採用された。

「あ、ディアーチェは先に選んでね」

「む? 何故だ?」

「大黒柱だから?」

 シュウの言葉に、ディアーチェがぽかんとする。すぐに我に返り、しかしだな、と遠慮しようとするディアーチェに、

「遠慮しないでください、貴方は我らの王なのですから」

「そうだよ、王様!」

「ディアーチェにはその権利がありますよ」

 シュテル、レヴィ、ユーリと続けざまに言われ、ディアーチェは唖然としてしまった。程なくして苦笑を漏らし、では遠慮無く、と海苔弁当を選ぶ。シュテルたちはお互いに顔を見合わせると、シュウの提案通りにじゃんけんを始めた。

 

 弁当を食べながらの報告会が始まる。といっても、報告することがあるのはシュテルだけで、ディアーチェたちは特にこれといって伝えることはない。そのため、シュテルが見聞きしてきたこと、介入したことを話すだけとなった。

 全てを聞き終えたディアーチェが、なるほどと難しい表情をする。どこか弱り切った表情にも見える。

「単純な過去でない時点で我らの知る歴史とは流れが違うかもしれぬとは思っていたが、よもやこれほど早く違いが出てくるとは……」

 もしもシュテルが助けなければ、あの二人はどうなっていたのだろうか。考えてみても、答えが出るはずもない。シュテルの行動が正しいのかどうかも、今の自分たちには判断できないことだ。

 それ故に、今後のことでシュテルの行動を制限するつもりもなかった。

「我らは姿が姿だ、干渉せぬ方が無難だろうな。それでシュテルよ、うぬはどうする?」

 ディアーチェの問いに、シュテルは悩ましげに顔を伏せた。考え込むシュテルを、四人は静かに見守る。やがてゆっくりとシュテルが顔を上げ、

「……ん?」

 シュウと目が合った。何かを問いかけたそうなシュテルの目を見て、シュウは思わず笑みを漏らす。

「シュテルの好きにしていいと思うよ。シュテルは、どうしたいの?」

 シュウの言葉に、シュテルは珍しくも少し言い淀み、やがてしっかりとシュウとディアーチェの目を見た。口を開いて出た言葉は、

「積極的な介入をするつもりはありません。ですが、今回のようなことがないとも言い切れません。彼女たちに危険が及びそうな場合は少しだけ助けようと思います」

 その答えにシュウは微笑み、ディアーチェは満足そうに頷いた。

「よし。うぬの好きなようにするといい。正解など分からないのだからな。我らはそれをサポートする。異論は?」

 最後の問いはレヴィとユーリに投げられたものだ。二人が首を振ると、ディアーチェはゆっくりと頷いた。

「良いのですか?」

 シュテルの問いに、ディアーチェが面倒くさそうに手を振る。構わない、と。

「我は仕事があるし、レヴィはそういった状況判断が苦手であろう。ユーリは……強すぎる。故にうぬが適任なのだ。頼んだぞ、シュテル」

 最後にそう締めくくられたディアーチェの言葉に、シュテルは、心得ましたと静かに頷いた。

 

 夜。布団といったものは残念ながら持ち合わせていないので、五人は毛布にくるまって眠っている。まだ夜は冷える季節なのだが、部屋の中は温かい。シュテルの魔法によるものだ。隣で眠るシュテルに感謝しつつ、シュウは小さく欠伸をする。

「眠れないのですか?」

 隣からの声にシュウは驚いて勢いよく相手を見る。眠っていると思っていたシュテルが、まっすぐにこちらを見つめていた。シュウはぎこちなく笑いながら、小さく頷く。

「ちょっと考え事をしていたら、ね」

「何か悩みでも……。いえ、この状況です。ない方がおかしいですね」

「あはは……。まあ、そうだね」

 過去の世界に放り出されているのだ。これで何とも思わないほど図太い神経はしていない。自分一人だけでなくシュテルたちも一緒だったのが救いだろうか。本人たちには申し訳ないが、そう思う。

 それでもやはり、気になることもある。妹はどうしているだろうか、と。また会えるだろうかと。それを考えると、胸を締め付けられるように苦しくなる。

「きっと帰れます」

 片手がそっとシュテルの手で包まれた。温もりが、魔力とともに心に染み渡る。シュテルを見ると、うっすらとだが笑みを浮かべていた。まるで心を見透かされたようで顔が赤くなってしまう。

「さあ、そろそろ眠りましょう。皆を起こしてしまいます」

「……うん。そうだね。ありがとう、シュテル。おやすみ」

 おやすみなさい、シュウ。そんなシュテルの言葉を聞きながら、シュウはそっと目を閉じた。

 

 

 翌日。ディアーチェを見送った後、シュテルは海鳴市の海へと出かけた。目的は一つ、海に落ちたというジュエルシードの一つを回収するためだ。海以外のものを回収するとこの後の流れに何かしらの影響を与えかねないが、海のものは大丈夫だろう、そう判断している。

 ジュエルシードを求める理由は、ただ単純に調べるためだ。ジュエルシードというものがどういったロストロギアなのか。これを利用することによりもとの世界へと帰還できるのなら、そんなことを考えている。シュウはあまり多くを言わなかったが、やはり元の世界に帰りたいと願っていると感じた。なら少しでも自分にできることをしようと思ったためだ。

 海の周辺に簡易的な結界を展開し、ジュエルシードを探索する。ジュエルシードは発動すればすぐに分かるが、逆にそうでなければ簡単には見つけられない。シュテルは海面に近づくと、丁寧にジュエルシードの反応を探り始めた。

 

 太陽が昇りきり、そして傾き始める。その頃になって、ようやくジュエルシードを一つだけ見つけることができた。封印処理を施したジュエルシードをシュテルはしげしげと眺める。一見するとただの綺麗な宝石にしか見えないが、確かに膨大な魔力の気配を感じる。

「調べるのは帰ってからにしましょうか」

 シュテルはそうつぶやき、家路につこうとする。

 その反応は、直後に起こった。

「…………」

 シュテルは無表情にその方向へと視線を投げる。ジュエルシードの発動。この方向には、確か神社があったはずだ。シュテルは手持ちのジュエルシードをルシフェリオンに格納し、その方向へと向かった。

 

 

 今回発動したジュエルシードは動物を取り込んだだめか、前回よりも強い力を持っていたようだ。魔法の扱いにまだ慣れていないなのはだったが、レイジングハードの補助もあり、どうにか封印することができた。封印処理したジュエルシードをレイジングハードへと格納し、ふう、と一息つく。

「お見事です、ナノハ」

 そんな声を掛けられたのはその時だった。頭上からの声になのはは驚き、勢いよく振り返る。鳥居の上に、黒衣の少女は悠然と立っていた。

 シュテル。先日助けてくれた少女なのだが、素性などは一切不明。それでも、なのははシュテルのことを信用している。シュテルの姿を認めると、なのはは満面の笑顔になった。

「良かった、また会えた……」

 思わずそんな言葉が漏れてしまう。はっとして慌てて口を閉じるが、相手にもしっかり聞こえていただろう。だがシュテルは何も言わず、ふわりと浮かぶとなのはの側に降り立った。

「二回目とは思えない手際でした」

 そう言って賞賛してくれる。だがなのははその言葉を素直に受け取ることができなかった。シュテルから目を逸らし、眉尻を下げてしまう。

 今回はレイジングハートに多くのことを助けてもらった。賞賛されるべきはレイジングハートであって自分ではない。そう思っているのが伝わったのか、シュテルは小さくため息をついた。

「最初から一人で全てできるわけがありません。二回目であれなら上々でしょう。あまり自分を卑下しないでください」

 おそるおそるシュテルの顔を見ると、無表情だったがその瞳は優しげな色をたたえていた。そのことに思わず安堵してしまう。落胆されていない、と。

「あ、あの! 聞いてもいいですか!」

 なのはの足下からの声に、シュテルではなくなのはが驚いてしまった。足下にいたフェレット、ユーノを、シュテルと共に見る。二人からの視線を受けたユーノは思わず頬を引きつらせていたようだったが、意を決したのか口を開いた。

「あなたは魔導師、ですよね? 所属を聞いても……」

「答える義理はありません。ですが、管理局ではないので期待はしないでください」

 シュテルの素っ気ない言葉にユーノが小さく肩を落とす。だがすぐに気持ちを切り替えたのか、再びシュテルへと言葉を投げた。

「もう一つだけ……。あなたのデバイスからジュエルシードの魔力を少しだけですが感じるのですが、もしかして……?」

 この言葉にはシュテルは少し驚いたようだ。わずかに目を見開き、さすがですね、と聞こえるか聞こえないかぐらいの声が届いてきた。なのはたちが見守る中、シュテルのデバイスから小さな宝石が出現する。自分たちが先ほど封印した宝石と似通ったもの。間違いなくジュエルシードだ。

 それを見て、なのははどうするべきかと悩んでしまう。ジュエルシードはユーノが集めているもので、とても危険なものだ。本来ならシュテルを説得して返してもらうべきなのだろう。だが、シュテルなら間違っても暴走はさせないだろうという思いもある。

 そんなことを考えている間に、ユーノから声が上がった。

「やっぱり……。それはとても危険なものです。渡していただけませんか?」

 お願いします、とユーノが頭を下げる。だがシュテルは首を振った。

「申し訳ありません。私たちの目的のために必要になるかもしれないのです。もう少し、預からせていただきます」

 それを聞いたユーノは言葉に詰まり、しかしすぐに立ち直って叫ぼうとする。

「でも……!」

「もちろん、後日お返しいたします。その点は約束します」

 ですから、お願いします。今度はシュテルが頭を下げてきた。これにはユーノも驚き、二の句が継げなくなってしまう。頭を下げ続けるシュテル。狼狽するユーノ。沈黙が支配する場で、それを破ったのはなのはだった。

「うん。分かった」

 なのは! というユーノの声。顔を上げたシュテルとユーノに、なのはは笑顔で言う。

「だって、シュテルが持ってるジュエルシードは、シュテルが封印したものだよ? それを一方的に返して、なんて言えないよ」

「それは……でも……」

「ただ、それはユーノ君が集めているものなの。後で返してもらえると、嬉しいなって」

 なのはのその言葉に、シュテルはもちろんです、と頷いた。

「感謝します、ナノハ」

「にゃはは。気にしないで……って、これは私が言うことじゃないね」

 そう言って苦笑するなのはを見て、ユーノは諦めたようにため息をついた。分かったよ、と小さく告げる。

「取り扱いには十分に気をつけてください」

「ええ、分かっています。それでは、さらばです」

 シュテルがゆっくりと空へと舞い上がる。慌ててなのはが声を上げた。

「ま、待って! シュテル!」

 思わず呼び止めてしまう。シュテルがこちらへと振り返ってくれるが、しかし用件があって呼び止めたわけでもない。もう少し話がしたい、と思っただけだ。言い淀むなのはを怪訝そうに見つめながら、やがてシュテルは、どこか困惑の色の混じった声音で言った。

「すみませんが、私も用がありますので」

「あ、うん……」

 気落ちするなのは。シュテルはわずかに苦笑を漏らし、告げた。

「では、また近いうちに」

 それは、前回とは違い、再会が約束された言葉だった。目を見開くなのはへと小さく頭を下げて、シュテルの姿は夜空へと消えていった。

「不思議な子だね……」

 ユーノの言葉に、なのはは頷く。

「でも、かっこいい……」

 なのはの言葉に、ユーノもそうだね、と同意した。

 




自分の中でシュテるんとなのはは仲良し。これは譲れません。

誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。
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